◆「せっかくいいカモだったのに。どうしてくれンのよ?弁償してくれる?」先ほどまでの怯えた弱々しい態度と一転、ストリートオイランめいた女は大袈裟 に嘆息しふてぶてしい強気でモネにまくしたてた。鮮やかな赤のアイシャドウと唇。年の頃はモネと同年代、1つ2つ程上だろうか。 (関わるんじゃなかった……)げんなりと眉をひそめるモネにズカズカと迫りながら、ふいに女は怪訝な顔で首を傾げた、サクランボめいたピアスが揺れる。 「……まさかあンた、ニンジャ?」◆ ◆「!」女がぽろりと零した一言にモネは目を丸くして硬直。その反応に、言った女自身も「しまった」という顔をした、沈黙が流れる。やがて女は息を吐き、 やれやれと首を振り不機嫌にアイサツした。「……ドーモ、はじめまして。アイデアルです」 ニンジャだ。手を合わせオジギした女に困惑しながら、モネもまたオジギを返した。「ドーモ……スイセンです」もはや名乗らなくなって久しい彼女の本当の 名、モネは仕事用の名前だ。ニンジャがアイサツをされたらアイサツし返さねばならぬ、神聖不可侵の掟である。◆ ◆「うっわ……最悪。稼ぎの邪魔されたうえニンジャだなんて」自分から因縁をつけ名乗っておきながら、アイデアルはハンズアップし首を振った。スイセンが 口を開く前に続けてまくし立てる。「弁償は勘弁したげるから、もう関わらないでよね。わかった?」 アイデアルは早口の捨て台詞と共に、倒れたサラリマンの懐を探り、手早く財布と携帯IRC端末を抜き出し足早に去っていった。「ファック!スッカラカン じゃないのよクソ野郎!」遠くから罵倒が聞こえた。◆ ◆その場にひとり残されたスイセンは唖然と佇み、ぽつりと呟いた。「なに、あの人」◆ 【エヴリィ・フラワー・マスト・グロウ・スルー・ダート】#2【後半】 (死のう)忌まわしきペニシリウムに犯されたあの日。路地裏のゴミ溜めでひとしきり慟哭したスイセンはゆらりと立ち上がり、フラフラと表通りに 向かった。目深にフードを被った朧げな人影。数メートル先の視界さえおぼつかぬ滝めいた大雨の中、誰もスイセンに目を配る者は居なかった。 やがてスイセンは夢遊病者めいてフラフラと車道に出ると、真ん中で立ち止まった。『ザッケンナコラー!』「子持ち昆布」と荒々しくショドーされた トレーラーが大音量のヤクザクラクションを鳴らして迫る。スイセンはギラギラと光るハイビームライトを浴びながらぼんやりと佇んだ。 それはカタナを握ろうにも左腕も右手も使えぬ彼女の咄嗟のセプクだった。いかにニンジャといえど既に満身創痍の身で大質量のトレーラーに撥ねられれば 死ぬ。爆発四散は汚れた肉を跡形もなくこの世から消してくれる。ホワイトアウトする視界の中、スイセンは静かに目を閉じた。 BOOOOOOM!『スッゾコラーッ!』トレーラーは轟音とけたたましいヤクザクラクションを響かせノーブレーキで走り抜けていった。スイセンは撥ねられる 寸前のところで腕を引かれ歩道に引き倒されていた。「何してんだこのバカ!!」息を荒げる細身の中年男性の大声。スイセンの意識はそこで途絶えた。 ◆◆◆ 「……夢」テーブルでうたた寝していたモネ……スイセンは目を開けた、時間は午前0時。今日は珍しく終盤の予約が入っていない。飛び入りの客か予約が 入るまで休憩室で休むつもりがそのまま寝てしまっていた、随分前の記憶だった。 「アァーン!」ドアの向こうから泣き声、先日入ったばかりのたどたどしい新人マイコか。「アイエエッ!何かの間違いです!ちゃんと着けてから挿れたん ですよ!?それがいつの間にか消えてて、これはもはやミステリ―で」「ザッケンナコラーッ!」「アバーッ!?」 女々しい客の言い訳と黒服の恫喝、ズルズルと音を立てて悲鳴は遠ざかっていった。慰謝料が足りねばその場で臓器が質に入るだろう、いつものことだ。 机に頬を着いたままスイセンは欠伸を噛み殺す。「だいぶお疲れネ」鏡台でメイクを直しながらルコウが声をかけた。 「"これでいい"なんて言って、平気な平常運転のつもりでどんどん萎れて低空飛行。第二段階ネ」「いくつまであるんですかそれ」「さぁネ」メイクを 終えたルコウは立ち上がった。女のスイセンから見ても息を呑む程の色香、喉仏は厚いチョーカーで隠れている。 「今日はもう今のうちに上がっちゃいなさい、店にはアタシから言っとくワ。チャを挽かせてるより体調崩して出勤予定に穴開けた方が痛手ってネ」 「そうします。アリガトゴザイマス」一礼したスイセンは素直にルコウの言う通りにし、ロッカーに向かった。実際今日は酷く疲れていた。 モネ……スイセンに入る客には、その態度・性癖共にロクな者が居ない。キョート令嬢めいた眉目秀麗と礼儀作法のうら若いマイコを実際安い価格帯で、 そして自らNG行為なしを標榜する数々の個人オプション。淀んだ欲望のヘンタイ達には垂涎もの、だがそれを差し引いても今日の客は最悪だった。 …………「できた。見てよコレ」墨筆を手に客はニヤニヤと笑った。ベッド横の壁の鏡に映るスイセンの全身。額から頬、バスト、下腹部、太腿、ヒップ…… 全身いたるところに「肉」「簿価1円」「関東平野」「穴子」「正一」「ツヨシのやらかし」などのブッダも顔を背ける猥褻なコトダマが書きこまれている。 「どう?上手でしょ僕?全然自慢じゃないけどショドー初段」当然嘘である。表現としての崩しや躍動感を履き違えた、熱湯をかけられのたうち回るミミズ めいた字。スイセンは努めて無表情の仮面を深く被った。(……汚い字)鏡に映る様を見せつけ上下しながら客の自画自賛は留まらず、そのまま三度達した。 …………「モネチャン、その手袋の下どうなってるの」「古傷があります。お見苦しいので」マイコの詳しい事情にあえて深入りする客はそうはいない。 世間話めいて適当に受け流して終わり、後ろ暗い話なら猶更である。だがこの客はニヤリと笑みを浮かべ、スイセンの嵌めたままの手袋に侵入し前後した。 「アーイイ……ザラザラしてこれは……ウッ!」手袋の中で震え弾けて染み込む熱。「フゥーッ……これ効くから、体にいいからタンパク質。いっぱい擦り 込んであげるから。ン?」「……アリガトゴザイマス」グジュグジュと掌に纏わりつくあの夜と似た生暖かい感触に、俯くスイセンの顔は青褪めていた。 単純な行為の内容で言えばこれら以上に女として、人間としての尊厳を否定されるような、理解不能の倒錯行為を強いられた事は山ほどある。もはや 慣れきったそれらに何を感じる事も既に無かった。むしろそれはスイセン自身が望んでそうしている事だったからだ。 ◆◆◆ あの日セプクに失敗し意識を失ったスイセンは、気付けば狭い診療所のベッドの上に居た、裂けた右手には縫合処置。呆然と天井を見つめるうちに 見舞いにやってきたのは、あの時の細身の中年の男。見ず知らずの汚された女のセプクを見咎め止めた上、怪我の面倒までみたお人好し。 男はスイセンをあえて咎める事も深く事情を問いただす事もしなかった。猥褻な色街、そもそもマッポーの世では毎日のように幾らでも起こるチャメシ・ インシデントだ。いちいち気にしては身が持たない、だが目の前で見過ごしては目覚めが悪い事だった。勝手に止めた理由はそれだけだと言った。 スイセンは男に感謝などしなかった。むしろ己がまだ生きていることに深く失望し、惨めさに泣いた。セプクとは逃避ではなく己の意思で自身に幕を引く、 いわば最期の名誉と誇りを貫く神聖な儀式である。それにさえ失敗したのだ。 もはや己には武家として、ニンジャとして誇りを抱えて死ぬような誉は許されない。泥に塗れたまま腐っていくのが相応しいというブッダの戒めなのだろう。 ベッドの上で泣き崩れるスイセンの反応に、男は思った通りと言わんばかりに後悔を滲ませ嘆息しつつ、ひとまず期限は設けず治療費の請求をした。 退院と共にスイセン……ナデシコ・オウショウはウグイス地区に根を下ろしマイコに、モネになった。和紙が墨を吸うように、かつては考える事も憚られた 猥褻に自ら染まっていった。その度に恥と尊厳を切り売りし、ドゲザし、卑しい欲望の捌け口になった。それは生きるための手段ではなく目的だった。 忌々しい古傷を新しい傷で上書きしていくようなヤバレカバレ。そうして汚れる度に胸を締め付ける悔恨も未練もプライドも感受性も、ナデシコ・オウショウ だったものが、ザイバツニンジャ・スイセンであったものが、心が壊死していく。何もかもがどうでもよくなっていく。楽な逃避だった。 治療費の返済は早々に終わり、男は苦虫を嚙み潰した顔で受け取った。それからもスイセンは店に留まり、無目的にマイコを続けている。全てを汚してなお ブザマに生き永らえた己に相応しいと言わんばかりに、進んで泥の中に沈み緩慢に窒息していく生き方を彼女は選んだ。 そして月の砕けたあの日……ネオサイタマ上空にキョート城がに突如現れカタストロフを引き起こした悪夢的光景。アレは全てを投げ打ち堕落した己を罰しに 来たのだと、スイセンは震えて項垂れドゲザした。だがウグイス地区はその禍を免れ、気付けばキョート城は現れた時と同じように忽然と姿を消していた。 同時に、それまでスイセンの内にしばしば沸き上がり焼けるような煩悶をもたらしていた、ザイバツ・シャドーギルドという組織に対する郷愁或いは後ろめたさ は、淡雪の如く消え失せていた。その奇妙な感覚に、己はついに最低限の誇りの残滓さえ失ったのだと解釈し、スイセンの捨て鉢な在り様は更に深まった。 そして時が過ぎ、今に至る。 ◆◆◆ 内側を酷く汚された手袋は洗濯に持ち帰らずそのままゴミ箱に捨てた。スイセンは手早く帰り支度を整える。古傷にショドー……いかに行為に用いられた としても、今更何を感じる事もなかった筈のものだ。にも関わらず忘却に追いやった筈の過去と感情を穿り返すような感覚にスイセンは疲弊していた。 何故今頃になって?先日ツツモタセを働く胡乱なニンジャに出くわした際に再び「スイセン」を名乗ったあの時から、胸の内に再び疼き始めた小さな棘めいた 感覚。狙いすましたかのように立て続いた今日の客たちの行為は、そこに塩を擦り込むように痛みを呼び起こした、厄日というものだろうか。 (早く帰りたい)嘆息交じりに従業員用通用口を開けたスイセン、そこに。「あ」たまたま通りがかった通行人と目が合う、ショートボブの金髪にサクランボ めいたピアスの女が声を上げた。手に下げたコケシマートの袋、この裏路地はマートへの近道だ。「あ」スイセンも思わず声を出し眉をひそめた。 今しがた思い返していた胡乱なオイランもどきのニンジャ、アイデアル。どうやら本当に今日は厄日のようだ。「うっわ。また会っちゃった」心底げんなり した顔でアイデアルは言った。それはこちらの台詞と言いたいところをスイセンは堪え、無言でその横を通り抜ける。数歩歩いたところで声。「ちょっと」 一方的に追い払うかのように捨て台詞を吐いた先日と真逆に、アイデアルはスイセンに訝しげに声をかけ歩調を合わせた。スイセンと出てきたビルを見比べる。 「ここってマイコセンターだよね。あンたもしかしてここで働いてンの?」スイセンは拒絶の無視、そのまま足を早めた。 「あ、反応した?当たりだね。笑える、ニンジャの癖に安っすいマイコって」「貴女もオイランですよね。街角の安い」嘲るような口調にスイセンは思わず 足を止めて言い返した。図星を言い当てられた不機嫌な様子にアイデアルは面白そうに目を細めた。 「アタシのは副業だからいいの。本業ちゃんとあるし、情・報・屋。欲しいネタあるンなら売ってあげるよ、高くね」それは明け透けに他人に言う事なのか? 無防備が過ぎる、スイセンは訝しんだ。「世を忍ぶ仮の姿ってね。アンタもそうでしょ?賞金稼ぎとかバウンサーとか。本業別にあるんじゃないの?」 スイセンは無言、視線がやや泳いだのち目を逸らす。「え?マ?」その反応にアイデアルは信じられない、と言わんばかりに唖然とし、ケラケラと笑い出した。 「アハハハハ!ワケわかんない!ニンジャなのに?体売る以外で稼げないくらい相当弱っちいのあンた?」スイセンの中に久しく忘れていた怒りがゆらめく。 「そうですよ。それが?」語気を強めて突き放すように睨みつけるスイセンの視線を受け流し、アイデアルはにんまりと笑う。「面白い奴見つけちゃった」 この日からスイセンは頭を抱える羽目になる。アイデアルが度々スイセンの出勤退勤時間を狙っては、店の通用口や通勤経路で待ち構えるようになったからだ。 ……ある日。「ドーモォ、今日も忙しかったんだねー?モネチャン?」店のIRCページを見たのだろう、名前を知られていた。スイセンは不快を露にした。 「NG一切なしのヘンタイご用達だもんね?大人気」アイデアルはわざとらしく携帯端末の画面を指す。「この3サイズ本当?胸のとこサバ読んでない?」 「もう関わるな。そっちが最初に言いませんでしたか」「そりゃあ他のニンジャとあんまり関わりたくないし、前にも変な所でニンジャと絡んで死にかけたし。 でもあンた弱そうだし平気かなって」完全にナメられている、無言で眉間に皺を寄せるスイセンの様をアイデアルは面白おかしく眺めている。 だが今更何を怒る?己は実際ニンジャとして逃げ出した落伍者、そして場末の安いマイコだ。苛立ちを感じる自分自身にスイセンは更に憤った。 ……またある日。「ね。昨日はどんな事したワケ?」ツカツカと歩くスイセンの後ろに付き纏うアイデアル。スイセンは無視、どれだけ腹立たしくても 表に出しては駄目だ。それを更に面白がって倍で返してくる事をスイセンは学習した。いっそカラテで黙らせようと思ったがそれはもっと駄目だ。 そうして己のニンジャを呼び起こせば、また心が乱される。「レビュー読んであげよっか?『平坦これが好き』『何でも言う事を聞く』『清楚な顔でヤバイ 級ヘンタイ』『毛が多い』『アカチャ」「ウルサイ!」耐えかねたスイセンが怒声を上げ振り向くともう居ない。いつもこれだ、逃げ足の速い女だ。 「……ッ!」スイセンは思わず傍らのバリキ自販機を蹴り飛ばした。キャバァーン!キャバババァ---ン!自販機から電子ファンファーレが鳴り響き、 激しいレインボーパターンで購入ボタンが発光、取り出し口からドリンクが溢れ出す!スイセンは右往左往しながらしめやかに立ち去った。 ……更にある日。「あンたって絵とか美術とか好きなの?」「はい?」「その名前。モネってアレでしょ?画家の」品性の欠片も無いような胡乱なオイラン もどきから意外な話題が出てきたとことにスイセンは驚いた。「何その顔?オイランやマイコはみんなバカって思ってるクチ?あンたもマイコでしょうが」 「そういう訳じゃ……自分で付けた名前でもないので」これは店に入った時ルコウが付けた名だ、特に由来を深く聞いたことはない。「そ。良いセンスだ そいつ」思えばスイセンはアイデアルの事を何も知らない。どんな経緯でこうして「それよりバカにした慰謝料、夕飯驕ってよ高いの。それか万札」 やはり知る必要はない。このストーカーめいて付き纏う性格の悪いカネに汚い苛立たしい女に、僅かでも関心を持った事をスイセンは後悔し頭を振った。 ……別のある日。「またカルテットと野菜ジュース?ロクなモン食べてないじゃん」コケシマートの会計後、袋詰めする横。「今どきダイエットでもまだマシ な食事してるっての。だからそんな平坦なワケ?まっ平ら。ペド野郎にはモテるだろうけど」スイセンは見向きもせず嘆息する、もはや慣れたものだ。 「いいんですよ少なくて、これは夜食の」ズルッ!ズルズルッ!ズルズルーッ!耳障りな音に向くと、アイデアルはストローで得体のしれない飲み物を啜って いる。「これ?ソイコブチャフラペチーノ。あっちで売ってるよ割とイケる。飲みたい?ヤだよやんないよ」アイデアルはカップを向け、すぐに引っ込めた。 音がうるさかっただけだ、冷たいコブチャにトーニューと更に生クリーム?もはやジャンルのわからぬ奇妙な飲み物に興味がある筈がない。だが後日買い出し の際、ふいに思い出したスイセンはフードコートに足を運び試してみた。確かに意外と悪くなかった、敗北感。 そんな日が暫く続いた。「……はあ」「近頃ため息ばっかりネ、モネチャン。出勤時間もころころ変えて、珍しい」いつもしかめ面で小言をこぼすルコウは 逆に半笑いだった。「たちの悪い変質者に付き纏われています」「金髪の娘?前にお店の近くで見かけたわネ。なんだか仲良さげに見えたけド」 「どこがですか?頭痛の種です。今日の客も……誰かを傷つけ汚し、貶めたいという欲自体はもうわかります。でも何故卓球ラケットで?」今日のスイセンは ラケットでヒップが真っ赤になるまで執拗に叩かれた。だがモータルの力とニンジャ回復力の差だ、既に腫れと痛みは引いている。しかし困惑は根深かった。 「毎週ですけどウドン玉も理解不能です。持って帰ってどうするんですか?食べるんですか?私が直に足で踏みにじった生地ですよ。今日は尻で踏まされました」 「アタシに聞かないでヨ」ルコウもまた理解ができないとばかりにハンズアップする。スイセンは机に突っ伏して深く嘆息した。 「けどモネチャン。そんな風に自分から仕事の愚痴こぼすの今まで無かったわよネ。黙って暗い顔してるばっかり」「そうでしたか?」「そうヨ」スイセンは 思い返した。そもそも会話自体がアイサツか業務的な内容、ルコウや他のオイラン達に話しかけられた時の最小限の返答程度だった。この所口数が増えた。 「ストレスの証拠ですね。何段階ですかこれ」「一段階マイナスかしらネ」 ビルの通用口を開けると滝のような重金属酸性雨、側溝からは汚水が溢れかえり路上はもはや小川めいている。PVCレインコートのフードを目深に被った スイセンが一歩踏み出すと、もはや雹めいて強く重い雨粒の感触。路上は側溝から汚水が溢れもはや小川めいている、家に着くまでが億劫だ。 ふいに通用口の横を見ると、アイデアルが壁に背を預け座り込んでいた。雨に打たれるのも構わず暗い顔で膝を抱えている。スイセンは一瞬無視しようと したが、普段と異なるアトモスフィアについ声をかけた。「こんな日にまで来るんですか」「……」アイデアルはスイセンを一瞥だけして、再び俯いた。 「無口ですね珍しい」「……」「帰りますよ、私」「……」アイデアルは無反応、スイセンは構わず深い水溜まりを避けながらしばらく進んで振り返った。 アイデアルは全く動かない。激しい重金属酸性雨の帳に時折その姿は霞み、そのまま消えてしまいそうに思われた。 ◆◆◆ 1時間後、スイセンのアパート。屋根に打ち付ける勢いの止まらぬ激しい雨音に混じりシャワーと乾燥機の音。玄関横にはレインコートの隣にずぶ濡れの 振袖めいたジャケットが吊るされ、ぽたぽたと水滴を垂らしている。結局あの後スイセンは、岩めいて動かぬアイデアルの手を引き家に連れて帰った。 (いったい私は何を)あのままアイデアルが本当に消えてくれるなら願ったり叶ったりだった筈だ。「情にサスマタを突き刺せば、メイルストロームへ 流される」平安時代の武人にして哲学者、ミヤモト・マサシのコトワザを最初に痛感したではないか。気の迷いにも程がある。 部屋に入れても終始無言で佇み埒の飽かなかったアイデアルの服を脱がし、乾燥機と浴室に放り込んだものの、シャワーだけで随分と長い。他人の家なの を良い事に湯の無駄遣いもいいところだ。そろそろ注意しようかと腰を上げかけたところで勢いよく脱衣所のカーテンが開いた。 「はーっスッキリした」スイセンの質素な部屋着に身を包んだアイデアル。煽情的な赤いアイシャドウとリップが落ちると随分印象が違う、黙ってさえ いれば怜悧な令嬢めいた顔立ち。「つまんないの、何もない部屋。テレビすら無いって。節約してンの?貯金残高いくらよ?」口を聞けばこの通りだ。 先程までの虚ろで弱々しいアトモスフィアはどこへ、いつも通りの図々しい態度で部屋を漁っている。「ねえあったかいチャぐらいあるでしょ?湯冷め しちゃう」(やっぱり関わるんじゃなかった……)先程頭をよぎったコトワザ通りだ、早く追い出したい。 「服が乾いたらすぐ帰ってくださいよ」「冷たいじゃン、ドーゾ気にせず泊まってください。じゃないのそこは」「あなた以外ならそう言ったかもしれま せんね」勝手知ったると言わんばかりにベッドの上に寝転がるアイデアル。まさかフートンまで占領する気か、スイセンは思わず額に手を当て項垂れる。 アイデアルの視線はスイセンのその右手に止まった。「その手袋家でも着けてンの?余程酷いケガ?」「人前では外しません……ケガだなんて言いましたか」 「いつも左手使ってるけど、今みたいな何の気ない時は右手が出るんだよねあンた。後から利き手変えたんでしょ、それに指もあんまり動いてないし」 スイセンは改めてこの女の時折発揮する妙な勘の鋭さ、或いは観察眼に驚く。大体はこちらの怒りのポイントを的確に突く事に使われるが。「あと前々から 思ってたけどあンた結構いいトコの子でしょ?多分キョート系。歩き方からその辺の中流やマケグミじゃないもん、身体に染みついてる感じ」 「勘がいいんですね」「やった当たった!賞金ある?」アイデアルはケラケラと笑った。触れたくない過去をなぞられ、スイセンは憮然としたが、下手に隠し 立てして余計な興味を引いても後々面倒だ。さもない事のように軽く流してしまうに限る、しかしアイデアルは深掘りした。 「で?なンでそれが毎日汚ったないオッサンのボーやケツノアナしゃぶってンの?勘当?それとも家出?もしかして破産で借金とか、一家離散やセプクとか?」 「多分あなたと同じじゃないですか」「そ」人のベッドで枕を抱えゴロゴロと転がるアイデアルにスイセンは深く嘆息する。仕事の疲労感が一気に押し寄せる。 「"鯛は華麗/カレイは泥"、"迎え酒で三日酔い"」スイセンはぼそりと呟いた。「なんて?」「別になにも」どうせ意味が伝わらぬ古典ハイクとコトワザだ。 相手の教養を試しイニシアチブをとる、キョート貴族のやり取りにありがちな手管。場末のオイラン相手に我ながら意地の悪い返しだとスイセンは省みた。 だがアイデアルの反応は予想外だった。「今のハイクとコトワザ……なんのつもりって聞いてンのよ」アイデアルはあからさまに不機嫌になり、枕を放り捨て 詰め寄った。「なにそれ。あンた自分にお似合いだって、進んでクソみたいなことに嵌まってるワケ?しかもアタシがそれと同じって」スイセンは目を丸くした。 「その顔。伝わらないと思った?やっぱオイランやマイコは全員バカだって思ってるでしょ。それともアタシだから?ナメやがって」先日もあったやりとりだ、 しかしアイデアルのアトモスフィアはまるで違う、本気で怒っている。「……今のは実際私がシツレイでした。ゴメンナサイ」アイデアルは冷たく鼻で笑う。 「あンたさ、場末でマイコやって何にもない安アパートでしみったれた暮らしして。はした金で臭くて汚いオッサンらにドゲザして惨めなヘンタイ・プレイ 何でもやって。自分からなにもかも放り捨てて汚れてやるって感じ?」スイセンは無言で左手を握り震わせた、その様をアイデアルは肯定と受け取った。 「ははは!つまりセプクごっこだ!傷ついてるカワイソウな自分に酔ってる甘ったれのお嬢様!」アイデアルは囃し立てたがその目は笑っていない。「…… あなたになにが分かるんですか」「知らない。あンたがしょうもないクソバカ女ってコト以外は」ナムサン!なんたる暴言!ブッダも目を背けるだろう。 スイセンの頭は急速に冷えていった。「……バカハドッチダ」「何だって?」「あなたこそ、安いツツモタセでようやく身を立ててるろくでなしのオイラン もどきじゃないですか。笑いながら私にどうこう言える上等な生き方じゃない」笑みが消えたアイデアルに、今度はスイセンが立ち上がって詰め寄った。 「本業?情報屋でしたっけ?裏稼業を生業にしてる割にはアティチュードの欠片も無いあなたの無防備な様を見れば大体想像はつきます。せいぜいちっぽけ なビズで下っ端のヤクザやアウトロー相手に二束三文か、逆に分不相応な欲をかいてウカツを晒す度にすごすご逃げ出しての繰り返しがいいところですよね」 冷たくまくし立てるスイセンの口は止まらなかった、スイセン自身にも止められなかった。「この前みたいにスリかツツモタセか身体を売ったお金が頼みの綱 でしょう?仮にもニンジャが、みっともない」図星か。アイデアルは唇を噛み震えている。胸がすく思いと同時に沸き立つ自己嫌悪を更にスイセンはぶつけた。 「さっきのハイクとコトワザ通り、私と同じですよ。お互いどうしようもないお似合いの生き様です」「アタシはあンたと違う!」アイデアルは激昂した。 「好きでこんな這いまわる人生送ってると思うか?アタシはいきなり全部奪われたの!失くしたの!こんな筈じゃなかった」目と鼻の先で怒声を浴びながら、 スイセンは微動だにせず、心底つまらないような冷めきった表情を崩さない。その態度はアイデアルを更に逆撫でした。 「股開いてるのだって、アブナイ橋渡って死にそうな思いするのだって全部抜け出すため!勝手に傷ついてる自分に酔って好き好んで掃き溜めに浸って腐ってる あンたなんかと一緒にするな!」スイセンは眉間に皺を寄せたのち、ひとしきり言い切って息を荒げるアイデアルの頭からつま先を流し見て失笑してみせた。 「立派な志です。それで必死にようやく築いたのが今のあなたですか、努力の成果ですね」アイデアルの顔から完全に表情が消える。スイセンは更に微笑んだ。 「これからもずっと、頑張ってください」沈黙が訪れ、アイデアルは俯いた。二人が微動だにせず佇み相対する部屋に激しい雨音だけが暫し響き渡る。 パァン!アイデアルはスイセンの頬を張った!赤く染まった頬を押さえながら、スイセンは冷めた表情を崩さぬ。アイデアルはその両肩を鷲掴みフートンに強引 に押し倒した。「……アタシはいくら泥にまみれて啜っても這い上がってやる。失くした物全部、それよりもっと幸せになってやる」ぞっとするほど冷たい囁き。 されるがまま無抵抗だったスイセンはそこで違和感に気付く。全身に酩酊のような倦怠感、身体の芯に熱。「こ、れは」呂律が回らない。鼻と鼻が突き合う 距離で、ガラス玉めいて見開くアイデアルの両目には妖しい輝き。ようやく危機感に身をよじらすスイセンにアイデアルは目を細めた。 「……あンたみたいに堕ちるために墜ちたがる、汚れるために汚れたがって酔ってる奴、どんなご身分よ。ムカつく」淡々とした冷たい囁きは次第に嘲笑と共に 再び熱を帯びていく、スイセンの背中は粟立ち、アイデアルは赤く長い舌を出した。「ムカつくから滅茶苦茶にしてやる」スイセンのブラウスが引き裂かれた。 「ゃ……め」スイセンは力の入らぬ身と呂律の回らぬ口で抵抗を試みるが無駄だった。既に完全なジツの術中だ。視界は靄がかったようにぼやけ、アイデアル の声はエコーがかって頭に反響する。じわじわと体の芯から広がる熱と疼き、心拍数と呼吸が高まり熱病者めいて思考が乱れる。 アイデアルは流れるようにスイセンの質素な白い下着を剝ぎ捨て、露わになったバストにまじまじと顔を寄せる。熱の籠る吐息の感触にスイセンは震えた。 「はは、ホントに平坦だ。小っちゃいの」アイデアルの両手はバストの表面にあえて触れるか触れないかの力加減で掌を滑らせ、焦らすように弄ぶ。 「この子どもみたいな胸でアカチャンごっことかもしたんだ?親子か孫ぐらい歳離れたオッサンがオムツ履いて"ママーッ"ってしゃぶりついて。気色悪」 嘲るアイデアルをスイセンは睨みつけようとした、だが表情にも力が入らない。「それともあンたが履いてる側だった?おしゃぶり上手そうだもんね」 アイデアルは十本の指先と指の腹で肋骨まわりから僅かな膨らみの周辺をなぞり、摩り、先端と周囲の輪郭には決して触れず吐息のみを当てる。延々と むずむずしたもどかしさだけが身体の芯に、下腹部に波紋めいて響く。悶えるスイセンの呼吸は乱れ、緩慢に身をよじらせる。 「……ぅ……あぁ……っ」スイセンのバスト、サクラ色の先端がひとりでに硬度を増して上向いていく様を見てアイデアルは冷たく笑う。「なに?先っぽ 弄ってほしいの?どうするかなァ」アイデアルはスイセンの先端に再び息を吹きかけ、震える反応を暫し観察して目を細めると一気に噛り付いた! 「ンアァーーッ!?」突然与えられた痛みと快感にスイセンは叫びのけ反った!もちろん甘噛みだ。だがジツの酩酊のなか何倍にも増幅された感覚は、電流 めいて脳裏から下腹部までを一気に駆け抜け、スイセンはまずここで達した。「もう?弱すぎでしょ」アイデアルは呆れてみせながら再び先端を咥える。 唇と前歯で強弱をつけて挟みながら、舌で舐り、吸う。もう片方の先端は掌で包みながら、休みなく輪郭と先端の下側を指で挟み転がし、弾く。「ぁっ……! んン……っ!」アイデアルの唇はバストの先端のみに留まらず各所から首筋に噛みつき吸い付き、白い肌にうっすらと歯型とシミめいた赤い痕を残していく。 その度にスイセンは悶え呻いては小さく達し続け、潤んだ瞳の端からは涙が伝う。アイデアルはもはや全身でスイセンに密着し絡み付きながら耳たぶを咥え、 手はゆっくりと下に延びていく。擦るように下腹部を撫で、臍下4インチほどの位置を小刻みに揺らし、トントンと指で叩き刺激し続ける。 やがてそれは掌全体で押し付けるように、段階を与えて絶え間なく。「フゥーッ……フゥーッ……」バストよりも更に深く近く響く、もどかしい快感の熱に 朦朧とするスイセンの呼吸もまた深く熱く。足を擦らせるとぐじゅ、と湿った下着が音を立てたように感じた。 それが聞こえたかのようにアイデアルは笑みを浮かべると、その上からスイセンの裂け目に深く指を突き立てた!「ンァーーーッ!?」再び仰け反り叫んだ スイセンは大きく達した。小刻みに痙攣するスイセンを絡んで離さず、布の上から指は擦り、押し込み、押し広げ、捏ね回す。「あっ……ぁッ!ンアーッ!」 暫く弄び手を離すと、アイデアルはスイセンの目の前で指を広げ見せつけた。蛍光灯の光がテラテラと反射する濡れた掌、指の間で粘液が糸を引いている。 「どう?こんなになってる。このジツ、ニンジャ相手じゃよほど油断してなきゃ効かないんだけどね。相当アタシのことナメてた証拠、ホントムカつくわあンた」 耳元で囁いたのち、アイデアルは身を離しスイセンの下半身に移動する。そして濡れテヌギーめいて重く液体の染み込んだ下着を引き剥がす、糸を引きながら スイセンの秘所が露にされた。たっぷりと墨を吸ったショドー筆めいた濡れた黒い毛「うわレビュー通りだ。ふっさふさ。これも客の趣味?キョートの風習?」 「……っ!」アイデアルは面白がりながら濡れた毛を摘まみ捻じり、引っ張り弄ぶ。既に上気するスイセンの顔は更に赤く染まった。アイデアルは力の入らぬ スイセンの両脚を大きく広げ、顔をうずめた。熱い吐息がかかるとスイセンのそこはひとりでに震え蠢く、羞恥心そして否定したい期待感に動悸が早まった。 そして唇がいよいよ触れようとした瞬間、アイデアルは身を引いた。「……やっぱヤダなあ。あンたアタシと違ってシャワーも浴びてないし。そもそも今日 何人がココ舐め回して突っ込んだのって。間接キス?最悪」アイデアルはげんなりとした顔で長い舌をレロレロと見せつけながら言った。 「……!」その言葉にスイセンの羞恥心は頂点に高まった。当然客を取る度に身体を清め、入念に中まで洗浄している。退勤前も必ずだ、汚物めいて扱われる 謂れは無い。だが最もスイセンを辱めたのはそこではない。快楽の中枢を唇で、舌で舐られることを想像し、己の内に高まっていた期待感と落胆の自覚だ。 赤面するスイセンの顔は屈辱と自己嫌悪に瞳を潤ませ、ブルブルと震えた。「泣きながらそんなプルプルしても嫌だよ。綺麗好きだもんアタシ、そんなに 口でしてほしかったんだ?ヘンタイじゃん」アイデアルはスイセンの様を見つめて笑みを深める。そしてその目と鼻の先に顔を寄せ、両頬に手を添えた。 「……でもさ。あンたが言うにはアタシって志の立派な頑張り屋さんだからね。頼まれたら頑張っちゃうかも」アイデアルはスイセンの瞳を覗き込みながら 思わせぶりに囁く。「どうしても続きしてほしかったらさ言ってみなよ。"どうかオネガイシマス"って。嫌ならこれで終わり、帰るよアタシ」 「ぇ……?」快楽の酩酊と熱に浮かされながらスイセンは戸惑った。アイデアルに対してではない、己自身に対してだ。スイセンの理性は解放を望んでいる、 当然だ。だが……「ぁ……」スイセンの口は既に動き始めている。頼めば続きをしてもらえる、卑しい期待と欲望が既に勝っている。(何を考えてるの私) 既に何度か達し、火が付き昂り燻ぶる身体は中途半端な生殺しなど耐えられない。このまま滅茶苦茶にされたいと望んでいる。恥と尊厳、理性の防波堤は 既に決壊寸前。「どうなの?早く」アイデアルは促した。「さっさとしろ」最後通牒めいて突き放す冷たい声。鞭めいて打たれたスイセンは震え、屈した。 「ど……か」「なんて?」言葉を発しようとすると共に薄皮を剥かれていくような感覚。「……が……す」「ハッキリ言え」剥き出しになった部分にぞわりと 震えが走った。「……おぇ……がぃ……し……ぁす」呂律の回らぬ口からようやく絞り出した赤子めいた喃語でスイセンは嘆願した。 アイデアルは心底面白おかしく笑った。「アハハハ!必死になっちゃって。そんなにアタシに舐めさせたかった?ヘンタイ」そしてスイセンから身を離した。 「ぅ……うぅ……っ」からかわれただけだったのか、スイセンは羞恥と惨めさに目を瞑り泣きじゃくった。そうする間も下腹部は卑しい熱と疼きを増していく。 (死にたい)「あーあ泣いちゃって。ホントにおっきいアカチャンみたい」アイデアルの呆れた嘲笑が耳に反響する。その時である。「ンンーーッ!?」顔の 上に重さと息苦しさ。跨ったアイデアルの尻がスイセンの口を塞いでいる。「凄い雨で聞こえないかもだけどデカい声上げちゃ近所迷惑だし、静かにしよっか」 かろうじて鼻で呼吸は可能だ。籠る熱気と湿度、そしてアイデアルの匂い。甘く艶めかしい芳香に混じる、スイセンもよく知る粘膜から染み出す生々しい猥褻な 匂い。鼻腔から脳裏に届いたそれは、スイセンの体温と脈拍を更に昂らせた。(あっ!)スイセンは腰を跳ね上げた。アイデアルの唇がスイセン自身に触れた。 アイデアルの両腕はスイセンの両の太腿を抱え、深く顔をうずめている。表皮と粘膜そして体毛に鼻息が触れる度に熱さが、吸われるたびに冷たさが交互に。 周辺の柔らかな皮膚を唇が啄み、長い舌が濡れそぼった裂け目を舐り往復し、反応を確かめる。「んっ……んぅ!」 スイセンがひときわ身をよじらせ声を上げた個所を一定間隔で焦らし刺激し続ける、ビクビクと震える全身は体重をかけられ、太腿は両腕でがっしりとホールド されている。やがて「んンッ!」スイセンはまた達した。内側からまたじわりと滴る感覚。「何度目よあンた。これからだよ本番」アイデアルはクスクスと笑う。 「このままジツで染まったニューロンからアソコもお尻の穴まで、ぜーんぶバカになってドロドロの垂れ流しになるの。あンたはその方がいいんだよね、そのまま 埋もれちゃいなよ」アイデアルはスイセンの裂け目を両指で大きく押し広げた。広げられ外気に晒された濡れ滴るサクラ色の粘膜はヒクヒクと震えた。 アイデアルは大きく口を開け、そこに食い付いた!「ンンーーーーッ!」入口に吸い付いてとめどなく滴る体液を音を立て吸われ、周辺のヒダを表裏隅々まで 舐られる。ザラザラした表面とぬめる裏側の長い舌が別の生き物めいてのたうち中に潜り込み、スイセンのそこを蹂躙する。 「んンッ……!んンーーッ!」アイデアルは一カ所に留まらず隅から隅まで、入口とその上の小さな出口まで舐り尽くし、更に上の突起を唇で咥え、前歯で刺激 した。「ンンーーーッ!?」突起に被る薄皮をくにゅくにゅと甘噛みされ、剥かれた最も敏感な個所を吸われる。その間に指がスイセンの内にぬるりと滑り込む。 店に訪れる客相手には決してあり得ない快感にスイセンはガクガクと震える。通常であれば独りよがりの異物感と苦痛しか感じない、一方的な嗜虐観と自己満足を 満たすだけの行為。だが今スイセンの内側は熱と快感と渇望に悶え狂い、ぬめり弛緩しきったそこはアイデアルの指をむしろ迎え入れるように呑み込んだ。 一本、二本、三本。奥側をグリグリと突き、押し広げるように刺激ながら本数は増え掻き回していく。「ーーッ!-------ッ!!」スイセンはもはや声に ならぬ悲鳴を上げて泣き叫ぶ。ニューロン全てを白く塗り潰すような快感と歓喜に震える。二人の荒い息遣いと粘着質な水音が激しい雨音の中延々と響いた。 ◆◆◆ 「……ぷはっ」どれだけ時間が過ぎただろう。アイデアルはスイセンから口を離した。その上気した顔は口周りに留まらず鼻先まで熱い粘液に塗れている。 「フゥーッ……」アイデアルは荒い息を整えながら唇を舐め、舌に張り付いた黒く柔らかな毛を摘まみとった。そしてスイセンの顔の上から降りる。 「……っ……っ……!」スイセンはもはや酩酊者めいて赤い顔で白目を剥きかけ涙と涎、鼻水を垂れ流しに痙攣めいて震えていた。「……酷っどい顔。 鏡で見せたげよっか?そしたらほんとにセプクしちゃうかな」アイデアルは汗で張り付いた髪をかきあげながら。スイセンの頭に寄り膝枕した。 アイデアルはスイセンの同じく汗で額に張り付いた艶やかな黒い髪を優しく撫でた。次第にスイセンの瞳は焦点を取り戻し、とめどなく涙を流す潤んだ瞳で アイデアルを見上げた。「ご褒美あげる」アイデアルは甘く囁き、上着をたくし上げ自身のバストを露わにした。そのサイズは標準的である。 スイセンのそれよりもぷっくりと肉厚に、大きく膨らみ主張するバストの輪郭と先端。「はいドーゾ、アカチャンだもんね。いっぱい泣いた後はミルク欲しい よね?出ないけど」「……ぁ」荒く呼吸するスイセンの視線は朦朧としながらそこに釘付けとなった。アイデアルはスイセンの頭を抱えそこに深く寄せる。 「要らないの?好きにして良いんだよ」もはやスイセンの白く染まったニューロンには恥も尊厳も一切残っていなかった。全てを剥ぎ取られた実際無垢な赤子 めいた欲求。激しい雨の音も遠く、スイセンの世界にはアイデアルの囁きだけが甘美に響く。そして目の前に迫ったアイデアルのバストに迷いなく吸い付いた。 「ン……」「……噓でしょコイツ、ホントに吸ってる!アハハハハハ!アカチャン!」「ン……うぅ……」スイセンは泣き震えながらアイデアルの先端を啄み、 舐り、音を立てて吸う。「上手上手、エラいねー。こっちもよしよししてあげる」アイデアルはスイセンの下腹部から茂りを撫で回した。 「……アッ……アッ」何度も、何度も達した熱の余韻ををじわじわとなぞるように、アイデアルの掌はそして指は粘膜の入口の上、小さい出口へ。そこに指を 押し当て弄った。「アッ……アァッ!」キュウキュウと収縮する感覚。「もしかしてトイレいきたい?ダメだよアカチャンなんだから」 アイデアルはスイセンの耳元に口を寄せ囁いた。「このまま漏らしちゃえ」「あっ」スイセンは再び達し、アイデアルのバストに深く顔をうずめ失禁した。 アイデアルが指を当てる個所から熱い液体が音を立てて溢れだし、フートンに染み広がっていく。スイセンはすすり泣き震えた。 無言でその様を見下ろしながらアイデアルはスイセンの頭をより深く寄せ、優しく髪を撫でる。「……わかる?これがあンただよ。冷めた斜に構えてつもりで 何抜かしたところで、情っさけない甘ったれのお子様、アカチャン」その声は子守歌めいてどこまでも静かにスイセンの耳に響き、瞼が急速に重くなっていく。 「あンたと仲良くなりたかったよ、でももう終わり。お望み通りサヨナラ」アイデアルはスイセンの額に口付けた。「オヤスミ」スイセンの意識は深い闇に 墜ちていった。 ◆◆◆ ……スイセンは目を開けた、午前10時。タタミの上でタオルケットを掛けられ寝ていた、夢さえ見ない深い眠りだった。未だ足腰にうまく力の入らぬ体を起こす、 アイデアルは既に居なかった。玄関横のハンガーにつり下がっていた上着は無い。ベッドの上、フートンに触ると体液と尿が重く染み込んだ不快な感触 カーテンを開けると幸いにも外は昨夜の大雨から一転滅多にない晴天だった、すぐに干してクリーニングに出そう。脱力した全身はまだふわふわとした浮遊感を 纏い、思考はまだ霞みがかっている。いや、むしろクリアと言っても良かった。随分と久しぶりの感覚だ。 穏やかな日の差し込むテーブルの上には畳まれた部屋着、その上にはメモが乗っていた。スイセンは手に取った。「夏の夢(I dreamed a dream in gone summer.)/ 去りて木枯らす秋(But that was gone when autumn came. And there are storms we cannot weather.)/この地(So different from this hell I'm living.)」 そして「フェレットは一方通行」とそこには書き残されていた。不条理に見舞われオイランに凋落した乙女が、輝く在りし日の理想と現実の落差に嘆き詠んだと される古典ハイク、そして二度と逢わぬ断絶を意味するコトワザだった。 スイセンは暫しその流麗な筆致を見つめ、やがて呟いた「……綺麗な字」 【NINJASLAYER】