ジェットエンジンの轟音が響く航空自衛隊岐阜基地の北東側に接した一画。 一画と呼ぶには多少広大なエリアに、某重工会社工場のハンガーエリアが存在する。 「マユミ、今日は午後からだよな?」 ハンガーの広大な空間に、各部を計測機器を取り付けた大柄のデジモンがいた。 プテラノモン(X抗体)である。 「そうだね。今頃茉莉は『おっはよー、今日も元気に8G機動行ってみよー』とか言って隊のみんなを振り回してるだろうね。」 マユミと呼ばれた青年はテンションも音域も低い声で言う。 彼の名前は海津真弓、重工会社の技術者である。 「大変だな。」プテラノモンはそれだけ言う。 彼は寡黙な性格であり、主語など単語レベルで省略した会話を行う癖がある。 真弓のほうもすでに15年もの付き合いであり、そんな彼の性格はよく理解していた。 この場合の「大変」は、午後から自衛隊と合同で行われる新装備のテストでおそらく茉莉以外の隊員がヘトヘトになっていること、その中でテストをやらなくてはいけないことを指していた。 「まあしょうがないよ。そんな茉莉のブレーキ役になるために俺達はここに来たんだから。」 表情もテンションも一切変化させずに真弓は言う。 不意にスマホの通知音が短く鳴った。真弓は顔色を全く変えずにスマホを操作する。 しばらく画面を見ていたあと、どこかに電話を掛ける。 「……茉莉、緊急事態だ。鵜戸三佐が独断で出撃した。」 相変わらずテンションも音域も低い声で言う。 「これを見て今まで大人しくしてた反デジ派の議員と陸幕との通信量が急に増えてる。」 淡々と告げる真弓。おそらく通話先の茉莉は対照的に表情をどんどん変化させているのだろう。 「鈴木三佐とDレンジャーズのガードロモン達が危ない。」 海津 真弓 かいづ まゆみ 23歳男性。所持デバイスはD-3。 15年前に夏井家と海津家の二家族合同での家族旅行の最中に突如発生したデジタルゲートに乗っていた車が巻き込まれ、デジタルワールドへ転移。 二家族の両親は死亡し、子供たち二人だけが生還した。 その時に起こった事や事故前の家族のことを全く記憶していないようで、電子カルテには重度の記憶喪失であると記録されている。 日常生活に必要な知識や社会常識は正しく覚えており、茉莉とともに施設で育つ。 奨学金を得て大学に進学、卒業後に某大手重工会社に入社、本人の強い希望で岐阜基地隣接の工場へと配属される。 しかしこの奨学金や人事異動に関しては不明瞭な点が多い。 現在はソフトウェア技術者として航空自衛隊のDoadoeと協同で新装備の開発や実験に携わる。 実は陸上自衛隊C別の外部協力員であり相当な実力を持つハッカーである。 彼がここにいる目的の半分は新兵器開発のためだが半分は産業スパイや敵性国家のスパイから軍事機密情報を守る防諜のためである。 無表情で物静かな雰囲気……に見せかけて突拍子もない事をおっぱじめる問題児3号である。 プテラノモン(X抗体) 海津真弓のパートナー。寡黙で我慢強い性格。 こう見えてプライドが高い一面があり、トブキャットモン大佐の辛辣な言い草に(たとえそれが自分以外に言われたものであっても)本気で怒り出すことがある。 テイマーの真弓と同じ企業に所属するデジモンであり、航空自衛隊のDoadoeと協同で様々な開発や実験を行う。 元はモノドラモンだがあまりこの姿に退化することを好まず、彼のために真弓はビルトインガレージ付きの借家を借りることになった。 問題児3人を窘める役回りの苦労人である。 実験体「ヘルギ」 FE社で行われていた「チェンレジ計画」の実験体の一体。推定年齢9歳の男児。 匿名で捨てられ施設で育てられていた子供を買い取り、徹底した頭脳強化実験を実施、その前処置として自身に関する記憶を全て消去される。 あとは人格と記憶の移植を待つばかりであったが、半年前の天沼鉾襲撃事件に乗じて他の実験体を連れて逃亡。 現時点でデジタルワールド・リアルワールドの両方で該当個体が活動している痕跡や情報は得られていない。