二次元裏@ふたば

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181960 B25/04/15(火)18:22:55 ID:hE2PTfCUNo.1302581908+ 19:55頃消えます
サーモンだけの価値
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
125/04/15(火)18:23:29 ID:hE2PTfCUNo.1302582064+
シャリタツの卵は本体と並んで美味である。そのままライスにかけても良し、煮ても焼いても良し、菓子の材料にしても良し。万能食材シャリタツの身を構成する為の栄養がぎっしり詰まっているので、当然といえば当然だ。
卵は割ったら白身と黄身に分かれて出てくるのが普通だが、一つだけ例外がある。

「じゃ俺、サーモンの様子見てきます」

大将に一言告げて俺はバックヤードに向かった。
サーモンとはオレンジ色の体に黄色っぽい横線が入っているシャリタツの事で、「のびたすがた」…通称タマゴの色違いである。オムレツみたいな食感のタマゴと違ってちゃんと魚らしい舌触りで、トロッとして油乗りも良い人気のネタだ。
サーモンの卵だけは何故か殻の中で栄養を無数に小分けにする性質があり、割っても白身と黄身が出て来ない。代わりに宝石のように輝いた赤い粒が沢山出てくるのだ。噛むとプチプチと弾け、中から濃厚な旨みが溢れ出てくる至高の一品。他の卵と区別する為にイクラと呼ばれている。
225/04/15(火)18:24:07 ID:hE2PTfCUNo.1302582254+
オージャの湖で捕まえた天然物は、表で食われるのを待つ奴以外はバックヤードでのびのび卵作りに勤しんでいる。
こいつらが食べている餌はちびちびパワーや色んな薬が入っている特別製で、卵からは人間の小指前後のミニシャリタツしか生まれず、そいつらは成長しても10cm程度にしかならない(いわゆる養殖物だ)。更に濃厚なピーナッツバターが練り込まれているので万年発情期になり、馬鹿みたいに延々と卵を作り続けてくれる。
どういう配合をしているのかは知らないがこいつらは毎日それを食べていても全く飽きないらしい。料理店などにしか卸されないものの、かなり助かっているので開発してくれた人に感謝だ。

ここは養殖場ともパイプがあるが、親子セットで取り扱うメニューがあるのでいつしか自分達で育てた個体も提供するようになった。調理も養殖業も覚えなければならないので大変だが、俺を含めた全ての店員はシャリタツ料理に魅せられた者ばかりなので全く苦ではない。
カードキーで扉を開錠して少し歩き、目当てのサーモン部屋に到着した。
325/04/15(火)18:24:55 ID:hE2PTfCUNo.1302582491+
「オレスシー!」
「おう、おはよう」
挨拶もそこそこにぐるっと部屋を見渡すと、1匹のメスがバスケットに寄り添ってウトウトしているのが見えた。中に卵が幾つか入っていたので、刺激しないようにゆっくりと腰を落として声をかける。

「おはよ」
「ン……シャリィ…」

そのメスサーモンはまだ眠たいのかヒレで目を擦った。勝手に卵を持っていく事は信頼関係が破綻する原因になるので、卵が出来たら一言声をかける決まりになっている。この部屋に不穏の種を蒔く訳にはいかない。

「いつもありがとな。これ貰ってくよ」
「……ス、スシィ…」
「? どうした」
「オレノタマ……イッコ…」

どうやら卵を自力で孵化させたいらしく、一個だけでも手元に置かせてほしいと言い出してきた。
425/04/15(火)18:25:28 ID:hE2PTfCUNo.1302582666+
本来ならこいつが望む通り、卵が複数出来たら少し親元に残す。メスは卵の供給源なので、なるべく従来の生活と同じにしてストレス無く過ごしてもらう為だ。稚魚が孵化したら少しの期間だけ育ててもらい、頃合いを見て俺達が引き取る…これが他のシャリタツ5種類の共通事項。

だがサーモンだけはイクラの存在があるので別だ。イクラが獲れるのはこいつらの産む卵からだけなので、子育てに集中して卵を産まなくなったら困る。のびたすがた2種の稚魚はタマゴが産んだ個体や養殖場で賄えるがイクラはそうもいかないし、メタモンを経由した卵は質に差が出るのでうちでは使わない。
そんな訳でサーモンの卵は例外なく全部回収し、孵化前に割ってイクラとして提供する事になっている。


「気持ちは分からなくも無いけど…孵化と子育てはこっちでやる決まりだ。前にも言っただろ?」
「シャリ…デモ…」
「お礼にまたお前の好きなガケガニスティック持ってくるからさ。頼むよ」

当然何の見返りも無い訳ではない。サーモンの場合は卵を全て回収する代わりに、他のすがたのシャリタツよりも恵まれた食事と設備がある。
525/04/15(火)18:25:33No.1302582690+
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イクラじゃなくてでけえ卵じゃん
625/04/15(火)18:26:02 ID:hE2PTfCUNo.1302582825+
食事は例の餌の他にデカい肉を出し、卵を作ったらご褒美に好物のおやつを渡す。性格に合わせてブレンドした特製ポケモンフーズも週1で出していて、それを楽しみにしている奴も多い。部屋は水質と外観をオージャの湖と似せてあるので過ごしやすくなっている。

他のシャリタツは色んなすがたが混ざった状態で幾つかに部屋を分けているが、サーモンだけはイクラが入っている卵を判別するため部屋が違う。こいつらは自分達だけ特別な部屋に住んでいると優越感に浸っているようだ。俺ら的には隔離の意味合いの方が強いし、サーモン達は他の部屋のシャリタツが自分で孵化と子育て出来る事を知らないので滑稽でしかないのだが。
ともかく、他のネタより良い生活をさせて貰っているという意識があるのと、野生の頃より遥かに安全なので基本的にうちのサーモンは聞き分けがいい。我が子の顔を拝めない寂しさはあるが、預けた卵は俺達人間に孵されてその後も何不自由ない生活を送れていると信じきっている。

だが、たまに卵の譲渡をゴネる個体が現れる。己の保身よりも我が子の誕生を強く望むーーいわゆる母性が強い個体だ。
725/04/15(火)18:26:33 ID:hE2PTfCUNo.1302582979+
「……じゃあ悪いけどこの部屋には居られないかな」
「スシッ!?」
「当たり前だろ?お前以外にも沢山のシャリタツや人間がいるの。お前1匹の為だけにルールを変える訳にはいかないんだよ」

普段は俺も優しくしているがこういう時は厳しく言わないといけない。ここでは俺達が生活の場を提供する主な訳で、主と交わした決まりを破るならそれなりの対価を払って貰わなければ。


「今からその卵全部持ってって一人で孵すって事だろ?俺達は出て行った奴の面倒は一切見ないぞ。飯も寝床も自分で何とかしないと。大変だと思うけどなぁ」
「シャ…シャリィィ……」

暫し逡巡していたが、ここの生活を捨てる決断は出来なかったのか苦い顔をして卵を差し出した。笑みを浮かべて礼を言ったが、そいつは目線を床に落として黙っていた。
825/04/15(火)18:27:09 ID:hE2PTfCUNo.1302583140+
それから暫くは平凡な日々が続いたのだが、何日か経った頃にまた問題が起きた。
「スシッッッ!!!」
例のメスサーモンが再び卵の譲渡を拒否したのである。それも物凄い剣幕で。ダメ元で前回同様ここに居られなくなる旨を伝えたが、決意を固めたようでこいつの意志は揺らがなかった。

「オマエ!ゴハン…」
「シッッ!!オレノコ!オスシ ソダテル!!」
ツガイであろうオスが今後の心配をして説得しようとしたが、あっさり言い負かされてしまった。オスはここでの暮らしを優先させたいようで卵を守ろうという気概は感じられない。安定した生活と自身の子供を天秤にかけてここまで子供を優先する個体は珍しく、その形相に他のメス達もちょっと引いている。このままでは部屋全体に悪影響だ。

俺は端末で大将に連絡を入れ、事のあらましを説明し今後の指示を仰いだ。通話を終えた俺はメスに向き直る。
「ちょっと向こうで話し合おうか。その卵も一緒に行こう」
「……フンッ!」
もはや嫌悪感を隠しもしないようだった。
925/04/15(火)18:27:47 ID:hE2PTfCUNo.1302583316+
俺が卵に触れるのを嫌がったメスはバスケットにしがみついていたので、仕方なくその状態でワゴンカートに乗せて運んだ。そのバスケットがうちの備品だって事忘れてないだろうか。

カードキーを使って入った部屋に設置されているのは、10mくらいの巨大な水槽。孵化して間もない色とりどりの稚魚がガラス越しに悠然と泳いでいる。これは客に提供出来るサイズになるまで入れておく為のものであり、カウンターで見せ物にされて食べられるのを待つ奴らが入っている水槽とは別だ。ここにいる個体はまだ己の運命を知らない。
水槽の中とはいえ、沢山の子供が無邪気に泳いでいる。そんな光景に目を潤ませていたがーーやがてサーモンは静かに視線を落とした。

「……オレノオスシ イナイ」

やっぱり分かるか。
ポケモンならではの勘が働くのか、どんなに沢山の稚魚の中でも自分の子が居るか居ないかは見分けがつくらしい。以前も適当なタマゴの稚魚をお前の子だと偽って見せたがすぐにバレてしまった。
1025/04/15(火)18:28:45 ID:hE2PTfCUNo.1302583585+
「ドコ!オスシドコ!!」
「元気にしてる……って言っても信じないよな、お前は」
「オレノコ!!オスシ カエシテ!!!」

技をはねるだけにされたとは言え天然物、養殖物にはない凄みがある。だがここでのシャリタツはあくまで食料であり人間に逆らう事は許されない。卵さえ提供していれば安泰なのに、個性を持ちすぎるのも良くないなと思う。

バスケットに手を伸ばすとすかさずヒレで叩いてきた。主への暴力行為、これも良くない。柔らかいヒレで叩かれても痛くも何ともないのだが、こちらを舐めている態度は頂けなかったので思いっきり顔を平手打ちしてしまった。天然物で耐久力があるし跡は付かないだろう。
べしゃ、と床に倒れ込んだサーモンは、信じられないという顔をして俺を見た。今まで存分に甘やかされ、人間が自分に危害を加えるなど考えもしていなかっただろうから落差についていけないようだ。

「ナン…デェ…?」
「本当に止めたいならこれぐらいしないと」

裏切られたとでも言いたげにしながら怯えるサーモンを尻目に、俺はバスケットから卵を一個手に取った。
1125/04/15(火)18:29:52 ID:hE2PTfCUNo.1302583908+
呆然としていたサーモンはそれを見てはっと我に返り、何とか取り返そうと慌てて俺に飛びかかってくる。
サーモンはまるですてみタックルのように勢い良く俺の手にぶつかりーーーそのはずみで卵が滑り落ちた。
「あ」


ぱりん。乾いた音が広い空間に響いた。


卵は運悪くワゴンカートの角へ。当然無事で済むはずもなく、落ちた卵はヒビが入って割れている。どうせ割るので俺は別に構わなかったのだが、自分が原因で卵を落としてしまったサーモンはひどく動揺し叫んだ。


「アッ…アアアアァァ!!オレノタマアアァァ!!オスシイィィィイイイ!!!」

わんわん声を上げる姿からはさっきまでの強気な態度など欠片も見当たらない。サーモンは割れた卵に駆け寄って中を覗き込み、暗がりの中で何かを捉えたのか引っ張り出そうとした。卵の中で子供が困っていると思ったのだろう。
1225/04/15(火)18:29:54No.1302583917+
del
1325/04/15(火)18:30:28 ID:hE2PTfCUNo.1302584077+
だが割れた殻から出てきたのは、

「ヒィッッ!!?」

赤い粒の集合体がシャリタツの形を模しただけの何か。生き物とは言い難い肉の塊だった。

「………ッ!! ーーーー~~~ッッッ!?」
「あー……タイミングミスったかぁ…」

ずるんと這い出るそれを前にサーモンは声を詰まらせ、俺は頭を掻く。ちょっと遅かった。

サーモンの卵は他のと違ってちょっと扱いが難しい。イクラの状態から一粒ずつくっついて徐々にシャリタツの形にまとまり、成形を終えるとタマゴかサーモンの色に変化するのだが、その過程で卵を割ってしまうと中途半端な状態で結合が止まってしまう。だから結合が始まる前の段階で早めに回収し、さっさと割らないといけないのだ。
当然稚魚になりきっていないので、チャームポイントのデカい目も喉袋もないし声も発しない。粒々したグロテスクな肉塊がピクピク動いているだけだ。まあこんなんでも普通に食えるし文句なしに美味いのだが。
1425/04/15(火)18:31:13 ID:hE2PTfCUNo.1302584298+
サーモンは目の前の現実を受け止められる筈もなく、ぬちゃぬちゃと音を立てて床を這うソレを見て身を震わせた。

「イヤアアアアァァ!!キモチワルイ!!!」
「気持ち悪いはないだろ…お前のオスシだぞ。さっきまで大事そうにしてたのに」
「アアアア゛イヤアアア゛ア゛ァァ!!コンナノチガウウウウゥゥ!!!」

シャリタツもどきからポロポロこぼれ落ちたイクラを掬って差し出してやると、イクラを間近で見たサーモンは高速で首を横に振った。水槽で見たようなミニサイズの可愛いオスシが出てくると思っていたのだろう、あまりのギャップの大きさに脳内で処理しきれていないようだ。
異形の塊を手のひらに乗せてサーモンに見せようとしたが、すごい勢いで後ずさり「こいつ正気か」みたいな視線を向けてきたのでやめた。こんなナリでも商品として出せるので、もし潰れたりしたら勿体無いからだ。
1525/04/15(火)18:31:43 ID:hE2PTfCUNo.1302584429+
「ナンデェェエエェ!!コレオスシジャナイイィィィ!!」
「はあ……あのさあ、お前が産んで自分でそのバスケットに入れたんだよな。自分の卵って分かってるから可愛がってたんだろ?現実逃避すんなって」
「イ゛ヤア゛ア゛ァァ!!!オレノ…オレノオスシィ……!!」
「うるっさ…」

密室だから響く響く。水槽が防音で良かった。このサーモンは依然として我が子の存在を認められず、凄まじい嫌悪感を露わにしている。
中には卵黄状態で出てきた我が子を抱きしめようとする親もいるのに、こいつは産まれた子供を拒絶し、触れないどころか近寄りもせず、声すらかけない、見もしない。卵を大事にしていたので母性が強いのかと思っていたが見当違いもいいトコで、こいつは親としては大分クズだ。

「だから俺達が孵化するって言ったのに。そうすりゃコイツも、今頃は立派なオスシとしてあの水槽で泳いでたのになぁ」

俺がそう言うとサーモンはびくっと体を震わせた。まあ立派なオスシ云々は嘘だが。しかし言いつけを守らず卵を渡さなかった所為でこんな姿になったのは事実なので、そこを淡々と責める。
1625/04/15(火)18:32:34 ID:hE2PTfCUNo.1302584669+
「ルール破って子供を台無しにしたのはお前だろ。気持ち悪いとか言う資格あるか?産まれてすぐに人生終わりにされた子供の気持ち、考えないの?」
「オスシ…アァ…アアアア…」
「お前のツガイだってちゃんと止めたのにさ。あいつにどんな顔して会うの?なんて説明するわけ?」
「シャァ……ァァァ…」
「可哀想にな」

サーモンは虚ろな目で涙を流しながら何も言わなくなった。
試しに残りの卵もその場で割ってみたが、こちらはどれもイクラの状態をキープしておりクリーチャーには至らなかった。
1725/04/15(火)18:32:40No.1302584699+









1825/04/15(火)18:33:06 ID:hE2PTfCUNo.1302584812+
俺が卵を落とした時、サーモンは自分がぶつかったせいで卵を落としたと思っていたようだが、あの時俺はバレない程度にわざと手の力を緩めていた。天然物とはいえ、流石にロクに戦ってない個体のすてみタックルもどきなんて片手でも止められるし。
実は卵を渡すのを拒んだメスサーモン相手には毎回同じ手法で卵を割るようにしていて、どいつも「自分のせいでこうなった」と思い込み勝手に落ち込んでくれる。そしてもれなく全員がイクラを見て発狂する。
今回クリーチャーになってしまったのは本当に偶然なので不運としか言いようがないのだが…まあ誤差の範囲だろう。

そしてこうなった場合のメスの行く末は主に二通りあって、一つはおとなしく服従し卵を産み続けるルート。もう一つはイクラの存在を認められず、卵自体にトラウマを抱いて交尾出来なくなるルートだ。どっちみち精神がおかしな事になり長くは保たないので、こちらが潮時だと判断したらそいつはお役御免となり晴れて食材となる。
1925/04/15(火)18:33:44 ID:hE2PTfCUNo.1302584964+
ちなみに奴が最初にゴネた時に「もうここには居られなくなる」と脅したのは「バックヤード組から外れて食材行きになる」という意味であって、はなから外に逃す気などない。例えこいつらが外で卵を育てる決心をしようとも無駄なのだ。
協力的じゃなくなった時点で今後の卵の生産にも期待出来なくなるし、シャリタツの色違いはさほど珍しくないので無理に留めておく必要も無い。
で、今回のサーモンがどうなったかというと。

「はい、サーモンの親子丼お待ち!」

あの後すぐに壊れて到底使い物にならなかったので、言うまでもなく食材行き。ライスが入ったデカい丼にメスサーモンを乗せ、クリーチャーやイクラとセットで親子丼になった。クリーチャーは見た目がアレだし中々誕生する事もないしで、実質常連限定オプションみたいな扱い。普通の客が頼んだ場合はサーモンとイクラだけだ。
メスサーモンは涙を流しながら丼に沿うように横たわり、そのヒレに異形の塊を抱かされている。ヒレの中にいる異形は母親に寄り添うようにぴったりとくっついていて、そんな親子を彩るかのようにイクラがふんだんに乗せられていて鮮やかだ。
2025/04/15(火)18:34:16 ID:hE2PTfCUNo.1302585106+
「オスシ……オレノォ…」
「子供と一緒だぞ。良かったな」
「……オスシ ィャァァァァ……」

天然物なだけあって骨を折られてもまだ生きている。逃げられぬ丼の中で変わり果てた子供と隣り合わせになり何を思うのか。嫌悪か、後悔か、罪の意識か…今となってはどうにもならないのだが。何となくこいつの背景を悟ったらしい常連が、丼の中でブツブツ呟く頭に醤油をかけながら笑った。
2125/04/15(火)18:34:46 ID:hE2PTfCUNo.1302585251+
バックヤードの天然物はここの生活を気に入っている為、外の世界への興味が失せている。
同部屋のシャリタツが減っても「快適な場所を捨てて危険な外に行った変わり者」ぐらいにしか思わないし、その内そいつの存在すら忘れていくのだ。唯一気にかけるとしたらツガイくらいのもんだがーーー

「オッオッ!!オレオスッッ!!」
「オレメスッ!!アッアッ~~~~ タマツクル!モットオォォ!!」

……あのサーモンとツガイだったオスは何事もなかったかのように別のメスと盛っていた。
野生の頃と違って特定の相手と一生を共にする訳ではないので、ヤりたいもん同士が近付けば勝手に事に及ぶ。
今回のサーモンみたいな例を除いた場合、天然物のオーダーが入った時は卵を産む数が少ないメスや草食系のオスから優先して出されるのだが、性欲が強いオスは有難い存在なのであいつは当分安泰だろう。

俺の姿を見つけ、1匹のメスサーモンがぴょこぴょこと跳ねながら寄ってきた。
2225/04/15(火)18:35:20 ID:hE2PTfCUNo.1302585406+
「ヌシ~!タマツクッタ!アゲル!」

オレンジのヒレが指し示すバスケットの中に卵が入っているのが見えた。近付いて中を確認してみるとツヤツヤしている卵が5個……さっき産んだばかりのようだ。
足元でお行儀良く待っていたメスの頭を撫で、携帯しているカバンからこいつの好物であるハーブソーセージを何本か取り出す。

「はい、卵くれたご褒美。お前はこれが好きだったよな」
「アリガト、ヌシ!オレモット タマツクル!マタアゲル!」

サーモンはニコニコしながら卵を差し出し、受け取ったおやつを幸せそうに頬張った。
今残っているメスはこいつみたいに素直な奴ばかりなので、卵が出来ると何の迷いもなく全部渡してくれる。多分食べ終わったらまた交尾に勤しむのだろう。その調子でどんどん量産してくれると嬉しい。

最早こいつらにとって、卵とはおやつ引き換え券ぐらいのモノなのかもしれない。俺達もこいつらの事はイクラ製造機みたいなもんだと思ってるし、それで上手く回ってるんだからWin-Winだよな。

おわり


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