進捗がないことは歩みを止めていい理由にはならない。  希望がないことは絶望を抱いていい理由にはならない。  意味がないことは否定をしていい理由にはならない。  人は無価値の中にいる、意味など存在しない。人は良く自分の生まれた意味、などとうそぶく、自分が何かをする際に自己の存在定義を抱こうとする。  ウェブなどではよく見るだろう言語はやりがいなどという言葉が分かりやすい。良い訳でしかない、現実に存在するのは何かを行った事象のみ、そのあとにやりがいなどという理屈がこねくり回される。  ならばイレイザーと呼ばれる何かを追うのは何のためか、少なくともやりがいなどはない、しかしそれは義務でもない。少なくともクロウは自分が行う必要は存在しないと考えている。そもそも追い続けるとしていつまで追うのか、高校生活も半ば、フリーで動ける時間は限られている、大学に行くにしいても就職するにしても。  それでもなお追わねばらないという奇妙な直感があった。己の中の本能とでもいうべきものがそれをせよと告げている感覚がある。やらねば何かが終わってしまうという奇妙な勘だ。  それが今自分を突き動かしている原動力だとクロウは定義する。あやふやであいまい、言語にすると理解を得られそうにないが、それでもなお身命を賭してデジタルワールドを歩む。歩まねばらない、歩み続けなければならない、と。  風が吹いている、乾いた風は日本ではあまり感じられない、ここはデジタルワールドだから当然だ。  今日は目撃情報の中でも荒地に足を踏み入れていた。聞くことのできた情報曰く、イレイザーの何某がここを使って実験を行っているという眉唾のような話。普通ならば足を向けるまでもない情報だ、それでもなお藁をつかむ思いでここに来た、見たところ何も内容だった。  眼前には荒涼とした風景が広がっている、地平線の見える乾いた大地と山岳が続いている、何かで見たと思えばバイト先にテレビで流れていた再放送の古い映画だ、マカロニウェスタンと言ったか、カウボーイがだだっ広い荒野を馬に乗り颯爽と駆ける、そんな台地。少なくとも歩くつもりは起きない。 「また空振りか、こりゃ?」  頭を抱えながらぶやく。そろそろ尻尾の1つも掴ませて欲しいものだが、どうにも出てくることがない。大分悪党なのだからそろそろ油断してくれてもいいのだが、現実にはそうにも行かないのだろう。 「んー……何かなー」 「どうした良子」 「なーんだか、違和感?」  何かをにらみつけるように見ている良子に問いかける。納得がいかないとばかりに唸る姿に怪訝そうな目を向けてしまう。しかしこういった時の直感というものはバカにならない。蓄積された言語化されない部分での思考能力は時に意識するよりも如実に結果を出すことがある。 「違和感、ねぇ」  もしもそれが正しいのであれば自分は何かを見落としているとクロウは思う。見渡す、荒野を。やはりただの広い空間にしか思えない。 「……ちょっとこっち」  良子が手を引いた、ついて来いというように。何も言わずに足を動かす、向かう先は切り立った崖のような場所だった、荒涼とした大地に大きく高くそびえたつ。とはいえ見渡せばほかにいくつか似たような場所が見えた、あえて注目するような場所は見当たらないように思えた。 「ここが…どうしたって言うんだ?」 「ん、ん-…なんか変な感じがして………そう、多分ここら辺………」  何かを探すように岩肌を撫でている。 「ここ………かな?」  そこを強く押した、変化、世界が変わる。 「んなっ!?」 「あってたか…」  先程まで見ていた世界が一変している、たとえデジタルであっても自然を感じた世界から人工物の世界に。あるいは0と1の世界、無限に広がる空間にワイヤーフレームの道がある。フィクションでよく見るサイバースペース。 「ここは………」 「多分切り離された電脳空間……だと思う、聞いたことあるでしょ、デジタルワールドで私たちが見てる世界はあくまで私たちの視覚とか知覚に寄ったテクスチャを貼ってあるようなものだって」 「ああ…情報としての塊の中から抽出したデータを使ってるんだよな……確か」 「そう…だから現実と違って無理矢理空間同士も知識があればできないわけじゃないはずで…多分ここ、強引に繋がれたんだと思う、揺らいで見えたんだよね」 「揺らいで…?」 「そう…陽炎って言うのかな、もしくはそこだけぼやけてるって言うか…そういう感じ」 「なるほどな」  はは、と、乾いた笑いが来る、 「こんなの分かっちゃうようになるなんて…大分デジタルな人間になってきてるかなー」  馬鹿か、と言いかけて押し込める。良子の言葉を否定するのはたやすい、否定するだけだ、そのあとに続ける言葉を思い浮かべられない。クロウにとって良子は相棒だ、大事な存在だ、誤魔化した言葉で飾ることを自分に許さない。 「さあな」  ぶっきらぼうな言葉が出る、本当はもっといろいろ言える言葉があったはずなのに、こんな時に優しい嘘の1つも吐けない。 「ま、分からないよね」  良子が笑みを浮かべる、複雑な、いろいろな何かを飲み込んだ笑みだ。  心が締め付けられる。何かを言わなければいけないはずの口が何かを言う事を拒んでいる。慰めも何もかもが今侮辱するように思えた。自らの不甲斐なさを呪う。年上であるということに意味はなく、これまでのあらゆる経験が無に帰している。 「とりあえずいこっか」  察されたらしい、ますますみじめに思えた。所詮自分勝手な自己嫌悪とはいえ。 「ああ」  内心を押し隠しながら先に進む。  隠されていたデジタルの世界は広く、しかし狭い。 『こういうところは久しぶりな気がするな、クロウ』  あえてデジヴァイスの中にいるルドモンがそんな風に言う。なぜあえてなのかは分からない。しかしそうだな、と返しながら思い返す。イレイザーではなく相手がかつての宿敵、恩師の弟だった時は痕跡探しや一時撤退の際に時折入り込んだ。その先で思わぬ出会いや戦いがあったが今は良い記憶だ、何より決着がついている。 「こいつが手掛かりの1つに繋がりゃいいが」  広い空間ではあるがいけるスペースは限られている。少ない時間で探しきれることを祈りつつ、更に足を動かす。デジタルな世界なのにアナログな事をするのはどこかおかしく思えたが、結局やることは地道な行為でしかない。 「ん?」  周囲を見渡しながら歩くうちに、1つ影を見つける、ぼやけているが人の影が1つ、もう1つはおそらく人型のデジモンの影が1つ、一度軽く目をこすってから再度目を凝らす、いた、確かに。 「良子…手がかりあっかもしれねぇ…あっちだ!」 「え……あれ、人影!?」  応とだけ答え即座にデジヴァイスicを操作、ルドモンを呼び出す。光の粒子とともにワイヤーフレームが構築、そこにテクスチャが表れ姿が出来上がる。小さくな獣の体躯とそれを覆う近代の軍服にボディアーマーを纏ったデジモンだ。 「出番みたいだな、クロウっ!」 「おうよ!可能性あり!」 「せっかくだからちゃんとつながる手がかりだと良いんだけど」  追随するように良子もパートナーのアグモンを呼び出し終えていた。 「…ま、外れだったらすごすご帰るさ、とりあえず行くぞっ!逃げられねーうちに!」  言いながら駆け出す、逃げるんじゃないぞという思いが走る足を更に進めていく、道はおり曲がってはいるが一本道だった、分岐のような複雑な構造ではない。それがやけに奇妙に思える、誘い込まれてるようなそんな感覚、しかし今は罠と分かったとしても先に進まなければならない。危険に足を踏み入れなければ時に手がかりを得ることはできない。  体感で数分程度で目的地に着く、いた、まだ。  立っていたのは男、長身瘦躯、顔色が暗く青い、不健康を表したかのような男、その隣に控えるのは中身が半分見えるタイプの楕円形錠剤に手足と顔をくっつけたようなデジモンがいる。 「ふんむ?ここに足を踏み入れるとは」 「勝手に上がり込んでわりーな、だが1つ聞きてぇ」 「なんとも元気のいい方だ、どうぞ、何なりと」 「デジモンイレイザーって…おと…おん………とにかくそいつの事を知ってるか!?」  ほう、と、言葉を聞いて面白そうにする男を見る。 「それは私の雇い主ですねぇ」 「じゃあ…手がかりって事か!」 「私が重要な存在かは分かりませんが……ええ、手がかりになるやも」 「素直に言って貰えない?」 「ふぅむ……どうしましょうね、國代良子さん?」 「なっ……あたしのことをっ!?」 「ええ知っています、良いデータがとれる被検体になるやもと………ならばそちらは鉄塚クロウくんですか?」 「……俺の事も知ってやがったか」 「当然………さて、私としては両方とも興味深くはありますが………ポチっと」  男が併設されたコンソールを操作し始める、嫌な予感が来た、止めなければならないと足が動く。 「待て――」 「残念、スイッチ操作なので一歩遅い」  直後来るのは脱力感だ、それはパートナーのルドモンも同じようで膝をつくようにへたり込む。 「んなっ!?」 「当然ですが私のエリアですから対策もばっちり、ということですな」 「アジな真似してんなよっ!」 「君は今度可愛がって上げますので」 「野郎に言われても嬉しかないぜ」 「私も見目麗しい美女の方が好みでして…では改めまして良子さん、少々データを取らせていただきましょうか」 「嫌だって言ったら?」 「大丈夫」  その瞬間、ナノモンがとびかかる、長い腕を振り回しながら。 「私、これでも理論だけではなく実践も尊んでおりますので、そちらの特異な暴力を振るわせていただきましょう」 「……上ッーー等!!」  即座に良子がデジヴァイスを掲げた、光があふれだす。 「アグモンっ!いくよっ」 『分かったよ良子~!アグモンっ!進化~!!』  テクスチャがはがれワイヤーフレームがむき出しになる、更に変形、再構成ののちに再度肉体が作り上げられていく。 『メタルグレイモンっ!!』  正しく言えばメタルグレイモンX抗体だ、些細ではあるが。  しかし見ているのはつらい、本来ならすぐにでも加勢したいというのに肉体が動いてくれない。歯がゆさを抑えながらもクロウは叫ぶ。 「気をつけろっ!何してくるか分からねーぞっ!」 「って言われてもっ!」  すでに衝突は始まっている。メタルグレイモンが巨大な爪を振り回し応戦するが、それを苦も無くいなすナノモンの姿がある。一見小柄なナノモンをメタルグレイモンが圧倒するように見えるだろうがデジモンの戦闘において大きさというのはあまり意味をなさない、重要なのはどれだけのデータを蓄積したかでありそれが実質的な質量と言える。もちろん成長期と成熟期など世代に差があれば多少の意味を持ち得るが、今は対等な完全体同士だ、メタルグレイモンと対等に打ち合えているということは相応の蓄積があると考えてもよい。 「ほう、私のナノモンも結構鍛えているのですが」 「こっちだって生ぬるい旅はしてなくてねっ!」  跳ねまわるナノモンを追うように爪を振るう、なまじ体格差があるからこそとらえるのに苦労している節がある。  傍観者となっている自分にクロウは怒りを覚える。なんだこの情けないザマは、と。2組で攻めることさえできれば一瞬で片付くというのに、自分は今だらしなく膝をついている。何が切り込み役だ、年上だ、呪いを吐けるならはらわたまで黒く染まりそうだ。 『くそっ…何で俺たちだけなんだ!!』  ルドモンも似た無気力を感じていたらしい、そんな叫びが聞こえた。はた、と気づく。 (待てよ…)  何故この状況なのは自分たちだけなのだと、焼けていた脳みそに一気に冷静さが戻ってくる。確かになぜ自分とルドモンだけなのか、排除するなら良子たちも通構えてしまった方が早い。ならばその前を思い出さなければならない、あの男は何と言った、被検体といった、つまりこちらを実験材料として見ていることになる。そのうえで良子だけに的を絞っているというのならば何か理屈があるはずだ、自分と良子の違いとは何か――。 (――!!!)  回った頭がはじき出す。 「良子!!逃げろっ!!」 「はぁ!?」 「良いから逃げろっ!俺置いて逃げろっ!!」  おそらくあの男の目的は―― 『トライデントォ――クロォォォ!!』  眼前、メタルグレイモンの左腕が振るわれる。機械の腕がナノモンに向かって。それは確かにナノモンの頭をとらえている。鈍い音に続い破裂音が来る、中の爪がえぐるように突き刺さっている。 『とった!!』 「ええ、私たちが」  男の顔が笑みに歪んだ、見開かれるように目が開き瞳孔が小さく絞られる。 「倒したのはあたしたちでしょっ!?」 「ええ、ナノモンはやられましたが――」  浸食、ナノモンの傷口から黒い粘性の何かがあふれ出す、発光している、光のようにも見えた。 「なっ!?」 「戦いが目的ではないので戦術勝利を取らせてい頂きました、暴力は目的、欲しい結果は今」  楽しそうに語る男へやけに腹が立つ。いらだちを隠さずに叫んだ。 「てめぇっ!何しやがったんだ!?」 「見ていれば分かりますよ」  男が促すように言う。舌を打ちながらもすぐに意識を良子に移し、大声で声を掛ける。 「良子!!大丈夫かっ!メタルグレイモン!!そっちはっ!!」 『く、クロウ…力が抜けっ――』  異変は即座だった、良子の身体が跳ねる、ちょうど金縛りにあった時肉体が動こうとする状況に対しそれを静止している時に起きるような。更に直後、来るのは光、良子を覆うようにワイヤーフレームが表れた、見覚えは嫌というほどある、デジモンの身体を構築するそれだ。 「なるほど、報告はただ良かったようですねぇ…」  うっとりするような男の声にもはや怒りを抑えることができないでいる、何故自分は伏せている、自分の仲間を目の前で害されているというのになぜ殴打の一撃もくれてやれないでいる。にじむ殺意が言葉を作り出す。 「テメっ!」 「まあ気にせず、見てください素晴らしいでしょう?」 「どこがだっ!!」 「まあ分からずともしょうがない、見てくださいよ、人でありながらデジモンという特異な体質、今それが促進されている…ふむ、どういう形に落ち着くのやら」  こいつとは致命的に話が合わない。クロウは結論付けた。人間の思考に回路があるなら致命的に合わないでいるのがよく分かった、そもそも向こうはこちらを人間として見ているかすら怪しい。  ならばもはや知ったことではない、本来ならば1発殴りたいところだが今はそれどころではない。優先順位は良子に決まっている、ありったけの力を込めて立ち上がる、ふらつくなどという弱音は今無しだ。 「ほう、拘束にありながら立つと、ダークタワーのプログラムも混ぜ込んでるから立ち上がるのすら億劫のはず」  うるさい黙れ、知ったことか。  今俺は良子のところに行かねばならないのだ、お前のどうこうとか知るか。  肉体を縛る枷がある口からすら奪う。一歩一歩の動作が病人の様だ、今ならナマケモノの方が早いかもしれない。引きずるように良子の元へ向かう。  光を纏う良子がいる。本当に訳の分からない状況だ。しかしとりあえずどうにしなければならない。 「良子ー、聞こえっか」  声を掛ける、反応がない。 「良子ー」  身体を揺さぶってみる、反応がない。 「おい、おっぱい掴んじまうぞ」  少々気恥ずかしいが性的な言葉を告げる、反応がない。 「クソっ……」 「無駄ですよー、今良子さんはデジタル的と物理的がせめぎ合ってる状況ですから外部から干渉は出来ませんー」  なんかノイズが聞こえるな、なんだ。まあいい、でも少しだけ聞こえた。外部干渉が無理だという。声をかけ続けるというのは無意味なのだろうか、なら直接届けるのが良いのかもしれない。しかしそんな方法はあるか? 「――あ」  思い浮かぶことが1つある。気迫を込める、右手に光がともる、デジソウル、ルドモンを進化させる際に使う力。物理の世界の住人である自分がデジタルの住人であるデジモンに干渉することのできる手段。 「ま、やらないままってのは俺の柄じゃねーな」  右手の光を良子に押し付けて叫ぶ。 「何とか――なりやがれっ!!」  これは直感だ、本能に従え。  今何かをなさねばならぬというのなら、その衝動のままに身を任せてしまえ、後悔をしたくないと望むのならば。  潜航する、おそらくここは良子の心の中だ、どうしてこの中に入れたか分からないがデジソウルがきっと何とかした、複雑な理屈もあるかもしれないが今は知ったことではない。  深く深くより奥へ、時間の感覚すら曖昧になりかける。人の心とはこれほどまでに深いのか、知らない、分からない、だが、それでも段々と見えてくる。それは良子の形だ。溶けかけている、人の形を成さないままにほどけて消えそうな良子がそこに居る。 「良子ぉ!」  消えかかる肩をつかんだ、まだ感触がある、それが物理的な感覚ではないかも知れないがその良子の形を逃がさなうように。 「良子っ!!」  叫ぶ、大声で、しかし答えはない。焦燥が募る、このまま消えてしまいそうな存在をどうにかして引っ張り上げなければならない。どうにか、どうにか――。 「……ああ、分かったよ――」  観念したかのように肩から手を下ろし、同時に顔をつかんだ。 「どうにかなるかはしらねーが…童話じゃこれが鉄板だもんなぁ!」  頬に手を添えた。焦点の合わない目に視線を合わせた。 「おい…前はそっちからだったけどな…これは俺からの初だぜ?」  静かに唇を合わせる。   〇  高揚感の中にいる。  0と1、あるいは物理とデジタルのはざまで精神がたゆっている。  何が起きているのかは分からないが、少なくとも悪い事ではないように思えた。そうだ、きっとこれは進化だ、デジモンが進化するときはきっとこんな気分じゃないだろうか。  そもそもなぜここに居て自分は何だ。■■■■という存在だったはずなのだが、それが何なのか思い出せない。自分の精神がほどけて巨大な何かの中に飲み込まれているようだ。混ざり合って変化しようとしている。  まあそれも良いかもしれない。心が良いものと感じているのなら、身を任せても何とかなるだろう。段々と自我が崩れていく、思考が弱まる――自分は―― 「――子」  声、 「―良―」  なんだろう、 「――良子ォっ!!」  うるさいな、今大事な何かの最中なのに。って言うか良子って誰だ。なんで目の前のやつは必死に呼びかけてきているのか。分からない、分からないはずなのに今大事な何かを落としているのではないかと感じて、瞬間に来た。  顔を構成するパーツ、唇部分に感触がある。とてもあたたかな何かが迸る。それは感情だ、未だ捨て去り切れていなかった精神が一気に浮上を始める、理解すればすでに自らの唇に当てられているのがまた唇出ることも理解できた。  これはキスだ、男女の。心を許した相手との、消えかけていた記憶がまた脳裏に構築されていく。そうだ、かつてこんなことがあった、その時はとても勇気を振り絞った気がする。消えかけていたピースが戻ってくる、自分を構築していた大事なかけらたちが再度人としての形を作り上げていく。  本能に抗え、自分が自分であるために。 「あたしは…」 「こいつぁ間一髪かぁ!?」  ホッとしたかのように少年が胸をなでおろしている。 「えーっと」 「おい、まさか俺の事忘れちまったって言うんじゃないよなっ!?」 「待って…名前出てこない」 「だ、大分ヤバかったな!クロウだよ!鉄塚ク・ロ・ウ!」  あ、と間抜けな声がでる。言葉と同時に直前の事象が浮かびあり始めた。 「そーだよ、なんでこんな――なんか大分思い出した!ね、ねえ、アグ――メタルグレイモンは!?」 「ナノモンぶっさして止まっちまったぜ、早くなんとかして戻るぞ!」 「何とかって、どうすんの!?」 「……確かあの野郎、良子の状態を促進するみたいなことを言ってたんだよな」 「そうなんだ……そこちょっと聞こえてなかった」 「まあ言ってたんだよ!んで、それってよメタルグレイモン側からプログラム流し込んでるってことだから、デジモン経由で良子の精神に干渉してる以上、どっかにそういう入口みたいなの出来てるんじゃね?」 「な、なにそれ出来るのっ!?」 「おめーの心だろうがっ!?」 「そうだけどさっ!」 「……そうだ、あれ!ほら、ここの入口見つけた時のあれできない!?」 「え、あれ!?」 「そうだよ、あれはデジタルワールドの違和感がどーので、だったらここでもその違和感発見できんじゃねーか!?こっちに無理矢理干渉してるプログラムだしよ!」 「ま、まあやってみるだけやるかっ!」  目をつぶり、精神を集中する。このデジタルスペースに入り込んだ入口を見つけた時に感じた時と同じように自分の中に入り込んだ違和感を感じとる。  来る、何かが、それは心に刺しこまれた棘のような何か。物理的ではないはずなのに確かに物理的に感じる力。 「見つけた――!」  目を開く、同時に現れるのは黒い何か、うすぐ発行する不気味な光。 「これか!?」 「たぶんっ!」 「じゃあ後はこいつをどうにかするだけぜ」 「どうにかって!?」 「……任せなっ」  クロウがニ、と口を笑みにした。 「……デジモン殴るのもこんな謎プログラム殴るのも………デジタルだってなら関係ねぇよな!」  クロウの右手に光がともる。鮮やかな極光が収束していく。デジソウルの光が耀く。 「良子」  唐突に声、 「……何?」 「またさ、なんかこういう異なっても俺がお前の事、引っ張り上げてやる――だから」  何の陰りもない笑みを見せてきた。見とれるほどの。 「もし俺がこうなっちまったら次はお前が俺を引っ張り上げてくれや、そしたら俺にはお前が必要で、お前には俺が必要だ………きっとな」  言葉に返すよう笑みを浮かべた。自らもまた陰りの無い笑みを。 「もちろんっ!任せなさい!この良子様にね」 「へ………頼もしいぜ!」  そう言ってクロウが拳を叩き込む。闇へと。 〇  世界が晴れる。目論見は上手く行ったらしい、見慣れぬ見慣れた世界へ再度帰還することができた。デジタルスペース、すでに動き始めたメタルグレイモンがナノモンを弾き飛ばしている。 「これは………」  驚きに顔をゆがめていたのは男だった。しかしその歪みは笑みに溢れている。 「まさかこのような結果になるとは………素晴らしい!まだまだ道に溢れている」  それを遮る。もう目の前のバカを喋らせて痛くはない。 「感動してる所悪りーけど………ここでしまいだぜ?ルドモン!」  自らの相棒の名を呼んだ。 『ああ…無様さらした分……きっちり返す!』 「当然よ!デジソウル――!!」 『ルドモンっ進化――』  小柄なルドモンがメタルグレイモンに並ぶ巨躯へと変わる。 『ライジルドモンッ!』  2体の完全体が並び立つ姿を見て流石に分が悪いと悟ったらしい、両手を上げて告げる。 「降参です」 「抵抗してくれていいんだよ?」  良子がそれをにらみながら言う。 「いやぁ、流石に同格2体を相手どれるなんて思い上がりはしませんよ、実践派とはいえ私頭脳労働者なので」  だから、と、 「ここらでお暇しましょう、ぐっばーい」 「テメっ!?」 「ここは私のエリア……逃げる手段も豊富というわけです!」  いつの間にか消えていたナノモンとともに男が撤退していく、気づけば姿形何一つ見えない。 「ちぇ……逃げられちゃった」  良子が拗ねたように言う。確かにそれは残念なことだとクロウも思う。しかし、 「いんや」  言いながら良子を抱きしめる。 「ちょっと!?」 「なんかほっとしたぜ、おめーがちゃんとここにいる」 「……ったく……まあ、さ、心配かけてゴメン」 「別に、あの状況じゃしゃーない」 「そっか、あんたがそう言うならそっかな……ってかさ」 「ん?」 「力入れすぎ」 「ばーか、今はこれでいいんだよ」 「そっか、じゃあこれでいい」  そうだろう、だって今はどこにも行って欲しくない。 「なあ」 「うん」 「やっぱさ、お前はお前だよ」 「ん?」 「ほれ、ファミレスの」 「ああ……」 「今日は良子の心の中にまあ入っちまったわけだけど」 「エロ」 「茶化すなよ」 「裸見られるよりハズいわ」 「そうか、まあとにかくあの時に良子のこと引っ張り上げて、今ここにいるのも良子だ、だからやっぱ良子は良子だ」 「何言ってんだか!……でも、そっか、あたしはあたしか」 「ああ……良子は良子だ……だからさ」 「うん」 「ヤるか」 「おぉう……唐突ぅ」 「かもな……でもよ」 「ん」 「やっぱ何でもねぇ!エッチな気分になった、俺とセックスしてくれ良子」  本当はもっと繋ぎとめるくさびが欲しいと思っている、それが体で合っても。しかしそのことを伝える気がどうにも起きない。理屈を理由にしてセックスをするのではない、求めた結果としてそれが繋がりになっていた方がいい。だからそんな考えは伏せる、変に思われても今はただのエッチな男のクロウさんでいい。 「……ムードないなぁ」 「嫌か?」 「いいよ」  言葉はそれだけだ。 〇  デジタルワールドから帰る、真っ先にクロウの部屋に向かった。  今から、セックスをするのだ、どこか現実味がない。まだ夢の中に居る様な感覚に陥る。  裸になる、男の前で。 「……なんか言えって」 「あー……その、なんだ……良子」 「お、おう」 「エロいな!??」 「も、もっとちゃんと褒めなよ!?」 「いいか、綺麗とか可愛いとか色々考えた、でもぶっ飛ぶわ!?おっぱいでけぇし!ケツもでけぇし!見ろよ!?」  そう言いながらクロウは自らの股間を指さした、大きく隆起したソレを見せつける。 「クロウさんのクロウさんも大興奮ですよっ!?」 「やかましいわっ!」 「しょ、しょうがねぇだろ!ハイなんだよ、今っ!」 「ったくもー」  脳みそがゆだってる目の前の男の顔を掴み、一気に引き寄せてキスをする。 「お、おい……」 「黙らせてやる♡」  抱きたいと言われた、でも先に食べるといったのはこちらだ。なら、襲ったって文句は言われまい。 〇 「ふぅん…クロウ急にどうしたの、黙っちゃって?」  スリスリ♡ 「あんた…普段やかましいのにこういう時は静かになるとか結構ある時あるじゃん♡じゃあさ」  ぐいっ……ずんっ!!♡ 「こっちからシてあげよう……どれくらいやったら声出ちゃうかなー♡」  ずりゅっ……ずりゅぅ~~~っ♡ 「エッチなビデオくらい今スマホでいくらでも見れるからね、パイズリって言うんでしょ?おっぱいすきだねー、男って  ずりゅっ……むにゅぅっ♡むにゅぅ~~~っ♡  びくっ!びくんっ!! 「うわっ!?え、ちょ、結構反応するじゃん!?……なんか目で見てるから興奮する、みたいなのもなんか見たことあるけど」  むにゅぅっ……むにゅぅっ……ぎゅぅっ……ぎゅぅ~~~~!!!♡ 「へぇ……あたしだからかぁ……なんだ、クロウあたしのこと結構好きじゃん♡」  びくっ!びくんっ!!! 「そ、そっか、大好きなんだ……♡ま、まあ、そう言うなら別に……いいかな♡じゃあちょっとサービスしてあげよう!」  ぎゅぅっ……むにゅぅっ♡むにゅっ……ぎゅぅ~~~~むにゅっ……ずりゅぅっ……ずりゅれうぅっ!!♡ 「んっ……わ……なんか先っぽから汁出てきてるんだけどっ……こ、これがもしかして我慢汁……?」  ずりゅっ……ぴくんっ……ぷしゅっ…… 「なかなか素直じゃん……♡ふぅん……ん」  ちゅるっ……れろぉ……♡ 「なんかしょっぱいなぁ………」  びくんっ!!! 「ちょ……凄いびくーってしたけど……え……な、舐めたから……こう言うのがいいんだ……♡それとも」  ちゅぅっ……ちゅるっ♡ 「クロウがこう言うのされるの好きなだけだったりして…♡」  ずりゅぅっ……むにゅぅ~~~っ♡むにぃっ……むにゅぅ~~~~~っ♡  ちゅぅっ……ちゅっ……♡ちゅぅっ……れろぉっ……ぺろっ……♡ 「ほらほら……さっさと出しちゃえ……あれでしょ……よくなったら精液出ちゃうんでしょ?それくらいは…保健体育でわかるから!」  びくっ……びくびくっ!! 「え゛……何勘違いしてんの?エロくじゃなくて、普通にもっとお堅い文章だよ、勃起状態のペニスに刺激を~みたいな、性教育ならこれくらいは出るけど……もしかしてこう、エロ本みたいなの想像した?」  …… 「おバカ」  …… 「ったく……そんなの普通ある得るわけないじゃんでもまあぁ……今教科書よりよっぽどエッチなことやってるんだなぁって思うとあたしも結構ドキドキするかも♡」  びくっ…… 「っと、ごめんねー♡こっちはあんたの倍素直だね……じゃあ、最後激しくしちゃうよ!」  ずりゅぅっ……ずりゅりゅりゅりゅぅっ!ずりゅぅっ……ぎゅぅ~~~~むにゅぅうぅっ!!!♡  びくっ!びくんっ!!!! 「ほらっ……ほら、出しちゃえばっ!!♡」  びくんっ!!びゅくっ!!! 「うわっ!!?……け、結構出るんだ……ちょっとビビった……ん」  ちゅるっ 「に、にが……何コレぇ……動画だとなんか美味しそうに舐めてたのに……」  びくんっ!! 「いや……動画はそう言う演技って……またちんこで隠させたながら言われても格好つかないって……まあいっか♡」   ぐぱっ♡ 「あ、あたしも結構恥ずかしい格好してるなぁ…♡まんこぐっぱり開けちゃって……うぐ……あんたじゃなかったら逃げだしてるかも……」  どろっ…… 「……ぬ、濡れてるの、わかるかな……あー……はずかしっ……♡でも、今からここにいれるんだからね……そ、その……準備で来てる?」  ぬちゅっ…… 「ん……そこ……えっと……運動で膜擦り切れてるから、痛いってことはないと思うけど……ヤバかったらゴメン」  ぎゅぅ…… 「ったく……だ、抱きしめられたって変わらない……と、思う……けど……安心はできるかな……じゃあ、さ……もう……キて?」  ずりゅぅっ……ぐちゅっ!ずりゅんっ!!!♡ 「っ……ぁ、入ったっ、あぁ」  ぎゅぅ……ぎちっ…… 「あ、やば……爪立てちゃった……い、痛くない?大丈夫!?」  ぬちゅっ……♡ 「大丈夫ならいいよ……じゃ、じゃあ、動いて……みてっ!」  ずりゅぅっ!ぱちゅっ!ぱんぱんぱんっ!!!♡ 「はっ、あぁっ♡あ、ちょっ……やばっ…は、激しっ♡んっ、っくぅんっ♡け、結構、クるじゃんっ♡」  ぱちゅっ!ぱんぱんぱんっ!ぱんぱんっ!ぱんぱんっ!!! 「あっ、いっ♡け、結構、やばっ♡相性っ、い、いいかもっ♡」  ずりゅっ……ずちゅぅっ  びちゃっ!びちゃっ♡ 「あ、やばっ…ふ、布団っ、よごしたっ、ごめ――」  ずちゅんっ!!! 「ぃっ!?ちょっ……ぉ、さ、流石にっ、り、理性っ、と、飛ばしすぎぃっ!?」  ばちゅばちゅばちゅばちゅっ!!!!ぱんぱんぱんっ!ばちゅんっ!!!ぐちゅぅっ!ぱんぱんぱんっ!!! 「あっ、ぃっ♡あぁ~~~~~っ♡はっはあぁ~~~~っ♡」  ぱんっ!ずりゅっ!!どちゅんっ!ずちゅっ!ぐちゅっ 「あ、ちょっ…い、勢い変えるとかっ……こ、こざかっ、しっ♡んっ、ぃ♡あぁっあぁ~~~~~っ♡」  ばちゅっ!ばちゅっ!!!!ぱんっ!ぱんぱんっ!!!!! 「はっ、あぁっ♡あつぃっ、お、おくっ、まんこのおくぅ、あ、熱いってばぁっ♡」  ばちゅばちゅばちゅっ!ぱんぱんぱんっ!!!!  きゅぅ~~~~~~~っ♡ぎゅぅ~っ!きゅぅんっ♡ 「あっ、ぅっ……きゅ、急に締めるなって言われてもっ…む、無理に決まってんじゃんっ♡だ、だったらあんたが下手になれってぇっ♡」  ばちゅっ!ぱんぱんぱんっ!!!ばちゅばちゅっ!!!! 「無理言うなってっ…じゃ、じゃあ、もうっ、無理に決まってんじゃんっ♡あぁっあぁ~~~♡も、もぉっ、変な声っ、バッカりっださせ、てぇっ!!♡」  ぎゅぅっ……きゅぅっ……きゅぅっ♡  びくんっ!!!! 「んぃっ…あ、ちょ……い、いまっ…震えてっ……そ、そっかっ……出るんだ……?」  びくんっ……! 「ち、ちんこで答えるなんて器用だなぁ…ま、まあいいや…いいよ……出して」  ぎゅぅ…… 「馬鹿…気にしなくていいって……多分大丈夫だからさ……それより、今……欲しいから……最後……来て?」  ずりゅぅっ……ぱんっ!!!!ばちゅっ!ぐちゅっ!ぱんぱんぱんっ!!!!!!! 「あっあぁ~っ♡いっ、ぅっ……ぁ~~~~っ♡く、くろーっ♡あぁっ、ぅっ♡くろぉっ♡」  ずりゅぅっ!ぐちゅぅっ!びくんっ!!!!  きゅぅ~~~~~~~~~っ♡ 「んっ♡」  びくんっ!びゅくっ!びゅるぅ~~~~っ!!!  ぎゅっ……つぷっ…… 「はぁ……はぁ……♡あー……また、爪……立てちゃったなぁ……♡」 〇 「ねぇ、痛い?」  股から精液を流している良子がそんなことを聞いてくる。なんかその姿がエロいな、とクロウは思った。生活感のあるエロと言うのもいいものだ。それはそれとして、爪を立てられたところを擦る。 「まぁ……ちょっといてぇな……」 「そっか、ごめん」 「気にすんなよ」  本当は強がる選択肢もあった、しかしそんなことをされても良子が喜ぶかと考えてやめた、素直に痛いと言われた方が無効もいいだろう。 「まあ、なんだー……とうとうヤったなぁ俺たち」 「だねぇ……」 「ハマっちまうかも」 「次からはゴムね」 「あいよ……あー……サイズ合うの探さねーとなぁ!」  よっこらしょ、とわざとらしく声を上げて立ち上がる。 「んー?」  怪訝そうな目で良子が見てくる。 「腹、減ってねぇ?」 「減った!」  だったら丁度いい、冷蔵庫の中にはそこそこ食材が残っている。 「んじゃ、クロウ様特性のまかない中華焼きそば作っちゃる」 「お、いいの?初めて食べるな―そう言うの」 「へ、簡単だからな、とりあえず…風呂行ってこ――いや、衛生的に俺が先の方がいいのか?」  はあ、と良子が溜息を吐く。 「馬鹿だなー」 「今どこに馬鹿要素あったよ」 「一緒に入ればいいでしょ、ほら、行こう?」  そう言いながら良子が手を引いた。 「おいっ」  抗議する様に声を上げたが、すぐにどうでもよくなった。まあいいか、もしかしたら風呂場で盛っちまうかもしれないが、その時はその時さ。 「あはは!傷、染みるかもね!」 「これくらいどーってことねーやい!」 「ほう?」  ばちーんっ! 「あいだぁっ!」 「なんだ、痛いんじゃん!」 「ぶったたかれたら痛いに決まってんだろっ!?」 「ごめんごめーんっ!」  洗面所の中に連れ込まれる、別に場所は教えた記憶はないが当て勘でも結構わかる物みたいだった、観念して一緒に風呂に入る。  ドアが閉まった。  ばたん。