「お取り込み中失礼、お嬢さん」 「はい?……って、お兄さんでしたか!」 「驚かせちまったかな?」 「そうですね……お兄さんの方から声をかけてくれる事、滅多に無いですからね!」 「オレが声をかけるより早く、元気なポメラニアンが駆け寄ってくるモノでな」 「えー?そんな、ポメラニアンみたいに可愛いだなんて照れちゃいますよー!」 「………………」 「うわぁ、これ見よがしな沈黙!」 「ま、何でもいいか。それより、ほら」 「えっ?なんですか、これ……?ちっちゃなスロットマシーン……?」 「ホワイトデーの贈り物だよ。少し遅れちまったが」 「……ああ!ありがとうございます!すっかり忘れられているものかと思ってました!」 「オレがそんな礼儀知らずに見えると?悲しいな」 「だって、遅れたのは事実じゃないですかー。最近、はなぶち(ここ)にも来てなかったみたいですし。というか、ホワイトデー当日に用意していたのなら、普通にあの場で渡してくれれば良かったのに」 「確かに遅れたのは謝るが……そも、あの時、オレのターンを待たずにさっさと行っちまったのはお嬢さんの方だろう?」 「……確かに!」 「ご理解頂けた様で何より。まあ、実を言えば、オレとしてもありがたかったんだけどな」 「と、言いますと……?」 「贈り物を見直す時間が必要だった、という事さ。勝負師であるオレにカジノチップクッキーだなんて洒落た物を贈られたら、相応に洒落た物を贈らないと勝負師の名折れだ」 「勝負師はあんまり関係無い気もしますけど……それで、そのシャレた物というのがこのスロットマシーンですか?」 「ああ。結構苦労したんだぜ、そいつを手に入れるのは」 「……振ったら、何か音がしますね?ただのアンティークじゃなさそうですけど……」 「スロットを回してみるといい。そのレバーを引いて、な」 「こうですか……?わっ、このリールが回る感じ、なんだか童心に帰っちゃいますねー」 (いつものアレで童心じゃないのか……?) 「むっ、なんだか失礼な事を考えている気配が」 「気のせいさ。さて、絵柄は揃わなかったか。外れだな」 「ですねー……って、何か出てきましたけど……?」 「参加賞だよ。何も貰えないのは流石に悲しいだろう?」 「ありがたいような、スロットマシーンとしてはダメなような……これ、キャンディですか?」 「ああ。『ジャックポット・キャンディポット』、って所かな。日に三回まで回せるから、全放出の大当たり(ジャックポット)目指して頑張ってくれ。四十個は入っているから、一月は楽しめるはずだ」 「ちなみに、何味なんです?」 「さあ?」 「さあ、って……お兄さんが用意したモノですよね!?」 「色々なフレーバーを詰め合わせた上に、オレ自身も分からない様にきっちり包んであるからな。ま、ロシアンルーレットみたいなモノさ」 「……バレンタインの意趣返し、という訳ですか!」 「いやいや、不味いモノは入れちゃいない。ちゃんと美味しいモノを取り揃えた、グローバルでエキサイティングなフレーバーである事は保証するさ。なにせオレは、不味い物を食わせて表情を崩してやろう、なんて高尚な趣味は持ち合わせていないモノでな」 「それは酷い人もいたものですねー!」 「……やれやれ」 「――あっ、三回目で出ましたよ、大当たり(ジャックポット)!」 「……嘘だろう?オレの一週間はなんだったんだ……?」