その同居人の優しい笑顔を思い浮かべながら、ゆっくりとキッチンに歩を進める。彼がアタシにごはんを作ってくれるときの楽しそうな横顔を見るのは、最近覚えた食事の楽しみ方のひとつだ。
「美味しそうだね」
「そりゃよかった。今日はいつもよりうまく焼けた気がするよ」
そんなアタシのトレーナーの顔つきは、今朝はちょっと自信ありげだった。

炊きたてのごはんに、ふわふわの卵焼きとよく焼けた鮭。味のしっかり染みたおひたしに、豆腐の味噌汁。
教科書に載るようなありきたりの、とても丁寧な朝食は、地に足のついた彼の穏やかな人柄が現れているようだった。
「いいね。どっちも美味しい。
もしかしてちょっと上達した？」
「ははは、まあな。
言ったろ？今日はうまく焼けたって」
卵焼きの生地はとてもしっとりとして、口に運ぶとほんのりとした甘さが広がっていく。塩味と脂がしっかりと乗って、外はカリッと焼けた鮭との相性は抜群だ。
幸せだな、と改めて実感する。少し誇らしげな彼の笑顔が、可愛らしくて仕方ない。
そんな最高のスパイスをふりかけた次の一口は、口の中で甘く蕩けた。

彼と過ごす幸せな時間ごと、彼の作ってくれた料理を噛みしめる。もっともっと浸っていたい。
「ごちそうさま。美味しかったよ」
「どういたしまして。いつもこのくらい上手くできたらいいんだけどな」
なのに、彼は謙遜してあっさりと食器を片付けようとしている。きみの作ってくれたものを味わいながら、きみの心の浅瀬に触れるこの時間が、どれだけ好きかも知らないで。
片付けにはまだ早いよ。だって、デザートがまだ残ってるのに。

席を立って台所に行こうとする彼を、真正面から抱きしめた。
「…！」
「こっちもよく焼けてる」
両手はそのまま、Tシャツの中へ。薄皮の剥けた背中を指先で掻いてやると、彼の身体が恥ずかしそうに腕の中で身動ぎした。

少し前に、彼と海に行った。始めから海に行こうと思っていたわけではなくて、いつものように彼と一緒に気の向くままにぶらついていたら、丘の上から青い海が見えたのだ。
白い砂浜に、どこまでも広がる空と海の青。思わず溜息が出るほど美しい景色だったけれど、田舎だったからなのか誂えたように人も少ない。
気づいたときには、もう走り出していた。水着もその場で気に入ったものを買って、日が沈みかけるまで彼と泳いだ。
その情景を瞼に思い浮かべながらその日の寝床についたとき、本当にいい一日を過ごしたと思ったものだった。

泳ぎ終わった後にむず痒そうに背中を掻いては、年甲斐もなく焼けてしまったと恥ずかしそうに微笑んでいたきみの顔だって、あの素晴らしい景色のひとつだ。
だから、それを感じたい。彼にも同じくらい、アタシの中に想い出を感じてほしい。
「待ってるんだけどな」
恥じらいで表情を強張らせる彼を催促するように、人差し指でつーっと背中を撫でてやる。
彼が躊躇する理由はわかる。起き抜けのアタシが、キャミソールの下には何も纏っていないことを知っているからだ。いくら好き合っている仲とはいえ、女の肌に触れて始まる朝というのには抵抗があるのだろう。
アタシは触れられたあとに、どんなことになっても構わないのに。優しい彼がアタシを思いやって欲望をこらえてくれるのも、優しい彼を獣に変えて食べられてしまうのも、みんなアタシへの愛のかたちのひとつなのだから。
アタシは彼に触れているのに、彼からは触れてくれないほうが、よほどさみしい。

「アタシのも確かめてよ。
夏はもう終わっちゃうから。ちょっとでもその名残がほしいんだ」
きみと過ごした夏だもの。アタシの身体にも、ほんの少しでもその証が刻まれていてほしい。

彼は何も言わなかった。頬を赤らめたまま、指先をそっとアタシの背中に沈めた。
「ふふふっ」
それだけで、十分だった。
彼の指が優しく背中をなぞるのがくすぐったくて嬉しくて、つい彼を抱く腕に力が籠ってしまう。
「あはっ。
ちょっとひりひりするね」
日に焼けた肌が、指で圧されるとほんの少しだけ甘く疼く。それを口にすると、彼の手つきが慈しむように撫でるものになるのが心地よくて、もっと彼に身を委ねたくなる。
壊れもののようにそっと触れる彼と、ぺたぺたと遠慮なく掌を着地させるアタシ。彼が切なそうにアタシを抱く手に力を込めると、その背中にたくましい凹凸が感じられる。

体つきも、触れ方も、心のかたちも、何もかも違う。
けれど、その違いがアタシの中に、新しい風を呼び込んでくれる。

きみの背中に触れる度に、きみの辿ってきた旅路を想う。その途中に入り込んできたアタシは、いったいどれだけきみの中に残っているのだろう。
人混みの中にきみの背中を見つけると、嬉しくてつい小走りしてしまう。アタシの中のきみの目方はそのくらいだけれど、きみはもっと大きいといいな。
アタシを抱く手に籠められた力を、素肌で直に感じる。その力に身を任せるように、きみの胸元に頭を寄せる。
アタシの背中をいつも追いかけてくれるきみだから、今は好きなだけ触れさせてあげたい。
アタシも、きみに触れてほしい。

「アタシの背中、好き？」
彼は何も言わない。その代わりに、少しきついくらいに抱きしめてくれた。
「…恥ずかしいから言わない」
「あははっ。いいよ、それでも。
言わなくても、ちゃんとわかるから」

きみの背中が好きだ。
そっぽを向いているときはそっと触れて、こっちを見て欲しくなって。
こっちを向いてくれたときには嬉しくて、もう離さないように抱きしめたくなる。
きみの背中に触れながら、次はどんな言葉を紡ごうかと考えている時間が、幸せで仕方ない。

背中は、愛を描くためのキャンバスだ。

おわり
シービーの背中は見惚れるほど綺麗だと思う

朝からいちゃいちゃしおって…

前の日の夜にキスマークがついててもおかしくない

ちゃんと筋肉ついてるのにしゅっと引き締まってて肌触りは柔らかい女の子のそれだからギャップで情緒おかしくなりそう

とっくにヤってそうなカップルがあえてえっち手前の距離感で遊ぶみたいないちゃいちゃしてるのが好きなんだけどわかってくれるだろうか

もう一緒に寝てるしなんなら背中以外も触りあってそうだ

シービーは付き合ったら遠慮なくぺたぺた触ったりくっついたりしてきそう

そのまま一緒に寝ててほしい
安心して二度寝しちゃってもいいし我慢できなくて背中以外の所も触っちゃってもいい

背中から抱きつくのも好きそう

ハグしすぎて背中に触れる感触が癖になっちゃってるとかだといいと思います

寮住みだと同棲できないからやっぱり一人暮らし万歳だと思いますよCBさん

手だけじゃなくて尻尾も後ろに回してるんだよね

ウエストのライン触ったら細すぎて狂いそう

指を立ててもわっと広げる遊びとかしてくすぐりあってほしい
お互いに艶っぽい声出しちゃって我慢できなくなってほしい

アタシはいつだって、きみにどんな言葉を贈るかで迷っている。
彼と過ごした夏を、愛しく思う気持ち。彼への気持ちが募りすぎて、季節が巡ってしまうことへの切なさ。それらが入り交じって言葉にならずに消えていくのも幸せだったけれど、今日だけは言わないと決めているから。
せめてこの朝の時間だけでも、きみの背中を存分に抱きしめてあげたい。
彼を想う気持ちで胸がはち切れそうになるまで抱きしめたあと、ゆっくりと腕を解く。彼の鼓動を全身に感じながら、彼の頬に自分の頬をすり寄せる。
目の前には、愛しくて仕方がない彼の瞳があった。

アタシが大好きな、彼の優しい笑顔がある。
その笑顔につられて笑うのも幸せで仕方ないのだけれど、今はちょっと違う。今だけは、この気持ちをそのまま伝えたい。だから、アタシは笑ったりなんてしない。
ただ一言だけ、彼に贈ろうと思う。
きっと彼も同じ言葉を返してくれるはずだから。
だって彼は、いつもそうしてくれるのだから。
「大好きだよ」
たとえ同じ言葉を返してくれなくても、アタシの心は彼とひとつだ。
だって彼の眼差しはこんなにも優しくて、触れる手はこんなにも温かい。
そして彼は今、頬を赤らめて微笑んでいるから。

「俺も、大好きだ」
彼の微笑みと背中に回した手に込めた力から、彼が同じ言葉を返してくれたのだとわかった。
言葉では言い表せないくらいに嬉しい。どれだけ想いを伝えても足りないくらいだ。
不器用な彼のことだ。きっと自分から言うのは恥ずかしかっただろうに、それでも彼は伝えてくれた。その事実が何よりも嬉しくて幸せで仕方ない。
だから、次はアタシだ。
背中に手を回して抱き寄せながら、そっと唇を重ねる。
この幸せな朝をずっと忘れないように、きみと想い出を重ねよう。

夏の日差しはいつまでも眩しいままで、アタシたちは恋をしている。
何があっても乗り越えていけるふたりなのだから、大好きな秋を迎えるのが今から楽しみで仕方ない。
この幸せを胸に抱きながら、彼の隣でまた新しい朝を迎えられるのなら、それはきっと素晴らしい一日の始まりになるはずだから。
だから、今はただ彼だけを感じていたい。
彼がくれる言葉や仕草に、アタシの心がどれだけ揺さぶられるのか。それを彼にも感じてほしいから。
いつまでも、何度だって愛を贈ろう。
たとえ同じ言葉を返してくれなくても、彼はきっと受け止めてくれるだろうから。
不器用な彼が言葉にしてくれるなら、アタシも同じ気持ちだと伝えるために言葉を尽くそう。
どんなときでも幸せを感じてもらえるように、言葉と行動で伝えていこうと思う。

肩を掴んでいた両手が、そっと離れる。
このあと何をされるのかはもう分かっているから、今度はアタシが彼の背中に手を回した。
彼がそうしてくれたように、優しく抱き寄せる。
そして、ゆっくりと唇を重ねた。
彼とのキスは好きだけれど、今日は少し違う。いつもとは違うことをしてみたいと思うのだ。
唇を離すと、彼は驚いたような顔をしていた。きっとアタシも似たような顔をしているだろう。だって、こんなのは初めてだから。
でも、不思議と嫌じゃないし、むしろもっとしたい。
彼の首に腕を回して、もう一度唇を重ねる。今度はさっきよりも長く、そして深く口づけた。
彼は驚いたまま固まっていたけれど、やがて応えるようにアタシの腰に腕を回してくれた。
そのまましばらくお互いの唇を貪り合ってから、ゆっくりと顔を離す。ふたりの間に銀色の橋が架かり、それが切れて消えるまでじっと見つめ合う。
それからまたどちらともなく顔を寄せ合い、再びキスをした。
今度はさっきよりも少しだけ激しくなるだろう。

なりすましコワ〜…

>今度はさっきよりも少しだけ激しくなるだろう。
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