二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1734336904765.jpg-(28440 B)
28440 B24/12/16(月)17:15:04No.1263289912そうだねx2 19:06頃消えます
「おみごと。さすが、オルカ本隊勤務は動きのキレが違うわね」
 GS-130フェニックスがハウザー105mm砲の砲身を雪の上に下ろすと、シュウと湯気が立つ。
「いえ、そんな。こちらこそ、援護ありがとうございました」
 おくれて降下してきたP-3Mウンディーネが得意さを隠しきれない笑顔で礼を言い、重く空をおおう雲を見上げた。
「制空権、これくらいで大丈夫でしょうか。ヘリ、入れますよね?」
「十分十分。西側の斜面には大型の鉄虫はいないから」
 深い雪を膝でかき分けて、朽ち落ちたフェンスを踏みこえると、凍えるほどの風が髪を乱す。そこはビルの屋上であった。装備ケースをひろい上げたウンディーネは、そのままひらりと身を躍らせる。
 続いて身を乗り出したフェニックスは飛び降りる寸前、ふと海の方を見た。
 鉛色に波立つ冷たい海が、曇天の下に広がっている。その手前に押し込められるようにして、うすく青みをおびた雪に覆われた街が静止していた。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
124/12/16(月)17:15:30No.1263290004+
「悪いわね、艦隊勤務のあなたにわざわざ来てもらっちゃって。こっちも人手が全然なくてさ、私一人だとさすがにきついのよ」
「いえ、ちょうど近海を通ってたし、気にしないで下さい」
 廃墟の街の凍った道路を、二人のバイオロイドが歩く。
「私だって、ここには思い出がありますから……」懐かしげに通りを見まわすウンディーネの息が白い。
「それにしても。こんなに寒かったかしら。スヴァールバルよりずっと南にあるのに」
「緯度のわりに寒いのよ、この辺は。もう少し行くと、ヘリを呼べるくらいの広い道路があったはずだから」
 凍った雪をザクザクと踏みくだき、二筋の足跡をのこして進むフェニックスとウンディーネ。道路には積み重なった瓦礫や陥没があるが、すべてが雪におおわれてなだらかな起伏になっている。
「あれ、何て読むんでしょう。ノートゥ…ナナ……?」
「ノトよ。ノト・ペニンシュラ、ナナオ・シティ。旧時代のこの街の呼び名ね。あっ、そこ気を付けて。穴あるわよ」
 忠告も空しく、ウンディーネが雪を踏み抜いて転んだ。フェニックスが笑って引っ張り上げる。
224/12/16(月)17:15:43No.1263290057+
「やだもー……そんな名前だったんだ。初めて来た時は、そんなこと気にする余裕もなかったな」
 コートにこびりついた雪を払って、ウンディーネがもういちど街並を見まわした。通りは大きいが、さしたる高い建物もなく、空は広い。
「もう四年も前のことになるのかあ。残念ですね。オルカの最初期の拠点の一つだったのに」
「まあ、仕方ないわね」フェニックスは肩をすくめた。「交通の便は悪いし、生産力が大きいわけでもないし。海の幸と温泉は最高だけど、ニイガタ拠点の方にだってあるし」
「初めて来た時にも、鉄虫ほとんどいないのに無人でしたもんね。中佐も、今はニイガタに?」
「そう。ここにいた連中の大半はあそこにいるわ。それと、階級はいいわよ、今は予備役だし」
「でも……じゃあ、うーん、フェニックスさん」
「そうそう。あっ、ここよここ。どう?」
「よさそうですね」
324/12/16(月)17:16:01No.1263290117+
 もとは大きな交差点だったとおぼしい、廃墟の狭間にぽっかり開いた雪原に標識灯をならべて、待つことしばし。重いローター音が、空気を震わせて近づいてくる。
「や」
 着陸した輸送ヘリの後部デッキが開き、下りてきたのは二人のダッチガールだった。
「ダーッチ! 久しぶり、2501と、あなた2733よね? 元気してた? ちゃんと食べてる?」
 フェニックスが駆け寄り、防寒具でまるまると着ぶくれたダッチガールを順番に抱き上げて頬ずりする。
「二人ともここの子でね? 特に2733はあの避難のちょっと前にここへ来て、当時はもう気の毒になるくらい痩せてたんだけど。血色が良くなってるみたいで良かったわ〜」
「んん」
 そのダッチガール2733は身をよじって腕をのがれ、2501の陰に身を隠した。2501とフェニックスが苦笑いを交わす。
「二人はあの後、どこにいたの? 艦隊勤務になったのよね、たしか」
「うん」まだ身を隠したまま2733が答える。2501が後を引き継いで、「成り行きでそのままスヴァールバルまでついてって、工兵隊に入ったんだ。アクアランド建設も手伝ったよ」
424/12/16(月)17:16:13No.1263290165+
「あの!? すごいじゃない!」
「楽しかった。ね」2501がうながすと、2733もようやくこっくりとうなずいた。
「あらあら、さっそく旧交を温めてるのね」
 コクピットから下りてきたフォーチュンが、笑って白い息を吐いた。ウンディーネが目を丸くする。
「オルカのフォーチュンさん! わざわざ来たんですか? ヨーロッパの方忙しいんじゃ?」
「そりゃ忙しいけど、来るわよ。人任せにしたくないもの。それにしても、寒いわねここ!」フォーチュンは震えながらデッキに入ると、奥から大きなコンテナをゴロゴロ引き出して戻ってくる。ついでにジャケットも着込んでいる。
「これは?」
「整備キットと急速ヘリウム充填機。ドクターも来たがってたけど、さすがに抜けるのは無理でね。代わりに作ってくれたの」
「この雪だから、台車は使えないわよ」背丈より高いコンテナを見上げて、フェニックスが顎に手をやる。
「ソリあるよ」2501がヘリの奥をさした。
524/12/16(月)17:16:44No.1263290282+
 コンテナをソリに載せ替え、五人で引っ張ってふたたび雪の中をいく。日が傾きはじめてきた。
「ここよ」
 たどり着いた先は、大きな倉庫だった。少なくとも、本来の姿はそうだったように見えた。そこへ壁と言わず、屋根と言わず、コンクリートが一面に塗りたくられ、今は不格好な岩の箱とでも呼ぶしかない巨大な物体になっている。
「うわあ」二人のダッチガールが、そろって呆れた声を上げた。
「また、派手にやったわね」フォーチュンが腰に手を当てる。
「あの時はとにかく必死だったのよ! ここだけは壊されないようにって」フェニックスが抗弁した。「ノームの使ってるコンクリート弾を全部もらってきてさ。大変だったんだから」
 壁面をおおうコンクリートは、よく見ると所々えぐれたように欠けている。鉄虫による砲撃の痕だ。
「でもよくそんな時間ありましたね。避難だけで精一杯だった所も多いのに」
「当時はほんとに鉄虫が少なかったのよ。一番近い集団がここへ来るまでにもちょっと時間があってね……田舎で幸いだったわ」
624/12/16(月)17:17:12No.1263290381+
「この辺から入れそう」ぐるっと周囲を回ったフォーチュンが、窓の一部に隙間を見つけ、コンテナからバールを出してこじ開けにかかった。「中の方は私がやっておくから、正面の掃除をお願いできる? このままじゃ外へ出せないわ」
「ん」
 ダッチガールもコンテナを開け、バンカーユニットに削岩用ビットを取り付けて、コンクリで固められた大扉にあてがう。たちまち、けたたましい轟音が町中に響き渡るが、もとより無人の街である。騒音に苦情を言う者はいない。
「何か手伝うことある!?」轟音に負けないよう、ウンディーネが声を張り上げる。
「破片を片付けて!」ダッチガールも怒鳴り声で答えた。
 小一時間ほどして、正面ゲートのコンクリートを取り除き終えたときには、四人ともすっかり汗だくになって湯気を立てていた。
「こっちはいいわよー。開けて!」
 鉄扉ごしのフォーチュンの声を合図に、四人は取っ手に手をかけ、身長より高い大きな扉を思いきり引き開ける。
 雪景色の白さに慣れた目では、倉庫の中の暗がりはうかがえない。目をすがめながら待っていると、モーター音とともに白い鼻先が、長い胴体が現れてくる。
724/12/16(月)17:17:27No.1263290433+
 それは、純白に塗られた飛行船だった。左右一対のダクテッドファンの風に推され、キャビン下の車輪をわずかに地面にこすらせながら、長円形の船体がゆっくりとゲートをくぐる。
 十メートル以上ある全身がすっかり空の下に出たところで、感に堪えずウンディーネがつぶやいた。
「セントオルカ号……」
「クリスマスにはやっぱり、これがないとね」フェニックスが満足げに言う。
「調整ラクだったわ。よく整備されてたのね」飛行船のうしろから、フォーチュンが係留ロープを手に出てきた。
「当たり前じゃない」フェニックスが胸を張った。「一昨年までは毎年クリスマスにちゃんと飛ばしてたのよ。本当は去年のうちに回収したかったけど、去年のクリスマスは、ほら」
「ああ……ヨーロッパ作戦の準備で総動員体勢でしたもんね」ウンディーネもうなずく。見ている間に、飛行船はふわりと車輪を宙に浮かせ、たちまち倉庫の屋根くらいまで浮き上がる。
「わあ!」ダッチガール達が歓声を上げた。
「よし。操作系も問題なし、と」フォーチュンがコントローラーを操るにつれ、セントオルカ号は倉庫上空を一周して、ふたたびゆっくりと一同のあいだへ降りてきた。
824/12/16(月)17:17:45No.1263290505+
「テスト完了、オールグリーン」フォーチュンが重々しく告げてから笑顔になる。「で、本当ならまたガスを抜いて運ぶんだけど……どうする?」
「もったいない!」フェニックスがすかさず掌を打ち合わせた。「このまま飛ばしてニイガタまで戻りましょうよ、私が曳航するから」
「わ、私も! 私もやります!」ウンディーネも手を上げる。フォーチュンがもう一度笑った。
「キャビンが空っぽだから、軽いわよ。プレゼントの準備もしないとね」
924/12/16(月)17:17:58No.1263290548+
 暮れはじめた冬の空に重いローター音を響かせて輸送ヘリが上昇していく。少し遅れてそれを追うように、純白の飛行船がゆっくりと舞い上がる。
 ノト半島、ナナオ・シティ。この海辺の小さな街は、二年前の鉄虫の大暴走の際に放棄され、いまだ復旧していない拠点の一つである。
 今の人類抵抗軍の規模からすれば、取るに足らない小さな拠点にすぎない。だからこそ、再拠点化もされぬままになっている。しかし、この場所に思い出のある隊員は多い。
 とりわけ、四年前のクリスマスをここで過ごした者は、この街のことを決して忘れない。かれらは今でも、この拠点のことをもうひとつの名で呼ぶ。
 セントオルカの街、と。

End
1024/12/16(月)17:20:25No.1263291113そうだねx1
まとめ
fu4381598.txt
クリスマスっぽい軽いお話を書きたかった
1124/12/16(月)17:22:45No.1263291636そうだねx2
戦争してんのにイベントごとは欠かさない司令官すき部屋の鍵ちょうだい
1224/12/16(月)17:37:01No.1263294877+
新作を生で見れてラッキー!今からじっくり読む
1324/12/16(月)17:38:23No.1263295183+
ある日のオルカ助かる…
1424/12/16(月)17:41:29No.1263295967+
そういえばあれから何度もクリスマスやったのにセントオルカがどうなったか触れられてなかったな
1524/12/16(月)17:47:56No.1263297562+
むちち?
1624/12/16(月)17:49:24No.1263297953そうだねx1
フェニックス112じゃん!時間が身にしみるなあ
1724/12/16(月)17:58:59No.1263300547+
司令官の性の6時間が見たいっすね
1824/12/16(月)18:46:27No.1263313896+
>司令官様とカーン隊長の性の6時間が見たいです


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