二次元裏@ふたば

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28440 B24/08/07(水)17:05:42No.1219421630そうだねx4 18:50頃消えます
CASE:1 ランパート

「明日からの遠征隊、私も同行していいですか?」
 アザズの突然の訪問に、ランパートは少し考えた。
 “解体者”の二つ名で知られるアザズは、AGSの間でも名が知られた超一流のエンジニアだ。まだ実戦で一緒になったことはないが、彼女がスタッフに加わってくれることは、遠征隊の整備・修理能力が大きく向上することを意味するだろう。性格にやや問題ありという評判は聞いているが、どのみちAGSの基準から見れば非合理な性格をしていないバイオロイドの方が少ない。
「作戦計画表はご覧になりましたか? 担当地域はグリーンランドです。ほぼ全日程を通じて雪原を移動することになるのに加え、オメガ勢力と遭遇する可能性もあります。また、本遠征隊はAGSのみで構成されるため、バイオロイド用の物資の用意がありません」
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
124/08/07(水)17:05:58No.1219421684+
「アラスカに長くいましたから、寒い気候には慣れています。鉄虫相手の戦闘経験もありますし、必要なものは自前のカーゴで持っていきます」
 明快な回答にランパートは満足した。メリットは大きく、デメリットは小さい。特段の問題は何もない。「では、他のメンバーには私から話しておきます。よろしくお願いします、アザズさん」
224/08/07(水)17:06:20No.1219421753+
(もしかして私は判断を早まっただろうか)
 そうランパートが考えたのはグリーンランド上陸直後、アザズが輸送用カーゴを展開させ、コンテナからハイパーライオンを出してきた時だった。
「なぜそれがここにあるのですか、アザズ女史」
「私が持ってきたんです。装着してもらえませんか」
「どうやってこれをお持ちに?」
「カーゴに積んで」
 手段を聞いたわけではない。「許可は得たのですか」
「もちろんです。ほら司令官とフォーチュンさんの認証がここに」
 確かにハイパーライオンの所有者は司令官であり、管理責任者はフォーチュンだ。したがって手続き上、この二人の許可があれば持ち出すことができる。
「しかし、私の……」
 装着者本人であるランパートの意志を確かめずに、ランパート専用の装備品を遠征に持ってくるなどということが、常識的にいってありうるだろうか。それともこれは、AGSの思考回路はまだまだ人類の心を理解できていないという一証左に過ぎないのだろうか。
324/08/07(水)17:06:41No.1219421840+
「まずは右脚から、いいですか?」
 アザズはさっさとハイパーライオンを分解し、装着準備を始めている。止めようかとも考えたが、ここまで持ってきてもらったものを拒むというのも失礼にあたるだろうと、ランパートは思い直した。各パーツは完璧にメンテナンスされており、ランパートのフレームに吸いつくようにフィットした。

 スヴァールバル諸島から最も近いオメガ支配圏であるグリーンランド島は、オルカが最大の注意を払わなければならない地域のひとつである。箱舟の位置を悟られないよう、わざわざ島の南側まで海中を回り込んでから上陸した遠征隊は、そのまま広大な雪原をまっすぐ北上するルートをとった。
「事前に推定されたよりも、鉄虫集団との遭遇が少ないな……俺達の存在が気づかれているんだろうか。作戦計画を修正すべきか?」
「誤差ノ範囲内ト推断。単ナル分布ノバラツキノ可能性大」
「ギガンテスに同意します。旧時代は面積に対して人口の少ない地域でしたから、鉄虫も少ないのでしょう。ウォッチャーはどのような見解ですか」
424/08/07(水)17:06:57No.1219421888+
「私も同感だな。それから、島の東岸に旧時代の鉱物採掘プラントが集中していることに注意を引かれるね。オメガ配下のバイオロイドが配備されている可能性があるけど、ちょっと偵察してこようか?」
「腰をひねりながら右脚を上げてみてもらえませんか?」
「…………」
 小休止中のミーティングでも、アザズはランパリオンの装甲をいじくり回していた。「もう少し足を広げて」
「こうだろうか」
「ありがとうございます。なるほど、ここが連動して持ち上がることでクリアランスを確保するんですね。やはり実際に見てみないとわからないことがたくさんあります」
「あの、アザズさん……」
「地熱と震動解析のデータがまとまったので、共有ローカルストレージに上げておきました。地下がとても静かなので、たぶん東岸のプラントはほとんど稼働していないと思います」
「……それは、ありがとう。助かるよ」
 有能であり、かつ任務にも協力的なのは間違いない。間違いないのだが。
524/08/07(水)17:07:19No.1219421976+
「ランパリオンパンチのポーズをとってみてもらえますか? ああ、脇の下はこういう角度になるんですか。すると鎖骨フレームは……」
「警告! それは本体側の関節カバーです! 触れないで下さい!」
「あっ、しまった」
 ランパリオン用の言語拡張モジュールを貫通して、素の非常用音声が出てしまった。装甲の奥に入り込んでいたアザズの手がするりと抜ける。「すみません」
「アザズさん! あなたの能力には敬意を払っているつもりだが、任務に支障を来しかねない行為は……」
「わかりました。任務に支障が出ない範囲にとどめますね」
 アザズは素直に頷いた。そうなると、ランパートもこれ以上追求のしようがない。
 そして実際、その後の遠征任務はきわめてスムーズに進んだ。アザズはその技能を存分に発揮し、遠征隊のボディと装備を最善のコンディションに保ってくれた。
「次の戦闘では、左腕でランパリオンパンチを撃ってくれませんか? 動画を取り損ねたので」
「……ああ、わかった」
624/08/07(水)17:07:36No.1219422023+
 時折理解しがたい注文を出されることはあったものの、警告音声が出るような事態は二度と起きず、ランパートは無事グリーンランド島北東岸までの偵察を終え、つつがなく箱舟に帰島した。

「……というわけさ」
「なるほど。じゃあつまり、何も問題はなかったってことじゃないのかい?」カフェで2090年式マンガン電池の電圧をゆっくりと味わいながら、ポップヘッドが言った。
「初めてチームを組んだ相手の流儀や距離感がつかめず摩擦が起きるなんて、人間やバイオロイドでもよくあることさ」
「そうかもしれないな」ランパートは認めた。「ただ……」
「ただ?」
 アザズはAGSのエキスパートだ。ハイパーライオンに関する一連の出来事を除けば、遠征中彼女がほどこした処置の中に無駄なものや不適切なものは一つもなかった。オルカに所属するあらゆるAGSの設計を、彼女が深く熟知しているのは間違いない。
724/08/07(水)17:07:47No.1219422059+
 そのアザズが、ランパートのボディ背面にある関節カバーを知らずに開けてしまうなどということがあるだろうか。その下にあるのは脊椎中枢ユニットであり、しかるべき知識のある者が手を触れれば、ランパートのボディを好きなように制御できるのだ。そしてもちろん、アザズはしかるべき知識を完全に備えている。
 だからランパートはかすかな疑念を拭いきれない。あの時の「あっ、しまった」はもしかして、
〈あっ、しまった。気づかれてしまった〉
と、いう意味ではなかっただろうか。
 もしランパートが警告を発しなければ、何が起きていたのだろうか。
「……もちろん、私の気にしすぎなのかもしれないが。君はどう思う?」
 ポップヘッドはだまって大きなゴーグル型センサーの輝度を落とし、側頭部のマニピュレータをぴったりと胴体に引き寄せた。
「……今後僕が遠征に出る時、アザズ女史が同行を申し出たら慎重に対応することにするよ」
「それがいい」
824/08/07(水)17:08:33No.1219422207そうだねx2
つづき
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イベントでリクをいただいた第三弾アザズさんの話
924/08/07(水)17:19:42No.1219424718そうだねx2
ドラキュリナの扱いでダメだった
1024/08/07(水)17:20:44No.1219424963そうだねx2
まとめ
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ドラキュリナはどんな目に遭っていてもかわいい
1124/08/07(水)17:34:28No.1219428577そうだねx2
アザズはこういうこと絶対する
1224/08/07(水)17:47:56No.1219432327+
やっぱすごいぜ…土方キュリナ!
1324/08/07(水)18:02:55No.1219436455+
久しぶりに新作に遭遇出来て嬉しいぜ…
1424/08/07(水)18:16:54No.1219440764+
オービタルウォッチャーのお話好きだわ
時系列が互い違いになってるの面白かったな
1524/08/07(水)18:20:46No.1219441991+
>オービタルウォッチャーのお話好きだわ
>時系列が互い違いになってるの面白かったな
ありがとう…感想嬉しい…
なおドラキュリナのプラモは手足が分割できるという設定を考えたが酷すぎるのでやめた


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