二次元裏@ふたば

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192400 B25/04/16(水)12:09:16No.1302817320+ 13:57頃消えます
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
125/04/16(水)12:11:19No.1302817926+
「キュウ……キュウゥ~……!」
 涙が溢れる大きな瞳で私を見上げ、ぷるぷる震えるそのシャリタツの稚魚を見た時、コレを飼いたいと心から思った。体調は10cmあるかないか、腹とヒレの先が白い以外は全体に濃いピンク色で、成体に比べると随分頭身が低く丸っこい体。短いヒレを地面に突っ張って首を一生懸命上に向け、ぴちぴちとハート型のしっぽの先で地面を打ち哀れっぽく泣きながらもどこか抗議するような様子もあるその生き物について、可愛いとか可哀想とかそんな感情はほとんどないけれど、単に面白そうだと思ったから。
 稚魚の傍らには、ヒレというヒレが欠け彼らに特徴的な器官である喉袋が破裂し、ボロボロになった稚魚の母親の死骸が転がっている。
 駆け出しのシャリタツハンターである私は、飲食店に卸すために天然物の「たれたすがた」を狙いここオージャの湖を探索していたのだが、ようやく出会したこの母シャリタツを力加減を誤って死なせてしまった。弱らせてから捕獲しようとしたら、異様に抵抗されたのでムキになって攻撃してしまった結果なのだが、バトルが終わってから母シャリタツの必死さの理由がわかった。
225/04/16(水)12:11:49No.1302818068+
こいつに出会した場所はこいつの巣のすぐ前であり、巣の中には孵化して数日といったところの小さな小さな稚魚がいたのだ。
 うっかり死なせてしまった母シャリタツの死骸は放っておけば野生のポケモンが片付けてくれるので、何も手にせず立ち去ろうとした時に、この馬鹿な稚魚はノコノコと巣穴から出てきた。黙って巣穴に潜んでおけば私に見つかることはなく、とりあえずこの場を乗り切ることができただろうに、稚魚は母の決死の抵抗を無駄にしたのである。地面に倒れ伏す母だったものと私を見比べて何があったかを察し、冒頭に至る。
 キュウキュウと甲高く耳障りな抗議を一通り聞いた後、決心した私は不意にクイックボールを投げつけた。
「キュピッ!?」
 何をされたのかわかっていない稚魚は、難なくボールに吸い込まれ、捕獲成功。近年食材用シャリタツに使われるようになった「おや」登録がされず、なおかつ誰でも簡単に中のシャリタツのわざを忘れさせることができるよう調整された安価なシャリタツ用ボールではなくクイックボールを使ったのは、この稚魚は食材ではなく私の「愛玩用」にしたかったからだ。
325/04/16(水)12:12:26No.1302818252+
 まだ一匹も食材用シャリタツを捕まえていなかったけど、今日の漁はやめて帰路につくことにした。おそらくどこかにいるのであろうつがいのオス、稚魚の父が戻ってきても厄介だ。
 帰る道すがら、稚魚のわざをチェックすると「みずてっぽう」「はねる」「かたくなる」の三つだけだった。ちょうどいい。これからのことを考え、「みずてっぽう」を忘れさせておいた。
 この馬鹿な稚魚の絶望をいかに長引かせるか──考えれば考えるほど、ニヤニヤがおさまらなかった。

 帰宅した私は、ミネラルウォーターが入っていた2Lの透明なペットボトルをゴミ箱から取り出した。ズボラな性格が幸いし、潰していなかったのでこのまま使えそうだ。
 水道水を300mlほど入れ、キャップは閉めずにテーブルの上に横置きに置いてみると、ちょうどいい具合に水はこぼれずペットボトル内に水を張ったようになった。
 クイックボールを操作して、中の稚魚もテーブルの上に出してやる。
425/04/16(水)12:13:15No.1302818493+
「キュウゥ……キュッ!?」
 湖畔で捕獲された時も何が起きたかわかっていなかったが、突然目の前に現れた初めて見る人間の棲家に驚き、テーブルの上にヒレを突っ張りキョロキョロしている稚魚。そして目が合った私が先ほど母親を殺し自分を捕らえた者だと気づくと、大きな目をさらに大きく見開き、またプルプルと震えだした。幼すぎて相手を攻撃してみるという考えも浮かばないのか、「みずてっぽう」を放とうとして跳ねたり固くなったりしてしまう、というおなじみの光景を見ることは叶わなかった。
「キュウゥ……!」
 もう湖畔にいた時のような抗議の色はなく、ただ怯えた声を出すばかりだ。母は死に、自分は遠く離れた人間の家に捕らわれ、父の助けも望めないことを理解しているのだろう。
 目に涙を滲ませ俯いてメソメソ泣き出した稚魚を、私は真上から鷲掴みにした。
「キュッ!キュ~~‼︎」
 ぴちぴちと尾を振り回し、無駄な抵抗をする稚魚の頭を、ペットボトルの口に押し付ける。よかった、ギリギリで口を通り抜けられるぐらいの頭の大きさだ。
525/04/16(水)12:13:49No.1302818680+
「キュ……?」
「入りな」
 そう冷たく言い放ち、押し付ける力を強める。
「ヤ、ヤァ……!」
 初めてキュウ以外の声を出した稚魚は、ペットボトルの口に半分頭が入ったままイヤイヤと首を振ったが、しっぽの付け根あたりを指でぐいっと押し込むと、スポン!と稚魚の全身がペットボトルの中に入り、中に張られた水にぽちゃんと落っこちた。即座に蓋を閉めて閉じ込める。
「……?オミジュー?」
 この稚魚、意外と言葉を知ってるんだろうか。キュウキュウ言うだけのサカナより、少しでも人語を話してくれた方が遊び甲斐があって嬉しい。
 ただの水道水だが清潔な水は気持ちがいいようで、体を浮かべるほどでもない浅い水をヒレやしっぽでパチャパチャしていたが、蓋が閉められていることに気づくと慌ててペットボトルの口の方によじ登ろうとする稚魚。しかしツルツルしたヒレと腹では、引っかかる場所もないペットボトルの口近くの斜面を登れるはずもなく、ツルンツルンと滑っては落水を繰り返し、どうにもならないことがわかるとまた泣き始めた。
 既にかなり満足度が高いおもちゃだ。つい頬が緩んでしまう。明日から、どうやって遊んでやろうかな。
625/04/16(水)12:14:21No.1302818832+
 翌日の朝、リビングに置きっぱなしにしていたペットボトルを覗き込むと、こんな状況にも関わらず稚魚は浅い水に体を埋めて猫のように丸まり、眠っていた。喉袋を少し膨らませ、それに抱きつくような格好が妙に腹立たしい。水がうっすら濁っているのは、おそらく排泄物が混ざったためだろう。生まれて日が浅そうなこの稚魚がどの程度トイレトレーニング(?)を受けていたかわからないが、いくらシャリタツでも寝床と便所は分けるだろう。それが、よじ登れる陸地もないペットボトルの中だからやむを得ず水の中で排泄し、しかもその水の中に体を漬け続けるしかないのだ。
「スゥ……ピィ……スゥ……ピィ……」
 よく耳を澄ませるとそんな寝息まで聞こえてきて、私の苛立ちは一気に高まった。
「朝だよ、いつまで寝てんの。『かたくなる』」
 わざを命じつつそう言うや否や、私はペットボトルを掴み上げ思いっきりシェイクした。
「ジュピィィィィィィィィ!?」
 絶叫、そしてバシャバシャバシャバシャ!と激しい水音と共に、ほんのわずかにカチカチという音も聴こえるのは、ペットボトルの中で汚水と共にシェイクされている稚魚がちゃんと「かたくなる」を使っているからだろう。
725/04/16(水)12:14:56No.1302819017+
 シェイクを止めてペットボトルを見ると、空気が混ざり泡立った汚水の中で稚魚が目を回して浮かんでいた。起きろと言ってるのに。
「朝だってば、起きなよ」
 ペットボトルをダン!とテーブルに強く叩きつけるように横置きにすると、その音と衝撃が気付けになったらしく、稚魚はやっと目を開けた。
「ヴギュ……ゲェェ……」
 激しく体が揺さぶられ吐き気がしたようだが、昨日から何も食べさせていないため吐くものもないようで、ぐったりとして俯いてえずくばかりの稚魚。ここで吐瀉物が出てきたらまた排泄物入り汚水と共にシェイクしてやろうと思ったのに、ちょっと残念。
 そうだ、食べさせるといえば。
 私はこの稚魚をすぐに死なせるつもりはさらさらなく、しばらくこのペットボトルの中で飼育したいと考えているので、餓死されるのは望むところではない。こいつにも食べられそうなものを、と少し考え、サンドイッチ用に買い置きしていたハーブソーセージを四分の一ほど千切って素早くペットボトルの中に放り込み、また蓋を閉めた。ペットボトルの口近くの斜面を転がり、濁った水の中に落ちるソーセージ。ああ、ウンチ水なの忘れてた。まあいいか。
825/04/16(水)12:15:26No.1302819162+
 少し気分が落ち着いたらしい稚魚は、水に浮かぶソーセージの存在に気づき一瞬警戒したようだが、すぐに匂いで食べ物だと、しかも滋養があり美味なものであると理解したらしい。しかし、さらに一歩近づいた時、おもむろに自分の両ヒレを水の中から持ち上げて見つめてから、おずおずと私を見上げた。
「アニョ……オミジュ……ウンチ……」
 やはり、食べ物なのはわかったけど汚水に浸かってしまったものを口にするのは抵抗があるらしい。水を汚したのは自分だろうに、知ったことか。
「それ、今日のごはん、メシね。食べていいよ」
 淡々と返すと、稚魚はますます困ったように目尻を下げた。
「メシー……ゴアン、ウンチニ……」
 しつこいな。まさか、汚水についたから取り替えろというのだろうか。あまりに図々しい。聞かなかったふりもあと一回だ。
「い ら な い の ?」
 一音ごとにはっきりと語気を強めて言うと、わかりやすくビクッと震え上がった稚魚はギュッと目を瞑り、ポロリと涙をこぼしてから両ヒレでソーセージを取って、口に運んだ。
「ウギュ…………ウゥ……?ウマ……!」
925/04/16(水)12:15:58No.1302819331+
 汚水に浸かったとはいえ、元は美味しいハーブソーセージ。しかもひどい空腹も相まって、想像を絶する旨さのようだ。ポロポロ涙をこぼしながら貪り食っているのは美味しさに感動しているのか、自分のウンチ付きでもありがたかって食べないといけない惨めさからなのか。両方かな。
 食べ終わる頃合いを見計らい、同量程度のソーセージを追加投入。よほど空腹かつウンチ付きとはいえソーセージが口に合ったのか、また諦めも多少ついたのか、今度は躊躇なくソーセージをヒレで拾い上げて齧り付いていた。

 その日の夕方、ペットボトルの中で切羽詰まった表情で小さく震える稚魚がいた。どうやら、ソーセージをたらふく食べたことで便意を催したのだが、ここで排泄するとさらに水が汚れることを嫌がり、出すものも出せずにいるらしい。汚水に浸かったソーセージも喜んで食べていたからもう諦めたのかと思いきや、腹が満ちるとより次元の高いことが気になるようだ。
「キュ……ギュウゥゥゥゥ……!」
 人間なら青ざめて脂汗をかいているところだろう、苦悶の表情を浮かべている。もう長くは保つまい。
1025/04/16(水)12:16:43No.1302819566+
 その時を今か今かと待ちながらニヤニヤとペットボトルの中を覗き込んでいたら、稚魚はチラッと恨めしそうに私の顔を見た後、ふいと顔を逸らし、ぶるりと体を震わせ失禁した。水の中でブリッと汚らしい音が鳴る。稚魚の腹の下の方からぶわりと薄茶の濁りが湧き上がり、水全体に広がっていく。同じ音と現象がさらに三発も続き、ようやく稚魚の腹を痛めていたものは出払ったらしい。
 これだけ出たということは、もうソーセージの消化は終わっていることだろう。
「水替えてあげる。綺麗にしよう」
 ペットボトルを洗面所に持ってきて蓋を開け、ひっくり返して水を捨てようとすると、水と一緒に稚魚もペットボトルの口へ流れ込んできて、はまった頭によって水が堰き止められてしまった。
「ちょっと、そこ離れて。水捨てられないから」
「キュ……」
 ペットボトルを出られるチャンスとでも思ったのだろうが、そうはいくか。
1125/04/16(水)12:17:25No.1302819807+
ここに入れられて今までで一番外が近いのに、しかし私が言う通りここを離れなければ少なくとも二回分の排泄物が混ざった水とおさらばすることはできないので、稚魚は仕方なく汚水の中を泳ぐようにしてペットボトルの口から離れ、ようやく汚水が抜け切った。
 すぐさまペットボトルの口を上に向けると稚魚は底にべちゃっと打ち付けられるが、蛇口構わず新しい水を注ぎ、蓋を閉める。外に出るチャンスを失い、ペットボトルの底にへたり込んだまま口を見上げてあからさまに落胆する稚魚だったが、これでは終わらない。ペットボトルのなかを綺麗にするため、今朝のように思いっきりシェイクした。
「『かたくなる』!」
「ギュピィィィィィィ!?」
 バシャバシャバシャバシャ!カチカチカチカチ!わずかながら防御は上がっているため体が傷つくことはないが、再び目を回す稚魚。ぐったりとした稚魚が入ったペットボトルを開けてまたひっくり返すと、稚魚はプカプカ浮かぶばかりで頭がはまらずに済んだので、中の水はすぐに抜けていった。
 そしてもう一度水道水を注ぎ入れて蓋を閉め、水替え完了。リビングに戻り、また横置きに置いておいた。
1225/04/16(水)12:18:00No.1302819997+
 私とペットボトル稚魚の楽しい毎日が一ヶ月も続くと、稚魚は捕まえた時の1.5倍程度まで成長した。稚魚自身が気づいているかどうかはわからないが、この大きさではペットボトルの口から出ることはもうできない。
 ある朝、私は稚魚にこう持ちかけた。
「あなたも成長したし、そろそろ湖に返そうと思うの。ここを出たかったんでしょう」
 すると稚魚は、膨らませた喉袋を大体ペットボトルの底にぺったりと横たえていた体をガバリと起こし、瞳を輝かせた。
「ホント……⁉︎ヌシ、アリガト!オレ、ヒローイオミジュ、オヨギタカッタ!」
 喉袋を萎ませながらニコニコした笑顔で私を見上げ、しっぽをぱたぱたさせて水飛沫を飛ばす稚魚。あの喉袋を抱きしめるやつ、この稚魚の精神安定剤みたいなものなのだろうか。両ヒレでモミモミしている様子など、虫唾が走るほど腹立たしい。
 とにかく、ヒローイオミジュを泳ぎたいというのならば、すぐにオージャの湖に出発だ。
 あの後も数回、食用シャリタツ捕獲のためオージャの湖に足を運んでいた私とは違い、稚魚にとっては一ヶ月ぶりの故郷。
1325/04/16(水)12:18:34No.1302820183+
エコバッグからペットボトルを取り出すと、稚魚はヒレをぺったりとペットボトルの壁面に押し当て、額がくっつくほど顔を近づけて外の世界を凝視していた。瞳はこの一ヶ月で見たことがないほどキラキラと輝き、希望に満ちているのが窺える。
 地面にペットボトルを横置きし、蓋を開ける。
「さあ、出ていいよ」
「ヌシ……!ホントニ、ホントニ、アリガト!!」
 そう言って、ペットボトルの口に向かって飛び出していった稚魚だが、大きくなかった頭はとてもペットボトルの口を通り抜けることができず、勢いよく額を打ちつけ底の方へ跳ね戻っていった。
「スシャッ!?」
 今度はゆっくり、稚魚がペットボトルの口に向かっていき、頭を押し付ける。しかし今やペットボトルの口の倍以上は頭囲があり、出られるはずがない。そのことにようやく気づき、稚魚は先ほどまでとは打って変わった涙目で私を見上げた。
「ヌシ……デラレナイ……」
「ええっ、困ったな~!私にはどうしようもできないよ……自分で出られないなら、もうずっとこの中にいるしかないよ」
「エッ……ソンナァ」
 絶望感に満ちた表情を浮かべながら、稚魚はなんとか外に出られないか試行錯誤する。
1425/04/16(水)12:19:15No.1302820398+
しかし、かろうじてヒレの先が外気に触れたのみで、ペットボトルから出るなんて夢のまた夢だった。
「スウッ……!ヒック、ヒック……ヤダァ、デタイィ……」
 横置きしたペットボトルの中でぐったりと横たわり、なす術もなく泣き続ける稚魚。私は深いため息をつくと、蓋を閉めてペットボトルを持ち上げた。
「エッ、ヌシ……⁉︎」
「言ったでしょ、自分で出られないなら、もうずっとこの中にいるしかないって」
 当然、稚魚をペットボトルから出す方法なんていくらでもある。ペットボトルぐらいカッターナイフでも切れるし、第一捕まえた時のクイックボールに一旦戻せばいいだけの話なのだ。でも、稚魚はそんなこと知らない。
「ア、アァ……!ヤダァ……!ミジュウミ……チャチャ……!」
 チャチャってなんだろう。母親は死んでるの知ってるし、母親はシャシャって言うらしいし。父親のことかな、「パパ」とか。どうでもいいけど。
「仕方ないから帰ろうね」
 来た時と同じように、稚魚はヒレをぺったりとペットボトルの壁面に押し当て、額がくっつくほど顔を近づけて外の世界を凝視している。その表情は悲しみに満ち、滂沱の涙を流して遠ざかっていく故郷を見つめているのだった。
1525/04/16(水)12:19:42No.1302820547そうだねx2
なんだ急に
1625/04/16(水)12:19:50No.1302820594+
 それからも、私と稚魚の生活は続いた。
 ある日、食用シャリタツの仕入れのためオージャの湖を訪れた私は、一匹のオスの「たれたすがた」を捕まえた。大きさは標準だが、活きがよく脂ののりもよさそうで、なかなかいい値段がつきそうだ。シャリタツハンターとしての腕前は随分と上がったもので、死なせずに捕まえられるようになったことを感慨深く思っていると、シャリタツが思いがけないことを口にした。
「アア……メス、ゴメン……オスシ、ミツケラレナカッタ……」
「なに、あんた子どもいるの」
 捕まえたシャリタツのわざを「はねる」のみに操作しながら尋ねると、生意気なシャリタツはボールの中でフンとそっぽを向いた。
「オメーニ、カンケーナイ!」
 イラっとした私は即座にシャリタツをボールから出すと、逃げられないようしっぽを踏みつけてから無理矢理顔をこちらに向かせ、こちらの手が痛むほどに目一杯ビンタした。
「ズピィ!」
 パァン!と激しく頬を打たれ、情けない声を上げるシャリタツ。売り物だから下手に傷つけられないけど、オージャの湖にいる生き物は高レベルなのでそう簡単に弱ることはない。
1725/04/16(水)12:20:21No.1302820760+
このシャリタツにしたって、ビンタ程度なら体へのダメージはないけど、見下している人間から物理攻撃をされたことによる精神的な負荷は大きいことだろう。
「質問には答えなよ」
 渋々話し出したシャリタツによれば、自分には妻子があったが、ある日狩りから戻ると、巣穴の前にはつがいのメスと思われる骨と皮だけの残骸が落ちていて、一粒種の息子はどこをどう探しても見つからなかった。息子が生きていることを信じ、必ず取り戻すとメスの亡骸に誓ったが、とうとう手がかりも見つからないまま自分も捕まってしまった──ということらしい。
 この手の話は正直シャリタツの一家にはありがちな気がしたが、状況的にうちにいるペットボトル稚魚とかなり似通うところがある。
「もしかしたら、うちにいるのがあんたのオスシかもしれない。会いたい?」
「スシ……⁉︎ア、アイタイ!アワセロ!」
 命令口調が気に入らず、もう一発ビンタ。
「ジャッ!」
「それが人に頼み事する態度?」
 冷たく言い放つと、シャリタツは心底悔しそうな顔をしてから、私に正対して頭を垂れた。
1825/04/16(水)12:20:54No.1302820935+
「アワ……アワセテクダサイ、オナシャス……」
 シャリタツの精一杯の丁寧な態度なのだろう。だが、もう一声だ。シャリタツの後頭部を踏みつけ、顔面を地面に押し付けてやる。
「ズブッ」
「頼み事する時は、こう。まあいいわ、会わせてあげる」
 こうして、シャリタツは飲食店に持ち込む前に私の家に寄ることになったのだ。

 帰宅すると、稚魚はペットボトルの中で今日も膨らませた喉袋を抱きしめて眠っていた。むかつく姿だ。
「あんたに来客よ」
 デコピンの要領でペットボトルをパン!と弾くと、音に驚き稚魚は文字通り飛び起きた。が、成長した体ではそろそろペットボトルが狭くなってきており、背中をしこたま打ちつけていた。
「スシ……?」
「こいつ。見覚えある?」
 シャリタツ用ボールから出してペットボトルに並べるように転がされた成体のオスのシャリタツを見て、稚魚は目を見張った。オスの方は暴れないように胴体とヒレをまとめて針金で縛ってあるが、首を回してペットボトルの中を覗き込み、やはり目を見開いた。
1925/04/16(水)12:21:25No.1302821088+
「オスシ……!」
「チャチャ……チャチャァ……!」
 まさに感動の再会である。縛り上げられ身動きできない父と、ペットボトルに閉じ込められ、ただヒレと額を押し付けて外を見つめるしかない子は、互いに滂沱の涙を流しながら見つめ合っている。
「やっぱりあんたのオスシだっんだ。見つかってよかったね」
 そう言うと、私はすぐに父親の方をボールに戻した。
「エッ!チャチャ!チャチャァー!」
 ヒレでペチペチとペットボトルの内側を叩きまくる稚魚。父の方も、ボールの内側を同じように叩いている気配があるが、いずれも無駄な抵抗である。
「会わせるとしか言ってないからね」
 父が入ったボールを手に立ち上がった私に、稚魚は縋るような目を向けた。
「チャチャ、ドウナル!?」
「どうって。食用として売るために捕まえたんだから、最終的には誰かのメシになるよ」
「メッ……⁉︎」
 信じられないという表情で固まる稚魚に背を向け、玄関に向かう。今日中に「たれたすがた」を一匹持ち込むことを約束してる店があるので、急がねば。
 稚魚の、チャチャ~チャチャ~とうるさい声を封じ込めるようにドアを閉めた。
2025/04/16(水)12:22:03No.1302821312+
 帰宅すると、稚魚は泣き腫らした目をして、ペットボトルの中にぐったりと横たわっていた。やはり喉袋を膨らませてそれを抱きしめているが、体が成長した上に喉袋までパンパンになっているものだから、ペットボトルの中にギチギチに詰まっている状態だ。
「ヌシ……オレモ、メシナル?」
 自分もいずれ食べられるのか、と聞いてくる稚魚。
「うーん、あんたは食べないなあ」
 この稚魚を食べたり食用として売るつもりは毛頭ない。初めから、適当に遊んで飽きたら無責任に捨てるつもりだ。処分の方法を決めていないだけのこと。
 すると、稚魚はいよいよこのペットボトルを出たい欲が高まったらしく、ガバリと体を起こして私の後ろにあるリビングボードをヒレで指した。
「ヌシ!アレ、アレデオウチ、キッテ!ソシタラオレ、ココデラレル!」
 初めは稚魚が指しているものが何かわからなかったが、そういえば数日前、通販で届いた荷物を開封する際カッターナイフを使ったのだった。そのカッターナイフの切れ味や、それをリビングボードの引き出しから出し入れするところを、こいつは見ていたのだ。目敏いし、さすが賢い生き物だと言われるだけはあるのか。
2125/04/16(水)12:22:33No.1302821493+
「……言ったでしょ、自分でここから出られないとダメだって」
 結局カッターナイフでペットボトルを切って出してやるなんて、そんなつまらない終わりにする気はなかった私が言うと、稚魚は見たことがないほどの癇癪を起こした。
「……ヤダァァァァ!デルッ、ココデルー!オウチ!チャチャト、シャシャノ、ミズューミ!カエルーー!!」
 そう言うと稚魚はペットボトルの中で激しく暴れ始めた。
「あっ、こら!」
 暴れた拍子にペットボトルごとテーブルから大きく跳ね上がり、床に墜落した。これはただ駄々を捏ねて暴れただけではない、「はねる」を使ったのだ。何も起こらないわざとはいえ、一応は手持ちポケモンという縛りを受けているこいつが主人の命令なしにわざを使ったことは看過できない。それは、主人への明確な反抗に他ならないからだ。
「勝手にわざを使うな!」
 床に落ちてなお暴れ続ける稚魚が入ったペットボトルを強く蹴り飛ばす。軽々吹っ飛んだそれは壁に激突した後、床に叩きつけられた。
「キュピィィィィィ!!」
 久々にごく幼い稚魚のような泣き方をしているのは、もう会えないと思っていた親に思いがけず再開したのに、即座に希望を断ち切られたためだろうか。
2225/04/16(水)12:23:04No.1302821671+
「チャチャ‼︎シャシャァァ!!」
 ヒレとしっぽをめちゃくちゃにばたつかせ、ペットボトルの中でひっくり返って泣き喚く稚魚。あまりのやかましさに、私の中のこいつに対する興味や執着が一切消え失せた。
 まだ床で跳ね回っているペットボトルを掴むと、私は今日二度目のオージャの湖に向かった。陽が沈みかける頃に到着すると、ペットボトルの中で稚魚が顔を輝かせていた。涙で潤んだ大きな瞳に夕陽が映ってキラキラするのが本当に鬱陶しい。
 水辺まで来ると、私はペットボトルを横置きに地面に降ろした。そして、揺蕩う湖面に目が釘付けになっている稚魚を、ペットボトルごと思いっきり踏み潰した。
「ズギャ!!」
 中途半端に潰れてへこんだペットボトルが、稚魚の腹に減り込んでいる。狭くなり腹を圧迫している部分をなんとか抜け出そうともがく稚魚を、ペットボトルのまま湖に向かって蹴り飛ばした。
 弧を描いて吹っ飛び、水飛沫を上げて着水してプカプカ浮かぶペットボトルから、稚魚の叫び声聞こえる。
「ヌジ!ヌジィー!ダジデェ!ヤダァァァァ!」
 ペットボトルから出してから逃がしてくれなんて、贅沢なやつだ。
2325/04/16(水)12:23:41No.1302821914+
もう興味がないので、スマホロトムを操作して稚魚を「にがす」処理をして、私は湖を後にした。汚いペットボトルというゴミを自然の中に放置することに後ろめたさはあったが、だからと言ってペットボトルから稚魚を出してやる気にはどうしてもなれなかった。

 へこんだペットボトルが腹に食い込み圧迫し、苦しくて仕方がない。ヒレと尾をバタつかせ、なんとか狭くなったそこを抜け出そうとする稚魚に、猛スピードで迫る影があった。ミガルーサだ。
 ギョロリとした目にペットボトル越しに睨まれ、苦しさを一瞬忘れ震え上がる稚魚。ミガルーサは見慣れない人工物の中にあるのが美味そうな小魚だとわかると、ペットボトルに噛み付いた。
「キュウッ!キュウーーッ!」
 稚魚はペットボトル越しに強力な顎の力を感じ、恐怖にただ泣き喚くばかりだ。と、バキッと音がして新鮮で冷たい水を肌に感じる。へこんで稚魚の腹に食い込んでいたペットボトルが、ミガルーサが別の方向から噛んだおかげで広がり腹への圧迫から解放された上、ペットボトルが割れて稚魚はついにそこを出ることができたのだ。
2425/04/16(水)12:24:11No.1302822071+
「スシィ~~!」
 恋焦がれた広い世界、母なる湖に、稚魚はようやく帰ってきた。この水に体を浸したのは母と泳ぎを練習したほんの数回だったけど、それでもこんなに肌に馴染む水は他にないと言い切れる。懐かしい水の中、ごく幼いうちに少し教わっただけの泳ぎは忘れていないか不安に思ったのは一瞬で、魂に刻まれているようでまるで久しぶりという感じがない。泳げる、どこまでも。
 しっぽを大きく力強く揺らし、ぐんと水の中を進み出した稚魚。
 次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
2525/04/16(水)12:24:48No.1302822287+
 夕暮れのオージャの湖で、一匹のミガルーサが見慣れない物体を見つけて近寄った。透明な殻のような何かの中には食べ慣れた美味い小魚が、しかもこのミガルーサの好物であるピンク色のやつが入っていたので、迷いなく噛み付いた。
 透明の殻はほんの少しミガルーサの歯に抵抗感を与えたが、強い顎は難なくその殻を食い破る。
 殻が割れたのをいいことに、不格好にヒレや尾をバタつかせて逃げるそぶりを見せた小魚だったが、生まれたての稚魚のようなみっともない泳ぎでは湖で最速を誇るミガルーサからいくらも離れることができず、小魚はあっという間にその腹の中に吸い込まれたのだった。
 ミガルーサも去り、真っ二つに割れたペットボトルが残された水辺に、一艘のボートが近づいた。「オージャの湖環境保護局」の職員らが乗ったボートだ。日に一回、湖のパトロールとゴミ拾いを行う彼らによってペットボトルも回収され、オージャの湖は何事もなかったかのように、今日も静謐な夜を迎えるのだった。

TRUE END
2625/04/16(水)12:32:10No.1302824760そうだねx1
飽きちゃったのッ!?
2725/04/16(水)13:14:33No.1302837363+
他人からの盗品で自分の強さを誇示して楽しい?
楽しいんだろうな 悪趣味とも思わないんだろうな


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