二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1744112757244.jpg-(3067341 B)
3067341 B25/04/08(火)20:45:57No.1300345095そうだねx8 21:57頃消えます
夜明けからわずか数刻。森の中にひっそりと佇む、古めかしくも荘厳なる城。その玄関口に、サキは立っていた。手には山盛りの木苺を携えて。大きくて分厚い扉は彼女が叩くよりも先に開き、中から長躯の怪物がぬっと現れた。
「何故帰らなかった。早く帰れと言ったはずだ」
怪物の表情は複雑だった。読み取れるのは不可解、呆れ、怒り、反省。そして、一抹の、喜びだろうか?
「あら、わたくしは元々、この森にイチゴを採りに来たんですのよ。採らないことには帰れませんわ」
「では何故ここに戻った」
「この綺麗な赤色を見て、貴女にも食べていただこうと思ったの。昨夜いただいたけれど、ここの食事には彩りが足りませんもの」
サキの言い様に、怪物は唖然とした。なんという大胆な娘だろうか。しかしこれが彼女の本性である。ここにいるのは、村一番のじゃじゃ馬なのだ。
「ね、朝はまだでしょう?一緒にいただきましょうよ。こんなに摘んできたのよ」
「いや、ぼ、僕は」
「ほぉら、失礼しますわよ」
サキはそう言うと、怪物の脇をすり抜けて城内に押し入った。怪物はぽかんと立っているばかりで、止めはしなかった。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
125/04/08(火)20:46:29No.1300345324そうだねx5
2人で座るには、城の食卓は少し大きかった。だからサキは椅子を寄せて、怪物のすぐ隣に座った。巨躯の怪物と、小柄な村娘が並んで、木苺を啄んでいる姿は、不釣り合いで滑稽だった。
「わたくし、いつまでも「貴女」じゃあ嫌よ。お名前を教えてくださらないかしら」
怪物はすっかり観念していた。もはや、この朝餉の主人はこの小娘だ。でも多分、悪い気はしていなかった。
「…Aver。皆そう呼んだ。だから、この名で呼ぶと良い」
(嘘の名前だわ)
構わなかった。きっと真実を語らせることが全てではない。
「じゃあ、Aver様ね。イチゴは気に入った?」
「美味しいよ。ひとりで木の実を食べることは少ないんだ。僕には少し、甘すぎるようで」
「そうなの?わたくしには少し、酸っぱいくらいですのに」
「もしかしたら、僕にはそれが良いのかもしれない。今日のこれは、すごく美味しいように感じるよ。ああそうだ、珈琲をいれて来よう」
225/04/08(火)20:46:56No.1300345518そうだねx3
「珈琲…?」
サキにとって朝といえば紅茶だった。"彼女"は違うのだろう。席を立ったAverは、暫くしてカップを2つ持って戻って来た。差し出された熱いカップの中には黒い液体が満ち、芳醇な香りを放っていた。初めて見るそれに、サキは恐る恐る口をつけた。
(に、にがぁい!)
顔を顰めて口からカップを離してしまった。隣を盗み見ると、Averは平気な顔をして飲んでいる。これはこういうものなのだ。でもこんな不気味なものを飲むなんて!
ふと、トモリとのお茶会が思い出された。あのとき淹れてもらった紅茶が、美味しかったことも。握りしめたカップの、悪魔のような黒さをぼーっと眺めながら、サキは少しAverが遠くなったように感じた。
ああそんなことより、口に合わない非礼を詫びなければ。サキは善意を無碍にするのが苦手だった。サキがAverに声をかけようとした、その時。
325/04/08(火)20:47:22No.1300345694そうだねx3
「う、うわわ!」
素っ頓狂な声をあげてAverが椅子から転げ落ちた。比喩ではない。本当に転げ落ちたのだ。それから手足をバタつかせて床を這い回ると、サキが腰掛けた椅子の背にしがみついた。
「ど、どうしたんですの!?」
「あ、あ、あ、あ、あれ」
突然のことに、サキは訝しんだ。Averは細長い指で、木苺の山のそばを指差している。何かが、この怪物をここまで怯えさせているのだ。サキは生唾を飲んで、目を凝らした。
「……?」
そこには、小さな蜘蛛が腰掛けていた。
「…蜘蛛?」
「く、蜘蛛、む、虫」
「……」
震えるAverを前に、サキは暫し黙りこんだ後、立ち上がって、蜘蛛を摘み上げると、窓を開けに行き、そこから蜘蛛を放り出した。全て粛々と…笑いを堪えながらやった。窓を閉めて振り向けば、怪物は大きな身体を精一杯縮こまらせて、まだ椅子にしがみついている。
425/04/08(火)20:47:52No.1300345910そうだねx2
「Aver様、いなくなりましたわよ」
「え!?あ、ホントだ!サキちゃんがやったの?」
「…ええ」
「人間も虫は苦手って聞いたのに。すごいなぁ」
もうダメだ。サキは堪え切れず、くつくつと笑った。こんなところで暮らしておいて、虫が苦手だなんて…それに、サキちゃんですって?可笑しくて、可愛らしくて、胸の奥が熱くなった。その"彼女"はと言えば、自分の椅子に座り直して、咳払いなんてして澄ましている。
「んん、すまなかったね。珈琲の味はどうだったかな?サキ」
まだまだ湧いてくる笑いをぐっと噛み殺しながら、サキも席に戻って、珈琲を今度はぐいっと飲んだ。少しぬるくなった珈琲からは、先刻は感じなかった甘みを感じた。なるほど、これはイチゴの酸味と合うかも。
「ええ、美味しいですわ」
少し嘘をついた。構わなかった。きっと真実を語ることが全てではない。
525/04/08(火)21:07:44No.1300354536+
Aver様が身長高い概念好き
625/04/08(火)21:28:35No.1300363259+
>Aver様が身長高い概念好き
頭身がどう見ても高いからな
725/04/08(火)21:30:03No.1300363890+
>「いや、ぼ、僕は」
外面剥げるの早すぎないか?この大型犬
825/04/08(火)21:33:12No.1300365138そうだねx1
これは真実だね…
925/04/08(火)21:49:20No.1300371665そうだねx1
巧妙に本編とリンクさせやがって…
1025/04/08(火)21:51:53No.1300372679+
いいお話だね💛


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