レンハートのメイドさん


 レンハートの今日の天気は快晴、これなら洗濯物も良く乾くだろう。ローシュは城の廊下から空を見上げ眩しそうに目を細めた。王子付きのメイドとはいえ普段の業務は他のメイドと変わらない。シーツの入った籠を持ち直し中庭へと足を運ぶ。

「おや、ネレイス。今日は貴方もシーツ担当なのですね」
「あら、ローシュおはよう。えぇ今日は天気も良いし絶好の洗濯日和ね」

 中庭には同じくメイドのネレイスがたくさんのタオルを干していた。ネレイスの金の髪がきらきらと太陽光で光り輝いているように見える。

「眩しいですね…」
「そうね、日差しも強いしあまり外にいると熱中症になっちゃいそう」
「…残りは私がします。ネレイスはキッチンの方を頼んでも?」
「ふふ、ありがとうローシュ。じゃあ頼んでも良いかしら?正直ちょっと無理してたのよね…」
「仕事熱心なのは良い事ですがあまり無理はしない様に。貴女を強い日差しに晒し続けるのは流石に良心が痛みます」
「そんなに気にしなくても良いのに、でもありがとうねローシュ。キッチンでの仕事は得意だから代わってもらった分もやらせて貰うわ」
 
 空の籠を持ち上げたネレイスの顔は少し赤らんでいる、これ以上日の当たる場所に居ても倒れるだけだろう。足早に城内へと戻っていくのを横目にローシュは持ってきていた籠を定位置に置きシーツのシワを伸ばすために広げて行った。

 王妃直属の極秘部隊としても同僚であるネレイスはマーメイドである。ユーリン国王を追ってこの国へとやって来たらしいがマーメイドとしてのヒレを捨て慣れない2本の足で過酷な陸を渡って来るガッツは見習いたくなるものだ。
 同僚として正体を教えて貰ってからは何となく目が離せなくなった。可憐な少女の様な見た目も相まって辛そうな顔をされるとどうしても世話を焼いてしまいたくなるのはメイド心なのか姉心なのか。今日の様な日差しの強い日には外での仕事を代わる事もある(その代わりと言っては何だがローシュの苦手なキッチン周りの仕事をやって貰っている)
 
「流石に過保護すぎますかね…。彼女も大人ですしあまり干渉するのは嫌がられるでしょうか」
「そうは思わない」
「そうだと良いのですが………………王妃急に現れるのはおやめください」
「どうして?」
「他の者がびっくりしてしまいますので…!」
「ここには私とローシュしかいない」
 
 なら良いでしょうと突然現れたシュガー王妃はスンとした顔でローシュの横に立った。常日頃から自由気ままに動く王妃の行動を逐一気にしていては極秘部隊は務まらない。ローシュはいつも通りシュガーの奔放さには目を瞑った。

「ネレイスはああ見えて甘やかされるのは好きだし我も強い」
「そうなのですか?」
「嫌なら自分からちゃんと言う。だから気にせず甘やかせば良い。何も言わないと言うことは彼女もそれを望んでいるという事気にしなくて良い」
「長い付き合いである王妃が言うのならばそうなのでしょうね。ありがとうございます、ですが城内では服を着てくださいね王妃」
「むぅ邪魔だから嫌だ」

 いつも通りの忠告はこれまたいつも通りきっぱりと断られてしまった。話し終えて満足したのか王妃は全裸のまま認識阻害を使いその場から消え去った。相変わらず精度の良いスキルにローシュは自身の付き添う王子の未熟な認識阻害を思い出す。あの方も大きくなりあのスキルを使いこなせる様になると全裸になってしまうのだろうか…?

(「ローシュ!母様みたいにこっちの方が良いんだ止めないでくれ!えっ父様に似てる顔でそれはヤバい?みんなには見えないから大丈夫大丈夫!」)

 脳裏には成長し王に似た溌剌とした笑顔、そして逞しくなった肉体。しかし全裸。……止めなければ今度こそ国王と大臣が胃を痛めダウンされるかもしれない。

「王妃の様に使いこなせる様になるまでに何とか王子専用の装備を開発せねばなりませんね…!」

 眼鏡を光らせながらローシュは残りのシーツを干していった。


━━━レンハートは今日も快晴です。