◆◆◆ 「ハァ…ハァ…」 「フゥー…これであらかた片付いたか?」  オリビアはリリィは互いに背を会わせながら周囲を警戒する。地に這いつくばってるのは先程の下級ギャングの群れと上級ギャングたちであり全てこの二人が倒したのだ。  数日における調査の結果、魔石薬物であるピースフルを売りさばいてるのがギャングチームであるマナドレインだと判明した便利屋イグニートは薬物を売りさばいてる証拠となるものを得るために直接事務所へ潜入することとした。  オリビアとリリィ、アルスとエルドとフェリクスの二チームで別々の場所から潜入を行い目を掻い潜りながら探った結果、本来ならあるはずのない魔石およびピースフルの製作方法などが書かれた資料を見つけだし黒である証拠を得た。  だが、抜け出そうとする段階でギャングに見つかってしまい交戦に入り、今さっけ鎮圧し終えたところである。 「にしてもまさか扉を開けた目の前でギャングがいたとはなぁ」 「ウカツだった…それにバレた以上このまま帰るわけにもいかない」 「決定的な証拠を集めてあとの逮捕やら拘束やらはミルクら警察に全押し付ける…の予定だったけどこのまま帰ったら絶対ずらかるよなぁここの連中」  バレた以上このまま退けばギャングたちは散り散りとなり逃亡し逮捕が困難となるのは明白。オリビアとてなるべく危険な行為は回避したいが起きた以上はやるしかない。 「そのためにもまずは情報を貰わないとな」  そう言いながらオリビアは倒れた上級ギャングのもとへ向かい胸ぐらをつかむ。 「お前らのボスはどこにいる?早くいいな」 「ざっけんな…テメェらみたいなクソアマに言うわけ」  オリビアは無言で上級ギャングを壁に強く叩きつける! 「ゴハァ!?」 「時間がないんだ早く言え、それとも長く楽しみたいのか?」 「いいのー?次は頭を砕かれるかもしれないよー?」  オリビアは冷たく言いはなち、リリィはヘラヘラしながらその様子を見ている。再び拳に力が入ったのを感じた上級ギャングは焦りながら口を開いた。 「待て!待ってくれ!ボスはこの先の最奥にある部屋にいる!」 「そうか、なら気絶ですませてやるよ」  上級ギャングの指指す方法を見たオリビアはその顔面を殴り上級ギャングは呻き声をだし再び地面を背にし眠った。 「アルスたちも心配だ、合流してここのボスをとっ捕まえるぞ」 「まだまだ歓迎は続くだろうからなぁ、気合入れていくか!」  二人は別行動を取ってるアルスたちとも合流するべく奥へと走っていった。 ◆◆◆  BANGBANGBANG!部屋一帯に銃声が鳴り響く。宙には無残にも被弾した書類と血しぶきが舞い、地面には死体と化したギャングたちが倒れている。 「もー!しつこい!どんだけいるんだよこの事務所に!」  悪態をつきながらエルドはボルトアクション式のライフル銃である『ラヴァーレM11』を使い次々と下級ギャングたちを撃ち抜く。その死角から一人の下級ギャングが拳銃を向け引き金を引こうとしたが  SLASH! 「グハァ!?」  何かが胸を貫いたことにより下級ギャングは即死!それは銃か?否、胸を貫いている物は銃弾ではなく剣である。 「文句言ってる場合か!今は戦闘中だぞ!」  アルスは目の前にいるギャングたちにも次々と剣を飛ばし突き刺していく。そう、この剣はアルスの魔法によって生成されたものであり飛び道具のように扱うことができるのだ。 「ええい役立たずどもが!そこをどけ!」  一向にアルスとエルドを倒せない状況に苛立ちの限界を迎えた上級ギャングが下級ギャングたちをどかせ二人めがけ突撃する!エルドは撃ち抜こうとライフルを構え引き金を引く!BANGBANG! 「効かぬわ!」  だが上級ギャングは避けるどうさもせず銃弾を食らっても無傷、いやそれどころかはじき返した! 「マジで!?」 「プロテスシールドか!」  驚愕するエルドを横目にアルスは冷静に分析する。プロテスシールド、それはアステール大戦時に作られた防御を目的とした魔道具であり、魔力がある限り銃弾をも防ぐ性能を誇る。上級ギャングは二ヤリと笑い片手にマチェットを振りかざし二人を切り裂こうとした…その時である! 「おりゃあああああッ!!」  上級ギャングの真上にあった天井が崩壊し和服めいた服装に鋼鉄のマスクをつけ起動音が鳴り響く刀を両手に持ったフェリクスが飛び出した! 「何ッ!?オゴワーッ!?」  何が起きたか理解できず上級ギャングはフェリクスの刀を食らい頭から股間まで一刀両断!フェリクスの持つ武器は刀型の起動式近接兵器『ホオズキ』でありプロテスシールドによる防壁をやすやすと打ち砕くことが可能なのである! 「どうもマナドレインの皆さん!私はフェリクスです!」  フェリクスはキメポーズをとりながらギャングたちにさわやかなアイサツを交わす。ギャングたちは困惑し動きを止めている。 「ナイスフェリクス!めっちゃいい不意打ちだったよ!」 「そーおー?ならもっと忍者のようにもっと大活躍しちゃおうかなぁ~!」 「なら早くこいつらを片付けるぞ。オリビアたちを待たせるわけにもいかんからな」 「りょーかい!…便利屋イグニートの力を見せてあげるよ!!」    最初に動いたのはフェリクスだ、軽やかなパルクールで机を飛び越えギャングたちに接近!銃弾によるかすり傷など気にも留めずホオズキのスターターロープを何度も引っ張り起動音を高める。 「イィヤッ!!」 「「「グワーッ!?」」」  回転斬撃によりギャングたちの首が宙を舞う! 「おっと!フェリクスだけでなく私も相手にしてもらおうか!」  BANGBANGBANG! 「「「グワーッ!?」」」  更にエルドの援護射撃によりウカツを晒したギャングたちは次々と被弾!数は明らかに減りつつある!だがギャングたちはひるむことなくフェリクスを囲い動きを封じようとする。いくらフェリクスといえどこれだけの量を相手にはできない! 「今だ!やっちまえーッ!」  上級ギャングの掛け声とともに剣やナイフといった武器を持った下級ギャングたちが一斉にフェリクスの肉体に突き刺さる! 「グハーッ!」  フェリクスは血を吐き出しわざとらしい声を出しながら苦しむ…上級ギャングは訝しんだ。いくらなんでもフェリクスの突撃が愚行すぎると。上級ギャングは警戒しその場を離れようとした。 「え」  だが、なぜか動けない。足元を見れば謎の結界が張り巡らされており、周囲を見れば同じ状態になったのか困惑してる下級ギャングの姿が見える。 「実際お前たちは哀れだ。私たちと敵対するはめになるとはな」  声をしたほうを見る。そこには目を光らせてるアルスの姿と、周囲に光の粒子を纏わせてるエルドがいた。今こうしてギャングたちの動きを封じ込めているのはアルスが使える拘束魔法によるものである。 「だが超えてはならに一線を越えたお前たちの結果だ。せいぜい神にでも祈りを捧げるといい」  アルスが言い終えるとエルドが纏わせた光の粒子が集まり大きなボール状の魔力の塊となった! 「いっっけぇぇぇ!!」  エルドの掛け声と共に光の魔力が放たれた!これこそがエルドが使う攻撃特化として知られる聖魔法の『ホーリーブラスター』だ!  上級ギャングは大いに焦る、もう助からないとはいえ仲間であるフェリクスを巻き込んでの攻撃に正気を疑ったのだ。拘束により足は動けずフェリクスを囲んで一か所に集められたギャングたちに逃げ場はもうない。もはやこれまでとあきらめ天を見え上げたその時、信じられない者が写った。  フェリクスだ。破壊された天井のところに下を見下ろしているフェリクスがいた。ならいま囲っているフェリクスは一体…その思考はギャングたちへ着弾し光の爆発ともに消し飛んでいった。  KABOOON!エルドとアルスは机を盾に爆風を防ぐ。しばらくして二人が机から顔を覘かせると、そこには机の破片などが散乱し壁などが破壊された状態のかつて事務所だった光景が広がっていた。ギャングたちのいくつかは光に包まれ、何人かは気絶し目覚める様子はない。 「あー!終わったー!」 「バカぬかすな、まだ仕事が始まったばかりだぞ」  しりもちをつくエルドにため息を吐くアルス。そして天井から先ほどのフェリクスが下りてきた。 「うまく制圧できたみたいでよかったですね!」 「お前の分身があってこその結果だ。あれで気を引き付けてなかったら無駄に時間を費やすはめになっただろうからな」  そう、フェリクスの持つ魔法は分身魔法、それも質量をもコピーすることができる極めて希少な魔法だ。分身故に無茶な突撃ができ、フェリクスごと巻き込んだホーリーブラスターを放てれたのだ。 「休む暇はないぞ。現状はオリビアとリリィとの合流が先決だ、どうにも事務所ないの様子が変に感じる」 「疲れたけど…オリビアとリリィに何かあったらこまるし…よし!がんばるぞー!」 「一刻も早く合流しましょう!そのほうが安全です!」  三人はすぐにその場を離れドアと壁の残骸だらけとなった廊下を走り先に進んだ… ◆◆◆ 「まさか少数で乗り込み、ましてやここまで来るとはな。その勇気と力は称賛するよ」  オリビアとリリィが立ちふさがるギャングたちを薙ぎ払い、最奥にある部屋にたどりつきドアを開けた先にいたのは椅子に座り余裕な表情を見せる女だった。 「便利屋イグニートのオリビアだ。お前がここのボスか」 「大正解、私はバンカーヒル、マナドレインのボスを務めているよ」  バンカーヒルはにこやかに微笑みまるで隙を見せない。 「お前の部下は今頃床で眠っている。助けは来ない大人しく捕まることだな」 「…追い詰められたにしては余裕だなあんた」  二人はいつ攻撃が来ても対応できるよう警戒しながらそう話す。その様子を見ているバンカーヒルは愉快そうに笑いながら立ち上がる。 「わざわざ便利屋がカチコミに来るとはな!いやぁこれだけ愉快なのも初めてだ…依頼主の報酬の二倍金を払う、私のもとにつく気はないか?」 「あいにくだが私は依頼抜きでお前に用があるんだ」  誘いを無視しオリビアはつかつかと歩きながら喋り続ける。 「魔石はどうやって手に入れた」 「あぁ、あれかい?そりゃ魔物からはぎ取って」 「あの魔石は天然資源の物だ、本来なら帝国の管理下でなければならない物を何故ギャングごときが持っている」  その言葉を聞いたバンカーヒルはピクリと眉を動かした。 「…仲間として引き込めようと思ったけど、どうやら君たちを二度と表にあるけないよう調教する必要があるみたいだ」  瞬間、バンカーヒルから魔力が溢れ始める。戦闘態勢に入った証拠だ。 「おいおい向こうはものすごくやる気みたいだがどうする?三人がくるまで逃げ回るか?」 「いや、ここから離れたらアイツが逃げかねない。今、この時に倒す!」 「まっ、そうだよねぇ…なんか私たちをナメてるような姿勢とってるのもムカつくし本気で殴らせて貰うからなぁ!」    オリビアとリリィは気づいている、バンカーヒルは先ほどまで相手にしてきたギャングたちとは比べ物にならない強さを持ってることを。だが便利屋としての意地と二人のプライドはこの程度では折れはしない。  油断ならない戦いの幕が開く… ◆◆◆次回に続く◆◆◆