あの日――神田颯乃を病院で押し倒した日から、霜桐雪奈は自分の様子がおかしくなるのを感じていた。 これまでの旅で確かにこれまでとは違う友達と認識してはいたが、それは國代良子や三上竜馬たちと同じく、旅の頼れる仲間としてのはずだ。 決定的な転機となったのはやはりアトラーカブテリモンの森での一件だろう。 何者かの手により暴走させられた颯乃を、雪奈は本気の『喧嘩』を経て元に戻した。 初めての喧嘩。旅をする以前なら、他人の気を伺って波風立てないようにしてきた雪奈にとって、それは縁のないものだった。 互いに本音を曝け出し、許し合って、再び親友の間柄に戻れた。 そこまではいい。道を間違えたのなら、例え嫌われようと正してやるのが仲間というものだ。 しかし、傷つき入院した颯乃の姿に雪奈はこれまで抱いたことのない感情が芽生えた。 颯乃を自分のものにしたい。 何故そんな感情を抱いたのか、自分にすらよく理解できない。 普段見せない姿のギャップにやられたのか、あるいは初めての出来事の興奮に情緒がおかしくなってしまったのか。 「雪奈、大丈夫か?」 「え?うん、大丈夫だよ……」 そんなやり取りが、これまで数えきれないほど繰り返された。 颯乃のことを考えて呆けることが増えた。 胸が苦しくなり、お腹の下が疼くことが増えた。 体温が上がり、顔が赤くなることが増えた。 この昂りを鎮めようと、一人になった隙に自分を慰めることもあった。 その度に罪悪感と、収まらない興奮の板挟みが雪奈を苦しめていた。 「……ちょっと二人きりで話さないか?」 そんな雪奈の様子を見過ごすほど颯乃は鈍感ではなく、見かねたのかある日そんな提案をしてきた。 「……うん」 小さく頷き、互いのパートナーに待っているよう言いつける。 歩いている最中、二人の間には沈黙が流れた。 やがて、人気のない庭園を見つけた。 誰かが手入れしているのか、辺りには色とりどりの花が咲き、噴水には澄んだ水が湛えられ、傍には大きなベンチが据えられている。 ベンチに並んで腰掛けた二人の間には、先ほどと同様言葉はなかった。 気まずそうに俯く雪奈と、それを心配そうに眺める颯乃。 そんな沈黙を破るように颯乃が口を開く。 「雪奈の様子がおかしいのって、ひょっとして私のせいか?」 「え!?なんで?」 「いや、あの日から私にだけ態度がおかしかったから……雪奈は分かりやすい」 ぐああとうめき声を上げて雪奈は頭を抱えた。 まるで隠し通すことができてなかったことと、自分のせいで余計な心配をかけたことが、雪奈の羞恥心を煽る。 ひとしきり唸った後、急に自分の頬を叩き、長く長く息を吐く。 雪奈はゆっくりと頭を上げ、颯乃を見つめた。 その瞳は不安の色がありありと浮かび、顔は今まで見たことがないほど真っ赤に染まっている。 「……颯乃ちゃんはさ、誰かを自分だけのものにしたいって思ったことある?」 「へ!?」 思いがけない言葉に颯乃の肩が跳ねる。 それは所謂、恋心とか、独占欲と言われるものではないか? 様子がおかしいと思っていたが、そういったものを雪奈が自分に向けていることまでは想像が付いていなかった。 「どうなの?」 「……多分ない、と思う……」 「そっか。よかった、のかな……」 不安げだった雪奈の表情に、若干の安堵が混じる。 (多分、この気持ちに理由なんてないんだ。いつの間にかそうなっていて、あれはただ、それが我慢できなくなっちゃっただけ。だから……) やがて意を決したような目をした雪奈が、両の手で颯乃の頬を包む。 その顔に颯乃は見覚えがあった。 これまでの旅、そしてあの森でも見せた、覚悟を決めた顔だ。 窮地に陥ろうと決して諦めようとしない。自分の意志を押し通す。そんな顔。 この顔をした雪奈は、自分の知る誰よりも強いことを知っている。 颯乃は自分の顔も赤く染まるのを感じた。 「……嫌だったら、断っていいよ?」 ゆっくりと顔が近づいてくる。 緊張と不安で泣きそうになりながらも、その力強い目が颯乃を見つめ続ける。 (ああ、雪奈はいつもそうだったな……) ちょっとしたことですぐ落ち込むのに、いざという時は誰よりも前を見続ける子。 颯乃や竜馬がおかしくなったあの森でも最後まであがき続け、こうしてまたみんなと共に歩めるようにしてくれた子。 そんな彼女の決意を、颯乃は拒むことはなかった。 「んっ……」 どちらともなく唇を合わせる。 二人の胸の内を多好感が満たした。 唇から伝わる柔らかい感触と、火傷しそうなほどの体温、うるさいくらい大きな心臓の鼓動が互いを行き来した。 一瞬のような、永遠のような時間の後、惜しむように互いの唇が離れる。 頭がぼうっとした。 風邪とも違う熱が体中を蝕んだ。 でも、悪い気分ではない。 突如、雪奈がわなわなと震える。 嬉しさと興奮と、枷が外れたような衝動が雪奈を突き動かした。 「〜〜っ颯乃ちゃん!!」 「ちょ、雪奈……!」 雪奈が勢いよく颯乃に覆いかぶさり、ベンチへと押し倒す。 そのまま、今度は勢いよく唇を合わせた。 先ほどの壊れ物を扱うような優しい口づけと異なり、今度は貪るように力強く。 雪奈の舌が、颯乃の口内に侵入してきた。 愛おしいものに触れるように、雪奈の舌が颯乃の口内を撫でる。 颯乃もそれに応えるように、己の舌を以って迎え入れた。 「んっ……ふっ……んんっ……」 どちらともなく吐息が漏れる。 唾液が互いを行き来し、どちらのものとも区別が付かなくなる。 互いの舌を互いで塗りつぶそうと、両者の口内を這いまわった。 「ぷはぁ……」 やがて息が続かなくなり、長い長い口づけが終わる。 二人の舌からは、その絆を結ぶように唾液が橋をかけている。 雪奈はその橋を途切れさせまいと、再び颯乃の口の中に踏み入った。 「はっ、ふっ……んっ……」 身体が熱くなる。 芯が切なくなる。 もっと深いところまで、颯乃を自分色に染め上げたい。 雪奈は口づけを続けたまま、颯乃のベストをまくり上げ、シャツのボタンを外し、現れた下着をずらす。 外気に晒された中学生らしからぬ双丘に指を這わせ、柔らかさを堪能し、ゆっくりとなぞった。 やがてその指は頂に据えられたものにたどり着く。 雪奈はそれに指の腹をこすりつけた。 薄い桃色のそれは雪奈の指の動きに合わせて形を変え、だんだんと固くなっていく。 「ふあっ……んんっ……!」 颯乃の全身に衝撃が奔り、身体がビクッと揺れた。 雪奈は颯乃の双丘の頂を二本の指で挟む。 時には優しく、時には強く、時には押して、時には引っ張る。 その度に颯乃の頭に電流が流れ、目の奥が明滅した。 「ふー……ふー……」 負けじと颯乃も雪奈の服の下に手を伸ばす。 シャツをめくりあげ、下着を外す。 現れた自分に劣らぬそれを、颯乃は優しく、あるいは激しく揉みしだいた。 「んあっ……!」 今度は雪奈が声を上げる。 颯乃の手が己の身体の一部を弄ぶ度に、快楽が全身を駆け巡った。 やがて颯乃は雪奈の手を取り、指を愛おしそうに絡める。 雪奈の身体を引き寄せ、互いに屹立した胸の先端をこすり合わせた。 指で弄られているのとはまた違う、もどかしく不規則な動きが、互いに相手を気持ちよくさせようとしているようで愛おしく感じた。 「んっ……んっ……んんっ……!」 身体の奥が昂る。 呼吸が苦しい。 頭はもはやロクに働いていない。 快楽が己の中を満たす。 やがてあふれ出るそれは閾値を超え、二人は同時に限界を迎えた。 「ふっ、ん……んんっ〜〜!!」 全身を稲妻が駆け抜ける。 それまで強張らせていた身体から、栓を抜いた水のように一気に力が抜けた。 長らく重ね合わせていた唇がようやく離れ、二人は大きく息を吸う。 肺の中に空気が殺到し、酸素が不足し始めていた脳がようやく回りだした。 身体はぐったりして、すぐに起き上がれそうにない。 「はあ……はあ……はあ……雪奈、激しすぎ……」 えへへ。と雪奈は嬉しそうに笑う。 そんな顔をされては怒るに怒れないではないかと、颯乃は呆れながら微笑んだ。 「だって、颯乃ちゃんが可愛かったから。だから、もっと……」 「きゃ、雪奈……!?」 中途半端に脱がせられた上着を完全に脱がせ、雪奈も上半身を晒す。 トロンとした目の雪奈が顔を近づけると、優しく颯乃の耳を食んだ。 耳にかかる息にこそばゆくなる。 「雪奈、ちょ……んっ……」 「ん、ちゅ……」 ゆっくりと耳に舌を這わせる。 颯乃がくすぐったさに声を上げるたびに、雪奈は嬉しくなってわざとらしく音を立てて吸い付く。その度にそこが自分のものになっていくようで、ちょっとした征服感が芽生えた。 ここは自分のものだと言わんばかりに口づけし、颯乃の白い肌に薄紅色の印を刻む。 徐々に舐める場所を下していく。頬、首筋、鎖骨、胸ときて、やがて颯乃の右肩に来た。 (あ、ここ……) 颯乃の過去の傷。剣道という大事なものを奪われ、森で何者かに付け込まれた、颯乃が旅をする理由。 既に傷跡は見えないが、身体の奥では今でも颯乃を苦しめている。 そんな傷を自分が今すぐどうにかすることはできないが、せめてもの慰めに、あるいは自分もその傷を背負うためにと、傷ついた飼い主を舐める犬のように念入りに舌を這わせた。 「雪奈……」 「はっ、ん、ぁ……」 自分の古傷を念入りに舐める親友に、颯乃は愛おしそうにその頭を撫でた。 森で一度は突き放したはずなのに、この子はそれでも見捨てず、こうして自分のことのように考えてくれている。 そのことが颯乃にはたまらなく嬉しくなった。 雪奈は舐めるのを止め、颯乃に視線を合わせる。 その瞳は今にも泣きそうに潤んでいた。 「辛かったよね……ごめん、何にもできなくて……」 「なんで謝る?私の問題なのに。それに、雪奈はあの時助けてくれた。それだけで十分だ」 「ううん、颯乃ちゃんにはちゃんと治ってほしい。両手で剣道しているところを見せてほしい。笑っていてほしい。わたしのエゴかもしれないけど、それがわたしのしたいことなの」 「……うん、ありがとう」 もう一度口づけをする。 優しく触れるように、誓いを交わすように。 唇を離した颯乃は、ふふっといたずらっぽく笑った。 「それじゃあ、こっちだけ貰ってばかりも悪いし、少しはお返ししないとな」 「え、颯乃ちゃん!?」 身体を起こした颯乃が雪奈の胸を口に咥えた。 舌で先端を転がし、音を立てて吸い上げる。 反対の胸は手で優しく包み込んで柔らかい感触を楽しみ、時折指先で弄んだ。 「はやのちゃ…!そこ、んひっ……!」 「ん、れろ、ちゅ……」 ぞくぞくした感覚が雪奈の背筋を走る。 舌の動きに合わせ、胸が上下左右に揺さぶられる。 交互に舐める胸を変え、常に新鮮な刺激を与え続ける。 舌先でピンっと弾かれると、言い知れぬ快楽が襲った。 「んぁっ!」 短い嬌声が上がる。 気をよくした颯乃は雪奈のスカートに手を伸ばし、ファスナーを下してズリ下げた。 薄い水色の下着は既に水分をたっぷりと含んでおり、大きな染みを作り出している。 張り付いた布地が雪奈の谷の形を鮮明に映し出していた。 颯乃は下着に指を滑り込ませると、ゆっくりと下に持っていく。 やがて布地に包まれた雪奈のそれが目に飛び込んできた。 不毛の地の谷から零れた雫が、下着を離すまいと最後の抵抗のように繋がっており、ぬらぬらと光っている。 誰にも見せたことのないところを晒された雪奈の顔が羞恥心で赤く染まった。 「颯乃ちゃん、そこ恥ずかしい……」 「はむ、んっ、ちゅる……」 そんな抗議の声を無視するように、颯乃は胸を攻め続けながら雪奈の秘所に指を添わせる。 周りの蜜をたっぷりと絡め、焦らすように辺りをなぞる。 指の動きから逃げるように雪奈の腰が前後するが、指はそれを読んでいるかのように付いていく。 やがて我慢できなくなった雪奈は、無意識の内に腰を突き出していた。 それを待っていたかのように、颯乃は谷をかき分け雪奈の中に侵入する。 「あっあっ、颯乃ちゃん!そこっ、だめっ!んんっ!!」 雪奈の嬌声がより一層大きくなる。 たまらず颯乃の肩を掴む。 颯乃の指が雪奈の中をかき分けるたびにこれまでにない快感が襲ってきた。 中から溢れる水をかき回され、くちゅくちゅと音を立てる。 堪ったものじゃないと思った雪奈は、わずかに残った思考で颯乃のスカートに手を伸ばして脱がせた。 自分と同じように水分を湛えた下着を下すと、現れた谷に挟まれた豆を指でつつく。 「んっ!せつ、な、ちょっ……!」 「おかえ、し、だよ!んんんっ!」 驚いた颯乃は思わず舐めるのを止めてしまった。 雪奈は構わず、自分がされているのと同じように指を入れる。 それだけに留まらず、空いた親指で颯乃の豆を引っかいた。 「あっ!んん!それ、ずる、い!」 お返しとばかりに、颯乃は二本目の指を侵入させる。 器用に別々の動きでかき分け、雪奈の中で踊り狂った。 「ああっ!すご、い!なか、あばれて、る!」 「んんっ!せつな!わた、し、もう!」 吐息と水音、嬌声が二重奏を奏でる。 競い合うように動かしていた指の動きがだんだんと激しくなる。 相手を先に気持ちよくさせようと、反応の激しいところに重点的に攻め込む。 声にならない声が互いをより高め合った。 「あっあっあっあっ!きもち、い!はやのちゃ、んっ!」 「せつ、な、わたしも!んんっ!いっ!」 背後の噴水が勢いよく水を噴出した。 それと同時に、二人から溢れた水がベンチを濡らす。 二人は全力疾走したように息を切らせ、互いに倒れそうになる身体を支え合った。 「はあ……はあ……はあ……はあ……」 まだ足りない。 もっと深いところで繋がりたい。 二度と離さないくらいに、何があっても、誰が相手でも、この絆を引き裂けないくらい強く強く。 雪奈は腰を動かし、颯乃の秘所を己のそれと擦り合わせる。 颯乃もそれを受け入れ、雪奈の身体を抱きしめた。 どちらともなく腰を動かす。最初はゆっくりと、歩み始めるように。 「はっ、はっ、はっ……!」 「んっ、んっ、んっ……!」 徐々に腰の動きが早くなる。 離れないようにお互いを強く抱きしめ合う。 蜜に溢れたそこは絡み合うようにこすりつき、先ほどまでの指とは違う刺激が二人を支配した。 もはやどちらのものとも区別できないほど、互いの秘所が互いの愛液に塗れている。 「あっ、はっ、あっ!颯乃ちゃん!颯乃ちゃん!!颯乃ちゃん!!!」 「んっ、あんっ、あっ!雪奈!雪奈!!雪奈ぁ!!!」 興奮が最高潮に達する。 頭の中も、心の中も、目の前の相手でいっぱいになる。 もう抑えることができない。 今まで抱え込んでいたもの、言語化できなかった思い、ずっと抱えていた胸の内を力の限り叫んだ。 「颯乃ちゃん!好き!!好き!!大好き!!!」 「うん!うん!!雪奈、私も!!だから、一緒に!!!」 その言葉が引き金となり、堰を切ったように快楽の波が二人の全身を駆け巡った。 「あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 「んっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 ―――――――――――――― 「ぐすっ……ふぇぇぇん……」 「もう、なんで泣いてるんだ」 力尽きベンチに横たわったとたんに突然泣き出した雪奈を、颯乃は頭を撫でて慰めていた。 そういえば今まで落ち込むことはあっても、こうして涙を流すところは見たことがなかったなと、ふとそんなことを思った。 「だって、だってぇ……ぐすっ……これじゃわたし、えっちな子みたいじゃん……」 「まあ否定はできないな」 「だって、嬉しかったんだもん…えぇぇぇん……」 「全く。世話が焼けるな雪奈は」 そう言うと颯乃は雪奈の濡れた目元に口づけし、涙を拭った。 「ぐすっ、颯乃ちゃん……?」 「泣いてる雪奈も珍しくていいけど、やっぱり笑った顔が一番だ。私も雪奈には笑っていてほしい」 颯乃の言葉にいじわる、と頬を膨らませながら、目元を拭った。 赤くなった目頭のまま、雪奈は笑みを返す。 「えへへ」 「うん、やっぱりそっちのほうがいい」 互いの身体を抱き寄せる。 遮るもののない身体から、暖かい熱が伝わってくる。 胸の内が満ち溢れた。これからどんなことがあろうと、この熱が奪われない限り何があっても大丈夫だと、そんな予感がした。 「颯乃ちゃん」 「雪奈」 口づけを交わす。 少ししょっぱくて、幸せな味がした。 ―――――――――――――― 「あっ」 「どうした?」 「服」 突然素っ頓狂な声をあげた雪奈につられ、己の服を探す。 見ると、無造作に地面に投げ捨てられたそれは、二人のあふれ出た体液で無残な姿となっていた。 「これじゃ着れないよね。ブルコモンたちになんて言おう……」 「なに、大丈夫だ。噴水で水浴びでもしていたことにすればいい」 「服着たまま?変じゃない?」 「えっ、そうか?うーん……」 結局、そのまま服を着て噴水に飛び込み、言い訳として雪奈の不幸で噴水が壊れ、水が二人を直撃したと誤魔化すことにした。 しかしゴブリモンは二人の雰囲気が先ほどまでと明らかに違うのを感じ取り、ブルコモンは雪奈の不幸が他人を巻き込むだろうかと訝しむのだった。