「…じゃあ……君は、ぼくを助けるために契約したの……?」 うん!そうだよ! と、私はキメ顔でそう言った。 「でも気にしないで!契約しなかったらきっと何もできずに死んじゃってたから!」 寧ろお姉さんの力になれて良かった! 魔法少女って存在の強さのアベレージが分からないけど、誰の助けも来ない中一人で戦ってたお姉さんが死にかけてたのだ!正直私みたいなモヤシが一人増えたところで何もできない……ならやはりお姉さんをアシストするのがベスト!ロジカルだ! だけど、お姉さん的にはそうではなかったようで。 「……そうか。そういう事、か。そうなのか……」 そう一言呟いて、お姉さんは俯いてしまった。 何かを考え込むように俯いて、 そして涙を拭うように顔を手で擦って、 私の肩に両手を置いて、こっちを向いてくれた。 その顔は。 「……君のおかげで魔女に勝てた。ありがとう」 笑っていたけど、笑っていなかった。 何を考えているのかは、分からない。 分からないけど、明らかに何かを堪えて、表情に出ないように必死に抑えて、無理して笑っていることぐらい、年下の私でもすぐに理解できた。できてしまった。 そして、お姉さんは片膝を突いて、私を覆うように軽く抱きしめてくれた。 「君の、名前は?」 「「」。お姉さんは?」 その声が、とても弱々しくて、泣きそうで、優しくて、哀しそうだったから。 「ぼくは……時雨。宮尾時雨」 「そっか……じゃあ時雨だね!」 だから、私は。 この人を笑顔にしたいと、そう思ったんだ。 「今日は何見るの?」 「んー特に決めては……時雨は何か興味あるアニメとか無いの?」 「ぼくは……そういうの分からないから。戦いの役に立つなら何でもいいさ」 「む〜相変わらず淡白……いいよっ鬼滅見よ鬼滅!今期は柱稽古編だから鍛錬のヒントになるかも!」 「「」がいいならそれでいいよ」 「うんっ!お菓子とジュース持ってくるね!」 ドタドタドタ… 「……はあ、今日もダメかぁ」 時雨と出会ってから、少しばかりの時間が経った。 あの後再度魔女と戦って分かった事は、私たちは弱いという事。未だに他の魔法少女とエンカウントしないからよくわかんないけど多分弱い。 死ぬ気で頑張れば魔女一匹倒すぐらいはできるんだけど、その分穢れが溜まるのを考慮するとコスパ良いとは言えないのだ!厳しい! だからぼく鍛えるよ、と時雨は言った。 筋トレとか剣術とか実戦とか…とにかく出来ることは何でもやってみる、と。 『あぁ……ぐぅ……うぅっまだ、まだ……!』 その姿は、見てて痛々しかった。 元々そういうのに向いてなかったんだろうし、やりたくもなかった筈だ。 私は何も言えなかった。 ぶっちゃけ剣の身で何をどう鍛えればいいのか分からないのだ。だから、無理してる時雨に何も言えなかった。時雨におんぶにだっこの私には言う資格がなかった。 だけどあんまりにもあんまりだから、せめてもの抵抗として私が提案したのが、そうイメトレ。 やっぱりアニメだよアニメ!そもそも魔法少女が存在からしてファンタジーなんだから、ファンタジーな動きやイメージを取り入れて想像力と認識の幅を広げよう!と。 この思惑は予想以上に上手くいっている。実際鬼滅とかBLEACHの剣技を模倣するのは修行として効果が高い。というかなんだろう、時雨一人が強くなるよりも…私と時雨の思考とか魔力とかが…シンクロ?すればするほど強くなる…そういうアトモスフィアを感じる。いやー流石私と時雨だね! 「……。」 …なんて、口に出して時雨に言えればいいんだけど。 飲み物を用意しながら、気付かれないようにチラリと時雨の方を見やる。 「…………………」 ああ、やっぱりか。 私が傍に居ない(と時雨が思い込んでいる)時、或いは鍛錬してない時の時雨はいつも何処か遠くを見てる。……もしかしたら、遠くどころか何も見えていないのかもしれない。普段から銀魂の銀さんみたいに目が死んでるけど、それも酷くなる一方だ。 ぼーっとして、口が半開きになって、心ここに在らず?って奴なのかな。どう考えても普通じゃない。 以前、一度時雨のお部屋にお邪魔させてもらった事がある。そこは。 『……あの、時雨……?』 『ああ……つまんない部屋でごめんね。気にしないでくれると助かるよ』 机、勉強道具、通学鞄、パソコンが1台。着替えが詰め込まれた箪笥、布団。 それだけ。 閑散としてるとか、つまんないとか……そういう話じゃない。趣味とか好みとか……人間味が、限りなく薄かった。 曰く。 『昔は…ロボット作ったりとかプログラミングとか、結構してたんだけど、最近は全然』 『ああいや、大学にはそっち方面の推薦と奨学金で入るつもりだから怠けてる訳じゃないんだよね』 『でもそう言われると、確かになんだろう。出来るからやってるし苦ではないけど…』 『……ただ、気が紛れる。今はそれが一番大きいんだと思う』 私は何も言えなかった。 時雨の過去は知らない。聞くに聞けないから。 何かつらい事があったんだろうというのは嫌でもわかる。 だけど、それを時雨に話させてどうする? 自分の好奇心の為に時雨につらい過去を思い出させてまで聞き出したいとは、思えないんだ。 だから私は何も知らない。 …ひょっとしたら、時雨は、私に心を開いてくれていないのかもしれない。今も、これからも。 (……ううん、弱気になるな私!気合いを入れ直せ!) バシッバシッと自分の頬を叩く。 そうだ、ちょっと時雨のATフィールドが強いからなんだというのだ。 今は心を開いてくれてなくても、でも逆に完全には拒絶されてないって事も分かってる。 だから、ちょっとずつ。ちょっとずつだ。 それにこれは逆に考えるとチャンスとも言える。アニメでもラノベでもエッチでも何でも…時雨に私の好きなものを布きょ……教えてあげて、私色に染め上げるのだ! ……やだ、ひょっとして私って悪い女!?きゃー! よし、調子戻ってきた。 すぐに時雨の傍に戻ろう。 「お待たせ時雨!さあっ再生再生!」 テーブルの上にお菓子とコップを置いて、時雨に向かって飛び込む。 時雨の膝の上。それが私の定位置だ。むふーっ。 確かな満足に浸っていると、時雨が何かを訊ねてきた。いつも通りの、どこか枯れたような声で。 「いつも思うんだけど、「」はココでいいの?」 それはきっと、私の定位置の話を聞いただけだったのだろう。でも、私にはそれだけの意味には聴こえなかった。 『何時までもぼくなんかと一緒にいていいのか』 そういう問いかけが無意識のうちに零れているように思えた。思えてしまった。 時雨は苦しんでる。なんでなのかは、私にはまだ分からない。幾ら心をシンクロさせても、時雨は私に明かしてくれない。 だけど、それがどうした。私の答えは決まってるんだ。 「?ココ以外何処があるの?それとも時雨……嫌だった?」 私の居場所は、時雨の居る場所だ。 時雨と一緒に戦って、遊んで、 楽しいこといっぱいする。 私は時雨の相棒だから。 他の誰にも私を握らせるつもりはない。 どれだけ時間がかかっても、どれだけ困難だとしても。 私が、時雨お姉さんを笑顔にしてみせる。 絶対に。 「……いや、何でもいいよ。よしよし」 「えへへ〜」 そう言って撫でてくれる、その手が優しいから。 ずっとココにいたいと、心から思えるのでした。