――4/?? 「それじゃお疲れーかんぱーいっ!」  インピオアイランド島(仮)と呼ばれる島がある、デジタルワールドに存在するファイル島の1つを勝手に占拠してねぐらに使っている島だ、浩一郎がインピオしなくなったのでもうインピオアイランド島ではないのだが他の呼び名がないために今だにそう呼んでいる、この名を聞くたびに浩一郎がもだえるが自分の罪だと仕方なく受け入れている。その島の一部にはホテルが存在している、本来は男女がセックスをするためのホテルなのだが現在その本来の目的を達成するために使われたことはない、ここの住人のアパート代わりとして使用されていた、その一角にある部屋、管理人室に浩一郎とリョウゲン、一番が椅子に座り人間台にサイズを縮めたワルもんざえモン、レディーデビモン、サゴモンがそれぞれくつろいでいた。男たちが酒をあおっている。つまみはパーディー開きされたポテトチップス、ちーかま、チーズちくわ、ピーナッツにジャッキーカルパス、いかにも酒の肴といようなものがテーブルに並んでいた。挨拶をした浩一郎が軽く酒をあおってからまた口を開いた。 「ほんと、今回も危ない橋わたることなって申し訳ないね」 「まー、今更何言ったってね、実際世界崩壊しちゃうんでしょ?」 「そうですね、前に見てもらった通りですよ」  リョウゲンの言葉に浩一郎がうなずいた、笑えるような話だが世界は滅亡の危機に瀕している。正確には何度もそのような事象がおきそのたびにデジタルワールドのどのような基準かはわからないが選ばれし子供達と称される少年少女たちが世界を裏で救っていた、だが、それすらも及ばないような、或いはその子供たちが手の出ないような何かが起きている場合はどうなのだろう、きっと今もどこかで世界を救っている子供たちがいるのは知っている、そのさらに裏で世界が壊れかけているなんて知るべきでもない、ならどうするか、大人がやらなければならない。 「だがね兄貴」 「いや浩一郎だって……まあいいや、何?」 「解せねぇのは……なんで俺たちでやるかってことでさぁ……秘密裏にデジタルワールドに対して介入を行う組織ってのは警察に出来てるんでしょう?」 「そうだね……んー、現場で働く人間はともかく上が怖い」 「上……上層部ですか」 「そーそー……清廉な人間だけがいるなら組織って言わないだろうし……カケラの力のことを知ったら“有効活用”したがる人間だっていそうだろ?」 「確かにね……データ通りならそれこそ世界を自由にできる可能性だってあるもんね」  そう言うリョウゲンが酒をあおり、 「流石にそう言うのに付き合うのは怖いな」 「私達は静かに暮らせればいいのですけど」 「レディーデビモンと同意かな…もう人間の喧騒にはまぎれられないかな」 「ククっ……リョウゲンの旦那はぁ欲がない」 「はは……欲におぼれる前にこっちに来たから」 「あら私に溺れてくださらないの?」 「とっくに溺れてるよ」 「それは嬉しいわ」 「2人が仲良くって何より……と、さて」  浩一郎が指でテーブルを叩いた。 「ほんとはカケラを確保できたら良かったんだけどそれができなかった以上また動かないといけない」 「ククっ…浩一郎、俺っちたちが確保してるカケラは3つだけど、後どれだけ集めるんだ?」 「ワルもんざえモン……わからん!カケラがどれだけ散らばってるかなんて想像もつかないしね……とは言え手をこまねいてるわけにもいかないし……ちょっと攻めようか、カケラ以外にもやることはあるけど……ただ流石に人手が少ないのはきついし、ちょっとみんな、協力してくれそうな知り合いいない?」 「藪から棒だねぇ…ま、ちょっとだけ伝手があるよ」 「……何とか、なるやもしれませんぜ」 「案外手が広いね、みんな……ま、それならもうちょっと何とかなるかな、できれば口が硬かったり約束守れる人ならいいんだけど」 「そこは心配ないよ」 「こちらも同じく」 「そっか、それならよかった、じゃ、お金のほうはこっちで出すからよろしくね」 「……浩一郎、前から思ってたんだけどその金の出所ってどこなんだい?」 「秘密、ま、危ないアルバイトってところかな……じゃ、早いところ合流できるようにしよう……と」  グラスに入った酒を一気に飲み干し、 「今日は飲もう、また明日のためにね」  リョウゲンと一番が頷いた。 〇  東京の一角に雑居ビルがある、いくつかのテナントが入った一見は特におかしいことはない、そう偽装されているからだ、このビルのエレベーターには上階に向かう表記しかない、しかし一定の条件をクリアした人間が非常ボタンを押すと地下に向かうことができる。その条件は簡単で、デジモンを連れていることと特殊なデバイスを所持していることだ。  エレベーターが地下に向かう、扉が開いた、薄暗い廊下を歩くとそこには広い部屋がある。備え付けられているのは円卓といくつかの椅子だ。部屋に入って正面の椅子に1人の女が座っていた、黒い長髪に眼鏡をかけた女だ。 「皆お帰り~、今日は大変だったねぇ」  BVを従える女、実質的なボス、高円寺峰子がそこに居た。言葉短く労い、実働に動いてた影太郎、アカネ、タツミを室内に呼び込む。  影太郎が頭を下げ、開口一番に謝罪を告げた。 「今日は任務失敗、申し訳ない」 「気にしなくていいよ、リアルタイムで送られたきた映像情報を見た感じだとこっちが完全に不利だったからね」  すでに分析を峰子は終えていた。映像が納められているPCを操作しつつ、 「うんうん、ジェーン‐ドゥとの衝突なら勝ててたかもしれないんだけどね、乱入者は完全にかみ合いが悪かったねぇ、完全にこっちを削るためだけの動き……うーん、デュランダモンとサイバードラモンならレディーデビモン相手に後れを取らないはずなんだけど……うんうん、しょうがないと言うしかないかなぁ」 「しかし、我らが遅れを取ったのは事実」  影太郎が峰子に対し頭を下げる。 「えー、うちは遅れてないんやけど?」  タツミがそれに口をはさみ、 「勝ちきれてない時点で遅れているようなものだ、我々は」 「ひっどいなー」 「うぅ……勝てなかった時点で怒られてもしょうがないよね……」  アカネが沈む。  峰子がいさめた。 「こらこら、別にみんなが死んでないならまだ手立てはあるよ、でも……」  眼鏡をはずし、顔を凶悪にゆがめた。 「別に私が許せないのはそんなことじゃないんだ……」  静かに、しかし溢れんばかり熱がそこにはあった。峰子にはデジモンが憑依している、ほんの少しのボタンの掛け違いから産まれた信頼関係のたまものだが、だからと言って利用し合う関係と言うわけではない。 「奴ら、私達に対処されるべき病原風情が……!まるで私達のことをのけ者にしやがった」  髪の色が変わらない、本来峰子の中にいるデジモンが表に出る時その髪の色が金に変わる。そうならないということはそのまま峰子の意志となる。音が響いた、峰子が机をたたいたからだ。その音には明確に怒りが宿っている。 「力で劣るのは仕方ない、時にはそんなこともあるよ、だが、蚊帳の外であるなんてぇのは……許されないよねぇ!……影太郎くん、ワクチンって何かわかるかな?」 「僕らのことを考えればワクチンソフト、ウィルスに対処するものかと」 「そうだね、でも本来のワクチンの意味はわかるよね、体に抵抗力をつけるための弱毒化されたウィルス……つまり対処者でもなければ遊撃者じゃない……最初から敵に対して攻勢にでるのが私達の仕事……意味がわかるよね……奴ら私達をナメた!!これに対してイモ引いて下がるなんて…死んでもごめんだね……!!」  その言葉にそこに居る誰もが似たような凶悪な笑みを見せる。  高円寺峰子の経歴は知っている、たまたまデジモンに憑依された本来なら哀れな存在、少しばかり性的思考が特殊なところがないわけでもないが、ただそれだけでBVと呼ばれる組織の長に収まれているだろうか、それは違う。ただの一般人であったならばBVのクセの強い面々を抑えることなど出来るわけがない。これが秘めていたのか、それとも偶然表に出たのかはわからない、しかし峰子には群れを束ねる資質があった、リーダーの資質だ、今それが火になってBVたちを燃え上がらせている。 「影太郎、源浩一郎が言っていたカケラ及び私達の知りえない情報を全て探ってきて、アカネはサポート」 「了解」 「わかりました!」 「タツミは一旦待機、でもすぐに突っ込ませてあげるから今は我慢して」 「ま、しゃーありませんわ」 「アルナブ、ポリノーシス、名無鬼……面倒だし呼べる人間全員も招集する……」 「まさか……」 「もちろんめもりちゃんもね!」 「マジですか……BVの秘密にしておきたい兵器も!!」 「マジもマジ!総力戦だ……」  峰子が犬歯をむき出しにして、笑う。 「さぁ、行くよ……私達がどういう存在か世界に教えてやる……!!」 〇 ――4/9  夜が来る、勇太と光は食事をして風呂に入り準備を終える。ここからは事情を知る人間たちの時間だ。 「よーしっ!勇太行くわよ!!」 「そんな叫ばなくても、でもうん……ヴォーボモン達いるかな……」 「連絡来たって言うならそこらへんにいるでしょ!心配してないでゲート開くからね!」 「あ、待ってっ!」  そう言う間にデジタルワールドへのゲートが開く、そこに体を入れ込み、世界が一転する。 「ふぅっ……まだ数日しかたってないって言うのに……久しぶりの感じね!」 「確かに……ヴォーボモン達とあえてなかったかな……」  言いつつ勇太が光に笑みを浮かべた、その上で周囲を見て、 「んー……ヴォーボモン達は近くにいないかな?」 「流石にすぐ合流ってわけにはいかないわね、あんたちょっとあっち探してきなさいよ、私こっち見てくる!!」 「あ!光!!」  言うが早いが光が駆けだしていた、さっさと出て来いデビドラモンという叫び声だけがそこに残っていた、苦笑いし勇太も歩き出す。連絡する手段はあるしあれで経験を積んでいるから光だって無理はしないだろう、とにかく自分もパートナーを探さなければならない。そう思いデジヴァイスを開いた、うまく行けばヴォーボモンとすぐに通信が取れるかもしれない。あれでどこか寂しがりやだからもしかしたらあえなくて悲しそうにしているかもしれないと思うとつい歩く速さが上がっていく、土の感触が靴の裏から来る、違和感に気づいた。 「なんだろ……硬い……?」  何かに踏みしめられたように土が硬くなっている、それに気づいてから周囲を見る、荒れていた。木々が折れて、焼け着いている、巨大な岩がそこらに転がっている、あからさまに自然現象とは違う人為的な力で荒らされた後があった。 「酷いな……」  むごいの一言だった、これに巻き込まれたデジモンがいたらすぐにデジタマになっているかもしれない、周囲を顧みない戦いに対して少しだけ怒りの気持ちが怒る。それがパートナー持ちのデジモンであれ、デジモン同士の戦いであれ。  歩を進める、ゆっくりと道なき道を行く、だんだんと戦いの痕跡が消えていく。中心から外れてきているのかもしれない。 『ぉ……ぉ……』 「え……」  何か声のようなものがした、それを明確に声と言っていいのかはわからないが音と言うには志向性がある、語り掛けられているようなそんな感覚、自分を呼んでいるのかもしれない、もしかしたら弱っているデジモンが助けを呼んでいるのかもしれない。そう思うと勇太はいてもたってもいられなくなった、自分を呼んでいるのならば早くそこに向かわないといけない、求める手を引かなければならない。走る、すぐにそこに行くからと思いながら。  声に呼ばれるがままにはしる。声が消えたのは走って数分の場所、何の変哲もない森、変わらない景色の途中で消えていた。単なる機能性だったのだろうかと思いながら周りに目をやる。やはり何もいない、それこそデジモンすら、気のせいだったのかもしれない。声と言うのも自分の意識の何かが生み出した何らかの勘違いだった可能性がある、一旦光に連絡を入れた方がいいかもしれない。足を引き返すために反転させようとして、それを見つけた。幾何学模様の入った何か、目を離せない、つい手が伸びてしまう。自分の意識がそれに吸い込まれてしまうような感覚。 「……」  声を上げることもなく、それに触れた。刺激が来る、ガキ大将的な少年がライターを分解して作ったスタンガンもどき、それを指先に当てたときに近い、一瞬感じた不快感もすぐに飲み込まれる。ただその何かに触れていなければならないのではないと脅迫観念にも似た思考が自分の意志を支配して入れ烏。幾何学模様のそれは小さな物質だった、楕円形で白とオレンジ、蠢くように胎動している。似ているといえばデジタマにも似ているかもしれない、触れてみるとなんとも言えない材質だった、卵の殻のようにも金属質にも見える。目を奪われる。それを制止したのはデジヴァイスに連絡が入ったからだった。 『ゆーた!!デビドラモンとヴォーボモンこっちいたからこっち来てよ!』 『お、勇太!聞こえるか!俺たちもいるぞ!!』 『勇太君おひさー!』 『三馬鹿にアシフトイモンズうっさい!!』 『三馬鹿はひでぇって!!』 『わーんっ!光ちゃんまでアシフトイモンとか言うようになっちゃったよー!三馬鹿ー!悪い言葉教えたな!!』 『はぁ?!俺たちのせいにするのはちげーだろ!?』 『いつもいつもアシフトイモン言うからだろこらー!』 『馬鹿!言いがかりだ良子!!ぐへーっ!!』 『お前らちっとは黙れって…』 『そういう三下だって時々アシフトイモン言ってるの知ってるからな』 『うん、そう言うのが悪い影響じゃないかな』 『はぁ!?それ言うなら竜馬だって言葉にしないだけで思ってるって!』 『……巻き込むなよ』 『でもお前、時々したり顔でうんうん頷いてるじゃん』 『……巻き込むなよ』 『そう言ってればいいってわけじゃないんだからなー!』  はは、と乾いた笑いが出た、知り合いたちはいつも通りだったらしい。とりあえず元気でよかったと安堵し、勇太は声をかけた。 「すぐ戻るからGPSだけつけててね、って言うかどっか行っちゃだめだよ!」  そう言って通信を切る。そして何か忘れていることに気づいた、さっきまで何を考えていたんだったか、まあいいと思いながら光たちの元に駆け出した。 〇  “それ”は意識を持っている。“それ”は理解している。  何故自分が排斥されるのか、何故自分は攻撃されるのか、痛いのは嫌だ、怖いのは嫌だ、何故こうならなければならないのか。  そんなときにそれは来た、暖かいものを感じさせる。  これはとてもいいものだ、ああ、自分もこうあれればいいのに。 〇  勇太が合流すると歓声で迎えられた、久方ぶりの友達に出会う感覚だ。まだ数週間だってわかれていないはずだがそう思わせるのは人徳だからかもしれない。まず気づいたのはクロウだった。 「おっ!!勇太ぁ!!久しぶりだなっ!!」  そう言いながら肩を組んでくる。いかにも兄貴分と言った気のいい男だったから、そうされても不快感は感じない。 「うん、でもそんなに時間は経ってないと思うんだけど」 「いーんだよ!数日だってあってなけりゃ久しぶりだぜ!」 「そうかなぁ!」 「そうだぞ勇太!もっと一緒に居たかった!」 「ヴォーボモン!元気そうじゃん!」 「元気だった!でも会いたかったぞ!」 「俺だって……へへ!ちょっと大きくなった?」 「そうなってるかな?」 「おいおいデジモンのサイズはデータ量で変わるんだから成長したりは」  慎平の言葉に良子が一発はたきを入れて、 「そう言う事じゃないでしょ!ったくぅ、水差しちゃって」 「っせーって、ったくよぉ、俺の頭は太鼓じゃねーって」 「太鼓ならいい音出すだけまだいいでしょ!」 「ひっでぇ!詰まってるものが無駄だってぇっ!?」 「無駄とは言ってないよ無駄とは!」 「まぁ、また騒がしくなったが久しぶりだな、勇太」 「うん、久しぶりだね、勇太君」 「颯乃さんに雪奈さん!元気でした?」 「勿論」 「うん、そっちも元気そうで嬉しいよ」 「えっと……竜馬さん?」 「……久しぶり」 「……はい!」  ずっと一緒にいて冒険していたわけじゃない、だがこうあってみれば皆気のいい仲間たち。ちょっとだけ涙が出そうになったが、すぐに顔を戻して勇太が言う。 「えっと、皆もここら辺があれてるって連絡で来たんですか」  皆が同様に頷いた。 「ちょっと用事で戻ってたらいきなり連絡が来て飛んできたぜ!」 「そしたらほんと凄いことなってるじゃない、なんか気が切り倒されてる感じで」 「え、そっちはそうだったんですか?」 「え……勇太君のほうは違うの?」 「俺の見た感じだと、切り倒されてるって言うかなぎ倒されてるって言う感じで……」 「む……私と雪奈が見たのは……」 「もっと焼け焦げた感じでした」 「……みんな見てるものが違うってことか……?」 「俺たちはまだ……見てない」 「だな……見たのは勇太と良子と雪奈と颯乃って感じか?」 「そうなるっぽいぜ……なぁ、距離ってそうはなれてるってわけじゃないんだろ?」 「そうですね」 「ってことは……ふむ」 「どうしたのよ慎平、何考えてんの?」 「まぁ待てって……俺たち良子たちの方向で合流して、勇太が反対で見つけた……なぁ、切り倒されてる場所と焼けてる場所ってのは結構近かった?」 「むっ…そうだな、私達は先に良子と合流できたわけだし」 「……ちっ……情報が足らねーか……ちょっと回るか」 「だったら私達が写真撮って送ろうか?」 「嫌、それだったら映像事欲しいから送ってくれ、っと」  そう言って、近場の石の上に三下が腰を据えた。 「悪いがちっと頭使わせてくれや」 〇  皆がわかれてから数分が建つ頃に慎平の下に連絡が来る。チームの内訳は勇太・光、クロウ・良子、雪奈・颯乃・竜馬の3グループに分かれた。そのうち先に来たのがクロウ・良子組、あまり時間差なく雪奈・颯乃・竜馬組、そして少し後に勇太・光のグループから映像が送られてきた。  大筋言われた通りの景色だったが慎平の分析ではだいぶ違う部分も出てくる。  まずクロウ・良子組から来た映像だが、確かに鋭利な物で切断された痕跡はあったがそれに合わせて強い力で破砕された跡も見える、切断とは違う物理的な一撃でおられた木々も散見された、次に来た颯乃・雪奈・竜馬からの映像は確かに燃えている後はあったがそれは炎で燃やしているというよりは何か巨大なエネルギーの副産物に近い、火そのもので焼いた形ではない。そしてこれらの映像はどれもやり合った後の画像だということがわかる、映像内にある痕跡の動きが向き合うようであったり、或いはぶつかるようにあったからだ。最後に勇太・光から来たものを見る、確かになぎ倒されているがそれは木を薙ぎ払ったというよりは物理的な衝撃で結果的になぎ倒されたと言うのが正しく見えた、原因はわかる、周囲に転がっている石だ、転がっているのではない、埋まっていると正しく言える大小の石が木々を薙ぎ払った。そして違和感、他2つのエリアが攻撃し合っているのに対し、これだけ対応する行動が見られていない。  それらを見て慎平が脳内で情報を整理し始める、普段はおちゃらけ皮肉を飛ばすことに使われている部分が一気にそれを解析するために使い始められる。まず整理したのは位置関係、近い順でクロウ・良子≒雪奈・颯乃・竜馬、そこから離れて勇太・光、状況のひどさはどっこいに感じるがその上で被害は勇太・光>クロウ・良子>雪奈・颯乃・竜馬の順、思考のギアが上がっていく。 「まず……なんで一方だけちょい遠いんだ……んで近いのは……いや、ってことは……だ……つまり……乱戦かだな、最低3グループでの乱戦……」 『おい、何1人ぶつぶつ呟いてるんだよ!』 「うっせーよクロウ!今まとめてんだよ!……でもだいぶ見えてきた」 『え、わかったの?』 「おう良子!って言っても誰がやったかはわからねーけど……多分こいつは乱戦だ」 『なんでそう言いきれんの?』 「ま、あてずっぽだが……まず勇太たちがいるところの痕跡だけど、これは周りのことは何も考えてねー広範囲の攻撃だ、それもおそらく上…空側から飛んでくるタイプの範囲攻撃で、その痕跡だけが地面にあるってことは多分迎撃で手いっぱいだけだったんじゃねーかな、それに対して他は種類は違っても攻撃し合っているって感じに見える、ってことはだ、一見すりゃ2グループで戦闘してる可能性もあるはずだが、それにしたらこんな範囲攻撃は普通使わない……味方に当たっからな」 『確かに……』 「勿論どうしても範囲攻撃しかできないって可能性もなくはないが、だとしたらもっと味方に当たらねーように配慮するわな、或いはそうなってもいいようにするぜ」 『でもそうなってない』 「それに関してはその攻撃を迎撃してた」 『それを織り込んでたって可能性は?』 「そんなん織り込んで戦闘するかって……1人に隕石防ぐことを念頭にした作戦で、しかも攻撃が全然敵に当たらねーとか馬鹿丸出しだろ……ってことはだ……まず広範囲で全部巻き込んでも問題ねぇのが1グループがいて、それに対して迎撃しつつ他の相手とも戦ってる1グループ、んでそれと戦ってる1グループ……かね」 『……慎平は相変わらず頭が回るな、何時もそうしてればもっと格好がつくと思うが?』 「っせーよ颯乃……ま、これもまだ現時点だと推測にほかならねー、もしかしたら実は迎撃してる人間は関係なくって4グループで戦ってる可能性もあるし……でも大きく的外れなことは言ってないはずだぜ」 『なら、ここからどうすればいい?』 「あー……とりあえず皆戻ってきてくれよ、流石にもうそれ以上いてもあんまりわかりそうにないし」 『うん、わかった、今から戻――がっ!?』 「勇太っ!!おい!!」 『っ、攻撃されたっ……!!』 「ちっ!!他はっ!!」 『俺たちは大丈夫だ!すぐ行くぜっ!』 『私達もっ!』 「わーったっ!俺もすぐに向かうから!!……勇太っ!負けんなよっ!!」 〇  三下の声を聞きながら攻撃の北方向を勇太たちは向いた、そこには人とデジモンが立っている。 「お前たちは……ああ、あの乱痴気騒ぎの」 「ジャッジメンター!!  にやにやとした口元だけが現れ、目元は赤いレンズのついたマスクで隠している男、デジモンジャッジメンター、そしてその後方には機械の竜、ハイコマンドラモンが控えていた。 「うっわっ!八つ当たりの糞野郎じゃん!また出張ってきてんじゃないわよ!!」 「っかっー!!相変わらず年上に対しての言葉と言うものを知らないみたいだな、鬼塚光ぅっ!」 「うっさいわねばーかっ!!八つ当たりしかできない情けない男のくせにっ!!」 「はぁ……これだから……まぁいいさ……それよりここにいるってことは君たちも探してるんだろう?」 「は?……何を……?」 「とぼけているのかそれとも……ま、どちらでもいいさ、お前さんたちが邪魔なのは事実だし……ここで消えてもらおうか!」  言うと同時、ハイコマンドラモンが動き出す、左手に装着された銃の引き金が引かれる、銃と言ってもそれは口径を論じるものではない、着弾と同時に炸裂するグレネードを吐き出すグレネードランチャー、それに当たればひとたまりもない。  瞬時に対応するように勇太と光が動き出す、ヴォーボモンとデビドラモンもそれに追随する。勇太がデジヴァイスを掲げて叫んだ。 「ヴォーボモン進化っ!!」  合わせてデータの奔流がおきる。その奔流がヴォーボモンを包み込むようにして動き、 「ヴォーボモンっ……進化ぁっ!!!ラヴォーボモン!!」  より巨大な炎の奔流を渦巻かせながら巨躯を出現させる。成熟期のデジモン、ラヴォーボモンにその姿を変化させる。 「いいねぇ、そう来なくっちゃハンデにもならない」  ジャッジメンターが余裕そうに言う。しかし光はそれに対して怒りをあらわにし、 「なーにがハンデよ!そのつらぁメッタメタにしてやるからねっ!!」 「メッタメタにしてやる!!」 「あぁもうデビドラモンがまねしちゃうよぉ!」 「勇太ももうちょっとやる気出しなさいよっ!!」 「わ、わかったから……どんな理由にせよジャッジメンター!あなたを止めない理由もない!」  これだから、とジャッジメンターが勇太と光に向き合って手を振った、 「何のために戦うかもわからねークソガキども、置いたし多分ここらで叩き潰してやるぜ……かかってきなぁ!!」  ワイヤの森の片隅で激突が開始される。