……「イヤーッ!」「ンアーッ!」鳩尾に衝撃。痛みと苦悶にスイセンの意識は現実に引き戻された、腹を踏み躙る丸太のような足。「起きたかよお嬢様」 下劣ニンジャはスイセンの顔を覗き込み下卑た笑みを浮かべた。 「うぅ……」スイセンは全身の痛みに呻いた。もはや足腰は立たず、砕けた左肩から先には感覚が無い。動くのは右腕だけ、そして唯一無傷の顔面。「よっと」 「ンアーッ!」ペニシリウムはスイセンの平坦な胸の上にどすんと腰を下ろし顔を覗き込んだ。その重量にスイセンは苦しみ悶えた。 下劣ニンジャは覗き込むようにスイセンに息のかかる距離に顔を寄せた。「デカイ口叩いてまるで手応えがねぇ。ザイバツってのはお上品なひょろっちい サンシタの集まりって訳か」「貴様ァッ!」スイセンは瞬時に怒りを燃やし自由な右手でペニシリウムの顔面にフックを繰り出す! 「ふん」ペニシリウムはそれを難なく手首を掴んで止め、ギリギリと締め上げた。「ンアーッ!」スイセンの拳は崩れ開いていきブルブルと震える。下劣 ニンジャはそのシラウオめいた美しい指をまじまじと見た。 「綺麗なお手てしてるじゃねぇか」ペニシリウムの声は突然冷たくなった。その一声にスイセンは全身を粟立たせ、瞳には恐怖がよぎった。「お?ちょいと 反応が違うな?この手が大事ってワケか」ペニシリウムはニヤニヤと笑いスイセンの掌に頬ずりすると、指にしゃぶりついた。 「嫌ッ!」スイセンは華奢な悲鳴を上げ、必至でもがくがマンリキめいた力で押さえられた手首はびくともせぬ。5本の指を生温かくぬめる舌と粘膜が弄ぶ 感触にスイセンは怖気立った。ペニシリウムはおもむろにスイセンの指から口を離すと掴んだ右手をダン!と床に激しく叩きつけた! 「イヤーッ!」「ンアーッ!」衝撃に開いた掌。いつの間にかペニシリウムのもう片方の手にはスイセンの取り落とした小刀。「おめぇのカタナだ。返すぜ」 見せつけるようにスイセンの眼前でちらつかせたそれをおもむろに振り上げる。スイセンは何をされるか察した「やめ」「イヤーッ!」 「ンアァーーーーーッ!!」室内に響き渡るスイセンの絶叫!下劣ニンジャの繰り出したカタナはスイセンの右掌を貫き床に深々と縫い付けた!なんたる 非道!「アァーッ!?アァーーーッ!」スイセンは身をよじらせ泣き叫ぶ。 (筆が握れなくなる!)頭の中に響いた叫びに、スイセン自身が驚き困惑した。ニンジャのイサオシ、武家の誇りであるカタナを握る手ではなく。ショドー の筆を握る手。痛みと絶望の中、ヨロイを引き剥がされた自我の叫んだ本心。 ◇◇◇ 血液に留まらず、チドク・ジツを発動したスイセンの全身の体液は猛毒と化している。だがペニシリウムは全く意に介さず秘裂をこじ開け口を付けた。 「嫌ァっ!」スイセンの悲鳴にペニシリウムは目を細め、スイセンに聞かせるようわざとらしく鼻を鳴らして匂いを検め、唾液混じりの音を立て粘膜を貪る。 「ーーッ!ーーーッ!」スイセンは歯を食いしばり憤怒と恥辱を、下劣ニンジャを悦ばせるだけの叫びを必死に堪える。唇の端からは血が漏れ始める。 その顔を尻目に更に笑いを深めながら、ペニシリウムはスイセンの下半身を起こし、両脚を抱え大きく開く。さながらパワーボムからのフォールめいた姿勢で 電灯の明かりで照らすように晒されたサクラ色の肉が、二枚貝めいて奥まで押し広げられ検められる。覗き込んだ下劣ニンジャは笑い出した。 「……ぶはははははは!オボコかよお前!そりゃあそうか!お貴族のヨメ入り前のお嬢様が中古品じゃセプクもんだからなあ!キョートじゃ号外にも出ち まうか?」ぶるぶると震える結んだ口の横から息を漏らして、涙目で気丈に睨み返すスイセンを無視し、下劣ニンジャは再び下品に音を立て啜り付く。 やがて雑にスイセンを解放したペニシリウムは仁王立ちすると、下卑た笑みを浮かべおもむろにスイセンの顔にむけ唾を吐きかけた。「ペッ!」「うっ」 スイセンは顔を背けようとしたが、目元に命中し声を漏らした。己の体液交じりの下劣ニンジャの唾液が涙めいて頬を垂れていった。 「不味ィ、舌がビリビリしやがる。最悪だぜ、澄ました顔とお上品なキモノの下で股座は性病持ちのオイラン並ってか?よく表出歩けたもんだなオイ」 「っ……!」ペニシリウムの嘲りにスイセンの顔は羞恥と屈辱に瞬時に耳まで赤く染まる。 「ま、そいつもファックしてバラしてやったがな!俺は平等なんだ。おめぇもちゃんと使ってやるから気ぃ落とすな」「下衆がっ……!」赤く腫らした目に 涙を滲ませペニシリウムを睨みつけるスイセン、だがそれは下劣ニンジャの更なる劣情を滾らせるのみであった。 「そいじゃそろそろ俺も良くさせて貰うぜ」ペニシリウムは仁王立ちするとカチャカチャとベルトを外しズボンを投げ捨て、下半身を露にした。「ひ……」 それを目の当たりにしたスイセンの眼は点になり、赤面を越え青褪めた。腹に張り付く角度でそそり立つ肉の塊。直径10インチはあるか。 (なに……あれ)スイセンの性知識はせいぜいスクールの授業程度しかない。これまで人生においてそうした情報は遠ざけ、考える事も避けていた。実際 実物を目にしたのは幼い頃、4歳か5歳頃の弟のそれぐらいだ。むしろ目の前のそれは肘の腕を想起させた。。 「今からこいつでお前の中を滅茶苦茶に抉りまわすんだ。いいだろぉ?普通の女じゃすぐに色々切れたりなんだりぶっ壊れちまっていけねえ。持つ者の 悩みってやつだ」肉塊をヤリめいてしごきながら、ペニシリウムはスイセンの上半身に跨ると先端をその唇に押し付けた! ◇◇◇ 「ウッ!」「アァーーーッ!?」スイセンは泣き叫んだ。下腹部の内側。身体の中に吐き出される熱い感触に。全身が粟立つ凄まじい嫌悪と絶望、 それは長く続いた。「フゥーッ……出したぜ」ペニシリウムは血に塗れた己をずるりとスイセンから引き抜く、白く糸が引いた。「……ァ」 痙攣めいて軽く震えたのち、スイセンの両脚はだらりと弛緩し崩れた。やがて水音を音を立てて黄色い液体が溢れ床に広がる。スイセンは失禁した。 「……ぶはははははは!ヒヒヒヒヒヒ!コイツ漏らしやがった!汚え!」「……っ……っ……!」スイセンは固く目と口を閉じながらすすり泣く。 「分かったかガキ?誇りだのイサオシだの抜かして、テメェのごときカラテのねぇサンシタなんぞ非ニンジャの屑と同じ食いモン、ただの穴だ。いや? よっぽど情けねぇよなァ。しかも毒まみれの汚ったねぇ穴ときた!」ペニシリウムは手を叩きゲラゲラと笑い囃した。 「……!……!……」閉じた目の端からぼろぼろと涙を流すスイセンに、再び深く覆い被さったペニシリウムはその左耳と穴を舌で舐りまわす。スイセンの 腹には再び固く膨張しつつある肉塊が熱く脈打ち押し付けられる。 「てめぇの腐れ毒穴に幾らぶち込み抉ろうが俺は何ともねェ。口もケツの穴も全部ぶっ壊れるまで使い潰してやる。いい拾いもんだぜ、ジツ様様ってわけよ」 ジツ。と聞いたスイセンの瞼はピクリと開き、赤く泣き腫らした目が動いた。 頭によぎったのはギルドのアプレンティスへの教練。ジツの座学、ドク・ジツ。その耐性の一覧。ドクに長けた憑依ソウル由来による体質変化。コドク・ ニンジャクランのメソッドに基づく後天的鍛錬。内臓サイバネ・バイオサイバネ。そして稀有な一例。 女として受けた身を裂く屈辱も絶望も、マインドセットめいてほんの一時頭から遮断し、ザイバツ・シャドーギルドのニンジャ・スイセンの意識は腕に。 肩から先の感覚のない左腕、使えぬ。ズキズキと痛むカタナで縫い留められた右手。 右手を注視しながら、スイセンはマインドセットを突き崩すほどの胸の内をのたうち回り泣き叫ぶ絶叫に震えた。心拍数が聞こえるほどに急激に上がり、 呼吸が荒れる。ニンジャアドレナリンの分泌で鈍化した時間。実際には僅か数秒の、数分間に及ぶ逡巡。そしてスイセンは目を見開き叫んだ。 「……イヤーーーーッ!!」「ア?」スイセンは渾身の力で腕を引き、大量の血と共に右手は人差し指と中指の間で無惨に引き裂けた。 「イヤーッ!」「オゴーッ!?」スイセンの裂けた右手は無防備に空いたペニシリウムの口中に突っ込まれた!達した虚脱感のまま完全に警戒を怠ったウカツ! 同時にスイセンの口からは聞き取れぬ早口で謎めいたチャントが漏れる。「リンピオトーシカイジンリッツァイ……ゼン!」 スイセンは裂けた右手の指先に意識を集中し再びマインドブースト・ジツを発動!ゼロ距離でペニシリウムのニューロンにジツを流し込む!「ゴボーーー!?」 その瞬間、ペニシリウムの頭部はみるみる変色し目・耳・鼻からどす黒い血を噴出した! ペニシリウムには毒は効かぬはず!これはいかなることか!?「イイィヤァーーーーッ!!」スイセンは血の涙を流しながら、限界までマインドブースト ・ジツの出力と内なるドクを練り上げる!裂けた掌から溢れる血はもはや赤黒を通り越し、墨汁めいた黒!濛々と煙を立たせペニシリウムの口中に噴出! 「アババババババババーーーーッ!!!?」ニューロンをミキサーめいて掻き回されながら、もはや全身をチアノーゼめいて変色し血管を浮かび上がらせた ペニシリウムは七孔噴血し痙攣!「サヨナラ!」腫瘍めいて肥大化した頭部が爆ぜ、毒の血と脳漿をぶちまけながらペニシリウムは爆発四散した。 静寂が訪れた。スイセンは大量の返り血とあらゆる体液にまみれ、震える右手を掲げたまま呆然と停止していた。墨汁めいた黒い血をとめどなく流す。 掌の中央から人差し指と中指の間にかけ大きく裂けた右手。 ……ブレッシング・ジツ。使用者の肉体を外部の毒から守り、既に受けた毒の進行停止・解毒も可能とする。極めて稀有なハクメイ・ニンジャクランの秘伝 のジツである。このジツがある限り、生体毒・ウィルス・疫病の類は使用者には通用しない。 本来であれば使用者の周辺一帯を浄化するジツであるが、ペニシリウムのソウルに備わった物は彼自身の身体にのみ作用するに留まっていた。もし本来の 強度のジツであればスイセンは己の体内のドクが消えたことを訝しみ、このジツに気付けただろう。 だがそれがどうしたのか。どちらにせよ自分はあの醜悪極まるニンジャにカラテを以て完膚なきまで敗れたのだ。ニンジャとしての存在を、ギルドの誇りを、 武家のイサオシの全てを貶めながら。女として全てを汚され、そしてこの手を、ショドーを手放してまで繋いで残ったのはブザマな汚らわしい肉。 ◇◇◇ 随分と時間が掛かった。アンバサダーの采配で既に手近なニンジャの増援が向かっているかもしれない、しかし(誰にも見られたくない……)任務完了の 通信を送り、どこかで身体を清めねば。スイセンは震える裂けた手で袂の携帯IRC端末を探ろうと「スイセン=サン!」 よく知る声だった。びくりと震えたスイセンが顔を上げると、自分と同年代の女ニンジャが息を切らせて駆け寄ってきた。ケモパンクスめいた派手な装い、 オイランヘアにはブドウめいたカンザシ。女子高生めいた快活な顔には焦燥と不安、そして僅かな安堵が浮かぶ。ルビーロマン。 「酷いケガ……!」ルビーロマンはスイセンの乱れたキモノ装束と大量の返り血、憔悴した有様に激しいイクサを想起した。肩が砕けぶらぶらと垂れた 左腕と重症の右掌を取り、確かめると泣きそうな声を出した。(嫌)そして素早く懐から携帯メディキットを取り出す。 流れるような手つきで消毒と止血、バイオ包帯による応急処置を行う。(触らないで)スイセンは息を漏らしながらカタカタと歯を鳴らして震えた。それを ルビーロマンは傷の痛みに必至で耐えるものと解釈し、目を潤ませアワレを深めた。包帯を巻き終える。「遅くなってゴメン……!直ぐテンプルに」 その時、突如ルビーロマンは硬直しその表情が青褪めた。スイセンは訝しみそして直ぐに察した。ルビーロマンの視線の先はスイセンの下半身、乱れたキモノ のスリットから覗く太腿。下劣ニンジャに注ぎ込まれた大量の黄ばんだ白い精が粘性を失い零れ出し、スイセンの血と混じり伝っていた。 「ぁ……」ルビーロマンは青褪めたまま呆然とし、無意識めいてふいにその身が半歩退いた。(あ)その瞬間、スイセンのニューロンには濁流の如くノイズ が溢れ出し、そして白く弾けた。「イヤーーーーッ!」「ンアーッ!?」スイセンはルビーロマンを渾身の力で突き飛ばした! スイセンは包帯の撒かれた右手で砕けた肩を抑えながら全力で走り去った。その場に尻餅をついたルビーロマンは震え、悲壮な表情で叫び引き留めようとしたが、 身体に力が入らなかった。声も出なかった。またたく間に土砂降りとなった重金属酸性雨の帳と闇に覆われ、スイセンの後ろ姿は見えなくなった。 ◇◇◇