マミーマミーと過去の英雄  マミー・マミーは戦場跡地で生まれたアンデッドである。沢山の子どもたちの切れ端を様々な未練がつなぎ合わせて出来ている。いつの間にかそこにいて親を求め近寄ってくる。そんなアンデッドとしてはあまり見ない無害性とたとえ壊れてしまってもリポップするという特性を持つ彼ら(彼女ら)は人格や性別がリポップ毎に変わり記憶の継承は朧げで本人に聞くところ辿々しく教えてくれたが強烈な体験だと残る可能性も大きいらしい。  ボーリャックは紙に走らせていたペンを置き溜め息をついた。マミー・マミーに関しての書類をまとめたが果たしてこれが役に立つ日が来ると言うのか。無害で人に対しても魔物に対しても友好的な彼らはただそこにいて親を求めるだけのアンデッドだ。その特性からこの世界から消え去る事もなくきっとこれからも様々な場所でいもしない親を求める続けるのだろう。  ボーリャックの脳裏に彼が勇者だった時の記憶がふと蘇る。まだがむしゃらに前へと進む若さを持っていた頃の自分と彼らの出会いは新鮮でそして残酷だった。その時一緒にいた聖女は哀しそうに彼らの頭を撫で祈っていた。彼らを解放するには聖者による祈りかその膨大な未練を晴らす事でしか出来ない。 「あ、りがとマリおねーちゃ、んとまっくろ、のおにーちゃ」  そういって満面の笑みで物言わぬ屍へと姿を変えた彼らを目に焼き付け拳を握り決意を固めることしかあの時のボーリャックには許されていなかった。願わくばもう二度と彼らとは出会いたくはないと思っていたのだが……。 「やっほ、ひま?かめんの、おにーちゃん!」    バタン!と勢いよく魔王城での自室の扉が開く。入ってきたのは体を包帯で隠し赤い瞳を持つマミー・マミーだった。アンデッドである彼女は特に追い出される事もなく魔王城を出入りしている。個人的にガバガバなのは助かるが無害とはいえそれで良いのかここ。 「やぁ、マミーマミー。一体どうしたんだ?」 「えっと、ね。ここ、におんなの子のアンデッド?さん、がいるって、ほんと?」 「そうだな、種類は違えど様々な奴がいるが誰か探しているのかい」 「うーんとね、探してるって、いうか…なんだか見たことあるよー、な?ないよーな?私たちま、まる?ちゃんってきいてあっ、てみたい、なって」 「まるちゃん?…………あっもしかしてマリちゃんか?」  沢山喋ってキツいのか少し息が荒くなっているマミーの背中を摩ってやり件のアンデッドについて検討をつける。 「そう!ま、りちゃん!どこ、にいるかわかる?」 「今は中庭にでも居るんじゃないか?それかネクロマスターのところかだが…」 「ん、中にわだ、ねわかった」 「ありがと!じゃ、あまたねまっくろのおにーちゃん!」  ぶんぶんと手を振り来た時と同じく勢いよく出て行った彼女に伸ばした手は驚きで固まってしまった。手と同じく仮面に隠された顔も口を開けたまま固まりここが自室で良かったと安堵するのだった。    マミー・マミーは可哀想なアンデッドである。死んでしまった幼い子供たちから作られ、寂しさと悲しみ、そして両親への愛を持って行動する。大きな戦争の後には必ず彼らが街を徘徊し大人にすり寄っては気味悪がられ拒絶され泣いている光景を何度も見ることになる。聖女として出来るだけ彼らに寄り添い祈ってきたが何度やってもあれ程心に来る祈りはあまりないだろう。  マリアンはネクロマスターの元を離れて中庭で日向ぼっこをしていた。良い感じの男達も居らずやることもなくただただ時間を潰す為の日向ぼっこだったのだが…。ガサガサと中庭の生垣から音がして目をやるとバーン!と効果音でもつきそうな勢いで人が飛び出して来た。 「うぁー!?」 「いた!あ、なたが、マリちゃん?」 「あ、うー」 「むむ、おは、なしはできない?…うーん、とだうしよう…」 「うー…」  出て来たのは包帯に身を包み赤い瞳を持った少女のアンデッドだった。彼女(達と言うべきだろうか)はマリアンが喋れないことに気付き悩んでいる。……彼女たちになら良いだろうか?別に少しくらい喋っているところを見られてもアンデッド同士だしと言い訳は出来る。 「あー、あ、なたは?」 「!わたしたち、はマミー・マミー!えぇとね貴女はマリ、ちゃん?であって、ますか!」 「うん、あってるよ」 「!!!よか、た!あいた、かったの!」  キラキラと片目を煌めかせてマミーマミーはマリアンの手を取りぶんぶんと勢いよく振った。その勢いに驚きなすがままに体が大きく揺れる。 「わ、わ!」 「あ、ご、めんなさい…えーと、ね私たちマリちゃん、にお礼をいいたく、て」 「お礼?でも」 「う、ん多分初めてあう、と、思う。けどねマ、リちゃんのこと、みたらここがねぎゅ〜って、なって、あたたかく、な、るから」    マミーマミーは胸に手を当て笑う。それはいつかに見た笑顔に重なって 「だ、からありがと、っていいたいな、て。きっと、私たちはそ、うおも、ってたから」 「…………」 「きゅ、うにごめ、んなさ、い…えとじゃあね」 「まって」    手が勝手に動いていた。何処かへ去ろうとするマミーマミーの手を取って先程座っていた場所に座らせる。隣にマリアンも座り日向ぼっこを再開する。 「うー、もう少しお話ししよっか。私はあまり話せないけど」 「!いいの?」 「良いの」 「おとも、だち?」 「えぇお友達になりましょう」 「おと、もだち!マリちゃん、と!」  マミーマミーは嬉しそうに笑う。ニコニコと花でも飛んでるみたいに。私は彼女たちにもう祈ってはあげられないけどお友達として少しでも良い記憶を持ってもらうくらいはいいでしょ。誰に言い訳するでもないけどそう理由付けをしてその後空が茜色になるくらいまでマミーマミーと日向ぼっこを続けた。 「そういえばどうしてここにいるって知ってたの?」 「えーと、ね!かめんのおにーちゃんに聞いたの!」 「…ふぅん?へぇー?ほぉー?」  次の新刊決まったわ。