ラシヨウモンの成績は皐月賞までを5戦を走り2勝、2着3回、その内東京芝1600のジュニア級一勝クラスにおいて逃げてレコード勝利を記録。それもジュニア級レコードではなくコースレコード、つまりはクラシックやシニアのウマ娘達も含めてそのコースでこれまでのどのウマ娘達よりも速く走ったということになる。無論、レコードを出したからといって出したウマ娘が最も強いかというとそうではない、タイムとはあくまで指標の一つでありそれが全てではないからだ。 しかし、それでも単純なスピードという能力を測る指標としては間違いなく優秀であり、何より彼女の場合特筆すべきなのは誰かが作ったハイペースに乗りこの記録を残したのではないということだろう。彼女はここまで5戦を走りその全てで逃げを打った生粋の逃げウマ娘、つまり彼女はジュニア級の時点で自身のペースで走ってコースレコードを更新できるだけの能力を持っているということになる。 まだ重賞に出たことさえなくオープン競争でも2着が最高順位、レコード勝利という看板はあれど皐月賞において彼女はあくまで伏兵的な存在。 しかし、ダイゴホマレもカツラシユウホウもオーテモンもトサオーもその他の同じく伏兵と呼ばれるようなウマ娘達も誰もが彼女が前に行くことを疑わなかった。 同期達の中でラシヨウモンというウマ娘はこと逃げという分野においてそれほどまでに一目置かれていたウマ娘であり、だからこそトレーナー達もウマ娘達も彼女が逃げるということを大前提としてこの皐月賞のレースプランを組んでいた。 同じ逃げウマ娘として競りかけていくにしろ、先行ウマ娘として後ろにつけ最後に抜くことを狙うにしろ、差しウマ娘として後方から機を伺うにしろ、追い込みウマ娘として前が崩れることを信じ一発を狙うにしろ、彼女がバ群を引っ張りペースを作ることを前提として彼女達はレースに臨み。 しかし、それは他ならぬラシヨウモンの出遅れという形で全て崩れ去ることとなった。 『ラシヨウモン最後方!ラシヨウモン最後方です!これはいきなり波乱の展開!この皐月賞の展開を握ることになったであろう逃げウマ娘ラシヨウモンまさかのスタート失敗!現在は最後方を追走しております。先頭はダイゴホマレ、少し離れて7、8番手のあたり一番人気カツラシュウホウはここにいます。その後にはトサオーなどが続き第一コーナーへと突入していきました。』 さて、多くのウマ娘がラシヨウモンというウマ娘の逃げありきでレースプランを組んでいたのは先ほど述べたが、いきなり目標としていたウマ娘が消え去り事前に考えていた計画のほとんど全てが消え去った時、ジュニア級を含めても公式のレース経験が一年にも満たないクラシック級のウマ娘達は即座に切り替えて冷静に走れるのだろうか?答えは 『しかし、これはペースが速い第一コーナーに差し掛かってもまだ先頭集団が落ち着きません。これは大丈夫なのかダイゴホマレこのペースで最後まで持つのか!』 『ダイゴホマレは前目で走るウマ娘、これまでのレースで逃げたことだってある。こんなペースで走ることの無謀さはよく知っているし、それは他の先頭集団のウマ娘達にも言えることだ。よほど逃げでしか走れない理由でもない限り、ここはハナを譲りペースを抑えたほうが自分にとっても他のウマ娘にとっても安牌なんだが。しかし、完全にほとんどのウマ娘がレースに飲まれているなこりゃあ…。止まらんぞこれは。』 否である。 ラシヨウモンを目標にレースを進めていこうと考えていた先頭集団組は想定していた目標がいなくなったことで混乱、加えて有力ウマ娘ダイゴホマレが先頭を取りに動いたことで楽逃げさせはしないと数人のウマ娘が競りかけたことも重なり誰もハナを譲らないままレースは進行。後方集団もハイペースでレースを引っ張る先頭集団に置いて行かれまいと足を使わされ、皐月賞は泥沼の消耗戦の様相を呈していくこととなった。 『さあ、ダイゴホマレを先頭に最終直線へと突入。先頭は依然ダイゴホマレ他の先頭集団にいたウマ娘達はここまでかズルズルと後退していきます。』 『そりゃあこんなペースで前を走ったら、この時期の選手でスタミナが持つ子なんてそうはいないわな。まだ先頭で粘ってるダイゴホマレも顔色は険しいが、このペースを追走させられた中段や後方集団も脚が残っている子はそう多くないだろ。さあ、誰がダイゴホマレを捕まえに行く?』 『バ群を縫ってカツラシユウホウ!やはりこのウマ娘が来ました!カツラシユウホウ中段からぐんぐん差を詰める。並ぶかいや並ばない!ダイゴホマレを躱してカツラシユウホウ先頭!これはこのまま決まるのか!ジュニア級王者カツラシユウホウが皐月の冠を手にする…いや、いや!外からタイセイホープだぁ!カツラシユウホウが通ってきた道をたどりタイセイホープもダイゴホマレを躱した!これは二人の一騎打ち!皐月の冠を手にするのはどっちだぁ!』 『…いやさらに外からもう一人だ』 先頭でレースを引っ張ったダイゴホマレは直線半ばで失速、入れ替わるように中段で足を残していたカツラシユウホウそして彼女の後ろにつけて冷静に機を伺っていたタイセイホープが二人並んで先頭争いを演じる中、外ラチギリギリを通って一人のウマ娘が先頭へと迫っていた。 『…!これは何とカメラ追えていますでしょうか。ラシヨウモンです!ラシヨウモンが大外を…いやこれは大外と称していいかもわかりません外ラチです!外ラチギリギリを内で沈んでいく同期達を見ながら、これは凄いすんごい脚で飛んできました!あっという間にダイゴホマレを躱して単独3番手に!カツラシユウホウ、タイセイホープとの差も一歩ごとに縮まっていきます!』 『体格的にバ群を割っていくのは無理なことに加え踏み荒らされたバ場を走るより多少の不利があろうとも外に出たほうが良いと判断したんだろうが、それにしたってとんでもないところを通ってきたな。あんなところを通っていくなんて発想がそもそもねえよ。』 『これは届くのか!この中山の直線で届くのか!カツラシユウホウかタイセイホープかそれともラシヨウモンが纏めて差し切るのか!並んだ並んで…!並んだところでゴールイン!これは…タイセイホープです!カツラシユウホウはクビ差の2着、ラシヨウモンは見事な脚を見せましたが3着まで。そして表示されたタイムはレコード、レコードです!これは大変なこととなりました事前の予想を裏切る波乱の皐月賞をレコードで制したのは伏兵タイセイホープです!』 『ラシヨウモンの出遅れがこのレースの展開を大きく変えたな。もっと落ち着いたスローな流れだったなら1着争いをしていたのはダイゴホマレの方だったろう。2バ身差の4着とはいえあれだけのハイペースの中粘り切ったのは負けて強しといえるだろうな。次回のダービーでも引き続き期待の一人だろうな。カツラシユウホウは言わずもがな、タイセイホープは正直レース前は見くびっていたことを謝罪するよ。この2人もダービーで見逃せない存在だろうな。ラシヨウモンに関しては3着という成績自体は素晴らしいが、これまでのレースとはあまりにも違いすぎてなんとも評価しづらいのが正直なところだ。』 『成程、タイセイホープの勝利に終わった今年の皐月賞。しかし、クラシックロードはまだまだ続きますダービーを制するのは一体どのウマ娘なのか。最後はこの歓声を聞きながらお別れ致しましょう。本日はありがとうございました。』 ウマ娘 ピオニエーレネロ 第1.75R 「皐月賞A」