「ではお店のこと頼みましたわよ、織姫」 従叔母である千本桜 冥梨栖に押し付けられる形で店番を任され、鍋の中身を掻き混ぜている千年桜 織姫。 「くそ~、姉様のあほ……私様だってクリスマスは予定あるんだぞ… もう怒った。ビーフシチューパイの中身を鮭のクラムチャウダーとすり替えてやる…」 思い立ったが吉日。決心したら即実行に移す冥梨栖と同じ血が流れているだけの事はあり、織姫の行動も早かった。 準備中と書かれた立て札を立てるとすぐさま材料の買い出しに行き、戻って来るや否や調理に取り掛かった。 刻んだ野菜を炒めている最中、織姫のよく知る顔が出店の前を通りかかった。 「はあ…なにしてるのよ。ケーキ作ってもずく風呂に入るんじゃないの?」 「橘樹さん…残念ながら私が今作っているのは鮭のクラムチャウダー… もずく風呂ではないので入らないで下さいね」 織姫に声をかけた女性の名は橘樹 文華。織姫と同じく闇のスピリットに選ばれし十闘士の一人だ。 「入らないわよ!?そもそももずく風呂って何よ…?」 「百聞は一見にしかず……もずくに緑茶パウダー、巨大な寸胴鍋もございますので、すぐにご用意できます。体も冷えている事でしょうし、入って行きませんか?もずく風呂……」 「入らないって言ってるでしょ!? それにしても…いやにテンション低いわね。」 調理をしていた織姫の手が止まる。 「…そうでしょうか?」 「えぇ、明らかに低いわ」 「………だとしたら恐らく橘樹さんがもずく風呂に入るのを拒むからですね、これは」 「あーもう!普通の銭湯くらいなら付き合ってあげるから!手が空いたら行くわよ!」 こうしてなし崩し的に店の手伝いをする事になってしまった文華。だが一先ずはクリスマスケーキが食べたいと言っていた鉄塚クロウの為にケーキを作る様だ。 「橘樹さん…」 「何?」 「銭湯は公衆の浴場……決して湯船にもずくを入れたりする事の無き様…」 「だからもずく風呂には入らないってば!!」