秋月影太郎が瀕死の重傷を負った FE社火行:朧巻タツミという強敵を前に究極体デュランダモンとなった自身は翻弄され、パートナーを護りきれなかった 「何だ…この体たらくは」 Legend-Arms───天使が握れば世界を救い悪魔が握れば世界を滅ぼすとまで言われたデジモンが、ただの1人の人間すら守れないほどに無力だというのだろうか 普通のズバモンとは違う、体の大半が黒く濁った金色混じりの剣は今も尚贋作なのだから仕方ないのだと神は言うのだろうか 「ズ、バ…モン」 「…シャニタモン」 「エータロ、ゲンキ…ナル…アカネツイテル」 「でも、僕には…何もできない。パートナーである僕には」 あれから足繁く彼の部屋に介抱しにいく赤毛の少女の背を何度も見た。ようやく目を覚ましたのだと涙目で安堵していた それに対して自分は引きずった後めたさに一度も彼の元へと話に行けていない ズバモンにはどうすれば良いのかわからなかった 自分に何が言えるのか、自分に何ができるのか、自分が…本当に必要なのかさえも 人間でいう輪廻転生、前世の記憶というものはデジモンにおいても一部分だけを引き継ぐケースがあるそうだ ズバモンの最初の人生の記憶は、無いに等しかった デジタマの状態で暴走したデジモンの群れに襲われ、罪なき子供たちとデジタマが被害にあった 意識や自我よりももっと深く本質的な何かでかすかに感じていた影太郎の腕の中の温もり、それが途絶えて、悲鳴が聞こえた気がした 二度目の人生は気が付いたとき培養液の中で彼を見た記憶が始まりだった。まだ手も足も形成されてない出来損ないの身体を前に狂気に取りつかれた彼は無表情で目を血走らせていた 間もなく"ゴルルドモン"と呼ばれた自身を今俯瞰すると、感情も痛みも恐怖も…言葉を交わす機能すら持たぬ存在。そしてその力は模倣された彼の兄のパートナーデジモン―――盾のLegend-Armsルドモンを限りなく再現した贋作にして傑作、世界を一つ焼き尽くす怪物へと自身を押し上げた 選ばれし子供たちの究極体を複数相手取り圧倒する防御力と火力、まさに兵器として完成されていた そんなかつての自身を今は恐ろしく感じ、同時にとても悲しく思っていた 鉄塚クロウとライジルドモンBMに粉々に砕かれたゴルドブリウエルドラモンの身体は砂のように崩れて、デジタマにすら回帰できぬ不完全な人工物たる自分がそこでようやく彼に届けられた最初の言葉は―――謝罪だった それから自分が死ぬまでの間、暗くなっていく意識の仲でずっと影太郎は泣いていた気がする そして三度目に目が覚めたとき、割れた金色のデジタマの破片と共にうす暗い隔壁の中にゴルルドモンは座り込んでいて やがて再び相まみえた彼はやつれていて、手枷に縛られた腕を晒してずっと黙って佇んでいた 大勢の人を殺し、デジモンを利用し、しかし運命は彼に死にゆくことを許されぬまま贖罪の戦いを宣告した その力になれと言われたとき、ようやく彼と並び立てると感じたとき……何を言えばいいのかわからなかった 全部覚えているから ようやく傍に居られる心の奥にある喜びも、それ以上に積もった自分の悲しみも、彼の悲しみも だからせめてこれ以上苦しまぬように願って、言いたい何かに口をつぐんで敬虔なフリをしてきた でも限界だった そんな風に影太郎の背を追いかけるなど 「見つけたぞズバモン」 「…なんで、そんな身体で動いて」 「僕はキミのテイマーだ。キミを迎えにいく義務がある」 デジヴァイスの位置情報通知機能を辿ってきたのだろう。健常とは程遠い半身を引きずるような鈍い足取りで隣に並び、崩れるように座り込む影太郎を突っぱねる 「ほっといてくれ。影太郎は…本当はボクの事なんか置いてけぼりにするつもりだったんだろう」 「……」 ―――『ズバモン。すまない、お前をずっと振り回してしまった…お前は…今度は正しい人間のための力になれ。いいな』 「何が、次は僕みたいなヤツの相棒になるなだよ。まるでボクが仕方なく影太郎に使われてるみたいじゃないか……全部投げ出してBVのみんなやボクの前からすらも逃げたかったんだろ?」 朧巻タツミとの戦いで死に際に吐いた贖いの言葉。棘のように刺さったまま抜けないそれを咎めるように吐き捨てる 「……違う。僕には罪を償う使命が」 「使命、義務…?───そんな言葉が聞きたいんじゃない!」 一段と荒らげた声に影太郎が停止する 「ボクは…ボクは本当はこんなコトをしたかったんじゃ無い。罪滅ぼしのためだけの戦いじゃない……ずっと子供の頃の影太郎と一緒に冒険したかった。みんなと一緒に旅をしたかった。同じ立ち位置で、肩を並べて、力を合わせて、みんなのように……」 本当なら兄・秋月光太郎と同じように選ばれし子供達の仲間として旅をして……しかし叶うことが無かったあの日の記憶を悔いるようにズバモンが喚く 「あの日ボクがちゃんと影太郎に逢えてたら、ちゃんと産まれていたのなら、たとえゴルルドモンなんて兵器になっても影太郎を止められたなら……きっと影太郎がひとりぼっちで苦しまなくてよかったのに。ボクのせいで…」 とめどなく溢れる大粒の雫が黒と金の入り混じった金属の躯体を濡らしていた 「ボクは無力だ。せっかく、ようやく影太郎にまた逢えたのにあのルドモンとテイマーのように強くなれない…パートナーひとりすら護れないままだ。くやしい…くやしいよ」 「ズバモン」 「だ、ダメだよ影太郎…ボクの刃に触れたら危ない」 「僕はキミに逢えてよかった」 「え…」 「確かに僕はずっと迷っていた。使命や義務や罪悪感に囚われて考えることを躊躇っていた……それでもキミの本心が聞いて、そう思った」 「例え僕が取り返しのつかない過ちを犯しても、二度の別れを経たとしても…こうしてまた側にいてくれることを感謝する」 一度目のデジタマとしての死別 二度目のゴルルドモンとしての死別 …それでも尚、三たび此処にあることを望み選び取った小さな存在を静かに抱きしめながら吐露する 「本来なら僕にはもう選ばれし子供達のようにデジモンとも、それどころか他の誰とも心を通わせる資格なんか無いのだと思う。生きている事さえ憚られる……それでも今僕は初めて誰かの幸せを願って、そのために自分に出来ることを探そうとしている。キミや、アカネや…ああそう思うと不服だが、他のBVの連中の顔も何故か浮かんでくるな」 不服、などといつものように無碍なセリフを吐き捨てたその顔は眉間の皺を解いたままで 「……不思議だが僕の孤独はとっくに終わっていたんだ、そして時間を兄さんたちが僕にくれた。だから共に罪を償い、そして僕らの望むものを…残された時間でBVの皆と未来を掴む……僕が望むそれは強いられた使命でも義務でもない、キミとの最初で最後の冒険であり今キミと共に望む未来への歩み方だ」 「……」 「兵器じゃない、罪滅ぼしの道具じゃない。今度こそキミとの絆を僕は築いてみせる───僕の相棒(パートナー)」 「うう…影太郎…」 「涙を拭え。自慢の刃が錆びてしまうぞ」 「何でアナタがいるんですか」 「今日はプライベートや、仕事の話は無しにして仲良くしよやアカネちゃん」 「気安く呼ばないで。アナタのせいで影さんは…!」 「そうそう、その影ちゃんの復帰試合を見に来たんよ。ウチ相手に生きて帰ってくるヤツがいるんは珍しいからなぁー…ちょっと興味が湧いたんよ。あっウチのコト内緒で頼むで」 飄々としてのらりくらりとやり過ごすこの糸目の男に怒りを通り越して呆れたためそっぽを向いて無視する 相手もこちらにあの時の敵意はない様子で興味の一切を出場する影太郎の背中へ向けながらニヤリと笑むばかりだった 「なんや、こないだ会うた時よりええ顔しとるやん」 「……影さん、がんばって」 『VRアリーナ今回の検証を開始します…VI.F対秋月影太郎。検証開始───』 「待ちくたびれたぞミスター秋月。怪我の調子はどうだ」 「実戦はまだ無理だが、アリーナであればこうして招待に応じる他なかった。感謝する」 「御託を並べてもしょうがない、戦いはもう始まっているからな」 マグナモンXが先手を取った。立ち向かう挑戦者に待ち構えるセオリーを崩し襲いくる王者へ身構えて 「デジソウルチャージ・オーバードライブ!」 「ズバモン進化───デュランダモン!」 迎え撃つ。二つの金色が激突し斬り結んだ途端至近距離での殴り合い 鋭い剣戟をいなし、躱し、受け止め、マグナモンが拳を突き立てる目にも止まらぬ息をもつかせぬ連続攻撃 「デュランダモン、お前はやはりミスター秋月にそっくりだな。逆境に頭に血が昇り太刀筋に無駄が増える…それではオレたちは倒せない」 「くっ…ぐあああ!」 影太郎の頭上を飛び壁面に首根を掴まれ叩きつけられるデュランダモンが?くもびくともしないまま。空中に静止するマグナモンXが脚元に身じろぎせず佇むテイマーを見据える 「さぁどうする挑戦者よ。このままやられるパートナーを見捨てるか」 「お前は随分と落ち着いているなミスター秋月」 「…パートナーか。ああそうだデュランダモン、僕はキミのパートナーだ」 振り返ることはしない。ただ真っ直ぐ前を見つめ越えるべき壁を見据える 同じようにデュランダモンの眼もまた、眼前の強者を見据えあらん限りの力を振り絞り、マグナモンXを薙ぎ払い飛び出した 「うぉおおお!《ツヴァングレンツェ》!!」 「そうだ───それでいい、デュランダモン。僕らの足掻きをみせてやるんだ」 いくぞ。影太郎の雄叫びが轟いた 「チャージ…デジソウルバースト!!」 「───《デュランダモン・バーストモード》ッッ!!」 「白いデュランダモン…」 「この力は…影太郎!」 マグナモンXを振り払い変貌した己の力に振り向いた相棒へと影太郎がさらに呟く 「…"まだ"だデュランダモン。僕らはまだ高みへ行ける───"アイツ"よりも先へ」 漆黒の騎士と青年、その面影を振り切るようにデジソウルを激らせて再びデジヴァイスへと心血と共に注ぎ込む 全ては目の前の勝利を掴むため、ただ相棒を信じ抜くと誓って 「───贋作などと呼ばせるものか。僕の相棒を…舐めるなァァァァア!!」 デュランダモン、マグナモンXが交錯。けたたましい激突音 ビシィッ! 「「!?」」 「我が鎧に…傷が!」 「ほう…!」 目を見開いたマグナモンXとFに微かな動揺と笑み 振り抜いた金色の薄刃を翻し切先を向けながらデュランダモンBMが睨みつけ、損耗を許したランク1位の姿に観客席に動揺が走った 「なんや右腕が変形しとる。アレは…ゴールドデジゾイドか!?」 「キレイ…まるで、マグナモンXの鎧とそっくりな光」 タツミとアカネが目を見開いて感嘆する最中、Fが理解し口を開く 「……ゴールドデジゾイドモードのマグナモンXと同じチカラだな。右腕限定…それも透けて見えるほどに薄い刃だが、この切れ味は間違いなくホンモノだ。やるなミスター秋月……答える余裕も無いか?」 「ハァ…ハァ…確かに、この力を維持するには僕らはまだ未熟なようだ。それでも」 BMに飽き足らずさらにデジソウルを強力に吸い上げながら顕現した新たな力の前に、病み上がりの影太郎は疲労の色を隠せず…それでも玉のような汗を溢しながら彼はニヤリと笑んで 「指を掛けたぞ……"その先"に!!」 「なら、せいぜい楽しませろ…簡単に振り落とされるなよ」 「マグナモン、勝つのはボクだ!」 「いいだろう…来い!!」 「───時間切れだ、惜しかったな挑戦者。どうだったヤツの剣は」 ゴールドデジゾイドモードを解く一瞬、鎧に刻まれた幾つもの"微かな斬痕"を指でなぞりマグナモンが静かに唸る 「───楽しい闘いだった」 膝を降りながらもその目に闘志を宿し屈さぬ1人と1匹への飾りない賞賛。それを聞き届けた時VR空間が音もなく暗闇に崩れ落ちて目が覚めた 「影さん大丈夫…?」 「……すまないアカネ、仮想空間とはいえ無茶をしたようだ」 医務室のベッドの傍らに見守る少女へ謝罪と感謝を述べ体を起こすと足元にズバモンが眠っていた VRではあったが間違いなく発露した新たな力、白いデュランダモンと金色の刃……指をかけたのならば完全に己が力とする日は遠くないだろう 心の底から信じ抜き、それに応えてくれた相棒へと労いを指先に乗せて触れる 「ズバモン、よく頑張った」 その様子を見つめて、迷った末にアカネが口を開く 「影さん、タツミがいました」 「…ヤツは何か言っていたか」 「『今度やる時が楽しみだ…』って」 「フッ」 思わず漏れた笑みに驚いた様子で目を丸くするアカネを今一度見つめる。二度と無様に倒れ奪わせるような真似すらさせないと誓う 「二度と負けるものか」