いくらかのバッドエンド 夢くらい誰だって見る。 新人類となったナインだって夢を見て、それが嫌なものなら泣きついてきたりする。 そういう時は励ましてやるのが黒谷の日常だ。 夢は脳じゃなくて「心」で見るものなのだろうと、黒谷は考えているらしい。 ……だから、彼だって嫌な夢を見るのは然程珍しいことではない。 「……さよなら、おにーさん。今までありがとう。じゃあね」 「待て、待ってくれナイン!」 ナインが去っていく。 愛想を尽かされたのか、他にやりたいことができたのか。 理由は分からないが、そこに寂寥だけが残った。 占い師もイザナイも元々一人でやっていた事だから、元の鞘に戻っただけ。 だが、確かに生まれていた結束を断たれるのは「プラスがゼロになる」のではなく「ゼロからマイナスにされる」のと同義だと彼は感じていた。 静かな空間に、少しずつ咽び泣く声が上がり始めていた──。 ──或いは。 「ずっとずっとずっと一緒に居ようね、おにーさん」 黒谷の身体は動かない。 物理的な拘束故に。 それを解いたとして、施錠されたこの部屋から出る事は適うだろうか。 「革命なんてもういいの。私気付いたんだ、おにーさんさえそこに居てくれればいいんだって」 返事もできない。 口が塞がれているから、言葉を紡ぐお得意の懐柔すらも能わない。 だから、この空間ではナインだけが喋って、ナインだけが動いている。 愛おしくて仕方がないといった風に、ナインは黒谷の頬に手を頬に当てる。 「おにーさん、大好きだよ」 黒谷もこういった夢を見ると、もしかして手綱を握られているのは自分なのではないかと思わざるを得ない。 持っている力は考えるまでもなく向こうが上なのだから。 否、我々は共犯者。 どちらかが手綱を握るでもなく、関係は対等でなければならない、と即座に思い直す。 それに、ナインはそのような事をしないと信じている。 だから、これはただの夢なんだと割り切った。 ちなみに、こう言う夢を見る時は大抵ナインが強く抱き付いたり、上に乗っていて寝苦しい時だったりする。