川辺に広がるデジタルワールドの草地は、データの粒子が淡い光を放ち、まるで星の欠片が風に揺れているようだった。
遠くの空では、バードラモンが炎の尾を引きながら弧を描き、残響のような微かな音が響く。
日影と夏芽はそこに腰を下ろし、ひとときの休息を取っていた。
キャンドモンが「日影〜！見てよ、このキラキラの石！宝物だろ、絶対！」と興奮気味に叫び、透き通った結晶を掲げる。
その頭の炎がチリチリと音を立て、熱っぽい笑顔が弾けた。
ゴツモンは岩に凭れかかり、デジスパムをガリガリとかじりながら、「めんどくせえ、ただの石だろ。いつも騒がしいな」とぼやくが、口元にはどこか楽しげな笑みが浮かんでいた。
「このスパム、食うたび体が硬くなる気がするぜ」
と独り言を呟き、キャンドモンの騒ぎに小さく肩をすくめた。

夏芽は黙ってスパムおにぎりを手に持ち、ゆっくりと噛み締める。彼女の目は、言葉よりも鋭く周囲を捉えていた。
ふと、視線の先に遠くの丘で揺らめく光が見える。木のシルエットが、データストリームの波に揺らぐように輝いている。
「……あそこ、変な光」
と、夏芽はポツリと呟いた。声は小さく、まるでデジタルワールドの風に溶けてしまうようだった。
「おおっ、冒険の匂い！行こうよ、日影！」
キャンドモンが目を輝かせ飛び跳ねる。
ゴツモンは寝転がったまま目を細め、
「はぁ〜……夏芽が行くなら……まあ、付き合ってやるか」
と渋々起き上がり、残ったデジスパムの欠片を口に突っ込んだ。

光の木の元へとたどり着くと、そこにあった光景はまるで夢そのものだった。
枝からは光の粒が滴り落ち、宙に浮かぶ星屑のようにキラキラと瞬く。
幹は半透明で、内部に無数のデータコードが流れ、かすかに脈打つような音を立てていた。
夏芽は無言で木の周りを歩き、鋭い視線で観察する。
「……これ多分、データ片。古いデジモンたちの記憶の残響……かな」
この旅の中でどこかで教わったことを、彼女は静かに呟いた。
昔、騒がしい街で育った夏芽にとって、このような静かな輝きは心を落ち着かせるものだった。
「夏芽さん、平気……？」
日影がそっと近づき尋ねる。声には心配と優しさが滲む。
夏芽は小さく頷き、短く答えた。
「……触ってみる」
彼女が木の幹に指を触れると、柔らかな光が波紋のように広がり、皆の体を包み込んだ。
キャンドモンの炎が一瞬大きく揺れ、ゴツモンの硬い体がふわりと軽くなった気がした。
日影は目を閉じ、光の温もりに身を委ねる。

「ねぇ日影、歌ってよ！　この光、日影の歌にピッタリだよー！」
キャンドモンが突然、日影に歌をせがむ。
「……え、でも……」
昔、歌おうとしてクラスメイトに笑われた記憶がよぎる。
日影は顔を赤らめ、躊躇するが、夏芽の静かな視線とこの場の温もりに背中を押される。
彼女は深呼吸し、震える声で歌い始めた。
メロディはデジタルワールドの風に乗り、ポリゴンの間を縫うように響く。
夏芽は木の根にそっと手を置き、目を閉じて耳を傾けた。
彼女の唇に、初めての微笑みが浮かぶ。
それはまるで、光の木が彼女の心にそっと触れたかのようだった。
「へっ、悪くねえな」
「最高！日影、すごいよ！」
ゴツモンは鼻の辺りを掻きながらつぶやき、キャンドモンは手を叩き喜んだ。

帰り道、ネオンの粒子光が二人と二体のデジモンを照らす中、キャンドモンが「次はもっとキラキラ探すぞー！」と騒ぎ、ゴツモンが「またかよ……」と笑いながら突っ込む。
だが、夏芽と日影は少し後ろを歩き、静かな空気を共有していた。
日影が勇気を振り絞り尋ねる。
「夏芽……さん、歌、よかった……？」
夏芽は一瞬立ち止まり答えた。
「……うん。心、落ち着く」
彼女はそっと日影の手を握る。その温かさに日影の心臓がドキリと跳ね、緊張が柔らかな安心に変わる。
「また……一緒に行きたい」と日影が呟くと、夏芽は「……いいよ」と一言だけ。
言葉は少なかったが、二人の間には温もりが静かに息づいていた。
光の木が携えたメモリーは、夏芽と日影の心をつなぐ見えない糸となり、デジタルワールドの果てしない地平に溶けていった。

おわり

ｷﾃﾙ…

夏芽公式よりウチの子でお話し書いて頂き誠にありがとうございます
日影ちゃんもかわいいしなんかこう空気感がいい………

無口同士で繋がってる感じがｷﾃﾙ…

ゴツキャンもかわいい

デジスパムとは？

そりゃあデジタルワールド産のスパムだろう

変なもの見つけたから近寄って綺麗な景色見ていい雰囲気で歌を聞く
冒険なんてこんなものでいいんだよ！

日影公式です
凄いほっこりするお話ありがたい…
情景とか空気感が伝わってくるのいいね…