「えー!?嘘だろ、アンタ童貞なのかよ!」    話の発端は小さな大会で優勝して、その祝いで飲みに行った時の事。入華とみちるの未成年組は早めに帰らせて、コーチと二人で飲みに行った。詩絵も一緒に行きたい様だったが、サシで飲みたいという気持ちを汲んでもらった。  杏里より一つや二つ程年下の青年、コーチは人差し指を立てて静かにしてほしいと必死に訴えかけてくる。けれど杏里はあまりにも驚いたばかりに意にも介さずに話を続けた。   「じゃあなんだよ、彼女とかもいないのか……?って忙しいもんな、仕方ないっちゃ仕方ないか」    コーチがKIRISHIMAにやってきてからというもの、見えている範囲でも彼は激務に追われている。杏里達ドルフィンのトレーニングを考え、設備を始めとした細かい部分まで手配している。性根の悪い上層部にも小言の一つや二つ言われているに違いない。  杏里が二人きりで飲もうと言い出した理由はそんなコーチに労いの言葉をかけてやりたいという気持ちからだった。ところが酔った勢いで彼の女性経験に触れてしまっているのだから、だんだんと酔いも覚めて申し訳なさがやってくる。   「……ってか、アタシは正直アンタの事だからてっきり入華あたりとてっきり付き合ってるもんかと」  そう呟くとコーチは首をぶんぶん振って否定する。入華は大切なドルフィンであるし、何よりずっと年下なんだからそんな事絶対にしない、と。  その口振りは遠回しに下心を持っているとも解釈でき、同時にコーチが自制心を持った大人である事を証明していた。入華やみちるが懐くわけである。  であればそんなコーチを労ってやらねばやらない。覚めてきてはいるものの未だ酔ってはいた杏里は一肌脱いでやろうと考え、ジャッキを片手に微笑んだ。 「じゃあ、アタシがアンタを漢にしてやるよ!」  酔った勢いの発言だった。そこまで男性経験があるわけではなかったが、少なくとも童貞のコーチをリードする程度ならば問題ないとタカを括っていた。  半ば強引にコーチをホテルへと連れていく、それまでは。 「ちょっ、待て、一旦待っ、おおっ❤︎」  薄暗い部屋に杏里の嬌声が響く。  自分の中をコーチの男根が開いていく。その感覚に、脳髄まで伝わる快感に視界がチカチカと明滅する。桃色に妖しく照らされた天井が左右に揺れ動きさえする。  両手は既に抑えられていて身動きができない。正常位の姿勢で完全に組み伏せられてしまっている杏里はなすすべなくコーチの性欲をこれでもかというほど押し付けられていた。 「馬鹿っ、馬鹿っ、馬鹿っ」  それ以外の言葉が出てこない。何とか抵抗しようにもコーチが一度突けばその瞬間に杏里の意識は吹き飛びかねない。  一体どこからこうなったのか。ホテルに入り、そしてシャワーを浴びて前戯から始めたのは覚えている。  そうだ、コーチが恥ずかしそうに巻いていた腰のタオルを引き剥がし、予想以上に硬く太く屹立している男根を目にした時だ。あの時に何かが音を立てて崩れ落ちた。年下をリードしてやろうという気持ちよりも、果たして自分が正気でいられるのかという恐怖と期待が湧き上がった。    そうして咥え込み、吐き出しそうになる程の性液を口内にぶちまけられ、ぼーっとする意識のままで杏里はベッドに組み伏せられ、そして剥き出しの性欲をその膣で受け入れていた。  このままではまずいとすぐに判断できた。同時に自分の認識が甘かったとも。コーチが日頃どれだけ女子に囲まれ、女子の瑞々しい肢体を見せつけられながらじっと耐えていたのかを完全に見落としていた。  ぎゅっとベッドのシーツを握る。少しでも正気を保とうと、必死に。  コーチの表情は真っ赤だった。ごめん、ごめん、と漏れる低い声は理性が本能を抑えきれていない様を明確に表している。 「ごめんと思うなら、ちょっと、おちっおちっつけえっ、おぅっ❤︎」杏里の嘆願を聞きながらもなお脳髄に走る電撃は収まる事を知らない。ぐちゃぐちゃと愛液が混ざり合う音、ギシギシと軋み続けるベッド、そして杏里の溺れそうな喘ぎ声……むわっとする雄と雌の匂いが部屋に充満しつつあった。 「あ、あっ❤︎ ああ駄目だ、止まれって❤︎イく、イッちまうから❤︎止まれよこーっちぃっ……❤︎」  その時、直接ではないものの溶岩じみた熱が膣内を広がる。コーチが射精したのだ。 びくんと海老反りになって跳ねる。ダプンと乳房が揺れ、鍛え上げられた太ももがカクカクと震えた。  絶頂に達してしまった事への恥ずかしさ、そして絶頂そのものの快感。杏里は体を震わせながら、ぐちゃぐちゃになった意識を回復させようと試みるが、まるで敵わない。  卑猥な音を立てながら男根が引き抜かれる。幸いゴムをつけていたおかげで膣内への射精は避けられているが、亀頭の先端からダラリと垂れている膨らみには二発目とは思えない程の精液がたっぷりだった。 (あんなもん中に出されてたら、おかしくなっちまう……)  どちらかといえば恐怖を抱いていたはずなのだが、杏里の口元は緩んでしまう。もしもあんな量を全身で受け止めてしまったら、一体どれだけの快感がやってきてしまうのか。  リードしてやりたい、少しでもコーチを支えてやりたい、まっすぐな気持ちを言葉にできないが故に至ったそんな発想が少しずつ薄れつつあったタイミングで、あっとコーチが声を上げた。 ─ごめん、本当にごめん。自分は最低だ。  二度も欲望を吐き出したのだ。頭に昇っていた血も落ち着いてしまったのだろう。ハッとした顔でそう言い出した。  罪悪感に満ちた顔をしている。まるで罪を犯したかの様だ。  そこで杏里はようやく理解する。ホテルに行くぞと提案した時、何故嫌がっていたのか。入華に触れた時にムキになって否定した理由を。 (アタシも大切なドルフィンだってか……)  何よりもまずその気持ちが強いのだ。チームの一員として、コーチとして、欲望に流されてしまった事への罪悪感に彼は駆られていた。  こんな時詩絵ならば慰めていただろう。膝枕でもしてやるか、ぎゅっと抱きしめてコーチを励ましていただろう。生憎杏里にはどちらもできない。  代わりにキスをしてやる。それ以上弱気な言葉など言えない様に舌を入れて、息ができないくらいに唇を塞いでやる。驚いてコーチは杏里を引き剥がす事もできず、そのまま倒れ込んだ。  コーチの手を抑える。男ならば簡単に引き剥がせる程度の力のはずなのに、抵抗はしない。 「んんっ❤︎ んちゅっ❤︎ ぷはっ……❤︎」  ようやく唇が離れた時、銀色の橋が二人の口を繋いでいた。薄暗がりの中でてらてらと光るそれに、杏里の下腹部にじわじわと熱が灯っていく。 「何ビビってんだこの野郎……散々人の事犯しといて謝って済むか?」  ようやく当初の目的通りに事が進む。杏里は首筋に舌を這わせ、ちう、と音を鳴らしながら思い切り肌を吸った。コーチが呻く声に続いて、そこには真っ赤なキスマークが残る。 「ごめんだぁ? 無茶苦茶溜まってたの我慢できなかったんならどっかで吐き出しゃよかったんだよ」  首筋から厚い胸板へ、汗を舐め取る様に舌を動かす。じっとりとした責め方に彼の唇からはか細い声が漏れた。 「でも入華達にはやめといた方がいいな。さっきみたいな感じになったらアイツら多分ぶっ壊れちまう。ここは可愛い後輩と可哀想なコーチの為に、アタシが一肌脱いでやるよ」  下腹部まで舌が降りていく。ついさっき射精したばかりにも関わらず男根は再び勃起し、ビクビクと震えていた。  ダラリと垂れたゴムを剥がしてやり、そのまま亀頭を咥え込む。硬く熱い、雄そのものの味を口いっぱいに感じながら上目遣いでコーチを見つめる。  「ぐぷっ、んぷっ、んっ、ふぅ……❤︎ はぁ、良いか、勘違いすんなよ? アタシはな、チームの為にしてやるんだからな?」  口ではそう言いつつ、秘部へと手を伸ばす。肉壺からは蜜がダラダラと漏れ、いつでもコーチを受け入れる準備が整っている。  まだ出されては困る。程々に口での刺激をやめ、コーチに見せつけるように股を開く。破廉恥な仕草だ。あの陽南杏里が雄を誘惑しているなど、ファンが見たらどんな声をあげるのやら。 「ほら来いよ。好きにして良い。ドルフィンだからとかあんま気にすんな。こういう事をするなら、邪魔な事だろ」  早く。早く来い。  コーチを励ましながら、同時に屹立したそれから目を離さない。鼻息が荒くならない様に、あくまでリードする立場なのだと見せつける様にする。  頭が冷えたのか今度はコーチもゆったりと近付いてきて、最初に優しくキスをしてくる。杏里もこれに応えて互いに舌を吸い合いながらベッドへと倒れ込んだ。  亀頭が秘部に押し当てられる。それだけで声が漏れそうになり、ぎゅっと唇を真一文字に引き締める。  来い。入って来い。アタシの全部掻き回してこい。  腹に力を込め、全身で受け入れる姿勢を作る。そして、予想に反して一気に男根は杏里の奥深くまで入り込んできた。 「ごっ❤︎おおっ❤︎」  一瞬だけ意識が飛ぶ。下腹部から脳味噌にまで電流が迸った。ゴムを外しているだけでこれほどまでに快感が押し寄せてくるなど想像していなかった。  ほぼイきかけている。あんなに堪えていた唇から漏れ出たのは呻きというよりかは悲鳴に近い。  息を荒げながらコーチに目を向ける。不安げだった。眉がハの字になり、今にも泣き出しそうになっている。 (馬鹿野郎、なんて顔してやがる)  もしかしたら怖がってやめてしまうかもしれない。それは避けたい。杏里は咄嗟に身を起こし、コーチの首に手を回すと三度目のキスをした。今度は息ができなくなるなどというレベルではない。じゅるじゅると音を立てて、最早魂でも吸い込もうかという勢いだ。 「ん、ふぅ、んぶ、んん❤︎ ぷふっ❤︎ 早くしろ、さっさと、腰動かせっ」  その瞬間、コーチにもスイッチが入った。我ながら必死な声色になってしまっていた事に恥ずかしさを覚えるよりも先に彼の腰が動き、男根が杏里を抉る。電流が走る。けれど今度は、口をキスで塞いでいるおかげで声は漏れない。  ストロークが始まる。最初よりも優しく、けれど抉り込む様なその力に杏里の意識は吹き飛びかける。  キスをやめてはいけない。でなければみっともない声が漏れてしまう。  ところが、そんな杏里にトドメを刺すかの様にコーチの唇が離れてしまう。快感のあまり拘束を緩めていた事に遅く気付いた頃には彼の唇は首筋を這い、そして自分がされた様に杏里へとキスマークを残す。 「やっ、何すんだ、跡残っちまったらどうすんだよっ、トシエ達になんて説明すりゃ、いいっ❤︎」 ─それを言うなら、こっちもつけられているんだからおあいこだ。  コーチにそう言い返されては、何も言えない。それ以上の返答ができずにいた杏里に仕返しをするかのように彼の唇は続けて豊満な乳房へと向かう。  器用なものである。腰を動かしながらコーチはぷっくりと膨らんでいる乳頭を口に含むと、舌の上でコロコロと転がす。膣と乳房の両方を責め立てられた杏里は遂に言葉さえ出ずに叫び声をあげていた。 「おおおっ❤︎ うおお❤︎ 」  何が童貞だ、手慣れてやがる。誰かに仕込まれてんのか……!  混沌とする意識の中ではそんな疑問も消えていく。  コーチの責め方は上手という他にない。乳房を頬張り、吸いつき、ほんの少しだけ歯を立てて刺激を与えてくる。絶え間なく襲ってくる感覚にいよいよ杏里は腰を浮かし、またベッドのシーツを鷲掴みにしていた。 「ああああっ❤︎ ちくしょうっ❤︎ ちくしょおっ❤︎」  どんどん声がうわずる。部屋全体に杏里の嬌声が響く。みっともない、まるで獣だ。だがそれがどうしたというのか。獣になり、雄と雌になって乱れ狂う事の何が悪いというのか。  もっと続けたい。もっと体を重ねていたい。次第に杏里は足をコーチの腰に絡め、全身で受け入れる姿勢を取ってしまっていた。 「くうううっ❤︎ はやっく、出せ、出せって❤︎」  コーチがギョッとする。膣内に出せという言葉に抗おうとしているようだが、それは既に足を絡める事で手を打ってある。 「い、いいっ❤︎いいっ、いいから、出せってっ❤︎アタシをだりぇだと思ってんだ、一回くらい中に出されたくらいで孕むわけえっ、ねえだろおっ❤︎」  耳元に顔を寄せ、絶頂寸前の呂律が回らない舌で必死に懇願する。それを耳にした途端、膣内を侵略する男根が一気に膨らんだ。 「ごおっ、なんでまだデカくなんだよっ、どうなってんだアンっ、あっ❤︎ああああっ❤︎やめ、壊れるっ❤︎」  ゴリゴリと正気が削り取られる。プライドもへったくれもないとろけ切った顔で、陽南杏里としての精一杯の姿を維持しようとするが、最早何の意味もなさない。努力したところで一度突かれれば、ただの雌に逆戻りだ。  もう耐えられない。このままでは本当に頭がおかしくなってしまう。 ─杏里っ、好きだよ。  ぽつりと、荒々しい吐息に混じってコーチの呟きが混じる。 「へえっ!? 何急に───」  直後に、その時が訪れた。爆発するかの様に、欲望の奔流が杏里の内側へと流れ込んできたのだ。 「イッ、イッ、ああああああああっ❤︎」  とめどなく精液がやってくる。膣へと入り込んでくる。まだ誰にもされた事がない文字通りの侵略に、頭が真っ白に染まっていく。  また痙攣がやってくる。びくんびくんと体が震え、だらりと肢体を投げ出して杏里は肩で息をする。コーチも同様に、ひいひい言いながらとなりに隣に寝転がった。 「急に、変な事、言うなよな……びっくりしちまったじゃねぇか」  心の底から杏里は驚いていた。何故射精する寸前にコーチがあんな事を言い出したのか、これまでの会話で薄々気付いているからこそ、敢えて鋭い口調で呟く。  コーチは申し訳ない、と目を逸らした。 「……明日っからどんな顔すりゃいいんだよ」   ごぽりと股の間から精液がこぼれ出た。かなりの量が流し込まれたわけだが、もしかしたら本当に妊娠してしまうかもしれない。もしもそうなったらコーチと結婚だ。  そうしたら、そうしたら……ウェディングドレスなんか着たりするかもしれない。  しばらく無言になった後、杏里は、 「とりあえずさ、絆創膏首に貼っとこうぜ。蚊に刺されたとか言い訳すりゃ入華達は絶対信じる。トシエ、トシエは……どうすっかなぁ」  多分信じてくれると思う、とコーチは苦笑いする。杏里も釣られて笑ってしまった。    翌日、本当に絆創膏を首に貼っていった。二人とも同じ位置なのでどう見ても怪しかったのだが、入華とみちるは気付く事はなかった。詩絵だけは何かに気付いた様子だったが、 「そりゃまた、てげおっこねえ蚊やったんやね〜」  などと笑いかけてきた。肝が冷えたものの、それ以降絆創膏の不思議な位置に触れられはしなかった。そして……コーチと杏里二人きりの飲み会は、週に三度は行われる様になるのだった。