【これまでのあらすじ】
ザイバツ・シャドーギルドのアデプト級ニンジャ・スイセン。彼女は武家貴族に生まれ先祖のような華々しいイクサとイサオシに憧れながら、カラテに
優れず貴族派閥に属し、キョート城内でショドーを書き身を立てる日々に鬱屈していた。
自らネオサイタマ駐屯部隊に志願し、実力を高めイサオシを示すため、ギルドに示威行為を働いた野良ニンジャの誅戮ミッションに単身で立候補した
スイセン。しかしそこに待ち構えていたニンジャ・ペニシリウムは下劣な性根に反し、確かなるカラテを備えた実力者だった。


切り札であるドク・ジツが通用せず、カラテで叩きのめされたスイセンは嘲るペニシリウムに弄ばれ、陵辱された。武家貴族のイサオシ、ザイバツニンジャ
の誇り、女としての尊厳全てを踏み躙られたスイセン。
ドクを無効化するペニシリウムのジツを見抜き、ショドー家の命の右手を犠牲にしながら起死回生のジツを仕掛け爆発四散させたスイセン。だが尊厳を失い、
己の心の王国であったショドーを失い、惨めに汚され尽くした姿をかけがえのない友・ルビーロマンに見られ絶望した彼女はその場を逃げ出した。


もはや自分は武家として、ザイバツニンジャとして二度と誰にも顔向けできない。無惨に乱れた装束のザイバツ紋を引き千切りながら、雨の中慟哭するスイセン。
そして月が砕け、歳月が流れた。



【エヴリィ・フラワー・マスト・グロウ・スルー・ダート】#2【前半】



ウグイス・ディストリクト。規模そのものは決して大きくはないが、違法合法を問わず無数の性風俗店が乱立し、ストリートオイラン・マイコが跋扈する地区。
現在この地区は日に日に賑わいを増し、大きな人とカネの流れが産まれつつある。
ネオサイタマ各地は月破砕の日に受けた傷ましい被害から未だ復興段階にある。特に甚大な被害を受けた地区の一つである、ネオサイタマ最大の歓楽街
ネオカブキチョそしてセクシャルマイノリティの聖地ニチョームストリート。


被害の大きさを逆手に取った大規模な再開発が進み、いわば新ネオカブキチョと呼ぶべき新たな区画に生まれ変わりつつあるが、性産業に留まらず従来の
店舗の多くは未だ休業或いは縮小営業中だ。場所がなければ人が集わぬ、人が集わねばカネも生まれぬ。
ネオカブキチョを拠点としていた大量のオイランやマイコ達は日々の食い扶持の減少に追われることとなる。だが灰色のメガロシティに渦巻く人々の極彩色の
欲望は受け皿が減ったとしても日々留まる事を知らない。


やがてその流れはネオサイタマ各地の小規模猥褻区画による浮いた需要とオイランの取り込み合い、店舗の移転・新規出店の誘致。さながらセンゴクめいた
様相を描き出す事となった。従来より性産業に特化していたウグイス地区はいち早く順応した。
ストリートには新たな猥褻店が次々と参入。稼ぎを求めて他地区から集った者、或いは月破砕に伴う大災害と国家崩壊の動乱で生活を失い身を堕とし、新たに
誕生したオイランやマイコたち。さながら古代ローマの街道沿いの猥雑極まる宿場町めいた様相である。


その片隅、マイコセンター「まわる花」。短時間・低価格帯による回転率を強みとする、低所得の労働者に人気の店舗だ。ビルの中にはマイコ達が割り
当てられた実際狭い浴室とベッドのみの薄暗い小さな部屋が無数にある、ここが仕事場だ。
時間は17時。その一室、身繕いを整えたばかりのマイコが今日最初の客を取る。猥褻な下着姿の右手にサテン生地めいた黒い手袋を嵌めた、少女の面影
を残す艶やかな黒髪の美しいマイコはドアの前に正座し、恭しくドゲザして客を出迎えた。そのバストは平坦である。



「ドーモ、モネです。本日はヨロシクオネガイシマス」モネの一日が始まる。



…………「…………ン」コケシカットヘアーの肥満体の客、モゴモゴと動かす口は何を言っているか聴き取れぬ。モネにとっては特に問題ない。「シツレイします」
モネは客の足元に跪き、股間のジッパーを口で咥え下ろす。手は使わない。この客は口だけでされるのを好む。
そこに顔を突っ込みまさぐるように、下着の合間から肉塊を引き摺り出す、慣れたものだ。鼻をつんざくツキジめいた匂い、この客は店に来る前日或いは
数日前から風呂に入らぬ、本来なら拒否して構わぬご法度である。そもそも行為は室内の浴室で身を清めてから始まる、原則はそういうルールだ。


「今日もオツカレサマです」だがモネは構わず、労いの言葉と共に目を閉じ、その先端に静かにオボコめいてキスをした。これはモネの個人的オプションサービス、
のひとつ、しかも無料だ。それらを目当てに客は集う。やがてモネは啄み、舌を這わせ、深く咥え込む。味も最低だ、塩気と酸味にピリピリした刺激すら感じる。
表面にざらざらと感じる異物感を唾液で溶かしながら嚥下し、舌に頬裏、喉元まで奥深く使って愛撫し、モネの頭は次第に激しく前後する。「……ッ……ッ!
ウッ!」客はやがて両手でモネの頭をがっしりと鷲掴みながら達した。口内に広がる熱く粘つく苦味、鼻に抜ける臭気。この客はすぐに達して終わるので楽だ。
いつものことだ。


…………「3.1415926535 8979323846 2643383279……」 この客は行為の最中に腕を組み延々と円周率の暗唱をする。世界記録への挑戦のための訓練なのだ
という。「8628034825 3421170679 8214808651 3282306647 0938446095……」モネの顔はザブトンめいて客の尻の下に敷かれている。
モネの舌は穴の周りの皺をなぞり、強弱をつけて唇を押し付け吸い付く。両手は休まずボーとその根元に添えられ上下し、揉みしだく。「6446229489 54930
38196 4428810975 6659334461……」 舌をグリグリと奥に捻じ込みながら、モネの手のペースは上がる。手袋のサテンめいた生地が先端部を包み、擦る。


「1339360726 0249141273 7245……870066 0631558817 48815っ20920 96……!28292で540 9171出5364る36ウッ!」手の中で弾ける熱が納まるまで先端を
擦り続ける。その後も暫く捻じ込んだ舌をくねらせ吸い付き、客が大きく息を吐くとモネはようやく穴から口を離した。
「フゥーッ……!また新記録達成失敗だ……どうなってるんですかアナタ?人が真面目に訓練しているというのにそんなに浅ましく吸い付いて。どれだけ
尻の穴が好きなんですか?どんな教育を受けてきたんですか?」「申し訳ございません、卑しいです」この客は達した後にこうした説教を延々と説く。
いつものことだ。


…………ブンズーブンズーブンズーブンズー!ブンズーブンズーブンズズブンズー!「アーイイ……イイーーッ!」持ち込まれたスピーカーから流れる重低音
テクノサウンドの中、それを上回る男の甲高い嬌声が室内に響く。モネは無表情で冷たく見下ろす、この客の要望だ。それがたまらないのだ。
サウンドに合わせモネの艶めかしい脚は丸い塊を力強くストンプしては、グリグリと踏み躙った。その度に客は悶える。「ンアーッ!もっと体重をかけて!
もっと強く!もっと踏み締めて!それがシコシコとコシを生んで……ウッ!」


床に敷かれたPVCビニールシートの上、練った小麦粉の塊を踏み込むモネの真横で緊縛され寝転ぶ客は達した。この客は毎週一回、リュックに小麦粉と水、
ビニールシート、そして重低音テクノを鳴らすスピーカーとロープを詰め込んでやって来る。
そしてモネに自分を緊縛させ転がされては、大音量の中でモネにウドン玉を作らせその横で指ひとつ触れずに勝手に達する。「これで今週も生きていける」
今日もこの客は神妙な面持ちでモネの踏み込んだウドン玉を大事に包み、親族の遺骨めいて厳粛に抱え持ち帰った。
いつものことだ。



……変装めいたティアドロップサングラスとボリューミーなレインボー・アフロヘアウィッグを外した年老いた客。スキンヘッドには、年輪めいた深い皺と
神聖なるホーリー・カンジが刻まれる。纏う厳粛なアトモスフィア、いずこか由緒正しきテンプルの高位なボンズと思われる。
「ハンニャーハンニャー……」「ンアーッ」「ゲート、ゲート……」「ンアーッ」「パラゲート、パラサムゲート……」「ンアーッ」客は表情も呼吸も一切
乱れず般若心経を唱える。モクギョめいた規則正しいリズムで四つん這いのモネの尻に激しく腰を打ち付けながらだ。


本来ブディズムにおいて姦通は厳しい戒律で縛られている。ただし「男でありながら女人の如く見目麗しい者は実際ブッダの化身」「交わると功徳が高まる」
「あえてボンノを燃やしそれに打ち克つ修行」「肛門は性器ではないので可」「時代は男女平等」など。
長き歴史の中で重ねられてきた欺瞞的アティチュードにより、狡猾な抜け道に耽溺する者は後を絶たない。このボンズはいつもモネの後ろの穴を嬲っては
老齢とは思えぬ体力で何度もその中で達し続けた。次の客入りまでの間、暫くモネはトイレに籠った。
いつものことだ。



…………「ウッ!」浴室の床で跪くモネの顔めがけ、今日最後の客は達した。「う……」額から鼻先にかけ直撃。髪にも飛んだ。萎びた肉で顔中に塗り
広げられたのち、モネは生臭いそれを指で拭うように口元にかき集めては、音を立てて吸う。
そして萎びた肉を咥え、中に残った滴りも全て吸い取り清め、音を立てて飲み込んだ。最後に証拠として口を開け、舌を客に見せる。客は満足に頷いた。
「じゃあモネチャンいつものね」「ハイ」モネは一歩引き、床に三つ指を着いた。


「ドーモ、此度もお使い頂きアリガトゴザイマシタ」恭しくドゲザしながらモネは感謝を述べた。満面の笑みで見下ろす客は返事の代わり、粘液に汚れた
艶やかな黒髪めがけジョロジョロと音を立てて生暖かい液体をぶちまけた。
「フゥー……」浴室のタイルに黄色い水たまりが広がっていく。モネはドゲザのまま不動、やがて雫を払った客はモネの後頭部に足を乗せ、汚れた水たまり
に押し付けるようグリグリと踏みつけた。この客は必ず最後の時間に来てはこうしてモネを汚すのを好んだ。髪の手入れで退勤時間が遅れる。
いつものことだ。


◆◆◆


「オツカレサマです、ルコウ=サン」猥褻な下着姿から一転、モネは飾り気のない女子大生めいた服に着替え、休憩室のセンパイマイコに声をかける。
本来モネの退勤時間であるウシミツ・アワーはとうに過ぎている。
「だいぶ時間かかったわネ、またあのファック野郎?平気?」「慣れましたから」流石に当初は心の中で悲鳴を上げ、酷く憔悴した。だが実際今は何も
感じない、事務処理のようなものだ。見透かしたようにルコウは嘆息する。


「慣れると感じなくなるは違うのヨ。第一段階ネ」語尾を強調する特徴的なイントネーション。ルコウは煙草に火を着ける。「アナタなんだってタダでOK
しちゃうけど、そのうち病気やっちゃったらどうすんのヨ」「身体は丈夫なんです。平気ですよ」「身体だけじゃなくて」ルコウは大きく紫煙を吐いた。
「モネチャン、アナタそれじゃ長生きしないわヨ」煙草を片手にビビッドカラーのカールヘアマイコは嘆息する。その口元にはうっすらと青髭が浮かぶ。
「いいんです、私はこれで」「ほらね。アナタみたいな子みーんなそう言うのヨ」


ルコウは目を伏せ首を振った。「それでだいたい最後は同じ。見てるこっちが参っちゃう」「すみません」「謝っても直らないんでショ……もういいワ。
オツカレサマ」彼女(皆そう呼ぶ)は「もういい」と言いつつ今のような小言を既に何度もモネに続けている。モネは退勤した。午前2時30分。
『安い、安い、実際安い』『母と娘、親子でオイシイ!』『真珠入れます?』時間は既に午前3時近い。しかしストリートの喧騒は全く衰えず、猥褻なネオン
はギラギラと輝き、広告音声は声高に響く。モネは深夜営業コケシマートの袋を手に数ブロック先のワンルームアパートに帰宅した。


モネはPVCレインコートを玄関横のハンガーにかけ、一日中ずっと着けたままの(客の相手で汚れる度に替えている)右手の手袋を外した。右掌の中央
から人差し指と中指の間を裂くように走る……実際一度掌と甲を貫き裂いた、痛ましい傷痕。これを見られては仕事にならない。
痛みはないが、傷の後遺症としてモネの人差し指と中指はほとんど動かず、軽く曲げるのがせいぜいだ。モネは日常のあらゆることを他の指3本と左手で
こなしている。元々彼女は右利きだったが、日々の生活の中で既に左利きに矯正されている。


モネの家は古い安アパートだが、電気をつけた室内は掃除が行き届きよく整理整頓されている、言い換えれば生活感が無い。生活に最低限必要なものを除き、
調度品等の家主の個性や趣味を感じさせるような彩りは一切ない。テレビすら無い、携帯IRC端末もせいぜい仕事の連絡用と天気予報の確認用だ。
通常オイランやマイコにとって世間の情報は客との会話の引き出しには欠かせないが、モネにとっては問題ない。少なくともモネの客には、マイコとの会話や
コミュニケーションを楽しみに店を訪れる男はいない。淀んだ欲望と快楽を満たす見た目と手際のいい従順な肉でさえあればいい、モネもそれで楽だった。


買い出した食料品を冷蔵庫にしまい、激安四連豆腐カルテットとコメ、栄養強化ヨロシ野菜ジュースのみの遅い夕食(夜食)を手早く取ると、狭い風呂で身を
清め、寝支度を済ませベッドに入りすぐに眠りに落ちる。午前4時。



これが場末のマイコ、モネの一日だ。日が変わるごとに毎回違う「いつものこと」が繰り返される。そして休日。



12時に起床し、トーニュー・シリアルの朝食を済ませると洗濯機へ、溜まった洗濯物のまとめ洗いだ。外出用のシンプルなセーターやブラウス、ロングスカート
等の服。無地のシャツと短パン等の質素な部屋着。仕事の支給品の布面積の極端に少ない、猥褻でビビッドな下着。日用の下着は全て飾り気のない白。
ちょうど洗剤が切れた、買い足しておかねば。洗濯機をかけた後はただでさえ物のない部屋の掃除を行う。ハタキに掃除機に雑巾で隅々までホコリひとつ
残さず、窓や風呂場のタイルの間まで入念に。別にモネは潔癖症でも掃除が趣味でもない、他にやることがないからだ。


16時。部屋掃除も洗濯物の乾燥も終わりクローゼットに仕舞い終えた、普段であれば仕事に出かける時間。昨夜の仕事帰りに買い出しに立ち寄ったばかり
だが、モネは質素な部屋着から着替え近所のコケシマートに向かった。特に億劫ではない、時間は持て余している。
18時。モネは洗剤ひとつ買うのに1時間以上かけて無目的に店内を見て回った、余分な時間を潰すためだ。そして店の外に出た頃には既に日没。通りの
ネオンライトと喧騒は輝きを増し、仕事終わりのサラリマンや労働者たちがひしめき始める。その時である。


「アーレェー!」「いいからいいから、チョットダケヨ!」信号待ちのさ中、絹を裂くような声にモネは振り返った。モネの背後タタミ10枚ほどの距離、
悲鳴を上げるストリートオイランめいた若い女の手を引き、退廃ホテルに連れ込もうとしている中年サラリマン。
堅物そうな外見に反し人は見かけには寄らない、そんな客をモネは毎日見ている。「で……でもお金、先に前払いで貰わないと」「ダイジョブダッテ!
後でちゃんと払うから、信頼!」か細い声の女は怯えている。この辺りでは見かけない顔だ。新顔だろうか。


チューブトップの上に振袖オイランめいたジャケットを羽織り、下半身はヒップを強調するレザーめいたローライズスカート。ハーフガイジンめいた色素
の薄い金髪のショートボブヘア。「3センチ!ほんの3センチでいいから!後は同じだから、ネ?」「で、でも……」
誰も興味を持つ人間はいない。チャメシ・インシデントの光景だ。ストリートオイランならばなおの事、誰しも受ける洗礼めいたものだ。モネも同じだった。
一瞥するともう関心を失い再び信号機に視線を戻す。「一緒にホテル入ろ、ネ?」「痛い!手離して!筆が握れなくなるぅ!」


モネはその言葉にぴくりと反応し、再び二人を見た。下卑た笑みを浮かべて女の手首をギリギリと締めているサラリマン。信号が変わり、横断者が道路を
渡り始める。モネは動かずそのまま佇み、やがて逆方向に歩いていった。
モネはツカツカとサラリマンに歩み寄ると、怯える女の手を引くサラリマンの腕をチョップめいて叩いた!「イヤーッ!」「グワーッ!?」手を離し、困惑
したサラリマンが顔を上げるよりも早く、鳩尾に短打!「イヤーッ!」「ムン」サラリマンは白目を剥いてその場に倒れ失神し、失禁した。


唖然とした顔でモネを見て固まっている女。モネは咄嗟の行動に自分自身驚きながら、気まずく声をかけた。「その、大丈夫ですか?」「……ちょっと
あンた、なに?」「え」礼が欲しかったわけではなかったが、憮然とした女の態度に今度はモネが困惑した。
「ひょっとして助けたつもり?そりゃドーモ、大迷惑!あのね、ああやって下手に出ておいて好き放題させた方が後で色々むしり取れンのよ」髪を掻き上げ
ながら女は吐き捨てた。どうやらツツモタセの類か、見慣れていた筈だったがモネは後悔した。


「せっかくいいカモだったのに。どうしてくれンのよ?弁償してくれる?」先ほどまでの怯えた弱々しい態度と一転、ストリートオイランめいた女は大袈裟
に嘆息しふてぶてしい強気でモネにまくしたてた。鮮やかな赤のアイシャドウと唇。年の頃はモネと同年代、2つ程上だろうか。
(関わるんじゃなかった……)げんなりと眉をひそめるモネにズカズカと迫りながら、ふいに女は怪訝な顔で首を傾げた、サクランボめいたピアスが揺れる。
「……まさかあンた、ニンジャ?」


「!」女がぽろりと零した一言にモネは目を丸くして硬直。その反応に、言った女自身も「しまった」という顔をした、沈黙が流れる。やがて女は息を吐き、
やれやれと首を振り不機嫌にアイサツした。「……ドーモ、はじめまして。アイデアルです」
ニンジャだ。手を合わせオジギした女に困惑しながら、モネもまたオジギを返した。「ドーモ……スイセンです」もはや名乗らなくなって久しい彼女の本当の
名、モネは仕事用の名前だ。ニンジャがアイサツをされたらアイサツし返さねばならぬ、神聖不可侵の掟である。


「うっわ……最悪。稼ぎの邪魔されたうえニンジャだなんて」自分から因縁をつけ名乗っておきながら、アイデアルはハンズアップし首を振った。スイセンが
口を開く前に続けてまくし立てる。「弁償は勘弁したげるから、もう関わらないでよね。わかった?」
アイデアルは早口の捨て台詞と共に、倒れたサラリマンの懐を探り、手早く財布と携帯IRC端末を抜き出し足早に去っていった。「ファック!スッカラカン
じゃないのよクソ野郎!」遠くから罵倒が聞こえた。



その場にひとり残されたスイセンは唖然と佇み、ぽつりと呟いた。「なに、あの人」




【NINJASLAYER】