でも、冬になると嫌な事を思い出してしまいますわ。
作り笑いをする日々、ロケバスの劣化したビニールの匂いと張り詰めた車内の雰囲気
慣れないダンス。口パクがズレた事を後日、東さんに詰められる日々。
TVの中ならあんなに楽しいはずのバライティ番組の収録現場。
現実では笑い一つ起こり得ないような張り詰めた現場。忙しなくカンニングペーパーをめくるスタッフさん、誰かの舌打ちが常に響いていましたの。芸能人という名の中年男性の下賤な笑い。どこかしらで必ず当たる視線。誰がわたくしを見ている事がこんなにも怖い事だとは思いませんでしたわ
くるみさんの事をどうしてもっと早く護れなかったんだろうと悩む毎日が続いてましたわ
きっと、わたくしにとっても。限界が来ていたのですわ。
くるみさんが隣の席で泣いていたあの日、わたしはくるみさんから逃げ出してしまったのです

きっとこれは一生の悔いるであろう後悔になりますわ
過去の自分に会えるならあそこで「逃げないで」って告げますわ。
おかげでくるみさんは壊れてしまい。けどわたくしを必要としてくれている。
嬉しいと悲しいが同時にせめぎ合ってきますわ。この気持ちをどう昇華したらいいか、わからない。
技量に見合わない、高級ラケットは随分前にロッカーに閉まって久しい。

「北海道じゃ雪みたいですね」
TVのニュースでは冠雪する雪景色と都市群を映すニュースばかり
「みなみぃ、雪見たことある？」
くるみさんが尋ねる
「ええありますわよ…城州じゃなくて東京ですわね、くるみさんがいない時に」
そう、くるみさんが壊れてしまった後、代々木某所のスタジオは雪がちらついてましたの
それまでは朝から氷雨が降っていましたわ
あずまさんがスタジオから飛び出した頃に雨脚が強くなって。
きっと、ずぶ濡れになりながら行くあてのない街を走り抜けてた事だと推測しますわ。
「あと年末年始は北海道で過ごす事がありましたわ！その時しか使わない別荘をお父様が譲り受けて。それから冬は北海道と我が家ではきまっていますわ」
「へぇ…別荘あるんだ、みなみぃの家すごいね」
「あっても飾りのようなものですわ。新得町って聞いたことありません？」
「ない」
「わたくしも別荘に行くまで知りませんでしたわ、北海道のここ」
わたくしはスマホを取り出し、「ぐーぐるまっぷ」を開く。日高山脈をスワイプし、別荘を「ぐーぐるあーす」で魅せる。別荘を写した空撮写真がばっちりと確認できる。

「何もない所ですわ、新得。リゾート開発で失敗したって叔父様がいってましたね。白い世界とスキー場と日高の峰々を見下ろす本当に白だけで描かれた世界」
「すごいなーくるみもいきた…」
くるみさんが出かけた言葉を引っ込めてしまう。
「いきたいけど…くるみ…ここから出るのが怖い」
今、くるみさんは週に一回か二回高専に行くのがやっとです、これでもよくなったのですよ？
「ここ」というのは…城州の街から出るのが怖いのだと思いますわ。夏にお墓参りに出かけた際も、くるみさん怯えてましたわ。
「でも年末年始は実家に帰らないと。みなみぃもおとうさんおかあさんと別荘で過ごすんでしょ？」
くるみさんが上目遣いで聞いてくる。瞳は泳いでいて、焦点が定まらない。
「ここ数年お父様もお母様も忙しくて…行っていませんわ」

　わたくしのお父様とお母様は多忙ですので会う機会は夏休みとお正月の大型連休くらいなものでしたの。
でも、今年は一度も帰って来ませんでしたわ。きっと私達がアイドルをやっている事もくるみさんと一緒に暮らしている事も大学に受かった事も一度も大学に通ってない事も
きっと頭の片隅には存在するけど今は我が子より大事な事があるので後回しにされてるだけですわ。
ただ広いだけの乾いた我が家に一人暮らし。そこにくるみさんという光があるから今は地下室はほんのり温かい。くるみさんからオレンジ色の明かりが灯されているように感じますわ

あいつ

「くるみさん…雪景色？みたくありませんこと？」
わたくしは切り出す。明るい笑顔を作って、できるかぎり影を作らないように笑って。
「別荘…いくの？お父さんとお母さんは？」
「いませんわ、だから二人で行きましょう！」
「そんな事していいの？」
くるみさんが首をかしげる。
「いいんですの、高校の「卒業旅行」を一年遅れで決行すると言えばお父様も承諾してくださるわ、お父様はわたくしがやりたい事を否定する方ではありませんわ。それに私達もう18歳よ？」
「18歳」
「選挙権があって、ある程度の大人の権利が認められてそういう年ですもの。何かあったら私達の責任になりますけど。それを行える年齢になりましたの」
そういう年になったのだから、自分で何かをやりたいと思った…なんだろうお蝶夫人になりきる事よりも、東さんの友達になりたいからアイドルを無理やり続けるよりも
もっと、もっと、自分を自分を出したい。そんな気持ちでしたわ
そして、その気持ちをくるみさんと表現したい。それだけがわたくし達を突き動かす

「いいけど…くるみがいたら迷惑にならない？」
「わたし一人じゃきっとお父様も許してしてくれませんわ。知ってます？新得の街は吹雪で通行止めになると陸の孤島になりますのよ」
「どういうこと？」
「だれも助けてくれませんの、積雪で電線が切れたら電気がが止まりますわ。そういうとき私一人じゃ心細いでしょ？それにお友達二人じゃないと『卒業旅行』になりませんわ」
「じゃあさ？吹雪になったらその別荘でくるみとみなみぃは『ふたりぼっち』になるんだぁ」
くるみさんがにやぁっと笑った。その笑みにはなにか含みを感じますわ。

「そうですわ、いつまで続くかわからない停電を暖炉で温まりながら凌ぐのですわ。まぁ電話さえ通じれば助けがきてくれますが」
「いいなぁ…くるみもみなみぃと『ふたりっきり』になりたいなぁ」
「ええ、そうですね…くるみさんとふたりっきり。白の世界が支配する中、ふたりだけ。わたくし達だけの世界」
くるみさんの笑みが含む物を理解（わ）かった気がする。笑みとは獣が牙をむく行為が原点であると本に書いてありましたわ。
「いいなぁくるみとみなみ…ふたりだけ」
「別荘の半径10kmには雪原と森林しかありませんわ。遭難したら死にますけどよろしくて？」
「いいよ、みなみと一緒ならくるみ。どこまでもいくもん」
「わたくしもよ？くるみさんとわたくし『だけ』の世界で、生きていきたいですわ」

私はくるみさんを抱き寄せる。地下室の間接照明がまるで包み込むように私達を照らしている
明るい光だ、消して後ろ向きじゃない。光が眩しいほど影が長く、色濃く残る。けどもう振り返らない

―――神聖な瞬間がここに訪れる。

>―――神聖な瞬間がここに訪れる。
美しい…

ら？」
「くるみスキーしたことない」
「わたくしが教えてあげますわ、これでも覚えがありましてよ」
「みなみぃが？ほんとうにぃ〜」
くるみさんの声に明るさが戻る。わたくしもなんだか楽しくなってきましたわ
修学旅行やもっと前をたどると初等部の遠足の前の夜の事を思い出しますわ
くるみさんとふたりきりで旅行！ワクワクしかありませんわ
「でも…みなみぃずっといっしょにいてね、くるみ、怖いから」
私はくるみさんの掌を強く握る。

「安心してくださいくるみさん、日高の雪原には誰もいませんわ。きっと城州にいる時よりも人の目を気にせず外を歩けますわ。わたくしとくるみさんしかいない世界なのだから」
「いいなぁ…いいなぁ…みなみとふたりきり」
そう、くるみさんが私のことを必要としてくれている。だからつないだその掌を強く握り返さないと。
みなみさんがわたくしを頼ってくれる。それだけで生の充足を感じる。モヤモヤした気持ちが昇華されていくのを感じますわ！

くるみさんはタブレットでサホロリゾートを調べている。明るいくるみさんの姿を見れてよかったですわ
「さっきのTVだと溶けてベチャベチャだったけど北海道ってもう雪つもってるの？」
「クリスマスの頃には都心部でも真っ白い世界ですわ。新得は気高い山ですから冠雪も早いですわ11月の末にはもう真っ白ですの」
「たのしみだなぁくるみとみなみ…くるみとみなみでふたりきり」
そうやって二人、ベッドで話していたら
気がついたら眠ってしまいましたわ
くるみさんとここ半年以上、今という刹那を生きていましたけど、「明日が楽しみ」と思えたのはきっと今日が始めて
摂氏13℃肌寒い地下室をセラミックヒーターの熱が徐々に温めてくれる
わたくしはくるみさんの体温を感じながら眠りにつく
わたしは誰かの為に存在している。それが今、一番しあわせ。

あいつ

南さんさぁ…

>作り笑いをする日々、ロケバスの劣化したビニールの匂いと張り詰めた車内の雰囲気
>慣れないダンス。口パクがズレた事を後日、東さんに詰められる日々。
>TVの中ならあんなに楽しいはずのバライティ番組の収録現場。
>現実では笑い一つ起こり得ないような張り詰めた現場。忙しなくカンニングペーパーをめくるスタッフさん、誰かの舌打ちが常に響いていましたの。芸能人という名の中年男性の下賤な笑い。どこかしらで必ず当たる視線。誰がわたくしを見ている事がこんなにも怖い事だとは思いませんでしたわ
南さん視点のアイドルパート重いというかキツいな…

これは…光のみなくる？

南さんさぁ...
いいよね

>笑みとは獣が牙をむく行為が原点であると本に書いてありましたわ。
南さんは…シグルイとかお好きなお方なの？

>作り笑いをする日々、ロケバスの劣化したビニールの匂いと張り詰めた車内の雰囲気
>慣れないダンス。口パクがズレた事を後日、東さんに詰められる日々。
>TVの中ならあんなに楽しいはずのバライティ番組の収録現場。
>現実では笑い一つ起こり得ないような張り詰めた現場。忙しなくカンニングペーパーをめくるスタッフさん、誰かの舌打ちが常に響いていましたの。芸能人という名の中年男性の下賤な笑い。どこかしらで必ず当たる視線。誰がわたくしを見ている事がこんなにも怖い事だとは思いませんでしたわ
南さんさぁ
これじゃ私とのアイドル生活が辛かったっていいたいの？

>―――神聖な瞬間がここに訪れる。
>笑みとは獣が牙をむく行為が原点である
闇の南さんは山口貴由先生がお好きな方なの？

みなくる助かる

>―――神聖な瞬間がここに訪れる。
これを見に来た

>これじゃ私とのアイドル生活が辛かったっていいたいの？
そうですわ
楽しかったら今頃東西南北は解散してませんわ！

今の南さんとくるみちゃんの関係は共依存だよ…変だよ…怖いよ…

二人だけで旅行なんて知らなかった！
私も連れてってほしかった！
友達って言ってほしかった！

美嘉ちゃんはニコニコキッズの先輩と性夜を過ごすんでしょ！

>今の南さんとくるみちゃんの関係は共依存だよ…変だよ…怖いよ…
そんなのおかしいわ！
くるみさんと生活をしてくるみさんと一緒にお料理をして夜になったら二人でお散歩に出かけてコンビニの光をいっぱいに浴びながらお買い物をしながらお話する
それがどれだけ幸せな事かわかってらっしゃる！？

みなくる怪文書を追っていると南さんとくるみさんがもう抜け出せないレベルで同棲生活というなの監禁…沼にハマっていく過程が垣間見える

東ちゃんはもう再びアイドルをやっているのに…

>東ちゃんはもう再びアイドルをやっているのに…
「あずまちゃんごめんねあずまちゃんごめんねあずまちゃんごめんね」
TVに東ゆうメンバーが映る度に赦しを乞うように謝り続けるくるみさんは美しいですわ
これ以上の芸術作品は存在致しませんわ
くるみさんもうあやまらないで、くるみさんは何も悪くないのですよ？

南さんさぁ…くるみちゃんとのふたりだけの世界に酔いしてるだけじゃない？

そうですが？東さん何かおかしくて？

この世界線の美嘉さん何をしているの？

美嘉さんは夏ごろには妊娠してましたわ

テレビの中では笑顔でアイドルやっている東ちゃんも、仕事が終わってアパートに帰ると東西南北が一緒に居た頃の写真が壁中に飾られてる小さな部屋で体育座りしてそう

朝から濃厚なみなくるありがたいですわ

過去ログが消え始めてるのでどこかのタイミングでおまとめがほしいですわ

欠けた穴をニコキッズの先輩と子どもで埋めようとする美嘉さん素敵ですわ