「悪いよそんな……大人になってから自分で行ったら？」
思い起こせば自分はこれまでクラちゃんには有形無形問わず色々なものをもらってきた。
けれどもカジノのチップとなれば遊びに使うお金だ。担当からもらうのはいくらなんでも情けない。
「唔緊要！トレーナーには私が好きな香港の良いところをいっぱい知ってほしいの。
香港の思い出があいさつ回りだけなんだなんて寂しいもの！これでパーッと遊んでくるといいわ！」
「そう言われてもなあ」
「じゃあこう言うのはどう？」何か思いついたらしく、いたずらっぽく笑うクラちゃん。
「カジノなんだからお金が増えないとは限らないわ！
儲かったらそのチップは返して。浮いた分は貴方のもの。どうかしら？」
……それはそれでどうなんだろう。返事をしかねているうちに、
「じゃあ決まりね！頑張ってね！トレーナー！」
クラちゃんはどこかに行ってしまい、目の前のテーブルにオレンジ色のチップだけが残された。
……このギャンブル、負けられない！

「半！」「丁！」
訪れたカジノは鉄火場の熱に満ちていた。
「あの人たちは籠に入った賽の目が偶数か奇数か賭けているんです。マカオでは一般的なギャンブルなんですよ」
隣で解説をしてくれるのはカジノのエージェントのダイヤさん。
サングラスをした顔がサトノダイヤモンド似だけど、無関係な成人女性だ。
背丈だってサトノダイヤモンドよりも高い――どうも厚底のヒールを履いているらしく、歩き方がよたよたしているのが気になるが。
「へえ…マカオにこんな丁半ばくちみたいなゲームがあるんだ。とっても興味深いです！他にどんなゲームがあるんですか？」
「ありません。これだけです」
どうやらこのカジノにあるのは丁半博打だけのようだ。
僕は腹をくくり、畳の上に座った。
「ハァ～ン！」
威勢の良い掛け声とともに、キタサンブラック似のディーラーが賽を入れた籠を伏せる。

「丁半ないアルか！丁半ないアルか！」
偶数か奇数か。確率は2分の1。考えたって意味がない。この手に全てを…賭ける！
「半だ！」
僕はただ一枚持ったオレンジ色のチップを差し出した。
「よござんすか？よござんすね！コマが揃いました！それでは……勝負！」
ディーラーが籠に手をかけて持ち上げると…
「ハァ～ン！サブロクの丁！」
賽の目は三と六。僕はチップを失った。
「残念でしたね！チップを買い足されますか？」ダイヤさんが僕に尋ねる。
「うん。同じチップをお願い。クラちゃんに返す分元の倍にしないと……」
「承知しました。一番高い2500ドルのオレンジチップですね」
「え？」僕は耳を疑った。「今いくらって言った？」
「2500ドルです。日本円で50万円弱ですね」
残念ながら新人トレーナーの身で自由にできる金額は少ない。これは僕にとって大金だった。
それでも、である。このチップを買ってクラちゃんに返さないと。

「えっと…じゃあ……」買う。買うと言うんだ。
が、言葉が続かない。のどがこわばって動かないのだ。
一体どうしてこんなことに……我知らず涙が込み上げてきた。
「あら！ひょっとしてチップを買うお金がないんですか？それならいい方法がありますよ！」
「え…ええ…？お願いします…！」
地獄に仏とはまさにこのことか。僕はダイヤさんにすがらんばかりだった。
「こちらに一筆書いてください」
ダイヤさんが待ってましたとばかりに取り出しのは、一枚のプリント用紙だった。
「わかりました…でもこれは？」
「香港サトノとの誓約書ですよ！まずサインすれば三日後の日本への帰国はキャンセルです！
クラちゃん…失礼、サトノクラウンさんと遊びまくってもらいます！クラちゃんは内心寂しがってますからね！
その後は香港サトノのゲーム事業をバリバリお手伝いしてもらいます！いっしょにハードを」
矢継ぎ早に条件を突き付けてくるダイヤさん。
しかしどんなに理不尽な文言でも抗う余地はない。自分はクラちゃんにチップを持ち帰らなければいけないのだから…

「…というわけでサインをお願いします」
最後にダイヤさんは誓約書をずいと押し付けてきた。
僕は緊張とストレスで叫びだしたくなるのをぐっとこらえ、ペンを手に取った……。
「等一等！待ちなさいトレーナー！」
賭場の障子戸を開けて駆け込んできたのはクラちゃんだ。
「しまった…！ずらかるよキタちゃん！」
誓約書を取り上げてよたよたと去ってゆくダイヤさん。
同じくディーラーのウマ娘も籠と賽をかき集めて瞬く間に逃げ去っていった。
レースに出ればGIも取れようという機敏な動きだった。
「間一髪だったわねトレーナー！」
「クラちゃん……？これは……」
「ここに来るまでにハイヤーに乗ったでしょ？サトノの一族を騙る何者かがハイヤーを誘導していたみたいなの。
ここはマカオじゃなくて香港にある倉庫よ」
そんな馬鹿な。僕は愕然と周囲を見渡した。
「賭けはイカサマ。すべては何者かによって周到に仕組まれた詐欺だったの…トレーナー、チップは持ってる？」

慌てて探すと、幸いにもチップが畳の上に残されていることに気づいた。
「あった！」
「そう。良かった！」
安心した様子のクラちゃんをよそに、僕は手元のチップをじっと見ていた。
もはや僕にギャンブルに興じるつもりはなかった。さっきやった丁半博打でこりごりだ。
「……やっぱりこのチップは返すよクラちゃん」
「あら？別にいいのに！」
「いや……クラちゃんが大人になったら一緒にカジノに行こう。
それと明日から香港の案内を頼めるかな？　やっぱり二人でお出かけしよう」
……思えば僕はこれまでクラちゃんに頼ることを内心恥ずかしがっていたのかもしれない。
けれど慣れない異国の地でそれは余りにも無謀だ。
ここはクラちゃんの力を借り、残された数日間を目いっぱい楽しもう。
「……ええ！そうね！わかったわ！さっそく明日から私がエスコートするわ！I'm　Confident!」
満足げに胸を張るクラちゃんを見て、僕は自分の選択が間違っていないことを確信したのだった。

おわり

クラちゃんと香港を観光したい

>クラちゃんと香港を観光したい
正直でよろしい

ハードはあきらめてもらって…

途中の茶番いる？

いる

>途中の茶番いる？
SEGAに必要な人材の獲得手段だからいる

これヤ…の手口…

よかった…自分のカジノでトレーナーをスッペンペンにして人権を買い取るクラちゃんはいなかったんだね

頼られると嬉しいクラちゃん良いよね

>よかった…自分のカジノでトレーナーをスッペンペンにして人権を買い取るクラちゃんはいなかったんだね
サイン迫られた当たりでよぎったやつ

サトノに人権を買われるのかと…

買わなくてもあげるだろうトレーナーは

仮にサインしちゃって人権買われたら…翌日からクラちゃんと香港デートする羽目になるな…

ダイヤちゃ…エージェントとキタ…ディーラーの目的は達してるな

こわー…

マカオに丁半博打しかないわけないんだよね

>マカオに丁半博打しかないわけないんだよね
そうだねとしか言いようがない

>仮にサインしちゃって人権買われたら…翌日からクラちゃんと香港デートする羽目になるな…
利害のない関係が長続きするのか不安で買っちゃったけどそんな手段でトレーナーを手に入れても自分を愛してくれるのかもっと不安で結局デートの途中で耐えられなくなってバラしちゃうクラちゃん

陰謀から救い出した感だけどこれさぁ…
いや…いいか二人は幸せそうだし…

サインするしないどちらを選んでも結果はかわらなさそうだ…

クラちゃんに人生を握られるのは既定路線

>サインするしないどちらを選んでも結果はかわらなさそうだ…
ハード開発は…？

>「ハァ～ン！サブロクの丁！」
どっちだよ

半！
dice2d6=5 1 (6)