「うぇーい飲んだなぁコーチぃ、もう一軒行こーぜ」  その夜も杏里はよく飲んでいた。ペースは速く、咎めようにもテンポよくグイグイといくものだからいつ体調を崩すのかと不安に駆られる程であった。  肩を無理矢理組まされ、ふらふらと歩く杏里を半ば介護する様な形で道を歩く。そのそばを同じく不安げな顔で詩絵が続き、少し離れたところで入華とみちるの二人だ。 「もう杏ちゃんってば。あんまりコーチに迷惑かけじゃだめちゃ?」 「いーのいーの、可愛いドルフィンを気遣ってくれよコーチぃ」  これはダメだと判断してコーチは詩絵にかぶりを振ると、自分が杏里を介抱すると伝えた。困った顔でコーチだしね、と微笑んで。  こう言われては詩絵も呼び止めるわけにもいかない。まだ若い入華とみちるを放っておく事もできない。仕方ないとためいきをついて、 「杏ちゃん。ちゃんと後でコーチにごめんなさいすっちゃが?」 「わかってる、わかってる。また明日なトシエー」  そうして杏里はこちらの肩を鷲掴みにしたままで二軒目の店に行く……と思いきや、詩絵達が帰ったと判断するや否やさっきまでの酩酊具合は何処へやら、安堵した顔でため息をついた。 「あっぶねぇ、流石にもう騙せなくなってきてるからな。こうでもしねぇと……」  杏里が下手な芝居を打っている事は既にわかっていたので、そこまでするのかと思わずジト目で見つめてしまう。あとで詩絵にバレてしまったら大変な事になりそうなものだ。  演技である。杏里はわざと二人きりになる為に酔っぱらって手がつけられなくなったフリをしていたのだ。 「そんじゃあ二軒目は、アンタの家にするか」  そう言って杏里はぎゅっと腕に豊かな胸を押し付け、にやりと笑った。    二軒目と称して部屋にやってきて杏里が最初にやった事は買ってきた缶ビールを開けて二次会開始の号令である。どっかと適当な場所に座ると心から美味そうに酒を流し込み、にんまりと笑った。 「っはぁ、やっぱいいわ。ほらコーチも座れって」  言われた通りに腰を下ろす。家について早々に何かされると思っていただけに、少しばかり予想と異なっている。  童貞を卒業させてやると言われホテルに連れ込まれた夜から一か月。あれから杏里と二人きりになってから体を重ねる事はお決まりになっていた。どちらかが誘うわけでもなく、酒を飲んでいたらそのまま流れでという形が殆どである。そういった経緯を踏まえると今回杏里の方から誘うというのは、どういった意図があるのか考えざるを得なかった。 「店も良いけど、こういう宅飲みも良いよな。気ぃ遣わなくていいし、それに」  と、ゆっくりと杏里がもたれかかってくる。 「ちょっとくらい甘えても文句言われないしな?」  桃色の唇が妖しく光る。まさにスイッチが入ったかの様な姿にドキリとするのに合わせて、いつの間にか杏里の片手はこちらの股間へと伸びていた。  ズボンの上から形を確かめる様に指先で撫で輪郭を炙り出す。そうして今度は硬さを味わおうと指が膨らみを揉みしだく。布越しの感触にムズムズと膨らみは大きくなり始め、窮屈そうに持ち上がった。 「期待してたな……? このスケベ野郎」  にやりと杏里が笑う。顔をほんのりと赤くさせながら、負けじと彼女の太ももに手を置き、優しくさする。アスリートらしくたくましい太さで、さながら木の幹だ。  互いに相手に触れ合う事が数十秒程続いてから、示し合わせる様に唇を重ねた。最初は柔らかく触れる程度に、数回。途中から唇を吸い始め、そして最後には舌を入れる。流れる様に体もぴったりとくっつけて、二人は床に倒れ込んでいた。 「んちゅっ、ちくしょう、入華がよ……最近杏里さんとコーチ一緒にいる事多いですよねって笑いながら言ってくるんだよ。あいつに言われるとなんか、変にドキドキしねぇか?バレてんじゃないかってよ」  舌と舌を絡ませ、吸い合う。息ができなくなるくらいにキスをして、相手の体に手をまわして身を寄せ合う。  衣擦れの音、ぴちゃぴちゃとなるキスの音、そして時折漏れる淫らな声。二人の中でやがて欲望はどんどん大きくなりつつあった。 「ぷはっ、はぁ、あちぃ、あちぃよ」  杏里はぶつぶつと呟きながら上着とシャツを脱ぎ捨てる。黒い下着も適当に放り投げると、だぷんと擬音が聞こえてきそうな乳房が姿を現す。 「アンタも脱げって」  そうするよりも先に杏里の手でシャツのボタンが外され、中途半端に脱がされたかと思いきやそのまま汗ばんだ首筋に舌が這う。彼女はこれが好きなのだと最近になって気付いた。必ずと言って良い程に首筋を舐め、そしてキスをする。毛づくろいをする猫の様にじっとりとした舌使いなのだ。 「ふー♡ふー♡早く下も脱げよ、どうせキツいんだろ」  ベルトを外し、パンツごとズボンを脱がされる。弾ける様な勢いで男根が屹立し、杏里が感嘆の声をあげた。 「あいっかわらずデッケぇの。待ってろよ、今日はいつもと違う感じにしてやるから。ほらベッド行くぞ」  一応部屋の主は彼女ではないはずなのだが、慣れた様子で杏里はベッドへ向かうと手招きしてくる。端に座れというので腰を下ろすと、ビクビク震える男根をおもむろに杏里は乳房で挟んでみせた。  柔らかいという表現では生ぬるい。包み込まれる様な感覚に思わず声を漏らす。潤滑油として杏里が唾液を垂らして何度か乳房を動かすと、ぬちゃぬちゃといやらしい音が聞こえた。 「知ってんだぜ。アンタがアタシのコレ見てるの。入華達じゃなくてアタシのばっか見てるよな」  それはもちろん杏里だからである。と恥ずかし気に応えると、彼女は顔を赤くした。これも可愛らしいポイントである。直接的に言われると内容が多少破廉恥でも杏里は恥ずかしがる。 「ばかっ。気持ち悪い事言うんじゃねぇ……アンタに見られるせいでアタシもたまに恥ずかしいんだからな」  一度、更衣室に連れ込まれて体を重ねた事がある。ジェットバトルの練習直後という事もあり汗と水でぐしょぐしょになった状態で杏里は強引にキスを迫ってきて、最終的にベンチの上で対面座位の形で絶頂を迎えたのを覚えている。 「今日こそ、今日こそアタシが上でアンタが下だ。ぜってぇヒィヒィ言わせてやるから、覚悟しろよ」  乳房が男根を挟んだままで上下に動き、柔らかな感触が亀頭を刺激する。これでは射精まで間もない。  焦りが表情に出ていたのだろう。杏里は目に見えて優越感のある笑みを浮かべ、ストロークの速度を速める。  ぬちゃぬちゃ、たっぱん。空気の混じった音が何度も続く。 「そらイけっ、出せっ……!」  耐えきれずにパンパンに膨らんだ亀頭から精液が吐き出される。ちょうど谷間にすっぽりと収まっている状況での射精となり、杏里の胸の中で男根は何度も震えた。 「う、うおっ!?出しすぎだろ幾ら何でも、い、いつまで出てんだよ」  いつもより長い射精を終えて、乳房から男根が解放される。双丘の間は精液にまみれてむわっとしており、生臭い匂いが近づかずとも感じられた。  恐ろしい事に、かなりの量を出したにも関わらず勃起は収まっていない。それどころか予想外の射精に少しばかり青ざめている杏里の表情で更に強靭さを増している様子だった。 「な、なに元気になってんだよ。わかったよ、それじゃあ最後まで搾り取ってやる。覚悟しろよコーチ……!」  今回は絶対に自分が上。杏里はそのつもりなのだろう。今度は乱暴にこちら寝かせると、下も脱いで騎乗位の姿勢を取る。びしゃびしゃに濡れてローションの必要もない秘部に亀頭を押し当て……後は腰を深く沈めて挿入するだけなのだがぴたりと動きを止めた。 「なんか、デカくねぇか……こんなん下から挿れて、アタシ大丈夫かよ」  急にしおらしくなり、杏里は不安を浮かべた表情で見下ろしてくる。いつもよりもずっと弱弱しいその姿に、男根はまた大きくなった。早く入れたいと言わんばかりに亀頭が秘部を撫で、杏里は唇を噛んだ。 「ちくしょう……わかった、わかったから最初はゆっくり行くぞ。良いか? ゆっっくりだぞ、急に入れたりしたらアタシぜっ―――」  少し面倒だと感じ、腰を両手で掴み一気に挿入する。真下から思い切り男根が杏里の体を突き上げると、彼女の唇から、 「ごおっっっっ♡」  と凄まじい声が漏れ、ぐったりと倒れ込んでくる。  挿入した瞬間に絶頂を迎えてしまったらしい。乳房を胸板に押しつけたままの姿勢でビクビクと震え、息も絶え絶えな吐息が吹きかけられる。 「ばかっやろっ、ゆっくりだって、言ってんじゃねぇか」  しかし騎乗位をやるからにはゆっくりだなんて難しい話である。挿入しただけでこれでは到底できないのでは? 「ち、違う。今のはちょっとした偶然んっ♡だから、次は絶対にアンタを先にイかせてやるぅっ♡ おおっ♡ バカ動くなイっちまう♡」  ゆっくりと腰を動かすだけで杏里はとろけ始め、こちらの両肩に手を置いたきりまるで自分から動く様子がない。完全に腰砕け状態だ。 「ひぃっ♡ひぃっ♡頼む、ちょっとタンマ……頭おかしくなっちまう。アタシが悪かったから、まってぇ♡」  あまりにも溶けている表情に股間がムズムズする。そしてそれ以上に『たまにはこっちがからかってみようか』という気持ちに駆られ、苦しむどころか快感に浸っている杏里の腰から手を放さず、むしろ再び突き上げてみる事にした。  ぐちゅっと水音が鳴り、杏里は快感のあまり後方にのけ反ってしまう。 「ひゃっ♡おうっ♡何かってに動いてんだよぉ、これじゃ、これじゃまたイっちまうじゃねぇかあ♡」  それなら今日荒っぽい方法で皆と離れた事を謝ってほしい。特に詩絵に。それなら動くのを止めよう。 「あ、謝るって……だって、セックスしたくてぇ♡しょうがねぇじゃねぇかよぉ♡おぐっ、おぐっ当たってる♡」  事情を知らないドルフィン達を心配させては悪いから、今回についてはコーチとしてしっかり注意するべきだろう。 「イッ、おっ……あ、謝りゃいいんだよな!? そうすりゃ、止まってくれるんだよな!? わ、かったよぉ♡謝るよぉ。ト、トシッエ、入華、みちるっ、アタシコーチとセックスしたくてぇ、だからわざと酔ったフリしちまったんだよぉ♡ ごめんなさ、いぃ、イくっ、イっちまう♡ ほらぁ謝ったんだから、腰、止めてくれぇっ」  突き上げるたびに乳房が揺れ、空気を巻き込んだタパンという音が続く。杏里の顔は見えない。双丘で隠れているだけでなく、のけ反りすぎているのだ。 「ばかっ、ばかコーチぃ、性格わりぃ♡ いつもはこんな事しないくせになんでアタシばっかぁ♡ おおっ♡」  これ以上は本当に杏里がおかしくなってしまいそうだと判断し、騎乗位の姿勢を無理矢理崩して対面座位の形を取る。これならば突き上げる形は変わらないが、代わりに少し顔が近づく。  乳房が潰れるくらいに体を寄せて、顔を真っ赤にして涙まで流しかけている杏里にキスをする。謝罪の言葉を言うよりもこちらの方がよっぽど良い。 「んっ、んんっ♡ アンタな、これでアタシが許すと思ってんのかぁ♡ 許しちまうよちくしょおっ♡ だから突くな♡ アタシも許すから突く、なぁ♡」  もうそろそろこちらにも限界がやってくる。ガッチリと杏里を抱きしめたまま更にストロークを速める。  いつの間にか二人共汗でぐしょぐしょになっていた。何処を舐めても汗でしょっぱいであろう程に。吸いつくような肌に身を寄せて、一つの生き物になったかの様に無心で腰を動かす。 「いぐっ、いぐっ、イくっ……!! ぐ、ああああああああっ♡」  また、杏里の膣内に射精をしてしまう。中に出してしまうのは最初の夜以来だった。中に出さない様にと心がけていたのだが、今日は完全に頭から抜け落ちてしまっていたのだ。  完全にバランスが取れなくなり、ぐったりとしている杏里を抱きかかえる。呂律も回らずしどろもどろながら、 「すき、すき♡ アタシ、アンタの事……だいすきだ♡」  そう呟いているのが聞こえる。恐らく今の言葉は夜が明ける頃には忘れ去っている事だろう。でなければ少しばかり気まずい。  男根を秘部から引き抜く。うっかりしていて、ベッドにこぼれ出た精液がシミを作る。しまったと思った時にはもう遅かった。 「……おい」  どうやって拭き取ろうか、などと考えていると杏里が呼びかけてくる。どうかしたかと顔を上げると、上気した顔でじっとこちらを睨んできていた。 「い、一回出したくらいでアタシが諦めたと思ったら大間違いだぜ。今度は正面からアンタをイかせてやる……」  どこかの誰かじみた負けず嫌いであるが、既に限界を迎えていながらも必死に虚勢を張るその姿に、恥ずかしながら肉欲は再び立ち上がろうとしていた……。    翌日、遅刻した。  目が覚めるとめまいがしそうな程の雄と雌に匂いが充満していて、ぐしゃぐしゃになったベッドの上で杏里と裸で寝ていたのである。  二人でシャワーに駆け込み、体を洗い合ってからKIRISHIMAの仲間達の元へと向かった。   「二人そろって遅刻だなんて……珍しいですね!」 「ど、どれくらいお酒を飲んでいたのかしら……」 「杏ちゃん!昨日あんげ言うたけんど結局飲みすぎたん?コーチさんも巻き込んだと?」    二人そろって遅刻というシチュエーションながら、仲間達は変に疑いはしなかった。純真でまっすぐな少女達ばかりなのが今回は幸いしたと言えるだろう。  と、申し訳ないと謝っている横で手を合わせてペコペコ頭を下げていた杏里が、   「い、いやぁ飲みすぎちまってさ。悪かったよ皆、ホント、ごめ……」    何かを思い出したような顔で杏里がこちらを見てくる。その顔は、昨夜見た時と同じく真っ赤だ。  あまり覚えていたくない類の謝罪をしたばかりだと気付いてしまったのだろう。本当に、本当に恥ずかしそうだった。