◆秘すれば花 前編 (ある日の事。昼下がりに街を散歩していると、カフェのテラスでルカを見かけた) ルカ「うん……?  ああ、貴方だったの。……って、何を当然の様に同じテーブルに着いているのかしら」 ルカ「別に、駄目とは言っていないけれど。一言断るくらいはしなさい。まったく……」 ルカ「私?エレナと待ち合わせ中よ。  ただ、急に用事が出来たとかで遅れるらしくて……ちょっと暇していた所」 ルカ「……ふふ、貴方ならそう言うと思った。  いいわ、かかってらっしゃい」 ◆敗北時 ルカ「私の勝ちね。他愛無いわ。  それにしても、まだ来ないわね、エレナ……」 ルカ「……ええ、いいわよ。もう一戦付き合ってあげる。  何度やっても、結果は同じでしょうけれど、ね」 ◆勝利時 エレナ「はあ、はあ……。すみません、ルカさん。少々予定が……」 ルカ「大丈夫よ、エレナ。空いた時間は、彼とデュエマしていたから」 エレナ「そうですか?それなら、良いのですが……」 エレナ「あ。その、あまり見ないで頂けると……。急いで来たので、髪や服が、少し……」 ルカ「ほら、貴方はさっさとあっちを向いて。デリカシーの無い人ね、まったく……」 ルカ「エレナは座って、一杯頼みなさい。落ち着く時間が必要でしょう?」 エレナ「ありがとうございます、ルカさん。では、お言葉に甘えて……」 ルカ「さて、と。一息つけたかしら?」 エレナ「ええ、おかげさまで。……一息、と言うには、少し長かった気もしますが……」 ルカ「……まあ、いいんじゃないかしら、たまには」 エレナ「うふふ、そうですね。お二人の楽しそうなデッキ構築談義を止めなかった私も私ですし」 ルカ「……そ、そろそろ出ましょうか」 エレナ「ええ、そうしましょう。  では、お支払いは私が。遅れてしまったお詫びです」 ルカ「いいわよ、別に。彼とデュエマ出来て退屈しなかったもの。  それに、これから世話になる訳だし」 エレナ「そうですか?では、お願いします」 ルカ「それじゃあ、行きましょうか。  ……って、貴方。何をしれっと着いてこようとしているのかしら」 エレナ「今日はルカさんと二人きりで、お買い物の約束なんです。ですから、ごめんなさい」 ルカ「エレナ。言わなくて良いから」 エレナ「あら、秘密にするんですね?」 ルカ「エレナ!」 エレナ「ふふ……と言う事ですので、申し訳ありません。  では、失礼します。また今度、私ともデュエマしてくださいね?」 ◆秘すれば花 中編 (三日後。街中で並んで歩くルカとグレンを見かけたので、声をかけてみた) ルカ「っ!」 グレン「ん?……おお、奇遇だな!一丁デュエマでも……」 グレン「っと、悪い。これからカイトの家に行くところでな。雨が降りそうだし、約束もあるしで、あんまり時間がねぇんだ。  本当ならデュエマしてぇ所なんだが……一度始めちまうと、中々止められねぇからな、俺達……」 グレン「……ん?何こそこそしてんだ、ルカ?」 ルカ「べ、別に、こそこそなんて……これはちょっと、闇に身を沈めたくなっただけで……」 グレン「いや、それをこそこそしてる、って言うんだろ」 ルカ「う、うるさいわね。いいでしょう、何でも」 ルカ「え?カイトの家に行くのは……その……守護者の……。  そう、守護者同士の大事な話をしに行くの。貴方には関係の無い話よ」 グレン「いや、カイトに教えるついでに、ルカにも――ぐうっ!?  み、鳩尾に不意打ちは……卑怯、だろ……っ!」 ルカ「黙りなさい。貴方が余計な口出しをしたのと、丁度良い高さにあるのが悪いのよ」 グレン「ひ、酷ぇ……」 ルカ「こほん。  とにかく、貴方には関係無いから。着いてこないで……って、どうしてデッキを取り出しているのかしら、貴方」 ルカ「……そうね。私達なら、こっちの方が手っ取り早いわ。  私が勝ったら着いて来ない事。貴方が勝ったら……好きになさい」 ルカ「さあ、デュエマ・スタートよ!」 グレン「お前ら……俺の心配はしてくれねぇのかよ……。  まあ、熱いデュエマが見られんなら、それでいいけどよ……」 ◆敗北時 ルカ「私の勝ち、ね。約束通り、この場は引いてもらうわよ」 ルカ「駄目よ、そんな顔をしても。  ……駄目なものは駄目だから。敗者は大人しく、運命を受け入れなさい」 ルカ「………………。  くっ……。一戦……もう一戦だけよ!」 グレン(はぁ……俺もデュエマしてぇな……。  でも一回始めちまうと抑えらんねぇし、カイトとの約束まで時間ねぇしなぁ……。  ………………。  後でカイトとデュエマすっか。丸一日) カイト「っ!?」 キリコ「マスター?」 カイト「なんだ、今の悪寒は……!?」 キリコ「……?理解不能。  それより、早く準備を。そろそろグレンが来る時間」 カイト「あ、ああ……」 カイト(……ん?グレン?) カイト「………………。  いや……まさか、な……」 ◆勝利時 ルカ「くっ……この私が、こんな……!」 ルカ「約束は……分かってるけど……っ。でも、貴方には……っ!」 グレン「………………。ああ、そういう事か。  はあ……しゃーねぇ!」 グレン「あー、その、だな……ここは俺に免じて、深く聞かないでやってくれねぇか?」 ルカ「グレン……?貴方、何を……?」 グレン「いいから、任せとけって」 グレン「なんつーか……お前にとって悪い話じゃねぇはずなんだ。今言っても分かんねぇだろうが……ま、いずれ分かる。多分!」 ルカ「っ、貴方、まさか、分かって……!?」 グレン「とにかく、ルカにも秘密にしたい事がある、って事だ。お前にもあるだろ?秘密の一つや二つくらい。だったら、まあ、そっとしといてやってくれ。  さっきも言った通り、お前にとって悪い話じゃないし、いずれ分かるだろうから、な?」 グレン「……ん、悪いな。助かる」 グレン「んじゃ、俺たちはこれで。また今度、デュエマしようぜ!今日出来なかった分も合わせて、たっぷりな!」 ルカ「ふん……。次は、負けないから。覚悟しておく事ね」 ◆秘すれば花 後編 (それから四日後のお昼時。ルカに呼び出され、アルバーノの店へやって来た) アルバーノ「おお、テゾーロ!待っていたよ!さあ、俺とデュエマ――」 ルカ「………………」 アルバーノ「……こほん。  失礼。あちらでシニョリーナがお待ちだ。さ、どうぞ」 ルカ「ひ、久しぶりね。その……遅かったじゃない」 ルカ「確かに、待ち合わせ時間ぴったりだけど……どうでもいいのよ、そんな事は。  私が先に来ていて、貴方が後から来た。それだけでしょう?」 ルカ「……いえ。今のは、言い方が悪かったわね。謝るわ」 ルカ「それで……今日、ここに来てもらったのは……」 ルカ「注文?それは必要無いわ。今日はアルバーノが、新作メニューの試食をさせてくれるらしいから」 ルカ「え?私が試食役に選ばれた理由……?  さ、さあ……?どうしてかしらね?舌が肥えているから、とか……そんな理由じゃないかしら?」 ルカ「あ、ほら!料理が来たわ。話はお終いよ」 アルバーノ「お待たせしたね、二人とも。こちらが試食して欲しい料理だ。  さ、召し上がれ。ちゃんと感想を聞かせておくれよ?」 ルカ「ふぅ……ご馳走様」 アルバーノ「どうだった、二人とも?」 ルカ「私は、美味しい……と思うわ」 アルバーノ「テゾーロはどうだった?」 アルバーノ「……ふむふむ。要約すると、『いつもと違った感じだけど、美味しい』、と」 ルカ「……!」 アルバーノ「しかし、なるほど……味付けやスパイスの利かせ方はともかく、食材の切り方まで気付くとは……。  気付いてくれると信じていたが、流石の観察眼だよ、テゾーロ!ブラーヴォ!」 アルバーノ「ははは!何を隠そう、実はその料理のクオーク……つまり、シェフは俺じゃない。  こちらのシニョリーナの一品なのさ!」 ルカ「……えっ。  な、はあっ!?ちょっと!それは言わない約束でしょう!?話が違うわよ!」 アルバーノ「ははは、違わないとも!言わない事を約束したのは、『俺から料理を習っていた事』だけだろう?」 ルカ「それは……確かに……。  って、今、さらっと約束を違えたわよね!?バラしたわよね!?」 アルバーノ「それに、美味しい料理への感謝は、正しいクオークに贈られるべきだからね。その感謝は俺じゃなく、シニョリーナに贈るんだよ、テゾーロ」 アルバーノ(まあ、テゾーロが『美味しい』と言った時の、あの満足げな表情を見れば……よっぽど鈍くない限り、誰が作ったか気付くと思うけどね) ルカ「聞きなさいよ!」 アルバーノ「おっと、お客様がお呼びだ!俺は失礼するよ。ゆっくりしていってくれ、お二人さん」 ルカ「くっ……勝手な事をしてくれたわね……!約束を違えた挙句、辱める様な真似を……!」 ルカ「?  何よ、急に改まったりして」 ルカ「………………」 ルカ「……ふ、ふん。感謝の言葉なんて、当然ね。この私の手料理を味わえたのだから。  むしろ、その程度の言葉じゃ足りないくらいで――」 ルカ「え?無いわよ、おかわりなんて。  だって貴方、いつもそれくらいしか食べないじゃない」 ルカ「今から作るのは無理よ。流石に私も疲れたから。  ここ数日、ずっと練しゅ――いえ……とにかく、色々あって疲れているの」 ルカ「ち、違うわよ!最近、エレナやグレン達と会っていたのは、あれは……!  とにかく、違うから!勘違いしないで!」 ルカ「まったく……。  何よ、デッキを取り出したりして」 ルカ「満腹に足りない分、デュエマを……?」 ルカ「……ええ、相手をしてあげるわ。  そのニヤけた笑顔を剥ぎ取って、絶望と恐怖の仮面を貼り付けてあげる丁度良い機会だもの!」 ◆敗北時 ルカ「ふんっ。私の勝ちよ」 ルカ「……何かしら、その顔。負けたのにニヤニヤして。  まだ負け足りないの?だったらいくらでも、敗北と屈辱をプレゼントしてあげるわ!」 ◆勝利時 ルカ「くっ……私の負け、ね……」 ルカ「……いい加減、そのニヤニヤした顔をやめなさい。不愉快だわ」 ルカ「何よ。無自覚だったの、その表情?  手料理一つでそこまで喜べるなんて、安いものね」 ルカ「………………」 ルカ「……エレナや、グレンと……」 ルカ「エレナやグレンの手料理と比べて……どう、だったかしら」 ルカ「っ……だから、私の手料理と、優劣を付けるなら……」 ルカ「……いえ、やっぱりいいわ。だって、貴方が私の手料理を食べたのはこれが初めて……でも無いけれど」 ルカ「それでも、食べた回数が少ないのは確かでしょう?  だったら、判断するにはまだ早い……それだけの話」 ルカ「だから……また、作ってあげる。今日は無理だけれど」 ルカ「は? 毎日でも、って……。  貴方ね……私は忙しいの。毎日は無理よ。まったく……」 ルカ(まあ、こうやって喜んでもらえるのなら……毎日でも、悪くはないのかしら) ルカ「……なんてね。  ふふっ……」