「ああ、行っちゃった…」 助けた女の子は事情を聞く間もなく退散してしまった。一応、一般人なら先刻までの記憶の処理も必要とするのだが… 「火神!無事か!」 そんな事を考えていると、451の先輩が1個小隊を引き連れて倉庫に駆けつけてきた。 「私は無事です!でも…」 「無事なら良い。こうなると分かってりゃお前1人で行かせることもなかったんだが」 女の子が、とまで言いかけて先輩の言葉に遮られた。 「この場で行われてたのはブライト商会会長、簒奪の魔法使い直々の非合法取引だったようでな。 最近代替わりしてお前くらいのガキンチョが就いたって話だが、それでも危険な相手には変わらん」 あの場にいて自分くらいの年齢の、というとさっきの女の子しか該当する人は居ない。まさか彼女がその会長だなんて。だとしても、彼女の礼儀正しさと先輩の語る悪名が噛み合わない。 「ブライト商会って、そんなに危険なんですか?」 「ああ。魔法使い相手に商売してるだけならいいんだが、一般人や異端者にも魔法の物品を流してるって話だ。俺達にとっちゃこれ以上ない目の上のたんこぶさ」 「まあいい、ともかく撤収するぞ。報告書は俺の方で書いといてやる」 未だ実物と印象の乖離が否めないが、ともあれ報告書も免除されるし、あの子とはまた会える気がするし、今日は帰る事にしたっていいだろう。 ──── 「って事があの後あってねー」 「そして貴方はその”危険な”会長を街中で見つけるや大声で名前を呼んで手を振ったり、言うに事欠いて流行りのスイーツを馳走になっている訳か」 「まあ、ブライトちゃんはなんとなく悪い人じゃないって思ったし、もうお友達みたいな人だし。 それにブライト商会だって、それが必要でそれがあると助かる人に物を売ってるだけで、悪い人達じゃないんでしょ?」 「そこは想像にお任せするが、とても451の人間とは思えない発言だな」 「あたしは秩序っていうより、普通の人達を守る為にって感じだからねー。こっち側での生活も好きだし」 「あたしは、こっち側を守る為なら何でもするよ」