その話を聞いて、トップロードのトレーナーは衝撃を受けた。
──愛妻弁当ならぬ、愛バ弁当…だと！？
彼は食道楽である。美味しいものに目がなく、それ（＋彼の愛バ）が原因で金欠気味になるほど。そんな彼の食への好奇心を刺激する甘美な響き、“愛バ弁当”。
──トップロードってどんな料理を作るんだ…？
思い出すのは去年のバレンタイン。気持ちの大きさと言いながら彼女は大きな箱に大きなチョコを詰めてやってきた。調香師の母と一緒に作ったという彼女のチョコはとても爽やかないい香りで、まるで彼女の純粋な心そのもののようだと思ったのは記憶に新しい。
彼女が料理の腕の片鱗を見せたのはそれくらいである。あとは大抵、自分の食べるもののご相判にあずかろうとするばかり。そういう意味でも、トップロードの料理に興味が湧いてきた。だが。
「何、じっと見て…？言っとくけどアヤベが俺のために作ってくれたお弁当だから分けたりはしないよ？いくら君が食道楽だからといって」
「ああ、うん。違くてね」

隣にいたコイツのせいで勘違いしそうになったが、いくらウマ娘とそのトレーナーと言っても本来教え子と指導者。しかも勉学、レース、学内の諸々の行事、ライブ、農業と多忙な彼女達にお弁当を作ってもらっても良いものだろうか？望ましいウマ娘とトレーナーの距離感が乱れたりはしないだろうか？そういう乱れがひいてはトレセン学園は婚活会場と揶揄される要因を産むのではないだろうか？教えてくれ、タマモクロス。
『トレセン学園は婚活会場やないで！あーん、ダーリンのお弁当ウマウマ』
心の中のタマモクロスは彼女のトレーナーが手作りしたというお弁当をあーんで食べさせてもらっていた。そういえば以前、自慢気味に話していたのを思い出した。色々あってご飯が喉を通らなくなった時、トレーナーが彼女の母親の味を再現した料理だけは辛うじて食べることが出来、破滅する前に救われたと。以来、トレーナーに度々お弁当やら何やらを作ってもらうことがあると。
──あの子はもうダメかもしれないな…
この場にいないのをいいことに、勝手に見切りをつけたトレーナーであった。

ふと、隣を見る。アヤベのトレーナーがサンドイッチを食べるところであった。食パンはなんとハート型に切り抜かれていた。
──あの子ももうダメかもしれないな…
同室の妹分に茶化されながら、『違うから！そんなんじゃないから！』と顔を真っ赤にして否定している様がありありと思い浮かんだ。
とはいえ皆作ったり作られたりしてるし、何なら自分もトップロードにお弁当を作ったりもする。一回くらい、お願いしてみるのもいいかもしれないと思った。

───
「と、いうわけでたまにはトップロードにお弁当を作ってほしい」
その日の夜、トレーナー宅にて。案の定回鍋肉の匂いに釣られてやってきたトップロードにダメ元でお願いしてみた。
「ふぇ！？……む、無理ですけど」
「そっかぁ、やっぱりダメかぁ」
「ごめんなさい、その…」
「いや、いいんだ。忘れて忘れて」
「………」
そうして、その日の夜はそこで話は終わった。

一週間後……
「よーし、昼飯にしよっと」
金欠のトップロードのトレーナーは今日も今日とて自炊のお弁当。気分を変えて外で食べようと、ちょうど良さそうな場所を探していると……
「オペラオーさん、私はもう…ダメです…」
「ドトウ！食堂は近い！気をしっかり持つんだ！」
何やら芝居がかった口調のウマ娘が2人。テイエムオペラオーとメイショウドトウ。トップロードのライバルにして友人のウマ娘達である。
「嗚呼、これは天からの助けか？それとも困難に負けじとボク達が切り開いた運命か！そこを行く君！どうか、ボク達に何か食べ物を恵んでくれないだろうか？」
「食堂ならすぐそこにあるよ？」
「た、た、助かりましたぁぁぁ。ど、どうかご飯をくださいぃぃぃ！お腹ぺこぺこなんですぅぅぅ！」
「いや、だから食堂がすぐそこに…」
異変を感じたトレーナー。思わず後退る。が。
「…何でにじり寄って来るんだよ！？」
下がった分だけ近付いてくる2人に、流石に恐怖を覚え背を向けて走り出した。
「ハーッハッハッハ！待ちたまえよ！」
「待ってくださいぃぃぃぃ！！！」

「うおお！？追ってくる！？」
ウマ娘から並のヒトが逃れられるわけがない。万事休すである。
「あ、あそこにいるのは！」
逃げる最中、運良くアドマイヤベガを見つけたトレーナー。彼女の庇護を得ようという魂胆だ。
「助けてくれアドマイヤベガ！何か君の友人達が俺の弁当を狙っているんだ！」
「……そう。ところで、今日の献立は？」
「へ？ふわふわ豆腐ハンバーグだけど？」
「なら好都合ね。2人とも！」
現実は非情であった。どういう訳かアヤベもオペラオーとドトウに協力し、トレーナーのお弁当箱を狙ってきたではないか。流石にウマ娘3人の猛攻を凌げるはずもなく、哀れ、トレーナーはその日のお昼ご飯を奪われてしまった。
「何だってんだよ…！」
彼の悲痛な嘆きが木霊した。そこへ……
「あの、トレーナーさん？」
「……トップロードか。悪いな、昼食なら今君の友人達に…」
「そうじゃなくて、その…お弁当作ってきたので良かったら一緒に食べませんか？」
「へ？」

………
「なるほど、そういうことだったのか」
「手荒くなっちゃってごめんなさい…」
曰く、せっかくトップロードが作ったお弁当。お腹が空いた状態で食べてほしいという友人達の気遣いだそうである。
「そういうことなら前日に言っておいてくれればいいのに…」
「ギリギリまで粘ってて伝え損ねちゃいました」
「ギリギリまで？」
「ほら、トレーナーさんって美味しいものしょっちゅう食べてるじゃないですか。料理もお上手ですし。そんな人を納得させられるお弁当を作ろうとしたらああでもないこうでもないと…」
「試行錯誤を重ねてたってわけね。別にそんな気合い入れなくてもいいのに」
「気合いくらい入れますよ。だって好」
「ま、君の気合いを有難く頂戴するよ。さっきから腹ペコで死にそうでさ」

−アドマイヤベガのふわふわたまごサンド−

材料：食パン、たまご、バター、サラダ油、マヨネーズ、マスタード、胡椒

�@��フライパンにサラダ油を敷いて熱する。馴染んだらバターを投入し、溶かす。
�A��バターが溶けたらすぐに溶き卵を投入。半熟よりもさらに液状程度のところで火から降ろす。
�B��ちょうどいいサイズの型に先程の熱した卵液を入れ、500Wの電子レンジで30秒から40秒程度温める。こうすることでふわふわかつ崩れない卵の具が完成する。
�C��レンジから卵を取り出して余分な水気を拭き取る（※これを怠るとパンがベチャベチャになり、ふわふわとは程遠い食感になるから絶対忘れないこと）
�D��パンの耳を落とし、挟む面にマヨネーズとマスタードを塗る。
�E��卵を挟み、軽く黒胡椒を振りかけて完成。
※卵に麺つゆや顆粒出汁を混ぜて味付けしても美味しく仕上がる。その場合はマヨネーズやマスタードの量を調節すると良し。
※パンをハート型に切り抜くのはやめましょう。そういうつもりなんてないのに揶揄われます。

「このたまごサンドふわふわで美味い！」
「アヤべさんに教えてもらったんです。喫茶店で食べられるふわふわ具合を目指したとか何とか」
「へぇ。ふわふわさせたら右に出るものはいないなぁ」
「ですね！」
斯くして、トレーナーと楽しいランチを過ごしたトップロード。先程言いかけたことはトレーナーの食い意地もといたまごサンドにかき消されてしまったが、今はたまごサンドのようにふわふわさせておこうと、少し逃げ腰なトップロードでしたとさ。

友人たちやさしいね…

フィリングを溶き卵から作るのか
スクランブルエッグみたいな仕上がりになるのかな

ふわふわサンドイッチかわいいね…

ハート型に切り抜くのは言い逃れ不可能だろ

じゃあアヤベさんはどういうつもりでハート型に切り抜いたんですか！！

トプロにみんな甘い

>ハート型に切り抜くのは言い逃れ不可能だろ
違うのよ…

調理中アヤベさんが一生懸命ハート型に切り抜いてると思うとkawaii

管理おつかれ

型に抜くなら星でも丸でもあるのにハートなのは言い逃れできないよ

夜中に読むと腹が減ってくる

たまごサンド作ってみるかな…