夕方の喫茶店。  町外れにあって、この時間帯にも人気の少ない店内の、更に端の席に向かい合って座る二人。  その二人の表情は、共に明るくなく。  「……何しに?いつから?」  「易々と言えると思うか?」  「言えない方。ならなんで此方には連絡がないの?」  キンバリーは影宮市の木楼高校に通う2年生であると同時に、一度は米国で大学を出た才女であり、情報機関に籍を置く人物でもある。  そもそもが市内で見られた不穏な動きの調査のために木楼高校に編入していた彼女だが、結局聖杯戦争への介入は叶わず、そもそも「調査」以上の事は言い渡されず、ここまでの時間を過ごしている。  漫然と流れる時間、あるいは朧げながらに見たような、日常を破壊するかのような夢の記憶に頭を痛める日々を送る中、下校中の彼女の前に現れたのが、現在眼前に座る男。  カリヴァ・リヴィングストン。キンバリーと同じ組織に勤める人物だ。  「貴官の仕事ではないからだ、スミス」  「またそれ。じゃあ私の仕事って何?ジョシコーセーする事?」  「……それを考えられんほど愚鈍では無かったと俺は記憶しているが」  「ご生憎。もう長い事、ちゃんと表に出した言葉だけが正解貰える生活してますので」    そう言いながらも、キンバリーの脳裏に言い知れない不安があるのも事実。  此方に来る際に言い渡された以外に新しい指示もなく、確か「何か」が起こっていた時期にも、何をするとも言い渡されなかった。  どうすればよかったのだろうか。  何をするべきだったのだろうか。  店員が持ってきたカップの内に映る自分は、今にだって脳天を撃ち抜かれてしまいそうなくらいに腑抜けている。    「まだ、そんな顔をするんだな」  「どういう意味?」  「何年ここに居た?どれだけの間『調査』をし続けた?それでもまだお前は、信じられるものを持たないか?」    目の前の男は淡々と言い放つ。  意図は掴みきれずとも、その一つ一つが妙に心臓に杭のように突き立ってくるような感覚を覚える。  「現在、お前への指示はない。俺の任務も、これで終わりだ」  「は……?」  「……ここのコーヒーは悪くない。精々、ゆっくりと飲んでいけばいい。その後の事は、お前自身で考えられるだろう」  その言葉を最後に、カリヴァは席を立つ。キンバリーが何か言葉を吐き出すよりも先に、キンバリーの分も払うと言って会計を済ませ、男は店を後にした。  そして、座席には彼女だけが残された。  「なんだよ、それ……」  彼女の嘆きに返すのは、天井のシーリングファンが回る音のみ。  カウンターの中に佇む人物も、只管にコップを拭き続けている。  結局キンバリーが店を出たのは、それから1時間以上が経ってからの事。  夏の高い日も落ちかけて、僅かに星が光る頃だった。