「いったいどういう……」  言われた言葉を反芻しながら竜馬はカケルに問う。勿論想像はつく、デジタルワールド関係のことを明らかにしてから話している以上そう言う事だ。しかし解せないのはなぜ自分なのかということ、竜馬がデジタルワールド関係で言えば自分が目立つ存在であることを理解している、自分が強者の側に属しているということもわかっていた、竜馬は数少ないパートナーを究極体にまで育て上げているテイマーだ、かつて共に旅をした仲間と比べても強さは頭1つ図抜けている。 「まぁ…俺から説明したいとこだけど結構複雑だし、一緒に来てくれた方が早いと思うぜ……聞くだけでもどう?」 「……わかった、聞くだけなら」  そうこなくっちゃとカケルはいい竜馬の肩を叩いてくる、世間的で言うところの陽キャとでもいう存在なのだろうなと竜馬は感じた、一切の屈託なくその距離を詰めてくる様は自分とは真逆に思える、この瞬間が嘘に思えた、かかわりのない人間と薄皮一枚の関係性で話ながら歩くようになる状況が。しかしデジタルワールドでは似たようなことから関係が始まった人間がいることを思えばありえなくは本来はない、それを嘘のように思うということはリアルワールドに対しての感覚をどこか虚無的に感じてることに他ならない。カケルの言葉をどこか上の空的に効き流しながら竜馬は歩く、2人の行く高校は残り歩いて数分のところにあるから到着まではさほど時間がかからなかった、校門を通ると歩いてすぐのところにある、大量の靴箱で上履きを履き替えてからホール状の空間を歩く、ホールからは廊下が北側、西側、東側に伸びている、生徒会室は東側にある、廊下を歩いてすぐに1室あり上部プレートに生徒会室と機械的に書いてあった、カケルが軽い声で失礼しますと言いながらほぼ同時に手を伸ばして扉を開いた、中は八畳程度の空間になっていて向かって左手側に黒板が有り、部屋の中央には長机が4つ程度、右手側には小さなキャビネットとファイルを治める大き目の事務棚がある。机には黒板側、おそらく生徒会長席に少女が1り、そこから左手窓側に眼鏡をかけた少女、右手扉側には会長席側に少年、その隣に少女が座っている。 「おっと待たせちゃった?」 「大丈夫だ、遅刻ではないからな」 「そいつぁよかった、んじゃ竜馬、こっちこっち」  カケルが生徒会長の少女に声をかけてから竜馬を手招きし窓側に誘った、言われるがままについていき促されるままに座る。 「さて……初めましてかな、三上竜馬君」 「ええ……」 「ならば最初は自己紹介からかな……名前も知らずに関係を構築はできないからね、私の名前は七瀬トキオ、生徒会長をさせてもらっている」 「じゃ、次は私か、天野アマネよ、生徒会書記です、よろしく」 「なら次は僕かな、犬塚恭介という、風紀委員覚えてくれれば幸いだ」 「……別に私いらなくねぇ?」 「どうした照れてるのか」 「照れてねーっての!猫塚虎子……別に所属じゃねーけど色々あって協力してる」 「んじゃトリは俺だ!大地カケル!一応庶務!改めてよろしくな!」  随分と個性的な面々がそろっているように思えた、かつて旅をした仲間とも引けを取らない程度にはバリエーションがそろっている。竜馬も小さくよろしくとだけつぶやいてから押し黙る。それを会話を始めてもいいととらえたのがトキオが口を開いた。 「ではあまり長話も好むところでもないだろうから状況を始めよう、皆これを」  そう言いながらプリントが回されてきた、数枚が綴りになっている。プリントにはいくつかの写真と文章が並んでいた。 「竜馬君は最近までデジタルワールドに?」 「なら多少説明が必要か、ここ数か月の出来事を語ろう、神隠しというものを知っているかい」 「確か……いきなり人が消えたときに神に隠されたみたいな感じで言われる」 「大体あっている、つまりそう言ったことがこの周辺で起きている」 「……そうなの?」 「そうだ……本来ならば比喩的表現でしかないのだろうが、現状リアルワールド……こちら側より何人かの生徒が複数行方不明になっているのだが……」  トキオの顔がどこか苦虫を噛んだように歪んだ。 「既にマスコミなどが騒ぎ立てていてな……こちらも対応に追われている、人でが足りていない状況だ」 「ったく……面倒だぜ、帰るかって校門出たらいきなりマスコミに追っかけられるって……アイドルじゃねーんだぞっての」 「男子はまだいい方よ、女子は気が弱そうと思われるところから積極的に絡まれてる」  カケルが面倒くさそうに手を振り、アマネはどこか怒りをにじませていた。 「こちらとしては早くこの事態を収束させたいと思っていて……だからこそ竜馬君を呼んだわけとなる」 「それはわかったけど……カケルさん」 「カケルでいーって」 「……カケルから聞いてるけど皆デジタルワールドと何か関係があるのは知ってる……俺、いる?」 「言ったでしょ、手が足りないのよ……その資料ちゃんと読んでみてよ」 「ん……」  ななめ読みだった資料を読み込むようにめくった、紙の感触を指で感じる。改めて写真を見ると学区内で位置に規則性はない、近隣通学路、住宅街、駅前のアーケード、一番下のページに位置関係がマークされていたがそれからも規則性は感じられない、全てランダムで有り何かを見出そうとしてもおおよそ見出そうとすることができない。文章も読む。 『3月26日 19:31 部活帰り 女子 2年A デジタルワールド無関係』  いつどこで起きたかも軽くまとめられている、マークは通学路中部あたりにあった。竜馬は気づく。 「……あなたたちはなんでこんなことを知っている?」  思えば妙だと思った、確かにこの神隠しはおかしいことであるが何故それがデジタルワールドと関連付けて考えられるのか、その論拠がどこなのか竜馬にはわからなかった、もしかしたら全部関係のないことの可能性だってある。竜馬はそれを問わなければならなかった。  トキオが小さく唸り、言う。 「……協力者……協力者……?が、いる……?」 「何故……疑問形?」 「それはな……直接的な協力はされていない、技術供与……ということになる……はず」 「に……煮え切らない……」  フォローするようにカケルが言う。 「しょうがないんだって!いきなり出てきてこの事件に干渉できる機械?だけ置いてどっか行っちゃったんだって!」  言って片手に収まる程度の端末を見せてきた、液晶画面が1つにボタンが4、どこか携帯ゲーム機に似ている形状だ、これが本当にこの事件に活用できるのかは少々疑問だが、今はそれは問わない、話が遠回りになるからだ。ならばと竜馬は問う。 「誰から貰ったの……そんなにできる人、そうそういないと思うけど」 「そうだな……彼女はメグ=ハーディガンと名乗っていたが……」  瞬間、竜馬が立ち上がる、血肉が沸騰するような感覚が体内に起きた、メグの名は知っている、知っている以上の存在だ、敵の名を妙なところで聞くものだと思った、メグ=ハーディガン、デジモンイレイザー関係者あるいはそれ以上の存在、幹部格なのだけは知っている、飄々としていてつかみどころがない、情報を何か掴んでいるのかはわかっているが思わせぶりでそれをつかませない。ハッカーでありながらもテイマーとしても一流の女だ、何度か交戦経験はあるがその全てで手を焼かされている。そんな女からの技術供与という言葉に一気に疑念が浮かぶ、もしかしたらここにいる全員がデジモンイレイザーの手先なのではないかという疑念だ。それを手で制したのはアマネだ。 「三上君、私達がデジモンイレイザーの手下とでも思ってる?」 「……」 「無言は肯定と受け取るわ、言っておくけど敵じゃないからね……もしも敵だったらわざわざ生徒会に呼びつける必要なんてない……違う?」 「仕込みの可能性だってある」 「高校生にそんな仕込みする余裕あると思う?」 「……」 「無言は肯定と受け取るわ……と、言ってもそのメグって相手……三上君には結構因縁の相手?」 「……正しくはその上、デジモンイレイザー……兄を……昏睡状態にさせられてる」 「思った以上の因縁ね……そりゃ信じきれないか…」 「……まぁ、でも……むしろこっちから協力する理由ができたよ」  空を睨むように眉間にしわが寄る。 「か細くても……イレイザーに繋がる線ができるなら……!」  壮絶な形相を浮かべていた、その表情に誰もが息をのむ。おおよそ平和な現代日本ならば見ることもできないような憎悪を中心とした凝縮された表情が筋肉を通じて現れている。よく声を荒げている程度で済んでいると竜馬でさえ思う。  その様子を見ていたアマネが立ち会がり言った。 「タイマン張ろうか……三上君?」 「……え?」  一瞬空気が凍ったような気がした、正しくはその言葉に竜馬さえもついていけてなかった。唯一思考しているのは言葉を発したアマネだけだ。 「別におかしくないでしょう、協力してくれるって言うなら実力すり合わせなきゃ」 「……わかった」  おかしいことは何も言っていないからと竜馬はそれに承諾する。実際生徒会の実力をまだわかっていない、足手まといになられるのはごめんだ。 「ならいつやる?」 「すぐよ、場所は校庭で」 〇  場所は校庭を指定してある。三上竜馬は先に外に出ている。にわかに騒然となったのは生徒会室だった。 「おいおいおいアマネ…ちょい何考えてんの!?」  そう言ったのはカケルだった、あまりのことが一瞬で起きて脳の処理が追い付いていないがなぜか竜馬とアマネが戦うことになっていることだけは理解できた。 「確かに……アマネにしては短絡的すぎはしないか?」  トキオもそれに追随した、普段のアマネを知っているからこその言葉だ、どちらかといえば後始末を請け負う側にいるからか一歩引いた冷静な視点で発言することが多いアマネにしては直接的な解決を急いでいるように思える。 「まー、アマネにも何か考えあんじゃね?」 「虎子……だが、確かに天野書記にも何か考えがあるのでしょう?」  アマネが頷く。 「ええ……別に手っ取り早くだからなんて考えてない、これが最善策と思っただけ……別に嘘も何もないしね……実力知らないままなのはこっちも向こうも困るでしょう?」 「おおう……いや、確かに言いたいことわかるけど、本気でそれでいくの?」 「何よカケル……と言いたいところだけど確かに普段の私じゃって言うのもわかる……でも向こうと私達のスタンス……見えて来てない?」 「ん?……ん~~~~~?」 「カケルあんたね……まあいいわ、彼は私達に協力してくれそうなことは僥倖、だけど決定的に違うのは私達は生徒のために動こうとしてるのに対して向こうはイレイザー?とかいうのに近づくために私達に協力している……これ、どういうことかわかる?」 「……目的がすれ違っている……?」 「そう言う事ね、犬塚君、そ、下手すると彼、本来私達が協力してほしい神隠しのことを放り出してイレイザーにつきっきりになっちゃうかも」 「ははぁ……だからタイマンってか、格付けってことだろ?」 「……不良なだけあって鼻が利くじゃない猫塚さん」 「虎子でいい……いけすかねーと思ってたけど案外気が合いそうだし」 「そ、じゃ、虎子で」 「それより私と代わらない?暴れてぇ」 「馬鹿言わないのただ暴れるためにやるんじゃないんだから……三上君の信頼を勝ち取るためよ、向こうがイレイザーのほうに行きそうになっても引き止められるくらいの力は見せないとね……」 「……アマネの言い分はわかった……勝ち目は?」 「1あればいい方かしら、デジタルワールドでの噂……本当に1度世界を救っているとなれば修羅場の潜り方が私達とは別物だと思うわ」 「……私達もそれなりに冒険した方だが」 「トキオの言いたいことはわかる……ただことあるごとに聞く噂が全てけた違い……8人の子供達と比べてもその戦闘力は格段に上でしょうね……だとしてもただやられてやるつもりもないけれど」  眼鏡のブリッジ部分を人差し指で軽く持ち上げる。 「意地……見せてあげようじゃないの」  言い、生徒会の一同が皆校庭に向かう。  竜馬がまっすぐに立ち見据えている。20メートル程度離れた場所にアマネが陣取った。 「待たせたわね」 「待ってないよ……でもいいの、見られるかも」 「大丈夫……トキオ!頼んだ!」 「わかった!」  手に持っているのは生徒会室で見せた端末だ、トキオがそれを数度操作し叫ぶ。 「位相が変わる……構え!」  その言葉と同時に世界が変質する。 〇  竜馬が目を見開いた、どこか液晶じみた目に悪い空間が目の前に広がっている、校舎まで包み込んでいた。 「ここは……」 「デジタルワールドとリアルワールドの境目よ、0と1の間、あるいはリアライズとデジライズの丁度中間くらい……と説明を受けた、行方不明者はここを通りデジタルワールドに送られているんだってさ」 「……ふぅん」 「興味なさそうね」 「ないわけじゃないよ……でも重要なのはイレイザーに近づくことだから」 「そう……ま、いいわ、それじゃやりましょうか!ローダーレオモン!!」 「トリケラモン……!」  同時に光の粒子が舞った、それが徐々に形を作っていく。  竜馬の隣には恐竜の姿が形作られる。つぶらな瞳に似合わない巨躯には巨大な爪、頭部には2本巨大な角があり、鼻先にやや小ぶりな角がある。その様相は決して貫けない岩盤を思わせた。 「ふぅ……しばらく戦いはなかったんじゃないのかい竜馬」 「ゴメン……」 「気にするなよ、相棒」  竜馬の言葉に気にしないようにトリケラモンが声をかける。  対峙するアマネの隣にもパートナーが降り立っていた、こちらも巨大な体躯をしている。機械でできた獅子、鬣が掘削機で、尾にはとげ付きの鉄球があった。 「アマネ…この姿も久しぶりだなァ!」 「そうね、でも全力を出さないわけじゃない……!」 「当然だッ!漢を目指すならこれくらいどうということもない!!」 「それでこそ……」  その言葉が竜馬の声には聞こえていたらしく、小さく問いが来た、 「究極体で来ないんだ」 「あなたも完全体でしょ、トリケラモン」 「そうだね」 「それともそっちは完全体でも究極体に勝てるって?」 「そこまでは言ってないけど……」 「ならいいじゃない、さ、始めましょう」  言葉はそこで途切れた、空気が止まった気がした、誰もが目を離せずにいる。対峙する竜馬とアマネだけではない、見守っている生徒会の面々もそうだった。埒が明かないと思い竜馬が先手を取る、先手と言っても物理的な攻撃手段に頼るわけではない、圧だ、目に見えぬ何かを発する。こと戦いにおいて竜馬は敏感だった、肌身をもってそれを理解している。特に強者同士ともなれば練度というものはおのずと高くなり戦いとは別のところで勝敗が決することもある。別にこれは同等の力を持った者同士でなくてもいい、例えば親が子を叱るときどうしたって子は親に言われるがままになるしかない、たとえそこにどれほどの子の言い分があろうとも親にそれを言えばどうなるかと想像すれば言葉が萎えてくる、そうなれば既に戦わずして子は負けているようなものだ。ごく自然的に人間が使っているそれを竜馬が指向性をもって使う。人間は悪意を向けられればどうなるか、人それぞれではあるが対処をしようとする、敵対であれ防衛であれ、あるいは敗北を認めてやり過ごそうとすることすらあり得る。ありったけの戦意を向けてアマネの反応を探る。  無反応だった、ほうと竜馬が感嘆する。竜馬の込めた圧は尋常なものではない、ことによっては命をも奪いかねないイレイザーとの戦いや世界を救う冒険を経て並大抵の相対者ならば即座に膝を屈する。別に比喩でも何でもない、予備動作がある、相手を叩くとなれば利き手を上に上げるなどの動きが生じる、そうなれば人間には想像力があるから自分がはたかれると予測ができ、そうなれば想像としての痛みが生じる。竜馬のそれは格が違う、パートナーのトリケラモンが動けばそれは貫くという想像上で行われる、動きが貫くと本能的に知らせてくる、それがどれだけのプレッシャーになるのか竜馬自身が理解したうえでそれを行っている。こと戦闘においては誰よりも攻撃的でありトリケラモンの防御力すらも攻撃能力に転化させることができる、竜馬は己を卑下する、できのいい兄と比べられそのコンプレックスもあったのかもしれないが、テイマーとしては世界に存在するあらゆるテイマーの中でもトップクラスの能力を持っていた、才能とはどこで開花するのかはわからないものだ、そしてその圧をいなしたアマネに心の中で賞賛を送る。やるものだ、と。 〇  圧を受けたアマネは既に内心ですくみかけていた、情報で聞いていた以上の戦闘能力を有していることを身をもって理解させられた、格付けという意味で言うならば現在圧倒的に敗北しているのは明白だった、しかし認めるわけにはいかなかい、おのれの心に激を入れ倒れかけそうな足に力を込める。同じ完全体でこうであるならば気合いで負けたならば勝ち目は0になるのが理解できた、ならばすることはただ1つだ、覚悟して立ち向かうだけだ。何より自分から戦いを言いだしておきながら簡単に負けてしまえば後方の、尊敬する友人の顔に泥を塗ってしまう、そうなれば友人の、トキオの顔を真正面から見ることができるだろうか、できるわけがないと結論付けた、たとえトキオが気にするなと言っても逃げたという自分自身の負い目が対等に相手を見ることを許さない、そうなれば己の視線がどこに向くか、下だ、きっと上を向いて歩けなくなる、それを許せるほどあきらめの悪い女ではアマネはない。勝ちの目を得られるのならば例え0に近かろうとアマネはそれに向かう。目を向ける、竜馬を見る、無表情だ、その顔に何の感慨も見られない、できることをただやっているということをその通りに実行しているだけという顔をしている。少しばかり思った、あの無表情を崩すことができたらどれだけ楽しいだろうか、と、やってみるだけの価値はある。何より見せねばならない、こちらの底力を。 「ば……ローダーレオモン!」 「応っ!!壁は高い方が燃えるってもんだッ!!」  アマネの声にこたえるようにローダーレオモンの掘削機が唸りを上げる。機械であり有機的な部分などその心にしかないはずで蟻ながら、それは魂が震え照りるようにも思えた。 「なぁ……トリケラモンさんよぉ……」  ローダーレオモンが不敵な笑みを浮かべながらトリケラモンを見る。  雄大だった、並以上に鍛え上げられたその甲殻を削れるかもわからなく思える。掘削機のデータで構築されあらゆる大地を削り取ることのできる自分自身がそう思うということはそれほどの密度をしているのだろう。しかしそれがどうしたと思う。レベルを合わせるために完全体だが既に究極体にまで登った身の自分にそう思わせるだけの力を持った相手と手合わせができるという幸運をありがたく思う。漢の生きざまとは安寧とは反対の部分にある。戦いの果て、傷の極致にこそ思い描く漢の有様があるのだ。 「あんたの甲殻イカすね……」 「……?ありがとう……」 「だけど見ろよ……このオレの掘削機(たてがみ)をッッ!!」  誇り高く叫ぶ。 「どれだけ堅い岩盤も削り砕く!!」 「そっか……でも無理だよ……」  それにトリケラモンが答えた、 「オイラの甲殻は……金剛級(じょうとう)だから!!」  その声が皮切りだった。 〇  獣共が爆ぜる。重量級の四足の恐竜と獅子が組み合えばそれは迫力があるなどと言う言葉で済むものではなない。切り離された空間が振動する。局地的な自信のようなものだ、足に力を入れていなければ立ってすらいられない。  ローダーレオモンが上から覆いかぶさり、それを突上げるようにトリケラモンが角を叩き込む。そのままローダーレオモンの掘削機が回った、データで言えば金属ではないはずのトリケラモンの甲殻にぶつかり金属音が鳴る。 (オレの掘削機(たてがみ)が通らねぇ!?わかっちゃいたがなんてデータ密度だってんだ!?) (持ち上げられない……体勢で言えばこっちが有利なのに……オイラの角が通らないなんて久しぶりだ)  膠着状態だった、それは両者の力量が同等のようにも思わせる。それはすぐに崩れた。 「トリケラモン」  竜馬の一言だ。言われるがままにトリケラモンが動く。それは前にではない引く動きによる体勢崩し、ローダーレオモンが上に乗られている状態から前足だけで動くなど本来ならば不可能だ、しかし竜馬のトリケラモンならばできる。育成の密度が他の倍ではない、尋常ではない鍛錬の末にその挙動を可能とした、一瞬身を縮める。緊張状態にあった力の張りが一気に消えた瞬間にローダーレオモンの踏ん張りがきかなくなる。バランスが消えた瞬間に伏せるように倒れた、それは誰から見ても隙と言えた。あ、と誰かが間抜けな声を出した気がする。一瞬の挙動だった、後方に身を引いたばかりのトリケラモンが即座に必殺の体勢に移行している。 「トリケラモン、トライホーンアタック」  端的な命令に即座の行動が来る。重量のある一撃が重さを感じさせない挙動で行使された、額の2本、鼻先の1本、金属を貫けるはずのないそれがローダーレオモンの肉体に傷をつける。 「っ……嘘……!?」  アマネの声は思わずといったように出た、誰もそれを攻めることなど出来ない。非現実的だとすら思った、特にトキオとカケルも同じ状況ならば同じ言葉を言っていたはずだ、立っている場が違うというだけで声が出なかっただけだ。一見すれば単純な動きに見える、しかしそれが出来るか出来ないかと問われればそう単純な話にならないのは当然だ、痛みを抱えながら通常通りに動けるか、病気を抱えたまま通常のパフォーマンスを行使できるか、言うだけなら誰だって出来ることを竜馬はやってみせた。 「噂なんて当てにならないじゃないの……」  デジタルワールドで聞いた竜馬の噂は荒唐無稽のそれを塊にしたようなものだった、ただただ強いというだけの噂だ、トリケラモンを連れた凄腕のテイマーとトータルで言えばそれだけだが、しかし現実はさらに上を言った。ほんの一瞬出来事でそれを理解させられた。アマネの脳で勝利という字が揺らぎ始める。勝てるというビジョンを脳内で描けない。 「アマネぇ!!」 「!!」  それに喝を入れたのはローダーレオモンだ。 「オレはまだまだいけるぜぇ!!」 「っ……そうねっ……!」  アマネもそれに答えた、そうだ、まだ戦いは続いている。そもそもと思い出す。世界を救った相手だからなんだという、自分たちも苛烈な戦いを乗り越えてきたというのに、ほんの少しの実力を見たからなんだという。頬を叩き、眼鏡をはずす。 「ふぅ~~~……流石に弱気の風に流されかけたわ……」 「眼鏡外すんだ」  どこか戦いを忘れたような言葉を竜馬が言う。アマネが笑った。 「本気を出すときは外すことにしてるの」 「今までは本気じゃなかった?」 「そんなことはないけど、そうね……なら言い換えようかな」  形のいい顔が凶悪に笑みを浮かべる。 「こうなった私は……結構凶悪よ」  アマネは理性を貴ぶ、別にそれは誰に言われて強制されたわけではない。今までの生き方として自然とそうなっただけだ、しかし内心に攻撃性を持ちえないわけではない、かつて大人しく不良のような人種が苦手だったころから思うところはあった、それが発露しただけだ。本質は変わることはない、だがその面が出たアマネは周囲から見れば攻撃的になったとも見える。 「さぁ……行くわよ……挑む壁が高い方がいい……そうね?」 「ああ、最初からそうだった!さぁ、行こうか!!」  それを見る竜馬とトリケラモンも流れが変わったことを理解した。 「なるほど…でもかまわない、トリケラモン……行くよ」 「おうよ!竜馬……オイラもやーっと暖まってきたところだぜ!!」 〇 「いやぁ……ほんと変わったねアマネ」  横から見ているカケルが戦いを見て言う。 「確かに……まったく、信頼を得るとのことだが、あれはだいぶ楽しむほうに行ったな」  トキオがそれに頷いた。 「まさか天野書記にあんな一面があったとは。 「恭介が小さく呟いた。 「んだよ……猫かぶってたんだなあいつ」  虎子がむくれるように唇を尖らせた。  四人の感想はそれぞれ違うが、理解していることはただ1つだけあった、戦いはまだ続く。