200X年、人類は"神"と邂逅した。 巨いなる情報集合体、遥かな彼方に鎮座する灼熱の星。 太陽と呼称されるそれは人類に多くの知識を与え、人類の化学技術は大きく進歩した。 だが、いかに技術が進歩しようと、人々が真に幸福を得ることはなかった。 人々の心が、それに追い付けなかった。 知識は限られた人間に独占され 技術は貧富の差を広げ 科学は資源を食いつぶし 発展は国同士の軋轢を生み 文明は人と人との絆という熱(つながり)を失っていった。 地球に生きるすべての人が、人類の限界を心のどこかで感じていた時代。 ある科学者が神の情報をもとにくみ上げた、恐るべき発明。 その世界においては理論上の存在とされる、 電脳世界で発生・進化した電子生命体、通称「デジタルモンスター」 人間をデジタルモンスターへと変容させる「DiMウイルス」 それらの二つが、世界崩壊の引き金となった。 某国が秘密裡に進めていた、デジモンと化した人間を兵器として運用する計画。 その計画の前段階として、恐るべき人体実験が地下深くの軍事施設で行われていたのだ。 斃した敵のデータを吸収し、進化・変革するデジモンの本能を利用した蠱毒。 DiMウイルスに感染した人間同士を戦わせ、最後の1体になるまで喰らい合わせる。 通称「DiMサヴァイヴ計画」 この実験の被験者は、全世界から拉致監禁された一般人およそ2万人。 恋人と共にその国を訪れていた「真経津 晶」は、その一人だった。 ◇ 団結と裏切り、策謀と愛憎。 数多の悲しみ、数多の憤り。 敵を、戦友を、恋人を、父親を、 引き裂き、喰らい、飲み干した。 そして最後の一人となった彼女は、光を求めて地上へ向かう。 だが、そこに広がっていた光景は 今まで見てきた地獄と全く同じものだった。 DiMウイルスは何者かによって外へとばら撒かれ、 世界中の人間へ感染が広がっていった。 もはやこの地上に人間は一人もおらず、 本能のままに殺し合い、喰らい合う。 この星は、怪物の跋扈する世界に新生していた。 大切なものをこの手で砕き、 守るべきものをこの手に掛けた。 その果てに残ったのは、己を苛む罪の意識と "生きろ"という戦友たちの願い(のろい)だけ。 希望を見失い、生きる気力も尽き果てた。 それでも、己の体が、本能が、血と肉を欲してしまう。 投げやりな心とは裏腹に、 どうしようもなく、この体が生きようとする。 安息の地はなく、天の沙汰もなく 只人ならざるこの身を這って、 我が往く先は地獄の果てか、それとも――。 ■■■■ 「残念、異世界転移でした!」 一つの過ち(けいけん)を経て、世界への愛と存在の責務を自覚した上位存在は、 世界の抑止力として彼女を派遣した。 これから先に降りかかる、人類の危機(イベント)に備えるために。 命とは、自分以外のなにかを踏み越えて生きるもの。 命が命であるがゆえに、超えられぬ宿命。 それでも、自分の所業に罪を感じるのなら、 雪ぐ機会は与えられるべきでしょう。 他ならぬこの私が、手を貸しましょう/罰を与えましょう。 私は神ではないし仏でもない。 これはただのお節介。 慈悲でもなければ試練でもない。 だけど、だとしても、 赦しはきっと、その先に――。 彼女のいた世界(ものがたり)は閉じられた。    歴史は終幕を迎え、この宇宙にはすでに存在しない。