10年前 強く想った人が自分が悪であるため不幸になる。エイリア学園として悪となりお父様のために戦い抜く代償がこれだった。実際にお父様、吉良星二郎は逮捕された。元々本拠地の崩落で死ぬつもりだったらしいがやったことは少年兵を利用し日本を混乱に陥れ世界をも混乱に陥れようとした。死刑もやむなし、ニュースでも吉良財閥のスキャンダルが取り立たされおりやはり極刑もやむなしという雰囲気だった。それにこの計画は私が魔法少女になる前から進められていたことだ。とはいえ 「私が、私が余計なことをしなければもしかしたら死刑にならないのかもしれへんな…それに、瞳子さんや他のお日さま園の子たちを不幸にするわけにはあかん」 不幸中の幸いにして魔法少女というものは高い身体能力でその気になれば1人でも生きている可能性が高い。別れの手紙も残さない。私は、第二の実家を去った。 現在 リヴィア・メディロスという名前の褐色肌の人物、何処かで聞いたことがあると思ったがやはり心当たりがあった。私の叔母である瞳子さんが運営しているお日さま園にいた子供の1人であり10年前に祖父が起こした事件を境目に失踪した子だった。原因はわからないが魔法少女になってからは1人生きていこうと志したのだろう。10年間魔法少女として生き続けているのは奇跡と言えた。もっともよく似た別人というのも願いで可能であるため本人ではない可能性があるが魔法少女の願いというものはなんでもアリであるためこれを言い出すとキリがない。百聞は一見にしかずということで彼女が拠点にしている中央区のケアトレーラーへと古町と三穂野と共に向かっていた。それに、純粋に調整の頃合いでもあった。 「10年前に失踪したはずの子が魔法少女として現役…ですか」 「いささか信じられない話ではあるけど七海さんや梓さんという前例がいる以上有り得なくはないわね、吉良はこのことについてどう思うの」 「結局のところ確かめてみるしか確証は得られないですね。私も人伝いに特徴を聞いているだけなのでなんとも言えませんがそうは言っても名前が完全に一致することなんて滅多にないですしその上外見も一致してますしほぼほぼ同一人物だと思っています」 「まあ、ここまで推測した以上は実際に目の当たりにして真偽を確かめるしかないわね」 「いらっしゃいいらっしゃい、よー来てくれはったな。でもあんさん神浜の人やろ、みたまの調整屋を利用すればええやないの?」 「たしかに工匠学舎には通ってはいますけど私たちは隣町に住んでるんです」 「あーなるほどなー、神浜出身やないからできるだけキモチ石争奪戦に対して無関係を貫きたいっちゅうところかな」 「はい、そんなところです」 実際、古町の言っていることは本当だし巻き込まれたくないのは事実だった。 「んじゃヨヅルと月出里を呼んで早速始めるわ」 「あの、私はリヴィアさんに調整してもらっていいですか」 「なんでや」 「調整の期間が空いてしまって、一番腕があるであろうリヴィアさんにお願いしたいんです」 「なるほどなあ、じゃああんたの調整は私がやったるわ」 過去が、姿を現してきていた。 「リヴィアさん、調整をしたので私の吉良という名前の意味、わかりましたよね。どうして失踪したんですか?」 吉良という苗字はそこまで珍しいわけでもない。ないがまさかあの吉良の身内だったとは、しかしあんな善良な人たちと関わるわけには行かないのだ。 「それはもう終わったこと、あんたが口を塞いでくれればそれでみんな元の日常を送れるんや」 「叔母さん、悲しんでしましたよ」 恐らくは瞳子さんのことだろう。あの人にもよくお世話になった。 「そりゃあ悲しむくらいはするやろうなあ」 「生存を伝えるだけでもダメですか?」 「それやったら会いに来るやろ、はぁ…今から私の固有魔法を話したる」 彼女も一介の魔法少女である。私の性質を知れば諦めるしかなくなるであろう。そういう意味では説得しやすい相手だった。 「固有魔法…ですか?」 「悪として願った私は悪にならなければならない。悪とは周りを不幸にするもの、利益なく誰かのために想ったことや為したことはその対象が不幸に不幸になる、そういう固有魔法や、それに…これも使っとるしな」 そうして出したのは少なくとも私は10年間お世話になっている、あの騒動の引き金となった石だった。 「これは…」 「エイリア石、宇宙からの飛来物、変なことには使ってないで、魔女退治や交渉の時で自分の気を強うしたい時に使っとる」 「そう言うわけでこれも持っとるし会いにくいんや、まあそもそもエイリア石なら魔法少女全員が持ってるんやけど」 「えっ」 「ソウルジェムの材料の一部や、魔法少女が強くなったり感情に依存したり固有魔法に縛られたりするのは身体能力を強化し、精神に異常をきたすこの石の影響かもしれへんな」 「…とにかく今日のところはこれで帰ります」 「察しが良くて助かるわ」 そうして"吉良"は去っていった。また来ると言っていたからにはおそらく来るのだろう。どうやら過去の清算を多少なりともしなければならない時が来たようだ。 「それで、どうだった吉良?」 「固有魔法が誰かのために想ったことや為したことはその対象が不幸になる。だからこそ現状を貫きたい。と言った感じでした」 「難しい話ですね。固有魔法は時に足枷となることを聞いたことがありますけどここまで酷いものがあるなんて」 「難しいのはそれだけじゃない。その叔母さんたちにリヴィアさんの現況を伝えることになるのなら魔法少女のことも伝えなきゃいけないし」 吉良の言う通り、そこが一番の問題だった。関わらなければいい。それは私だけなら簡単だ。しかしそれを他の人に説得するともなれば話は別だ。 「みたまさんに相談してみますか?リヴィアさんの弟子なわけですし」 「今のところはそれが一番良さそうですね、あと10年前の事件のきっかけとなったエイリア石なのですがソウルジェムの材料の一つでした」 「ソウルジェムを扱う調整屋が言う以上おそらくは本当のことか。吉良にこの件を相談した時に10年前の事件のあらましを調べてすごい石だとは思ったけどまさか魔法少女と繋がってくるなんて…いや宇宙からの飛来物だから当然と言えば当然、でも10年前の事件で全てなくなったのでは?」 「あの調整屋が持ち出していたようです、エイリア学園のチームの1人だという話だったので、それで魔女退治や交渉で強気に出る時なんかに使ってるようです」 「たしかに、魔法少女にとっては喉から手が出るほどほしいものではあるわね。いや、魔法少女に限らず身体能力が向上するのなら誰もが欲しいアイテムか」 「そのエイリア石のことは今は置いといてこれからミレナ座に行くんですよね」 その通りだ。エイリア石の話も魔法少女にとっては重要だが今はリヴィア・メディロスのことだ。 「そうですね、みたまさんにリヴィアさんのことを聞いてから対策を立ててという感じですね」 「エイリア石のことは里見灯花に投げればいい成果が得られそうね。そっちの分野はあの人の方が詳しいだろうから。まあ何にしてもこの一件が終わってからね」 こうして私たちは八雲みたまの調整屋に向かったが良い情報は得られなかった。 「なんとなく過去を話すような人じゃないとは思ってましたけど…」 「こればっかりは仕方ないよ吉良」 「でも実際どん詰まりですよね、やっぱり親戚さんに話してみますか?」 「…うちの親戚は財閥の長、もしかしたら魔法少女のことも知っているかもしれませんね」 数日後 「リヴィアが見つかったというのは本当なのね!?」 「はい、瞳子叔母さん」 「リヴィア…たしか晴矢と同じチームだったかな」 目の前に立っているのは吉良ヒロトと吉良瞳子、吉良財閥の長とお日さま園の経営者だ。忙しいであろう2人がこうして駆けつけてくるということはリヴィアさんはよほど2人から大切に思われているらしい。だからこそ、この後カミングアウトする真実が2人を傷つけることは想像に難くなかった。 「お2人とも、魔法少女というものをご存知でしょうか」 「そういうこと…か、瞳子姉さんごめん、ここからは2人で話したい」 ヒロトさんの意思を汲んで瞳子叔母さんがその場からいなくなる。 「知っているんですね」 「ハイソルジャー計画、その資料を見たときのことだった。参考にされていたのが魔法少女、最初は目を疑ったが独自で調査を進めていくうちに魔法少女が存在するという事実はより強固なものとなっていった。てまりちゃんも、なんだな?」 無言で頷く。 「で、なぜリヴィアは俺たちと会いたくないんだ?」 「エイリア石、その残りを持っています」 「それは本当か!?」 「悪用はしていません。魔女退治で主に使用しているらしいです」 「ああ、たしか魔女を退治するのが使命、だっけかな。たしかにそういう点で見ればあの石は必要不可欠か…」 「ご理解いただき何よりです。もう一つの理由を話しますね。魔法少女には固有魔法というものがありまして、それが想った者を不幸にする。リヴィアさんの場合はそういう固有魔法なんです」 「そうか…それでもなんとかして今の様子は見たいけど…」 「固有魔法、出方によってはヒロトさんが」 「大丈夫、バレないようにストーキングすることは結構慣れてるんだ」 「え」 ストーカーを慣れているとはとんでもないカミングアウトである。 「とにかく神浜市だな、後日様子を見に行く。最後に一つ、リヴィアに伝えて欲しいことがある」 「なんでしょうか」 「自分が笑顔になるように生きてほしい。元気でいてくれればそれでいい、と。きっと瞳子姉さんもそう想っている」 「わかりました、伝えます」 同日、ケアトレーラー 「で、なんの用や?」 「ヒロトさんから伝言を頼まれたので」 「事情、どこまで話したんや?」 「全部です、ハイソルジャー計画のモデルケースとして魔法少女がいたそうで…」 「なるほどなあ、そら知っとるわ。資料が残っとったら見ないはずないからなあ。んで伝言は」 「"自分が笑顔になるように生きてほしい。元気でいてくれればそれでいい"と言っていました」 「そうかい」 そういうリヴィアさんには満面の笑みが浮かんでいた。 「どうしてやろうな、さっきまでそういう気分でもなかったんやけど」 先ほどまでの態度からすると不気味なほどの笑顔である。 「あ!あー…」 「なんやそのいかにも心当たりあるって感じのリアクションは」 「私の固有魔法、私の紡ぐ言葉が、誰かの心に届いてほしい。ランダムに、時に強固に発動してしまうものなんです」 「あんたの固有魔法もなかなか難儀やなあ。ま、いい気分にはなれたで」 「はい、それでは」 数日後 サッカーのルールをスマホで見ていた。魔法少女がプレイするサッカー、独自のルールも考えなければならない。○○をやっていれば負けることはないという事態が容易に想像できるからだ。例えばアリナ・グレイなんかは結界をずっと出していれば負けようがないし栗栖アレクサンドラなんかも固有魔法をずっとやっていれば負けようがない。市民会館での戦いで猛威を振るった三輪みつねの改竄も厄介だ。 「ふむんむ!ふむむんむふむむふむむむ!」 「すいません、お耳に入れておきたいことがあります」 うちで働いている2人、篠目ヨヅルと佐和月出里が駆け寄ってくる。 「なんや」 「ケアトレーラーの近くに不審者がいたので追っ払っておきました」 「不審者、どういう背格好だったん?」 「1人はオレンジのジャンパーに赤髪で眼鏡をかけていてもう1人も眼鏡をかけた黒髪長髪の女性でした」 「あー…心配することはあらへん。そいつは旧い知り合いや」 「旧い知り合い、ですか?」 「私が魔法少女として古巣を飛び出す前のな。おおかた安否確認でもしに来たんやろ」 「それは申し訳ないことをしてしまいました」 「かまへんかまへん、私の固有魔法的にその対応は100点や」 「それはよかったです」 「でもまあ、安否確認くらいはされにいこか。今更引き下がる2人じゃないってことは知っとるしな」 「ふむ!」 「どうしたんや?」 「今まで一番いい笑顔だと」 どうやら自然に溢れていたらしい。 「吉良てまり、あの子の固有魔法にやられてな、デバフってわけじゃないから安心せえや」 そうしてケアトレーラーの扉を開けて散歩する。 「ええ気分やな、まあなんだかんだ10年間のつっかかりが解消されたんやから当然か」 空も同じ様に晴れていた。