二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1719675523829.png-(133747 B)
133747 B24/06/30(日)00:38:43No.1205845911+ 02:21頃消えます
裾を絞ったシンプルな半袖のTシャツに、細身のダメージジーンズ。そんな内側のコンパクトなシルエットと対を成すように、デニム生地のジャケットをマントのようにあえて袖を通さずに肩に羽織る。
彼女──ミスターシービーにこの上なく似合う、彼女にしか着こなせない装いだ。
「いいでしょ。見たときにすぐピンときたんだ」
自分が選んだものへの静かな自信を滲ませながら、振り向いた彼女はにこりと微笑んでいた。
「そりゃあ似合うけどさ。でもびっくりしたよ。
いきなり走り出したと思ったら、ここに連れてこられて」
今日は彼女と一緒に街へ出ていた。元々服を買う予定はなかったのだが、彼女が店の前でしばらく立ち止まったかと思うと、急にその服を手に取って試着室へすたすたと駆け込んだ。そういうわけで、今は急遽始まったファッションショーに付き合っているというわけだ。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
124/06/30(日)00:39:02No.1205846017+
「店の前を通ったときに、服に呼ばれた気がしてさ。
こんな感覚は久しぶりだったから、つい駆け出しちゃった」
彼女の行動はいつも突然だ。楽しいと直感したら、向かわずにはいられない。けれどその直感がもたらす景色が、期待を裏切ったことは一度もなかった。
「びっくりしたけど走ってよかったよ。ほんとに似合ってる」
平凡な予想はいつだって越えていく。でもその先に、思いもしなかった幸せが待っている。
彼女と過ごす時間を愛するようになったのは、だいたいそんな理由だった。突然に転がりこんできた楽しさを、一緒に味わえる瞬間が何よりも好きだった。
「ありがとう。
でも、似合うだけかな」
しかし、今日の彼女はそれだけでは満足してくれないらしい。
悪戯っぽく微笑みながら上目遣いでこちらを見つめる彼女が、何を求めているかはなんとなくわかっていた。けれど、正面からそれを要求されると、こそばゆくて中々口にしにくい。
224/06/30(日)00:39:27No.1205846141+
あえて口を尖らせてそっぽを向いてみると、半ば不満そうな、けれどやはり楽しそうな彼女の声が聞こえる。
「あー、逃げた」
客観的な感想ではなく、こちらがどう思っているかを知りたいのだろう。いや、確かめたいと言ったほうがいいのかもしれない。
だが、自分の口は彼女のように素直ではない。何度も口にしてきたはずなのに、いざ面と向かってみると中々言葉が出てこないというのも、何度も繰り返したことだった。
「…このまま」
「うん」
でも、自分の好きな服を着て、無邪気に笑う彼女はどうしようもなく素敵で、もっともっと見ていたい。どれだけ意地を張っても、それだけは誤魔化せそうになかった。
「…着ていったらいいんじゃないか。
買ってあげるから」
324/06/30(日)00:39:48No.1205846249+
彼女は少しの間、何も言わずにこちらを見つめていた。ほしかったものが、ようやく手に入ったように。
「…ふふふっ。そうだね」
反応からするに、及第点ぎりぎりといったところなのだろう。でも、今の自分にはこれがせいいっぱいだった。
「お金は大丈夫だよ。自分で買うから。
…そんなことより、もっと言ってほしかったな」
そっぽを向いた彼女がそっと呟いた最後の言葉は、聞こえていたけれど聞こえないふりをした。何事もなかったかのようにもう一度彼女の隣に立つと、彼女も何事もなかったように微笑んでいた。
伝えたいことはたくさんある。彼女を見るたびに、幸せで仕方なくて気持ちが溢れ出しそうになる。
好き、とただひとこと言えれば、きっともっと幸せだったろうな、なんて。
424/06/30(日)00:40:01No.1205846310+
「もう一軒行っていい?なんか服を選ぶ気分になっちゃってさ」
買ったばかりのジャケットの袖が、彼女のスキップに合わせて小刻みに揺れている。そのリズムを見ていると、こちらの心も自然と弾むような気がする。
「いいよ。買い物は大体済んだし」
すらりと伸びた彼女の白い手を何も言わずに握ると、少しだけ驚いたような顔をした後に柔らかく握り返してくれるのが愛おしい。彼女に手を引かれるままに、楽しいことが待っている方へと歩き出す瞬間が。
524/06/30(日)00:40:29No.1205846456+
今度の店は、主に室内で着るカジュアルでゆったりした着心地の服を主に扱っているところだった。
「こっちとこっち、きみはどっちが好き?」
彼女の両手には部屋着が一着ずつ握られていたが、その意匠は大きく異なっていた。
片方はタンクトップに細身のパンツルック。薄手のパーカーはそれに合わせて彼女が選んだものだろう。すらりとした細身の彼女にはきっとよく似合う。彼女らしい着こなしと言えた。
もう一つはそれとは対照的に、普段の彼女らしからぬ装いだった。もこもことした長袖の上着に、対を成すように丈の短いパンツが大きく脚を見せるスタイル。上着には動物の耳を模した可愛らしいフードが付いていた。
いつもの彼女らしくはなかったが、それを着た姿はきっと新鮮な魅力に満ちているだろう。
624/06/30(日)00:40:46No.1205846545+
どちらも似合っていて綺麗だとわかるから、片方だけを選べなかった。だから、素直にそう伝えた。
「俺はどっちも似合うと思うよ。シービーの好きな方でいいんじゃないか?」
それを聞いたシービーは、初めはまたさっきのような少し不満げな表情を浮かべた。けれど、その顔を見てこちらが一抹の不安に駆られているうちに、彼女の表情はいつの間にかからかうような笑顔に変わっていた。
「アタシはどっちも好きだよ。だから、きみの好きな方を聞きたいんだ」
思えば、奇妙な質問だった。
自分の好きなものにどこまでも正直で、ファッションセンスにだって自信のある彼女が、わざわざこちらに意見を求めてくるなんて。
何が欲しくてそうしているのか。さっき知ってしまったその答えが、また胸の中で疼き始めた。
724/06/30(日)00:40:59No.1205846603+
気持ちが素直に表情に出てしまうのがどこまでも可愛らしくて、もう一歩だけその顔に近づく。いちばん欲しかった気持ちは、まだもらっていないから。
「…アタシ、最近欲張りになっちゃったんだ」
「…どんなふうに?」
だから、まずはアタシの気持ちを伝えよう。きみにはぜんぶ、受け止めてほしいから。
「アタシの好きなものは、きみにも好きでいてほしいんだ。
そう思うのが、ずっとやめられない」
824/06/30(日)00:41:14No.1205846678+
きみと出会ってからずっと、きみの想いを背中に感じてきた気がする。アタシの走りを、アタシが当たり前に見て、感じているものを、どこまでも愛してくれる、純粋な気持ちを。
誰がどう思うかなんて気にもしてこなかったのに、気づけばその気持ちに何度も勇気をもらった。
好きなものを愛でているときに、それを一緒に選んだときのきみの顔を思い出すようになったのは、いつからだろうか。
好きって気持ちにそんな幸せが乗っかるのが、当たり前になったのは。
「何を好きになるかは人の自由なのにね。
でも、きみがアタシと同じ気持ちだって思うと、なんだかすごくうれしいんだ。
だから、言ってよ。遠慮しないで」
もっと、きみの気持ちに触れたい。
きみに、好きって言わせたい。
924/06/30(日)00:41:37No.1205846782+
すっかり頬を真っ赤にして、困ったように微笑むきみを見ていると、ちゃんと伝わったのだなとわかって嬉しくなる。
「…嬉しいけどさ。やっぱり恥ずかしいよ。
恥ずかしくなるようなことばっかり、考えてるのも悪いんだけど」
「いいんじゃない?
…そういうきみも、好きだよ」
きみはアタシと違って、好きって言うのが恥ずかしいみたいだけど。
でも、そんなきみが頑張って伝えてくれてるんだって思うと、それがすごく愛おしい。
「そっちの、もこもこの方。
…そっちのが好き」
「ふふふっ。いいよ。
じゃあ、こっちにするね」
1024/06/30(日)00:41:57No.1205846878+
「どう?」
家に帰ってごはんを食べて、すっかり身体も温まった夜更け。昼間買った寝間着を纏ってくるりと回ってみせると、彼は嬉しそうににこりと笑った。
「可愛いよ。似合ってる」
「ありがとう。
もっと見てよ。せっかく選んだんだし」
見られる方より見る方が恥ずかしそうにしているのは少し笑えてしまったけれど、昼間から続いているファッションショーの締めとしては、実に満足のいく終わり方だった。
「よかった。きみも気に入ったみたいで」
「うん。
だから、今度はシービーに聞きたいんだ。こういうのはどうかなって」
けれど、そんな言葉と一緒に頭の上で動き始めた彼の指には、すっかり不意を打たれてしまった。でも、やっぱり彼が何をしてくれるのかが楽しみで、あえて目を伏せて見ないようにした。
「言葉にするのは、やっぱりまだちょっと恥ずかしいからさ。
でも、やっぱり俺も伝えたい」
彼が携帯で映してくれたフードの右耳には、緑色の可愛らしいリボンが巻かれていた。
1124/06/30(日)00:42:21No.1205847001+
フードの中に通した耳を動かすと、本当の耳に巻かれているようにリボンが揺れ動く。それが嬉しくて、理由もなく耳をぴこぴこと上下させた。
いつもそうだ。アタシの予想をひょいと飛び越えて、アタシの心の隙間にぴったり収まる。だから、彼がくれるものはいつだって心地いい。
「…ありがとう。いいね。
でも、まだ足りないよ」
それがすごく嬉しくて、少しだけ困る。味わえば味わうほど、もっと欲しくなってしまうから。
いきなり抱きしめられたのに、彼は驚く素振りを見せなかった。だからもっと彼の反応が見たくなって、拗ねたように赤く染まった頬に手を這わせる。
「なんでこっちの服にしたの?」
「…」
気持ちは言葉にしてほしいとは言ったけれど、流石にこれは荷が重いかもしれない。言えないのか、あえて言わないのか、黙ったままの彼の胸にそっと頭を預けた。
「抱き心地がいいから、だったりして」
腕の中にある身体がびくりと震えただけで、彼からはそれ以上、肯定も否定もされなかった。ただ、柔らかい夜着の上からゆっくりと抱き返してくれる感触が心地良かった。
1224/06/30(日)00:42:32No.1205847051+
1324/06/30(日)00:42:57No.1205847151+
「じゃあ、もう一回選んで」
愛しさと切なさが募って、またきみの気持ちに聞いてみる。どんな想いでアタシと話しているのか、知るたびに嬉しくなる。
「このまま寝るのと、もうちょっと一緒に夜ふかしするの。
どっちがいい?」
どっちを選んでも幸せだけれど、アタシが好きなものを選んでくれるならもっと嬉しい。何も言わなくても、同じ気持ちでいてくれてるってことだから。
「…夜ふかし」
「…いいね。アタシももっと話したい」
きみとアタシがぴったりはまっているって、そんな時間が証明してくれるから。

話の前に、まずは味見をしよう。
「夜はまだ長いからさ。
いっぱい、好きって言って」
きみの唇が紡ぐ言葉が、もっと甘く愛おしくなるように。
1424/06/30(日)00:43:23No.1205847282+
アタシはいつだって、アタシの心に従って走ってきたけれど。
きみの気持ちは、誰よりも強く背中を押してくれた。思いも寄らないところから手を引いてくれるなんて、初めてだった。
きみが、教えちゃったんだよ。
ありのままの自分を好きになってもらえるって、こんなに嬉しいんだって。

きみの色に染まってあげることはできないし、きみはそんなことを望まないだろうけど。
アタシときみが好きな色なら、知りたい。そんな色に、身も心も染まっていたい。
だから、もっとちょうだい。きみの気持ち。
昼間言ってくれなかった分まで、いっぱい言ってもらうから。
1524/06/30(日)00:44:23No.1205847583+
おわり
シービーと幸せな2択クイズがしたいだけの人生だった
fu3672607.txt
1624/06/30(日)00:46:49No.1205848260+
自分が好きなものを好きでいてほしいひとができたシービーはよいものだ
1724/06/30(日)00:48:49No.1205848784+
お互いにお互いの「好き」を待ってるんだ…
1824/06/30(日)00:52:00No.1205849621+
選ばなかった方の服も忘れた頃に着てきてまたかわいいって言ってもらおうとしてほしい
1924/06/30(日)00:54:17No.1205850259+
本編でも時々あるけど誰よりも自由を愛する女に選択を委ねられるってすごく信頼されてる証だと思うんですよね
2024/06/30(日)00:59:26No.1205851644+
昼寝とかしてるときにもこもこの寝間着でそばに来て抱きしめてくれるのをにこにこしながら待ってたりするといいなと思いました
2124/06/30(日)01:04:59No.1205853223+
好きって言いたいし言わせたいシービーからしか得られない栄養素がある
2224/06/30(日)01:10:32No.1205854845+
いいですよね好きか大好きかの二択しかないクイズ
2324/06/30(日)01:15:43No.1205856359+
CBはかわいいのもかっこいいのも似合うからこういう二択いっぱいできそう
2424/06/30(日)01:24:39No.1205858899+
スカートもパンツも似合ういい女
2524/06/30(日)01:26:50No.1205859499+
いい……
ありがとう
2624/06/30(日)01:27:08No.1205859577+
トレーナーが自分の好きな色に染まってきてちょっと嬉しいシービー
2724/06/30(日)01:28:51No.1205860092+
ハグかキスかみたいな片方が名残惜しすぎて選べない二択とかもしてほしい
選べないと抱きしめながらキスしたりしててほしい
2824/06/30(日)01:36:32No.1205862423+
トレーナーにはいっぱい好きって言ってほしいけど恥ずかしがりながらやっと好きって言ってくれるのも好きだからみたいな贅沢な悩みがあるといい
2924/06/30(日)01:49:29No.1205866499+
ふたりで選んだ色に一緒に染まるのいいよね
3024/06/30(日)01:55:56No.1205868693+
すばらしい…


fu3672607.txt 1719675523829.png