… | 324/12/20(金)21:18:40No.1264551412+「……唐留戸殿」 情報漏れを恐れて、俺たち浪士のアジトはいつも薄暗い。その暗さの中で、貞笹のビイドロが底知れぬ新月の夜めいた輝きを放った。 「締め切りは、近づいてござる。いつかは分からぬが。この年の内までには、ご決断を」 「……アッハイ」
貞笹の脅しが天に通じた。しんしんと降り積もる雪を茫然と眺める俺を、貞笹のビイドロがじっと捉える。腹を括るしかない。 「者ども、時は来たぞ」 おお、と密やかに、しかし勇気に満ちた喊声が上がった。
かくして、俺たちは凶善の屋敷に向かった。月光に雪が白く照り映え、辺りは夕方のような明るさだ。 家臣どもの詰め所に板を打ちつけ(出なかった言い訳が出来るようにだ)、火事だと喚いて(主君を見捨てた言い訳が出来るようにだ)、俺たちは屋敷に押し入った。 事前の貞笹の調べで、凶善の寝室は見当がついている。襖を蹴り倒し、布団から這い起きた老人へ、俺はカタナを突きつけた! 「凶善!我が主君、深谷中臣の無念晴らすべく、我ら三十三人、推参したり!さればそっ首を頂戴致す!」 凶善とて所詮泰平の世のサムライ、まして老いた身だ。小便を漏らして命乞いをするかと思った、その時! |