合同バーベキュー大会のスタッフとして駆り出され、雑用全般を請け負う事になった三下慎平。そんな彼が雑務をこなしている最中、突然三下の首筋に何か冷たい物が当たった。 「冷たっ!?」 驚いて後ろへ振り返ると、そこには水の入ったペットボトルを右手に持った千明遥希が居た。左手にはペットボトル飲料が数本入っているであろうビニール袋が握られている。 「お疲れ様です!シンさん」 「またアンタか…今度は何の用?」 「ちゃんと水分取ってますか?いくら強制労働とは言え働き詰めは良くないですよー。少しひと休みしませんか?」 三下もそろそろ一息入れようと思っていたところだ。それにもし断ってこの少女が騒ぎでもしたらまた面倒な事になる。そう思った三下は遥希の誘いを受ける事にした。 __________ 「あの……千明さん?」 「はい。何でしょう?」 「確かに涼しいけど、絵面的にすげぇ嫌だよこれ」 ジェットシルフィーモンに進化した遥希が胸のプロペラを回転させ、三下に風を送っている状態だった。確かに心地よい風が吹いて来るのだが三下的には落ち着いていられるわけがない。 「風は要らないです?」 「あぁ、もう十分涼ませてもらったから」 「わかりました!また風が欲しくなったら言って下さいね」 ジェットシルフィーモンは進化を解いて遥希の姿に戻った。 ___________ それから数分後… 遥希が元の姿に戻ってからというもの、彼女は突然一言も口を開かなくなった。 流石に気になったので三下が隣に視線を向けると、遥希は妙に体を縮こまらせている。顔は赤く、息も荒い。 「おい、大丈夫かよ!?」 「んっ゙…ごめんなさ…い…今話しかけられ…ても…ハァ…お答え……しかねるので…ッ…もうちょっと…ぁッ待ってて…貰えませんか…?……ッ」 心做しか何らかの刺激に反応して喘いでいる様にも見える。 「ど、どうしたんだよ?急に…」 人がデジモンになったせいで起きる副作用の様なものなのだろうか…三下には知る由もない。兎にも角にもいけない物を見ている様な気がした三下は思わず視線を逸らしながらも、遥希が持って来たビニール袋から適当な飲み物を取り出し遥希に手渡した。 「ほら、飲めよ」 「はぁ…はぁ……ありがとうございます。だいぶ落ち着きました。」 遥希は何とか呼吸を整えながら飲み物を受け取る。 「…シンさんを労いに来たのに逆に気を遣われてしまうなんて、お恥ずかしい限りです…」 「…なぁ、何でそんなに俺に構うわけ?」 「そりゃもう面白い玩具を見つけたからに決まってるじゃないですか」 「……さて、仕事に戻るか」 「嘘です!嘘ですから!行かないでー!」 作業に戻ろうとする三下を遥希が必死で呼び止め、話を仕切り直す。 「シンさんって何て言うか、良い人が偽悪的に振る舞ってる様に見えるんですよね。敢えて捻ねた態度を取ってみせたり、そういったところから若干の闇みたいなのが垣間見えたりして……そういうのって何かこう…凄くジャグジャグして来るんです!」 「お、おう……(やべぇ…マジで何言ってんだ、こいつ)」 してやったりといった顔で言い放つ遥希に対し、三下は返す言葉が全く見つからない。 「…あ、これ美味しい。シンさんもちょっとだけ飲んでみませんか?さ!どうぞどうぞ!」 三下から貰ったレモンスカッシュを飲んでいた遥希がペットボトルを差し出した。 「あぁ、いただくよ……………………!?」 遥希があまりにも強く勧めて来るので思わず受け取って飲んでしまった三下だが、飲んでいる途中で自分のしている事に気付いてむせてしまう。 「大丈夫ですか!?シンさん!慌てて飲んじゃ駄目ですよ〜」 遥希が心配そうに三下の背中をさする。 「違う、そうじゃない…」 「…?」  女子とはこういうものなのか、はたまた目の前のこの少女が特別鈍感なだけなのか、三下にはわからなかった。 「変なの。持って来た飲み物は置いておきますので、他のスタッフさんにも分けてあげて下さいね」 そう言った遥希は立ち上がり、足早に去って行った。 ___________ ヤエや千尋の居る場所へ戻ろうとする遥希だったが、突然歩を止める。そして赤面しながら俯き一言呟いた。 「やっちゃった…!」