「……なぁ真菜」 「なーに、くろーさん」 「さっきからあちこち触りすぎじゃねえか…?」 ぺたぺたぺたぺた…上腕、肩、背中、脹脛などなど。突如背後から現れた真菜はクロウをなめまわすように見定め指先を押し付けている 下手に動けないクロウが直立不動のまま首だけを回し彼女の所業を追いかけること数分、満足したように正面へと立戻りようやくぶはっと一息をつく 「おおー…やっぱりすごいねくろーさんの筋肉」 「お、おお…サンキュー……いったい何だったんだ」 何やら期待に応えるものがあったのだろうか、少し目を輝かせながら真菜がポンと手を合わせ唸る ようやく終わったかと、跳ねる心臓を抑えつつ恥ずかし気に誉め言葉を受け取り理由を問う 「実はちょっと興味があったんだよね、どれくらい鍛えてればデジモンとケンカできちゃうのかなーって」 「えぇ?なんかこう…ケンカする予定があんのか?」 「そういうんじゃないけど…」 彼女がそんな野蛮なことをするはずがないため余計な一言だったかと反省と同時に安堵 するとますます突然のスキンシップの意味がわからなくなる 「私も結構筋肉自信あるんだけどなー。男の子のがっしりしたのを触ると負けた気分になっちゃう」 「いやいやいや待てその手はなんだ!」 不意に両手がしれっと引っ張り寄せられていたことに気づき動揺が走る 「? せっかくだからくろーさんにも触らせてあげようかなって。付き合ってくれたお礼」 「それはマズイんじゃあねえか…いや良子らに怒られるって」 「…良子ちゃんたちは関係ないよー、だから安心してよ」 ほんの少し手首を握る力が強くなるのを感じた。確かに鍛え上げられたものを感じる握力に、しかしそれ以上にやや上目遣いでこちらをじっと射すくめる目線に抵抗の意志が削がれていく だが下手に年頃の女の子にべたべた触るなど軟派な好意を許容できるほどクロウは器用ではなかった 葛藤。指先が彼女の肌にかすかに触れたときたまらず大声が出た 「大丈夫!大丈夫だ俺はいつも見てるからよく知ってる!!」 …もっとも目線を合わせその台詞を言い放つ彼の両手は、彼女の手に導かれるままに触れそうになるのを避けようとしたはずの彼女の肩を"無意識に"がしっと掴みあげていたのだが 「―――それって、私の事いつもちゃんと見守っててくれてるってことなんだ」 「応!……あっちょっと待て」 本心だ。本心だが、恥ずかし紛れに吐いた言葉はそこまでラブコールめいたつもりはなかったため己の言葉に溺れるクロウ 「じゃあ、もっと知ってもいいんだよ。ほら…どう?」 肩を掴まれたまま抵抗を見せない真菜が誘う小さな声にさらに驚き、指先が柔肌に深く触れ弾力が押し返す 「…ん?おお…おお!なんだこりゃ」 「えっ」 心の底から漏れ出た賞賛 ケンカとバトルで培った己のソレとは違うアスリートとしての肉体の強さに関心が尽きない様子でクロウがつぶやく 「水泳頑張るとこういう筋肉つくんだな……確かにがっしりしちゃいねえけど、ムダが無いっつーか洗練?されてるっていうのか。ほえー」 「あっ…ええと」 「すげえよ真菜。いっぱいがんばったんだな」 「……ありがと。その…もうおしまい」 「ハッ!そうだなスミマセン…」 彼女の肩腕から手を離し目線を戻す。だが真菜の目線は先ほどと違いあさっての方向を向いたまま固まっている さすがに顔も真っ赤になりすっかり押し黙ってしまったため血の気が引きおずおずと謝罪を紡ぐ 「……いやホントスマン」 先ほどまで彼が握っていた両肩を自ら抱きしめるように手を添えて、少し縮こまった声が聞こえた 「褒めてくれて嬉しい」 「……」 「みんなには、ないしょだよ」 「アッハイ」 彼女が去った数分後バイタルの異変を感じたシードラモンにどつき回されたのは言うまでもない