忍びなれども暴れるぜと、忍者をモチーフにした娯楽は謳ったが。 時に忍者も音を立て姿現し、耳目を引く事に注力する時がある。 存在すら悟られぬこそ最良。なれど万事最良に進むなど夢物語、忍者であれば常に次善の策を懐に隠すもの。 世にたぬきの忍者知れ渡り、訪れる者日に日に増す中の事であった。 「おうおう、派手にやってるな」 「これはお客様、一名様ご案内だし……」 かつては隠れ潜み、たぬき間とごく僅かな外部の観客のみに見せていた忍の技。 それが今や多数の観客に囲まれ、請われるまま衆目に晒している。 シリウスシンボリをして、以前との様変わりに眉をしかめる。 「良いのか? 観光スポットにする気はなかったんだろ」 「時代の流れには逆らえませんし……」 たぬきの言はへりくだっていたが、目にへつらいはなかった。 忍者たぬきにしてやられた苦い過去から、密かに忍術を学んだシリウスには分かる。 真実は一つではない。見る者によって世界は変わる。 この忍者ショーは、ウケの良い看板なのだと。恐らくは裏に…… 「ちょっと見て回らせてもらおうか」 「どうぞご自由にご覧くださいし……」 ご案内と言っておきながら、受付たぬきはシリウスに何も寄越さなかった。 フンと鼻を鳴らし、気位の高いウマ娘は歓声の上がる方へ長い脚を向ける。 見ればたぬき同士が竹光を構え、殺陣を演じている所だった。 「えいやっし……」 「ぐわあーっし……」 ションボリとした斬り合いごっこの裏、滑るように切り替わる背景の妙技。 数匹のたぬきが連携し、見えざる縄捌きが身の丈を大きく上回る物体の移動を成し遂げている。 鮮やかな手並みであり、気取られぬ事もまた技の内。予め見当を付けておかなければ、視線が殺陣に釣られるのは避けられない。 他方へ耳を巡らせると、今度は笑い声を捉える。 「忍術だし……空を飛ぶし……」 たぬきが飛ぶのは忍術ではないと指摘の声が飛ぶ出し物。 だが違う、アレはたぬき固有の飛翔術ではない。よく見れば忍び装束を糸で釣っているのだ。 滑稽の中に技を仕込み、嘲笑で以て真を隠す。たぬき程の重量物を、飛行して見える程自在に動かす繰糸術。 人に知られず、知られて尚知られず。これぞ忍者の心得であった。 「腑抜けていたらタダで済ませないつもりだったが……堪能した」 「何せ我々免許皆伝ですし……」 ウマ娘とたぬきは、ニヤリと笑みを交わしたのであった。 陰技看破せりと帰路へ着く者あらば、伏せ札未だ暴かれずと見送る者あり。 立ち並ぶ木々、それこそ既に忍の技なれば。一本残らず造木にてたぬき潜むなり。 目に留まるもの目端に映るもの、いずれも表に過ぎず。裏とは誠に裏、規模の大なるものは人の目に見て取れぬ。 制す地なればこそ叶う術の大仰。化かし妖しの里、如何なる者も騙し帰す…… とたぬき達が考えている事は分かっている。 シリウスが一見で暴けなかった何事か、違和感を解き明かせなんだ屈辱と、そうでなければと昂り。 かの皇帝に姿を倣う者共が、容易くあって良い訳がない。シリウスシンボリの笑みは、獰猛に牙を剥くものへ変わったのだった。 これにてゴメン