「ダメだ。この人達全員死んでる。」 デジタルワールドに逃げ込んで数日後。森の中で一台のワンボックスカーを見つけた。 この潰れ方から見て、300メートルを超える高さから落下したようだ。 自分の名前が思い出せなくなったあの日から、そういうことが見ただけで理解ってしまう。 上を見上げると、大きく穴の開いた樹冠部の遥か上にデジタルゲートの痕跡が見えた。 中にいたのは大人の男と大人の女と子どもの女が二人ずつ。死んでからまだ半日ぐらいか。 何か使えるものがないか、潰れた車の中から人だったものや荷物を運び出す。 車に積まれていた新聞の日付に目が留まる。……15年前の日付だ。 新聞の紙と紙の間にお菓子のカスがはさまっていた。 古新聞を持ち込んだのじゃなければ……そう言えばあの計画主任のパートナーデジモンは確か。 となるとここは『今』のデジタルワールドじゃない。おそらく15年ぐらい遡った……。 回収した身分証明書や迷子札、持ち物をチェックする。 ……『夏井茉莉』と『海津真弓』がこの女の子たちの名前らしい。 どうやら二つの家族が一緒にドライブ旅行に出かけて巻き込まれたようだ。 「どう?なんか使えそうなの見つかった?」 鉄製の車のドアを軽々と放り捨てながら『あい』が訊いてきた。 彼女は俺と一緒にあの施設から逃げ出した――俺と同じ『実験体』だ。 「そうだね、いろいろ見つかったよ。でもその前に――」 俺は立ち上がると、積み上がった『人だったモノ』を見返しながら言う。 「この人達を弔ってあげよう。このままじゃかわいそうだ。」 「うん、そうだね!わかった!」 これを積み上げた時に顔についた血の跡もそのままに、彼女は笑顔で答えた。