「ナノモン、この箱をスキャンしろ。」 ホムコールモンは基地に戻る前にナノモンを呼び出し、中身ごとそれを調べさせた。 「ウイルス、感染性プラグイン、該当なし。」 「何?探知メソッドを変えて再度スキャンしろ。」 「該当なし。正常な食物データと推測。」 「なるほどな…あの男、今度は嘘をついているわけではなかったらしい。」 彼は基地に戻った。 「おかえり!」「お帰りなさいませ、ホムコールモン様。」 「ただいま、オイナ、マーメイモン。」 「あーあ、結局何事もなしかぁ…つまんないの。ねえホムコールモン、私もう帰っていいかな?」 「…ああ。さっさとアイツの元に帰るといい。」 ナクアは退屈そうにあくびをすると、窓から飛び降りながら能力を解放し、どこかへ消えて行った。 「ねえホム、その箱何?」 「ああ、あの忍者が押し付けてきた。一応正常な食物らしいが…」 オイナは彼の言葉を聞き、箱を開ける。 「!これってブシュ…エル…?って言うやつだっけ?」 「ブッシュ・ド・ノエル、ですね、オイナ様。」 マーメイモンが補足する。 「知っているのか、マーメイモン?」 「ええ、リアルワールドではこの辺りの時期、丸太を模したケーキを作るそうです。」 「…食べていい、ホム?」 「うーむ……」 ホムコールモンは顔をしかめた。 「美味しそうだよ…?」 「しかし…敵の作った物だぞ…」 「スキャンデータのログを確認しましたが、組成は鶏卵、小麦粉、砂糖、生クリーム、ココア、チョコレートといったところで、確かに異常なものは検出されていません。食べても問題ないのではないでしょうか?」 マーメイモンは彼にログを見せる。 「ダメでしょうか…?正直、私もすこし気になっていて…」 「マーメイモンお前もか…最近弛んでいるんじゃないか?」 「たっ…たるんでなどいません!これでも毎日戦闘訓練を3時間積んでいますし、摂取するデータにも気を使って体型を維持しています!」 「誰が体型の話をした!弛むと言うのは心持ちの話だ!」 二人が言い争っている隙を狙って、オイナはどこからかフォークを持ってきていた。 「いただきま〜す!」 ぱくり。 「待て!吐き出せ!」 「ん〜♪美味しい!」 彼女はブッシュ・ド・ノエルに舌鼓を打っていた。 「お体に異常はありませんよね…?」 「大丈夫だよ。マーメイモンも食べて!」 オイナはマーメイモンにもそれを食べさせた。 「ん…美味しいですね…これ…!」 二人のそんな様子を見て、ホムコールモンは脱力していた。 「ホムも食べなよ!」 「……いや、私はいい。君たちで食べろ。」 それは危険な可能性のあるものを食べたくないからと言うわけではなく、そもそも食べられないからだった。 彼の口は仮面とアーマーに隠れており、大きく開くことができない。 そのためホムコールモンは普段食事をする際、いつもストローを使って液状に整形されたデータを摂取していたのだ。 元々食事というものに関心を持っていなかった彼は、そのことを特に苦に思ったことはなかった。 そんなわけで、彼は二人がケーキを食べる様子を見つめていた。 「オイナはなんでも美味そうに食べるな。」 「だって美味しいもん!」 「ふふ…そうか。」 (…そういえば、昔こんなことがあったか) ホムコールモンの脳裏には、かつて”水竜将軍”オキグルモンに救われた際のことがよぎっていた。 ───────── 『美味そうに喰うやつだな。お前、行くところはないのか?』 『ない…。ぼくのいたゾーン…なくなった。』 『そうか…じゃあ私のところに来い。一緒に戦おう。』 ───────── 彼はそのまま、二人がケーキを食べ終わるまでその様子を見つめていた。 「ごちそうさま!」 「じゃあ、オイナはそろそろ寝る時間だな。ユキダルモン、彼女を寝かせてやってくれ。」 ホムコールモンは世話係のユキダルモンを呼び出し、少女を託した。 「承知いたしました。さぁオイナ様、まずは歯を磨きましょうね〜」 「えー…ホムはー?」 「私は仕事だよ。マーメイモンもな。」 「…今日の勤務時間はもう終了していますが。」 「敵襲があったんだ。防空システムの再検証が必要だろう?」 「はぁ…残業代お願いしますよ、ホムコールモン様。」 「わかっている。」 「おやすみホム!」 「ああ、おやすみオイナ。」