まとめ 一枚目 前提 これは二次創作。本編とは混同しないこと。 1 「何々、配信で占いやって欲しいの?」K5がそういった。私は頷いた。 「ほら、女子受けいいじゃん?」「なる」「やるの?やらないの?」「んー」唸る。 「MDR、ここはそれっぽいやり方で決めるとしましょう」手には造花。「ハ、花占いって訳」 金型に充填された熱可塑性プラスチック。環境負荷が低い奴。今やお墓にはそういうのが刺さってる。 結論。 私の運勢は~ちょっと待って、営巣送りが連続するでしょう? 「サマやってんでしょ~?」「ナチュラルよ」「あ゛~?」「それに自然でしょ、あなたってそういうタチだから」 「何よ、じゃあうちの指揮官も占ってみなさいよォ?」10年先になってもうまくやるでしょう。ははあ。 視聴者様のリクエスト。「んじゃここから変わり種と行きましょう。もし指揮官になってなかったら?」私。 K5は黙ったまま。「何よ、さっきはあんな早く出してたのに」「見えないの」「あ?」「見えない」 「私にやらせて」「ん」プロによる指導を添えて。結果は……落雷で回線が…… 「それじゃ指揮官にならなきゃ死んでたって訳?」 「そういう事、筋金入りなんだろうね」彼女はそう呟いた。 2 ある集合住宅。 「主人が死んでしまいました」そこに立っている人形が一言だけ。 壁は打ちっぱなし。指でコンクリートをなぞると、埃。吹けば飛ぶ。 私、MDRは端末を……「おい」指揮官が手で制す。「信用ないわけ?」「そりゃな」 「あ?」「そう怒るな、もめるのは避けたい」「鍵は開けてあります。入ってください」人形。 冷蔵庫には栄養剤と水だけ。ヘッドセットを被った死人。ルーターは有線じゃない。「え、線は?」 「彼はアップデート時以外ネット接続を好みませんでした」「人嫌いなの?」「聞くなよ」指揮官。 「何で救急車呼ばなかったのさ」俯く。「……契約強度の問題です。私は逆らえませんでした」 指揮官に睨まれる。機材を調べる。 「一番脳をごまかす品質が高い奴だ。ハードはローカルで仮想世界を運用できるレベルで……」 「おいおい」指揮官の首に腕、こめかみに銃。「ちょっと」 「彼を殺されたくなければ私を殺してください。私は主人が死んだ地で死にたい。解体など御免です」 「私はここを守るようにも命令されています」考える……ああ、ダメだ。古い人形にすぎる。 「……ごめん」 私は……撃った。 3 「人形の性別を決める要素って何さ」指揮官。「何?藪から棒に……」私。 「MDR、人間は雌雄が決まって成長してく訳だが、人形はどうなんだよ」 「アレの有無とかはあるけど、ソフトの方は実質無性なんじゃないのか?」 「はあ」客引きがスマホを取り出して何かを撮っていた。「向こう行きな」「え?」「死ぬよ」 「身体と社会の構造に引かれて演技してるのかって聞きたいわけ?んな、私にわかる訳ないじゃん。哲学者じゃないし」 目当てのビルの壁面、窓は血がびっしょり。セルフィー。「やめなって」「は?うるせーし……あ」 妙なものが映った。相対する男女。片方は警備員?日本刀?より太いな。カーテン越しの影絵……人体がくの字に。 壁にもたれかかり泣く男。「チクショウ、馬じゃねえんだぞ!」腕が折れている。「何」嫌な予感がして撮影を切った。 汗ばんだ中年男性。責任者か。「で?」「商売の関係で部品を取り付けたんですがね、この通り暴走してしまって」 「ストレス反応?ウイルス性?」「私達は従業員の合意を大切にしていますが、しかしこれがサッパリ」舌打ち。 「IOPの立ち位置を維持しなきゃならん」指揮官。 「生け捕りにせいって事でしょうが。やるの私よ?」「援護射撃はするって」「クソ、取れ高になりそうなのに」 「プラットフォーム変えたら?」「あのね、これでも売るもんのコントロールってのはしてるつもりなの!」 わざとらしい高級感を出したドアを開けた。絨毯。「ちょい待ち、一時権限貰ったから」指揮官がカメラに接続。 「わあ」「ひい」警備員の一人が無謀な突撃を行った。「嘘でしょ」暴走人形は……一振りで殺した。 詳細は伏す。見た目としては、感染で正気を失っているように見える。この職場にいるとその辺りはわかる。 「私達アレと戦わないといけないの?」「俺だって嫌だよ、網使うからそっち上手くやってくれ」「クソッ」 登り階段を無限に感じた。ストレスを感じるとこれだ。指揮官は網銃を持って先行。ドアを蹴る。 蹴破ったドアの先。人形の脚を撃とうとした。当たったのは……アレだ。「わー!」あんたが泣いてどうする。 「サードパーティ製の部品を使って、セキュリティに穴が空いたって事でしょうね」指揮官の上司曰く、それが真実だ。 街の人形屋の奥に、IOP等の正規の部品が並ぶようになったのはその頃だった。 4 「人は現実上に生きるからこそ苦痛を得ることになる。肉体を捨て、電子世界に生きる事により……幸福が約束される」 ローマ人が着込んでいるような服を着て、70年前のSFでさんざん言ったような事を男が言っている。 ここ最近……大昔からやってるのかもしれないけど、人類全体を救う方法とか言って色々やってる奴等が増えてきた。 別の指揮官曰く、スパイに出したOBRの定期連絡が途絶えたという事で、私達に回されることに。 ヘッドセットを被った一団がヨガっぽい姿勢でいる。スルー。突撃銃を構え、前進する。 いくつかの部屋を抜ける。で、妙な点。こいつら、自前のサーバーとかを持ってる気配がない。 それから何故か保管容器や棚の中身、麻酔とかの薬物だけ充実してる。ついでに狩猟の解体解説書とか。 クーラーボックスもあった。中身?言わない。 神経複写の論文とか、それを運用する為のサーバー、保守役人形、何にもない。 「何よ、全部終わってんじゃない」指揮官はリーダーに拳銃を突き付けていた。「MDR、横頼むわ」 メキシカン・スタンドオフだった。「ダッサ」グループの連中に銃を向ける。 形勢逆転だ…… と思ったが。 「OBR、何やってんの」銃を向けられた。「あ、あたし、人類を救いたくて」 「そうだ!我々は救おうとしてるんだぞ」リーダー。「ふざけんな」指揮官はもう見たっぽいな。 「OBR、ここには何も無いよ。仮想の楽園で人格の複製を走らせるようなものすらなかった」私。 「マトリックスもどきもありゃしない」と指揮官。そう、マトリックスはある意味現実的になった。 実際にもっと狭い空間でそれをやった奴も見た事がある。ただ、そいつは死んでたけど。 それすら用意しちゃいない。彼女、騙されてるな。データ共有を無線でやった。青ざめた表情。 「面白い事するじゃない」皮肉。「宗教で人集めて、臓器売買か」綺麗な物見せられてたのかな。 「まだ間に合うよ」 彼女の指揮官は……上手だった。実際のスパイ役は小型ドローン。彼女は通信中継器として立ってるだけで良かった。 ……それは黙っておく。「……私、助けたかったことだけは本当なんです」彼女は言った。「そう」私はそう返した。 「……全部夢だった」彼女はそう呟いた。 視線の先、子供が虫取り網を振り下ろす。 蝶は網に囚われる…… 5 式場は基地の内側だった。一番安全だから。基地にはバーがある。だから終わったら飲みに行ける。 「うっ」指揮官がそう呟き、私は振り向いた。そそくさと歩き去っていく。トイレ近いのかな? ……指揮官の上司はヘリアンさん以外にも複数人居る。今日結婚したのはその中の一人。 めちゃくちゃ気難しい人らしい。そして彼女は私を見ると、席を一つずらした。意味は分かる。 デキ婚ではないらしいけど、まぁ、彼女はノンアルを頼んでいる、つまりは、そういう事で…… 「うへえ」「なら、あなたはMDRね?」目を瞑る。少し考える。席に座る。指揮官は逃げ足が速い。 だから私も含めて死んでないのだが、今はただクソ野郎とだけ思った。大ジョッキでビールを頼む。 気まずい。パワー・オブ・エタノール。のうみそをファックしたまえ、そして我にこの場を乗り切る力を。 「……結婚して子供を作るってどんな感じですか」「仕事と同じよ」「やりたくないけど、やる?」「ええ」 「家族との関係を鑑みて、そうせざるを得なかった。社会的立ち位置も維持したい、だからやった」 「もしかして、義務感?」「そう。でも完全に嫌って訳じゃない……」 「人形にはそういう機能が無いから想像しにくいかな」「ある意味幸せかも。重責を負わずに済むから」 「重責?」「人類は不条理な世界に人格を持った存在を送り出すクソ野郎よ」「はあ」 「送り出される側としては人形も変わらない。少なくとも契約無しに実存することになるから、PMCより不公平……」 帰りたくなってきた。「……この子を幸せにできるかわからない」彼女は呟く。この辺りはまだわかる気がする。 「でもこうして子供をこの世に送り出すハメになってるから、なんか、ジレンマに苦しんでるって雰囲気すか」 「……このことに対して無責任な人間はいるけど、本当なら私は、私達は可能な限りの責任を負わなきゃならない」 「重く考えすぎなんすよ」酔った人形が即興での演奏を始めた。「人って不完全だから」緩んだ脳から記憶を取り出す。 「ランダムに組み上がった細胞塊……って指揮官が前言ってたんですけど」 「そういう事なら、そういう事考えられるだけ上等ですって、それに……その子も幸せになれますよ」 カッコつけて、二人分の紙幣を差し出した。 「この世界って、きっとそんなに悪くないから」 「……ありがとう」 6 指揮官が深刻な表情をしているのはいつもの事だ。 「なあ、ちょっと思ったんだけど」指揮官。「また?何よ」「MDR、怖くないのか?」 「はあ?」「いや、人形って結局バックアップがありゃ何度だって死ねるわけじゃん」「はあ」 「データ残って、延々と移植出来てりゃほぼ不死ってわけだろ、俺達とは違って連続性保証だってあるじゃん」 彼は笑う。「死ねないんだぜ。延々と生きるって、怖くね?」「はァ~」「……終わりがないんだよ」 別部隊の女指揮官がアレを差し出した。「吸いな」「吸わねーよ」「ならてめえのに浸ってな」 「一回限りの人生なら酷くったっていいけどさあ、二回も三回もやりたくねえ」「それ人形の私達に言う~?」 「MDR、ちょっと黙らせられないか?聞きたくないんだよ……ハッピー足りてない話なんてさ」摩擦音。火。 「禁煙だぜ」「カフェじゃねえんだ。お前も副流煙吸いな……」笑い声。「……気まずッ」私はそう呟いた。 「……俺ら人間がその内サイボーグになったら、死ねなくなっちまう」 「真の死が消失しちまうんだよ!」指揮官達が笑い出した。「SF映画かい……」有機物の脳にしか縁のない笑い…… 古びた教会にスキール音を上げながらバンを横付けし、ドアを開けてそのまま突入。 「死ねーッ!」おっぱじめる。 指揮官は最近ちょっとメンタルやられぎみだからそういう事を言い始めたんだろう。 私達が戦ってるネイトはその一端かもしれない。実際の技術的な何だかんだなどは知らんけど。 うん、考えてみよう。私達人形と彼等人間が同じようになったら?わかんないな。私はそこまで賢くはない。 それに、そんなに未来の事なんて考えてもしょうがない。 私達に出来る事は……この世界を楽しむことくらいだ。うん。端末の調子を確かめた。 「ねえ、ちょっとヤバない?」「ヤバいね」RFBと話す……分断されつつある。 白い鎌持ちが私の指揮官を襲い、次に黒い狙撃銃持ちが別の指揮官を狙い……指揮官達は逃げながら上に。 私達は釘付け……終わった頃には……階段を駆け上がる……黒白ネイトが指揮官達を突き落とす……撃ち殺す…… ルーフはひしゃげてる。 「ねえ、まだ生きてよね、未来の事言ったって、生きてんの今なんだし……」「うるせえよ」 「火」「ヘルスパックに入ってないよ」 「……クソ」 誰が言ったんだろう。 7 「なんで同じ病室なんだ」指揮官達がぼやいた。「部屋開いてないんだって」と私、MDRが言う。タブレットを渡す。 「何かあったらこれでってヘリアンさんが」「なるほど。休み無しかい」女指揮官。「無茶したあんたらが悪い」私。 「……ロクサット主義の先は人間が人形に支配される事になるって事かもしれない」指揮官。私達は溜息を吐く。 「何?今まさに人間が人形を支配する事をやらされてるってのにそれかい、クソッ……焦点を過去にずらしなさいな」 「じゃ、アレもロクサット主義?」私は指差す。視線の先には首輪を嵌め、犬のように這う男。背には人形が騎乗する。 「いい声で鳴きなさい!」「ワン!」「ありゃただのマゾ野郎ね」「違いねえ」「でもさあ、指揮官が言ってる事って」 振動と通知。「テロ対策行ってきまーす」陰鬱な会話から『グリフィン指揮用から招待を受けました』抜け出せない。 「未来じゃ人間と人形の関係が逆転してるかもしれんが、あるいは同質化が進むかもしれん……」「やれやれね……」 会話が続く。グリフィン用チャットを繋いだ。「任務!即席パーティ組みたい子は今すぐ私と駐車場に来なさい、っと」 送信。 人で賑わう都市部。SUVは犯罪者からの押収品をG&K仕様にしたもの。法的には……どうなんだろ。ヤバい? 通信はマイクではなく、直接コアで信号を読み取る。「人形はバックアップから読み取りを行うだろ?」女指揮官。 「人間は歴史と口伝を使ってる。つまり、かなり劣った方式で似たような事をやってるって解釈も出来るな」指揮官。 「指揮してよ」「そうそう」「ライフル組は高所に陣取れ」「射程短いのは下で待機。観測班の指示に従え」溜息。 「俺達は言葉を使うが、人形ならもっとちゃんと伝えあう事が出来るはずだ。データと言う形で……同質化が進めば!」 「究極的なコミュニケーションが実現できる!意思疎通がちゃんとできれば、争いだって消えるかもしれないわね!」 指揮官達がなんか……鎮痛剤が効いてる感じになってきた。「何て素晴らしいんだろう!」連呼している。凄い足音だ。 「あ!患者が輪になって踊ってる!ちょっとお医者さん、アホ二人に注射二本打っちゃって」「ワン!」「ツーでしょ」 私は観測班の指示に従い、テロリストの銃を狙撃した。で、SMG組は取り押さえを実行した。作戦成功だ。 「ふう」一息ついた。 8 ここ最近、ネットでバトる人間をあまり見なくなってきた。私は……率直に言うと結構キナ臭いなと感じる。 「MDR、戦う相手がいなくなって欲求不満になってるって訳じゃないよな?」「違うかなぁ、もっと……」 指揮官を突き飛ばす。スーパーマーケットの試食ではこのように新鮮な鉛玉も提供しております。 私は……指揮官がテーザーで撃ってしまった。獲物を奪うんじゃない!彼は伏せたままリロードした。 「……ね、私の獲物なんだけど。不愉快なんですけど?」「獲物とか、知るか!市民の危機だろうが」「そうね」 「松葉杖くれ」「お、見て」声明文。現実の改善の為の行動……「ゴミ拾いでもしてろってんだ」「ああ、そっか」 「何だ?」「私達の相手したってトラフィックが無駄になるだけで、何も変わんないってわかっちゃったんだ……」 「……クソ」彼は理解が速い。「松葉杖くれよ!」違うか?「ほれほれ」目の前にぶら下げた。「おい」誰? 「怪我人にそういう事をするのは良くない」知らない人に言われた。正論だ。「そうね、悪かったわ」 彼は懐から銃を取り出し……指揮官にテーザーで撃たれた。 ……ヤバくなってきてるな。 ギプスが取れた頃。 ……連続してテロが起こるようになって、グリフィンは大忙しだ。 組織か個人、明確な理由があるか、それともただやりたくてやったのか……全部バラバラだ。 まるでみんなそうするのが当然、とでも言いたげに、ウィークリーどころかデイリーでやっている。どうかしている。 配信しようとしたら銃弾で端末が破壊された。クソ。今日のテロリストは演説しながら銃弾をぶちまけているのだ。 「ねえ、あいつらが言ってることがほんとなら、私達はそんなに生きてる価値がないみたいだけど」と話を振る。 「そんなわけないだろ……」「よかった~、まともな意見が聞けて」「俺もあいつらもただここにいるだけなんだよ」 前言撤回。「だから価値なんてのは最初から誰にも無い……俺の価値観はともかく、あいつらを止めないと」 「私、あんたの事が全然わかんない。無価値だ何だって言って、仕事はするし。何がしたいの?」視線を交わす。 「……個人の考えはともかく、俺達は結局グリフィンの契約を飲んでる……だから、仕事をやらねえと」「……そうね」 指揮官は手榴弾を投げ、私はそれに合わせた。今日もそうしてやっていってる。 9 基地の工作部屋。ラジオからは大規模な暴動についてのニュース。私、MDRは溶接面を被った。 指揮官は通信越しに喋ってる。「ポストトゥルースって奴かもしれんな」「何それ?」 数ミリの防弾鋼板をガラケーの形にしたものに、一通りの内部部品を仕込んでいった。弱い所を撃たれれば壊れるが。 「自分の信じたい事を信じるって事だ。暴動は結果」それを聞き、私は笑った。 「人間の基本的性質を難しい言葉で包んだって、しょうがないでしょ?」「お前の意見は?」「私?」 「ネット上で過剰な悪意を向け合ってるのはいつもの事だけど、それだって以前の人間よりは余程進歩してたでしょ」 一呼吸。「電子の世界で言葉の刃を向け合う方が、現実の世界で撃ち合ってるよりマシ」 「負けた方は枕を涙で濡らしてんだろうけど、地面が血だまりになってるよりはこっちの方がいい」 「模範解答だな。頭打ったのか」「私がまともな事を言うくらい世界が狂ってきてるだけ」「違いねえ」 「もちろん私だって負けるのは嫌だよ?誰かのハケ口にされんのもね、でも」 「……よりマシなクソが何かはわかってるつもり」マスキングテープを取り、塗装を始めた。 いくつかのビルが燃え上がっている。指揮官は私に暴徒の尋問をパス。 指揮官は一定のリズムで奪ったバットを地面に打ち付けている。効果は?てきめん。でも有効な情報は出て来ない。 現地警察のバンにこいつらを放り込み、彼はベンチの上のゴシップ誌を拾う。表紙にはVR中毒者に関する記事。 「それぞれの理想の暮らしが出来れば、争いは起きないんだろうがな」「そうならないからこうなってんでしょ?」 「仮想現実なら出来るかもしれんだろ?」ページを見せる。「意味あんの?この前見た……気の毒な人みたいになって」 「現実よりは苦痛は少ない」「映画じゃないんだから」指揮官は俯く。「俺、FIREしてこれになりたかったんだよ」 「嘘でしょ?」本心からそう言った。「本当、でも結局、アレを見て、グリフィンで稼いだ金の使い道、見失って……」 私は目を回した。 「……どうでもよくなっちまった」 二人でベンチに座った。サイレンが鳴ってるから雰囲気は最悪だった。鳴ってなくても最悪だけど。 「……俺は最初から、ここから出たかったんだ」 「……ねえ」指揮官の手に手を重ねる。 「……ここにいてよ。私もいるからさ」 10 信じられる?街中で医療物資を運ぶ為に、いくつかの戦術人形とでトラックを護送しなきゃいけなくなるなんて。 私は今も昔も配信者だって自負はあるけど、ステルスモードで行かざるを得ないから……配信は出来ない。 「MDR」指揮官が口を開く。だいぶ酷い顔だった。美醜の話じゃなく、顔に現れる精神状態って意味。 「何、続けて?」「この騒ぎ、いつまで続くと思う」わかるわけないじゃん、と反射的に答えようとした。 「人は大小の敵意を抱え持ったまま生きてきたが、それをこの現実で本気でぶつけるようになっちまってる」 「少なくとも昔は全員が全員にとっての敵って状態で過ごしてたとしても、ネットでの争いに留まってた」 「このままじゃ人類が滅ぶまでやっちまうぞ。人類が今全員進化して争わなくてよくなるんならいいが、無理だろ?」 自慢じゃないけど、私は演技が上手くなってきている。 「私達が少しずつ仕事をして、この暴動を……もう紛争なのかな……抑え込んでいけばいいだけ」 「制御下に置ける程度に規模を縮小すれば、一過性の動きだったって事に出来るはず」 「アアアアアアアーッ!」暴徒が移乗攻撃を仕掛けてきた。 「今真面目な話してんだ」指揮官はそいつの頭をブチ抜いた。サイドミラー越し、アスファルトの上で踊る。 ロープを張った銛がドアに突き刺さり、指揮官のベストの表面を裂く。「取れ高が勿体無いな」とだけ呟いた。 綱を渡って来ようとした奴等とそれの出所たる車両に向けて指揮官は弾を吐き出す。 火が見えた。「伏せて」私は指揮官の後頭部に銃身を乗せ、火炎瓶を撃つ。悲鳴。それから窓を出てロープを撃つ。 銛の後部を叩き、内側に招く。それから引き抜いた。「OK」さて、半自動運転機能はこういう時に役に立ちます。 元の席に戻る。「お前、配信者のクロだろ!引きずり出してオモチャにしてやるからな!」拡声器越しの声。 助手席側から車両。「やってみな」私は銛を投げ、銛はドライバーに、車両は電柱に…… 目当ての病院は人形と現地警察とPMCが重武装で守っていて、休戦中の塹壕じみた有様だった。駐車場に案内される。 「ねえ、世界も人類もクソに見えてて、それで生きるのが苦手になって来てるんでしょ?」無言の同意。 「でも……ほら、善意は残ってる。私が指揮官を支える事も、私達がこういう事をしたりも出来るんだよ」 11 私はコイバナと人生相談を兼ねた話をしていた。 「MDR、一ついい事を教えてあげましょう」電話越しに、指揮官の上司の一人はそう言った。 「もったいぶらないでください」「プランA以降を大量に用意しなさい」 「つまり?」「恋人、犯罪者。ジャンルは違うけどやる事は同じ。計画とアドリブを巧妙に織り交ぜる事」 「続けて」「無計画に正面から突撃してもいい。時間制限がある時は特に」 「あなたはどうしたんですか?」「他の女にかっさらわれる前に告白した」 なるほど。 「でもあなたの場合、死神にかっさらわれる前にやった方がいいわね」「不安定な人だって、知ってます?」 「繊細過ぎるきらいはあったけど……それとは別に、この職場が3Kなのもわかっているでしょう?」一呼吸。 「パートナーの何が良かったのか、他の人に聞かれるかもしれないけど……そんなの気にいったからでしかない」 「人間、人形、鹵獲ネイト、全ては人の勝手……言ってる私が言うのもなんだけど、実際、何が良かったの?」 「……何年も付き合ってれば、ああいう男でも情が湧くの。別にいいでしょ?」 指輪を弾く。私の顔と倉庫が連続する。 指輪をキャッチした。私は輸送車両の中で、例によって助手席に座ってた。指揮官はドライバーだけど、今は休憩中。 「誓約する相手とか、考えてたりしたの?」「何だよ、いきなり」「文字通り。直球の質問」「いや、誰もいない」 指揮官はシートに後頭部を押し付けるように伸びをした。簡易シャワーが倉庫に併設されてたから、シートが濡れる。 「仕事する事だけ考えてたの」「そういうことだ」「死ぬ事も?」「そうだな」「何よそれ」私は笑う。 「浮いた話は無い、鬱な話はある。どういう事?」「お前らだって誰もが誓約したがってる訳じゃないだろ?」 「そうね……」「したらどうするんだ」「幸せになる?」「なれるかよ」「わからないでしょ……」「わからねえな」 黙る。 「ねえ、試してみない?」「何をだ」「ひょっとしたら幸せになれるかもしれないじゃん?」指揮官は黙った。 指輪を押し付ける。「誓約した奴が死んだら悔やむだろ。お前の責任にしたくない。俺はこれ以上遺恨を残したくない」 「だからよ」私はそう答える。「そうかよ」「意味わかんないでしょ?」「まぁ、わかるよ」「なら受け取りなさい」 指揮官は天井を見ていた。 12 社用車。 「通信、聞こえてる?」上司。「快調」指揮官。嫌そうに。「聞きたくないでーす」私、MDR。 「ガラテアが後ろ暗い感じだって噂くらいは聞いた事はあるでしょ?」「同僚がそう話してましたけど」 「今回の問題はその系列企業なの。遺伝子操作したアレが闇で出回ってるって話は?」「あー」 「うちの社員、何人か押収したアレを使ってるってゲロったんだけど、あなたはやってないわね?」 「さて、コーラップスを溜め込む植物があるって都市伝説があるけど、問題の企業はそれを応用した兵器を作ってる」 「長期化する暴動で警察が疲弊した中、市中がELIDまみれになったらさぞ楽しい事になるでしょうね」 目で合図。セルフチェック。自動運転に切り替え。指揮官は装備を着込み、私とで相互にダブルチェックした。 「あなた達には悪いけど鉄砲玉になってもらう。まぁ、必要な装備は渡すけど、ダミーは無し、追加人員も無し」 「自動運転、衝突にセットしとけ」「脱出の脚は?」「本当に鉄砲玉になってどうするの、真面目にやりなさい」 怒られた……さて、オフィスに着きそうです。配信?禁止です。ブーイングしても無駄でした。 「私、出来るだけ支援する準備は出来てるけど、そっちのメンタルの方は大丈夫?」 「最高、絶好調」さんざんドゥームスクローリングして夜を明かした時の声色で。こりゃヤバいな。 「心配するな。寝返ったりはしない。俺はグリフィンの契約は守るからな」「契約守って死なれたら、私泣くからね」 「なんだそりゃ。お前、俺が死んだらダセエ奴だったって配信中にバカにしたりしろよ」「ね」呆れないし、怒らない。 「長年戦っててそんな事言えるわけ無いでしょ?それに死んでほしくないから指輪だって渡して引き留めてんの」 「俺をそんな風に見るな」「最初の時はそうしてたよ。でももうそうならないの。諦めな。あんたはそうして生きるの」 ……曖昧な笑みを返された。最悪。 私は徹甲弾だけ、指揮官は徹甲弾と慣れた銃と外骨格。要するに必要な装備とは徹甲弾だけだった。 突入した。私が引っ張っていこうと思ったけど、そんな必要は無かったみたい。息を合わせて息の根を止めていく。 オフィスに突入した。中の男は主犯格。今回の主役です。イェー。ほら、喜ぶところでしょ? ここはパラデウスつながりだって聞くけど、ネイトは来ない…… 「今すぐその計画を止めな!」とMDR。 目の前の男は拳銃を向けて来るが、俺は構わず計画書を手に取り読む。 面白い事考えるな。アレとエピフィラムなる植物を生物工学的に組み合わせると、気分のいいELIDが出来るらしい。 普通のELIDは主観的に気分が悪いらしい。何でだ?世界を始末するだけならこうする必要も義理もない。 ……ああ、始末するったって、される側を少しだけでもマシな気分にしてやりたいわけだ。 なるほど。 「少し話し合わないか?」俺は銃をデスクに置いた。「バカ!何やってんの!?」 「お前、世界を良くしたいんだろ?」「僕は……そうだけど、それがどうした?君はそれを止めに来てるんだろ?」 「まぁ、そうだな……なあ、俺達って、人類が嫌いって事で一致してると思うんだ。仕方ない奴らだ。俺も含めて」 「ハァ!?」MDRを手で制す。「何て言うべきかな。そうじゃない事を証明したいんだよ、ここで」 「世界はゆっくりと良くしていけるはずだ。だからお前を撃つのをやめたい」男は……拳銃を下ろした。 それから俺を突き飛ばした。 なんで? なんでって……そいつの胸に、穴が開いて…… なんてことを。 そのネイトは信じられないものを見たような顔で叫んだ。 「何敵にほだされてんだ!このバカ男!」 ……それはまぁ、そうなんだけど……でももう、どうしようもないか。私はオフィスを飛び出した。 「おい、死ぬな」指揮官のボディカムによると、この男は認証を最後に行った。それから笑い、声も無く喋る。 必死でやりあってる内に弾が切れた。ナイフを抜き、手招きした。ネイトは笑い、腕から刃を展開した。 作戦報告書を送信すると、すぐに上司から通信が来た。俺はそれに出る。 「辞めるつもりね。同僚達に迷惑をかけたくないのと、これ以上悪化したら死人が出かねないから」 「え?まだ俺は何も言ってな……」「彼女はそろそろそういう理由で辞めるかもしれないって言ってたわ」 睨みつけると、両手を上げる。「休職と治療にしてくれない?」理由もセットで言うと、上司は切った。 「離職率でつつかれてる」「ハ……しょーもな」彼女は笑い、少し黙った。それから口を開く。 「別にどっちでもいいけどさ、生きてるならそれでいいじゃん」「クソみたいな世界でもか?」 「……全部がそうってわけじゃないでしょ」 あとがき この話に限っては指揮官とMDRの一連の話として纏まった形として作れたので、こうしてテキストとして出せる。 この話について 人形にしか救えない人間がいるかもしれないという一話の初期の構想から広げていった。 後は良くも悪くも人は信じたい事を信じるなど。 十分強い人なら裸足でも歩けるけど、そうでもない人は道具、社会、システムなどが必要で、それらの積み重ねが文明となるけど、その文明も維持していく意志や能力が必要で…… 今までは人間だけでやっていったけど、ある時点で人形のような高度なAGIでもなければやっていけなくなるんじゃないか?というか。人類の能力の限界、みたいな。 色々考えてる事があるけど長くなるのでここまで。