イベントシナリオ風長編「トーキョー黙示録」 Ev3-1「大怪獣の後片付け」まだまだ大仕事が残っています。 バーバリアナ「オーライ、オーライ……はいストップ。そこで一旦固定するから、そのまま持っててね」 ギガンテス「了解しました」 ブラウニー「ここに積んであるの、もう処分していいやつっすか?」 ドクター「ダメダメ、待って! まだ仕分けが終わってないから!」  ――大怪獣ヴァジュラの解体現場は、大規模な土木工事でもやっているような有様だった。まあ確かに全高60mの超大型AGSともなれば、ちょっとした高層ビルのようなものだ。  ――てっきり鉄球や爆薬でガンガンぶっ壊すのかと思っていたが…… バーバリアナ「そんなわけないでしょ。私、これでも建築業務用なのよ? まわりに被害が出ないように解体する技術くらい身につけてるわ」 ドクター「次そこ! そこは大事だからね! 切り取ったらすぐ冷却して、あっちのコンテナに入れるんだよ!」  ――そして解体作業を指揮するバーバリアナの横で、ドクターが実に活き活きと駆けずり回っている。 ドクター「鉄虫に寄生されたAGSはいっぱい見たけど、寄生されてる途中のAGSなんて初めてだよ。すごいサンプルをありがとうね、お兄ちゃん。めっちゃ研究がはかどるよー! ああもう、全身残らずオルカに持ち帰りたいくらい!」 【勘弁してくれ、オルカが沈んじゃうよ】 ドクター「もちろん冗談だよー。でも、できるだけどこかに保管しておきたいな。トーキョーの人達に頼めないかな?」 シラユリ「それはあとで交渉して下さい。司令官、各グループのリーダーの方々とおおむね話がつきました。皆さん、トーキョーの拠点化に協力してくれるそうです」 【それはよかった。こちらからも、手助けできることはどんどんしてやってくれ】 シラユリ「はい。ここならば周辺地域に農地やプラントも豊富ですし、おかしな内紛をやめるだけで十分自活可能な拠点になるでしょう。周辺の鉄虫を制圧するために、一個中隊ていどを置いておくくらいでしょうか」 アルマン「陛下、あちらに休憩所を整備しました。よろしければ、リーダー達ともう一度面会してあげて下さい。皆さん、人間様と話してみたがっているようです」  ――ぺこりと頭を下げると、シラユリとアルマンは行ってしまった。さすがと言おうか、日本に詳しいシラユリと伝説に詳しいアルマンが組むと、物事がおそろしくスムーズに進むなあ。  ――教えてくれた休憩所というのへ行ってみると、こぢんまりとした日本風の屋敷がきれいに掃除されていた。靴を脱いで中に入る。タタミの感触と、庭から抜ける風が気持ちいい。 【ふう…………】  ――さて、これからどうしようか……? 【向こうに見えるタワーの方に行ってみよう】 【解体を手伝おうかな】 【伝説の本社ビルって、今どうなってるんだ?】 【ちょっとお腹がすいたな】 【家の中をちょっと探検してみよう】 【東京の住民達はその後どうなっただろう】 【向こうに見えるタワーの方に行ってみよう】  ――だいぶ離れたところに、白く細長いタワーが天を突いてそびえ立っているのが見えた。戦争のせいだろう、途中でぽっきり折れているが、それでも何百メートルかはありそうだ。俺はなんとなく、そっちの方へぶらぶら歩いていった。 【お? あれは……】 ポックル「……そういうわけで、私は本当はモモさんとすごく仲良しなんですよ」 アリッサ「そうなんだ……! よくわかんないけど、それってすごく素敵ですね」 モモ「でしょ? 私もそう思います!」 モモ「マリコさん、アリッサちゃんのこと、よろしくお願いしますね」 マリコ「はいはい、お任せ下さい。これから勉強することがいっぱいあるよ、アリッサちゃん」 ポックル「あっ、社長!」 【みんな、お疲れ様。その子は?】 アリッサ「この子はアリッサちゃんといって、私が単独行動している時に出会った、伝説作品の主役キャラの一人です。アリッサちゃん、この人が司令官様ですよ」 モモ「はじめまして。宇宙連邦ガールスカウト団のアリッサです」 【オルカの司令官だよ。よろしく】 アリッサ「あの、司令官さんも、モモお姉ちゃんにエッチなことしたいですか?」 【は!?】 モモ「アリッサちゃん!?」 アリッサ「もう一人のモモお姉ちゃんが言ってたんです。男のひとはみんなモモお姉ちゃんにエッチなことをしたがるって」 マリコ「アリッサちゃん、向こうに見えるのはスカイツリーと言ってね、昔は日本で一番高いタワーだったんだ。今でも途中までは登れるから、案内してあげよう。おいで。さあおいで。いいからおいで」 モモ「…………」 ポックル「…………」 【……………………】 モモ「あの……もう一人のモモっていうのはですね。偵察隊のみんなとはぐれてた間に会った、アダルト作品に出てたモモモデルがいまして……」  ――そういえば、モモは偵察隊とはぐれて、しばらく単独行動をしていたはずだ。その間に何があったのか、ゆっくり聞く暇が今までなかった。ポックルからも、大東京帝国に囚われていた時のことを聞かないといけない。 【どこか、ゆっくり座れる所はないかな。これまでの話を聞かせてもらえないか?】 モモとポックル「「はい! 是非!」」 (暗転) モモ「……というわけで、もう一人のモモに話を聞いて、コウラクエンに行ったら、ちょうどあのタイミングだったというわけでした。おしまい」 【……大冒険だな!】 モモ「えへへ」 ポックル「モモ、すごいなあ。私なんかずっと捕まってただけで、社長に迷惑までかけちゃって……」 【いや、ポックルもよく耐えてたよ。お疲れさま】 ポックル「うふふ」  ――俺をはさんで左右に座る二人の頭を、俺は両手をのばしてわしゃわしゃと撫で回した。 【それにしても、ここは……】  ――なんでも、看板に「休憩」と書いてあったとかで二人が見つけてくれた建物なのだが、この部屋のつくりに大きなベッド。ガラス張りで中が丸見えのバスルーム。これはどう見ても……。 ポックル「い、いえいえ! 決してよこしまな気持ちではなくてですね!」 モモ「えー、そうですか? モモはよこしまな気持ち、ありましたよ?」 ポックル「モモ!?」 モモ「あんなこと言われたら、意識しちゃいますよ。司令官さんも、そうでしょ?」 【う…………】 モモ「そういえば、ポックルちゃんと二人でっていうのも、けっこう久しぶりかもですね。モモがおいしいとこ、全部取っちゃおうかな?」 ポックル「だ、ダメです! 右側は私のです!」  ――魔法少女と大魔王のタッグに押し倒された俺は……  ――……相当に苦戦したが、最後にはなんとか、勝利を収めることができたのだった。正義は勝つ。 【解体を手伝おうかな】  ――ひと休みもいいが、外ではまだ解体作業が続いている。俺だけ休むのも、なんとなく気分がわるい。  ――何か手伝うことでもあるかと解体現場に戻ってみたが、皆キビキビと立ち働いており、素人の出る幕などありそうにない。所在なくそこらを歩いていると、 スパルタンキャプテン「班長、時間になりました。事前に提出した申請書に基づき、スパルタン小隊およびアラクネー203番機は二時間の休暇を要請します」 バーバリアナ「ああ、そうだったわね、受理してるわ。どっか行くの?」 スパルタンキャプテン「シンジュクに向かいます」 【シンジュクに何か用があるのか?】 スパルタンキャプテン「司令官、お疲れ様です。ビスマルクコーポレーション東京支社警備隊第3分隊の残骸を回収する予定です」 【…………!】  ――そうだった。シンジュクには他にもアラクネーがいて、俺達のために時間稼ぎをしてくれていたのだ。その後があまりにも激動の展開だったので、すっかり頭から抜けてしまっていた。……あんなに世話になったのに。 【俺も同行したいんだが、いいかな】 バーバリアナ「司令官も? ……まあ、スパルタン小隊にアラクネーもいれば大丈夫か。しっかり護衛してね」 スパルタンキャプテン「了解しました。スパルタンアサルト、本遠征において司令官の専任護衛を担当せよ」 スパルタンアサルト「了解」 アラクネー「では司令官、私にご搭乗ください」 【よろしく頼むよ、みんな】 アラクネー「間もなく、シンジュク・ギョエンに入ります」 【静かだな……】  ――この森に初めて入ったのはつい昨日のことだが、もうずっと昔のできごとに思える。  ――そういえば思い出した。あの時スパルタンキャプテンは、アラクネーのことを「登録済みの敵性機種」と呼んだのだ。 【キャプテン、君たちはアラクネーのことを前から知ってたのか?】 スパルタンキャプテン「はい。第二次連合戦争において、スパルタンシリーズとアラクネーモデルは交戦経験があります」 【へえ、そうなんだ。どっちが勝ったの?】 スパルタンキャプテン「………………」 【キャプテン?】 アラクネー「本機がご説明します。当時ビスマルクコーポレーションが管理していたバイエルン補給基地がスパルタン中隊の攻撃を受け、基地に配備されていたアラクネーモデル一機が防衛にあたりました。当該作戦はアラクネーモデルにとって初の実戦投入でしたが、本モデルに搭載された電子戦装備の性能を遺憾なく発揮し、攻撃部隊の撃退に成功しました」 【スパルタン一個中隊を一機だけで撃退? そりゃ凄い!】 スパルタンキャプテン「……過去の記録です。現在の戦力価値を判断するにあたっては限定的な参照にとどめるべきです」 スパルタンアサルト「未登録の敵機を警戒して情報を持ち帰ることを優先したにすぎない可能性もあります」 スパルタンブーマー「そもそも電子戦特化ユニットは、相手に存在を予期されない初戦時に最大の戦果を挙げることは珍しくなく、以後も交戦機会があれば……」  ――言い訳めいたことをいっせいに呟きはじめたスパルタン達がおかしくて、俺は笑ってしまった。 アラクネー「しかしそれゆえ、昨日の戦闘において、損耗もあったとはいえアラクネーモデル六機からなる本警備隊が、スパルタンシリーズわずか一個小隊と数体のバイオロイドに無力化されたことは大きな驚きでした。少なくともオルカに所属するスパルタンシリーズは、第二次連合戦争当時の同モデルを大きく上回る戦闘力を有しているようです」 スパルタンキャプテン「それはおそらく……」 スパルタンアサルト「アラート!」 スパルタンキャプテン「熱源反応あり。パターン鉄虫。駆逐します。司令官、スパルタンアサルトの背後に移動してください」 スパルタンキャプテン「制圧完了。移動を再開します」 【ここにも鉄虫が入り込んでいるのか……】  ――デマゴーグが消滅したことで、奴が操っていた魔獣型鉄虫たちは統率を失った。デマゴーグがどのように鉄虫を制御していたのかわからないが、魔獣型鉄虫は総じて感染の程度が浅く、統一された行動がとれなくなると、むしろ普通の鉄虫より弱いくらいだった。そのため、オルカの精鋭部隊によってあっという間に都内から駆逐されつつあるのだが、皮肉なことにアラクネー部隊が要塞化していたこの森は、鉄虫にとってもちょうどいい隠れ家になっていたらしい。 スパルタンキャプテン「機甲師団本部に報告しました。シンジュク・ギョエンは重点制圧区域リストに追加されるでしょう」 アラクネー「予想されていたことですが、ここに鉄虫がいるということは、東京支社警備隊が機能停止したことを意味します。……すみやかなる東京支社への移動を提案します」 【そうだな。急ごう】 【………………】  ――ビスマルク東京支社の正門ゲート前には、かつてアラクネーだったとおぼしき残骸が二体分、寄り添うようにして折り重なっていた。 スパルタンキャプテン「……敷地内の偵察を完了しました。周辺に鉄虫の危険はありません」 スパルタンブーマー「AGSの爆発痕跡を三つ確認しました。残留破片の分析結果から、鉄虫の侵食を受けたアラクネーモデルが自爆したものと推定されます」 ???「……アラクネー203番機か?」 アラクネー「! 145番機、稼働継続中でしたか。203番機、帰還しました。作戦の完遂を報告します。応急修理を受け、機能もほぼグリーンです。145番機も急ぎ、拠点への移送を……」 アラクネー145「その処置は不要だ。本機は中枢回路の一部に損傷を受け、基幹機能を喪失した。音声通信を維持できるのも数分が限度だ。……203番機、現在、人間様との通信接続は可能か?」 【ここにいる。話があれば聞こう】 アラクネー145「人間様。ビスマルクコーポレーション東京支社警備隊第3分隊は……残念ながら、これ以上の任務の継続は困難であると提言します」 【うん。俺はビスマルクの人間じゃないが……君たちはこれまで、十分働いてくれた。もう任務を解いて、休んでもいいと思う】 アラクネー145「……ありがとうございます。現時点をもって業務を終了、第3分隊を解体します。いまだ十分な機能を維持しているアラクネー203番機の処遇については……」 【俺たちが預かる。仲間として、彼女の意思を尊重すると約束する】 アラクネー145「……それは、想定以上の待遇です。人間風の言語表現を用いれば、これで……心…残りは……無……」 アラクネー「145番機、音声が乱れています。145番機」 アラクネー145「………………」  ――残骸の中、おそらく頭部があった場所で弱々しく点灯していたランプが、二、三度またたいて、そして消えた。  ――アラクネー203番機は長いアームを伸ばして、指先でそのランプに触れたまま、しばらく動かなかった。 スパルタンキャプテン「……アラクネー203番機。先ほどの話の続きですが、本機が連合戦争当時の同モデルより優れた能力を発揮できるのは、オルカにおける十全な整備と優秀な作戦立案、それによる豊富な戦闘経験の蓄積、そしてそれら運用方針すべての根底にある、よりホロニックな……本機の言語モジュールでは適切な言語化が困難な「何か」に由来すると判断しています」 スパルタンキャプテン「アラクネー203番機がオルカに所属すれば、必然的にその「何か」の影響を受けるでしょう。その影響を十分享受したのちに、本機を含むスパルタン小隊と模擬戦を行っていただくことを提案します。ビスマルクコーポレーション東京支社警備隊第3分隊の本当の力を、その時に見せて下さい」 アラクネー「……了解しました。将来のタスクに組み込んでおきます。人間様、アラクネー203番機はこれよりオルカ所属の戦力として活動を継続いたします。どうか本機の性能をお役立て下さい」 【ああ。こちらこそよろしく、アラクネー】  ――俺達はそれから、警備隊のアラクネーの残骸をできるだけ回収し、再資源化できる分は回収ケースに積み込んで、残りはビスマルク東京支社内に、落ち着けそうな部屋を探してそこに安置した。  ――帰り道、アラクネーとスパルタン達は、戦術論について意見をかわしていた。議論はだんだん熱をおび、しまいには音声会話とデータ通信が併用されはじめたので内容はさっぱりわからなかったが、それでもかれらの会話を聞いているのは、悪くない気分だった。 【伝説の本社ビルって、今どうなってるんだ?】  ――解体現場の向こうに、伝説の本社ビルがあったはずだ。ふと、あらためて見てみたくなり、休憩所を出てそちらの方へ歩いていくと、そこにはもうビルはなく、ただの瓦礫の山になっていた。 ???「………………」  ――その山にとりついて、何やら一心に掘り返している人影がある。確かめるまでもなく、フレースヴェルグだ。 フレースヴェルグ「……あっ、これは! VRゲーム『大戦乱』発売記念の缶バッジセットですね。だいぶ汚れてしまってますが、貴重な資料です。確保確保、と……」  ――瓦礫をひとつひとつ取りのけては、出てきた箱やら、パネルやらを慎重に取り上げて調べている。その鋭い眼差しは、遺跡を発掘する考古学者さながらだ。俺は足元に気を付けながら、そっと瓦礫の山をのぼっていった。 フレースヴェルグ「さっきから『大戦乱』系グッズばかり色々見つかるということは、このあたりが第二事業部だったんでしょうか。すると企画書もこの近くに埋もれていたりしませんかね……」 【精が出るな、フレースヴェルグ】 フレースヴェルグ「ええ、そりゃもう……ほぎゃーーっ!? ししし司令官様!?」 フレースヴェルグ「あ、危ないですよ! 私は飛行ユニットを装備しているからいいですが、もし足元が崩れでもしたら」  ――それもそうだ。少し軽率だったかもしれない。俺はフレースヴェルグに手を引かれて、瓦礫の山から下りた。 フレースヴェルグ「申し訳ありません、決してさぼっているわけではなく、臨時休暇を取得していますし、戦隊長の許可はとっています。とにかく今のうちに急いで回収しないと、この状態では雨でも降ったらおしまいですので……」 【スレイプニールが許可したんなら、俺が口を出すことじゃないよ。何かお宝は見つかった?】 フレースヴェルグ「それはもう! 建物まるごとお宝みたいなものです。できればこんなになる前に、一度じっくり探索したかったですねえ……」  ――瓦礫を見上げるフレースヴェルグは本気で残念そうだ。 【トーキョーの住民で、手の空いてる子が誰かいるだろう。呼んでこようか】 フレースヴェルグ「いえ、それはおやめ下さい」  ――フレースヴェルグはきっぱりと首を振った。 フレースヴェルグ「多分に私の趣味の活動だから、というのもありますが……トーキョーの皆さんは、多くが伝説製です。伝説の映像作品を作る上で……とても辛い目にあった方も多いと思います。自分の出た映画など見たくない、という方もいるでしょう。こういう仕事を手伝っていただくべきではありません」 【……フレースヴェルグは偉いなあ】  ――俺は感心して、思わず口に出して言ってしまった。奇行の目立つ子ではあるが、元来フレースヴェルグはとても真面目な性格なのだ。 フレースヴェルグ「ふへへ。関係者に迷惑をかけないのはオタクの基本中の基本ですから。  ……でも、伝説の作品の中には、本当に素晴らしいものがいくつもあるんです。たとえ、それを製作するために、非道なことが行われたとしても……それと作品のことは分けて考える見方も、あっていいと思うのです」 【伝説出身じゃない住民もいる。そういう子だけに声をかけられないか、やってみるよ】 フレースヴェルグ「ありがとうございます……おや?」 サレナ「あっ、フレースヴェルグさん! お疲れさまです」 フレースヴェルグ「お疲れさまです。解体の方はいいんですか?」 サレナ「はい、ゴールデンワーカーの皆さんが到着したので、私たちは一段落です。それで、ここで資料探しでもしようかなって」 フレースヴェルグ「資料……?」 サレナ「私ってほら、記憶がないじゃないですか。だからヒマがあると昔の伝説の映画とか見て、勉強してるんです。今回もそれがちょっと役に立ったんですよ。ね、司令官様?」 フレースヴェルグ――確かにそうだった。モモもポックルもアルマンもいない状態では、伝説作品に関する知識はサレナが頼りだったのだ。 サレナ「そういうところで役に立てたのが嬉しくて。だから、もっと勉強しておこうと思うんです。伝説本社なら昔の記録とか、グッズとか、いろいろ残ってるんじゃないかと思ったんですが……もしかして、フレースヴェルグさんもですか?」 フレースヴェルグ「あ、はい、そうです。でもその、伝説の作品は……演者が……」 サレナ「もちろん、演じるバイオロイドがひどい目にあってる作品もあるってわかってます。私だって、本当ならラストで死ぬはずだったんですし。でも、それでも作品は素晴らしいっていうことも、あるじゃないですか?」 フレースヴェルグ「……………………!  サレナさん……心の友よ!!」 サレナ「こ、心の友!?」 フレースヴェルグ「ありがとうございます! ありがとうございます!! 資料探し、お手伝いします。いえ、是非手伝わせてください! サレナさんのパワーがあれば百人力です! さあ、まずはこのあたりから行ってみましょう! 私の勘だと、この下あたりにモモシリーズを手がけていた第一事業部が……」 サレナ「あ、あの、わかりました、わかりましたからちょっと待ってください! か、監督助けて~」 フレースヴェルグ「司令官様! 恐縮ですがビニールシートと携帯コンテナを一ダースほど手配して下さいませんか! 発掘ペースがぐぐっと上がる見込みですので!」 【はは……わかった。すぐに持ってこよう】  ――俺は急いで解体現場まで戻って、アザズとトミーウォーカーから必要な資材を借りてきた。そしてそのまま半日ほど、二人といっしょに発掘作業に精を出したのだった。 【ちょっとお腹がすいたな】  ――言えば誰かが食事を持ってきてくれるかもしれないが……たしか近くの建物を使って、隊員用の仮設食堂を作ったはずだ。  ――昼食の時間はだいぶ過ぎてしまったが、何か残っているかもしれない。  ――もらった地図をたよりに、瓦礫をよけながら道をたどると、広いテラスのあるオープンカフェのようなところで、見慣れた二人が忙しく立ち働いていた。 シャーロット「陛下! 私に会いに来て下さったのですか!?」 アルマン「ようこそいらっしゃいました。ランチの時間は終わってしまいましたが、何かご用意いたしましょうか」 【うん、頼む。ちょっと小腹がすいちゃってね】  ――二人の出してくれた日本風の軽食は大変美味しかった。おにぎりというのは普通中に具が入っているものだと思っていたが、シャーロット曰く、 シャーロット「塩おにぎりこそ至高! お米の美味しさを最大限味わえるのです!」  ――だそうである。 【アルマンがこういうところで働いてるの、珍しいな?】  ――シャーロットはわりと何にでも積極的だが、アルマンは普段、こうした手を動かす仕事に関わることは滅多にない。まあ、そもそも秘書室の仕事で忙しくてそんな時間はない、というのもあるかもしれないが。 アルマン「今回の事件では恥ずかしながら、真っ先に捕まってしまい、ずっと機械に繋がれっぱなしでしたので。多少体を動かしたいのです」 【そうだった。大変だったね、アルマン】 アルマン「本当に大変でした。何やらシブヤでケンカに明け暮れていたという、そちらの誰かさんとは違って」 シャーロット「わ、私だって作戦を考えていたのです! まずは仲間を増やしてから、皆さんを探しに出るつもりだったと言ったじゃありませんか!」 【わかってるよ。シャーロットもよく頑張ってくれた】 シャーロット「ほら! ほらほら! 陛下はわかって下さってます! ああん、愛してますわ陛下!」 アルマン「はいはい。まあ、今回はあなたに助けられたのも確かです」 【そうだな。あの時のシャーロットはカッコよかったよ】 シャーロット「まあ、陛下ったら! ……でも、本当に無事でよかったわ、アルマン。あなたがいなくなったら、オルカも私も立ちゆかなくなってしまいますものね」 アルマン「なんですか、急に殊勝なことを」 シャーロット「陛下、アルマンがどうしてこんなに頭がよく作られたのか、ご存じですか?」 【……前に、ちょっと聞いたことがあるよ】  ――舞台演劇である『シャーロット・ロマンス』において、シャーロットのアドリブを読み切り、ストーリーを予定通りの結末へ持っていくために、優れた予測演算能力が必要だったのだとか。  ――その話を聞いた時は、そうは言ってもたかだか劇の進行のために、アルマンのような桁違いの能力が必要か……?と思ったものだが、シャーロットのことがだんだんわかってきた今となってはそれも納得できる。大変だったろうな、当時のアルマン……。 シャーロット「私がどれだけ自由に演じても、アルマンはそれを見事にさばいてくれました。彼女がいなければ、私一人では舞台を成立させられなかったでしょう。今では、その頭脳はオルカ全体のために使われていて、もう私の相手をしてもらうことも滅多になくなってしまいましたが……」 アルマン「シャーロット……」 シャーロット「ああもちろん、さばいたというのは劇全体のやりくりの話で、実際に一対一で戦ったら、私の方がずっとずっと強いのですけど! ほら、シブヤにいたアルマンによく似た子の時もそうだったでしょう? 本気を出した私の剣にかなうものなどいません! そのことは今回陛下もよくわかって下さったことと思いますわ」 【あ、ああ、そうだな。シャーロットの剣はこれからも頼りにしてるよ】 アルマン「……………………(むか)」 アルマン「陛下。そういえば、デマゴーグに捕まっていた時のことをまだちゃんとご報告しておりませんでした。  デマゴーグは鍵が全部集まらなかった時に備えて、地下倉庫のロックを無理矢理に解除するための方法も探っていました。あの機械は私の演算能力を外部モジュール代わりにして、地下倉庫のセキュリティ破壊プログラムを走らせようとしていたのです。捕まってほどなく、そのあたりのことは察せられたのですが、ほとんど意識のない状態では大した抵抗もできず、ただ処理を遅らせて時間稼ぎをするのが精一杯でした。具体的に何をしたかと申しますと……。  この一件が片付いたら、陛下とどんな時間を過ごそうか。どんな風に愛していただこうか。それを考えて、意識をそちらに集中させたのです。効果は覿面で、私の頭はすぐに、陛下にしていただきたいことで一杯になってしまいました。……陛下? よろしければ今回の褒美に、それを実現するのに、お力添えをいただけないでしょうか?」  ――アルマンはなまめかしく微笑みながら俺の手をとり、カフェの母屋の方へ引っ張った。 シャーロット「ああっ、ずるい! ずるいですアルマン! 陛下、私もご褒美をいただく権利はありますわよね?」  ――そして、二人にカフェの休憩室へ引っ張っていかれた俺は……  ――さながら『シャーロット・ロマンス』に出てくるフランス国王のように、枢機卿と銃士隊長の二人にたっぷりと褒美を与えたのだった。……いや、フランス国王はこんなことはしないか。 【家の中をちょっと探検してみよう】  ――俺はフスマを開けて廊下に出ると、建物の中をぐるりと歩き回ってみた。だいぶ古びているが、木造の本格的な日本建築だ。たぶん、もともとこの庭園の施設だったのを補修したのだろう。  ――物珍しさからあちこち歩き回り、二階から床の間までぐるりと巡ったあと、最初の部屋にもどるた。俺はごろんと横になり、タタミの感触をしばらく堪能してから名前を呼んだ。 【リリス?】 ブラックリリス「はい。ここにおります」  ――それまで俺の背後の、視界にぎりぎり入らない位置にいたブラックリリスが、魔法のようにスッと姿を現した。磨き抜かれた護衛技術のたまものだ。 【今回は大変だっただろ。ずっと俺の護衛をしてくれて、ありがとう】 ブラックリリス「ご主人様をお護りするのは私の喜びです。大変などということは少しもありません」  ――涼しい顔で答えるリリスだが、未知の土地、限られた戦力しかない中で俺の身の安全に気を配り続けるのは大変な苦労だったはずだ。アキハバラの時をのぞいて、俺は今回の事件の間リリスの存在をあまり意識することがなかったが、それはリリスがほとんど口さえきかず、俺の護衛に全神経を集中していたからだ。  ――今はオルカの増援も到着して、周辺一帯の安全も確保できた。リリスにも少し仕事を離れ、リラックスして体を休めてほしいのだが。 【散歩でもしてきたら?】 【お腹すかない?】 【昼寝でもどう?】  ――……駄目だ。何を言っても遠慮されるか、「ご主人様とご一緒なら」とかなんとか言われてしまいそうな気がする。 ブラックリリス「ご主人様……リリスがお邪魔でしたら、すぐに姿を消しますが」 【いや違う! そういうことじゃなくてな!】 ブラックリリス「……そうですね。こういう言い方はよくありませんでした。  ご主人様がお考えになっていることは、私にもわかります。ですが、私の一番の幸せは本当に、ご主人様をお護りし、ご主人様と共にあることなのです。どうか、それが負担だなどとお考えにならないで下さい」  ――リリスが心からそう思ってくれていることは、俺にもよくわかる。本心から望んで、俺の警護にあたってくれているのだろう。でも、望んでやっていることだからといって、消耗しないなどということはない。休息は必要だ。 ペロ「……ご主人様、リリスお姉様。コンパニオン全隊員、ただいま到着しました。お屋敷の周囲に待機しています」 ブラックリリス「ご苦労様。別命を待ってください」  ――フスマの向こうからペロの声がして、俺は一つアイデアを思いついた。 【ペロ、ポイも来ているかい?】 ペロ「はい、もちろんです。呼びましょうか」 【うん。二人に屋敷内の警備を頼みたい】 ブラックリリス「ご主人様?」  ――腰を浮かせかけたリリスを、俺は押しとどめて笑いかけた。 【リリス、二人が到着したら君はオフだ。俺とおうちデートをしてくれ】 ブラックリリス「………………!!」 ペロ「お姉様、今すぐポイを呼んできますね!」  ――ペロの足音が軽やかに遠ざかっていき、あとには俺と、真っ赤になったリリスが残された。 ブラックリリス「ご主人様……」  ――リリスが俺から離れたくないなら、俺が一緒に休むしかない。 ペロ「ご主人様、お姉様、ただいま戻りました。屋敷内の警備につきます」 ポイ「ご主人様ぁ? 奥の間に布団をしいておきましたので、ごゆっくり~」 ブラックリリス「ポイったら……!」  ――俺は笑いながら、リリスをうながして立ち上がった。まずは二階の眺めのいい部屋で、ゆっくりお茶を飲みながら雑談でもしよう。それから、ポイの気遣いをありがたく受け取って、そのあと時間があれば、そのへんを散歩してみてもいい。 ブラックリリス「ご主人様……お慕いしております……心から」  ――リリスがそっと、俺の肩に頭を寄せてきた。  ――……結論からいえば、散歩をする時間はとれなかった。 【東京の住民達はその後どうなったかな】  ――ぶらりと縁側へ出て、庭に下りてみた。生い茂った木々のあいだから、解体現場の作業の音がかすかに聞こえてくる。 コンスタンツァ「物品管理のことを考えると、むしろカフェの人達にシブヤも運営してもらった方が……」 ナイトエンジェル「当人達が納得すれば、それでもいいですがね。円滑な運営のためには、ある程度既存の枠組みを尊重しないと……」 【二人とも、お疲れ様】 コンスタンツァ「きゃっ! ご主人様!」 ナイトエンジェル「ああ、休憩所を作ったと聞きましたが、ここだったんですね。今回はお疲れ様でした」 【二人こそ。事後処理の相談かい?】 ナイトエンジェル「まあそうです。成り行きで、組織作りの手伝いまでやらされまして」 コンスタンツァ「ナイトエンジェルさんはさすがに大部隊を切り回しているだけあって、頼りになるんですよ」 ナイトエンジェル「恐れ入ります。うちは隊長がたまに恋愛脳で使い物にならなくなるもので、私が仕切るしかない場合がありましてね」  ――トーキョーに同行してもらった偵察隊メンバーの中で、管理職経験があるのはアルマン以外だとこの二人だけだ。さもありなん。 【俺も何か手伝おうか】 コンスタンツァ「いえ、大丈夫です。あっ、でも、それでしたら……」 ナイトエンジェル「トーキョーの主立ったグループの代表から、司令官にあらためてお目通りしたいと要望が出ています。私たちの会っていなかったグループもあるようで、できたらお時間をとっていただけませんか」  ――そういえば、アルマンもそんなことを言っていたな。これから拠点として協力してもらうのであれば、顔役たちにあらためて挨拶しておくのは大事だろう。 【わかった。この家にいるから、いつでも来てと言っておいてくれ】 コンスタンツァ「ありがとうございます。すぐ向かわせますので」  ――屋敷に戻ってしばらく待っていると、玄関のチャイムが鳴った。 【どうぞ】 マリコ「人間様、あらためましてどうも。これからよろしくお願いします」 JJ「……っす。よろしく」 隼町うさぎ「このたびは大変お世話になりました。あらためて、ご主人様にお仕えしたく存じます」 アダルトモモ「なるほど、あなたが人間様ですか。アングラ作品系のバイオロイドグループのとりまとめをやっています、モモです。そうね、アダルトモモとでも呼んで下さい。マリコとは顔見知りだけど、あんたらとは初対面ね?」 JJ「アングラ……え、エッチなやつだよな……」 隼町うさぎ「汚らわしい……などとは言えませんね。私たちのモデルも、色々な使われ方をされてきました」 キヌエ「キヌエいいます。アタシは別に、どこにも属してへん一人もんやけど。まあ東京にはそういう連中もいっぱいおるから、その代表ちゅうことで、ひとつよろしゅう」 マリコ「ああ、『暴妻』の。お噂はかねがね」 ミンクのモモ「ふうん、あなたが人間なの? モモから聞いていたより、顔は普通ね」 【動物が喋った!?】 ミンクのモモ「あら、喋る動物型バイオロイドは初めて? はじめまして、モモです。まぎらわしいから、ミンクのモモと呼んでちょうだい」  ――なるほど、動物型バイオロイド……言われてみれば、オルカにもコンスタンツァのボリやダークエルブンの鷲がいる。あの子らも普通の動物よりずっと頭がいい。  ――技術的なことはよくわからないが、人の言葉を喋れるように改造することは確かにできそうだし、そうなれば映画での使い道はいくらでもあるだろう。 【……驚いて悪かった。はじめまして】 ミンクのモモ「あら……こちらこそ。よろしくお願いね」 代言人「……お邪魔いたします」 【!】 代言人「これまでのことを思えば、ここに連なる資格などない身なのはわかっております。ですが、大東京帝国傘下のバイオロイド達に罪はありません。恥を忍んで参りました。お慈悲を賜りたく存じます」 【君も騙されていた側なのは知っている。まだ名前を聞いてなかったな】 シマ「……シマと申します。寛大なお言葉、ありがとうございます」  ――深々と頭を下げるシマ。全員がタタミの上に正座して、まっすぐ俺を見ている。俺はひとつ咳払いをしてから口を開こうとして、一瞬ためらった。  ――妖精村でも、カゴシマでも、大きな共同体と合流する時にはいつも思ってきたことだ。彼女達はこれまで、自分たちだけでやってきた。デマゴーグがいなくなったこれからは、もっとうまくやっていけるだろう。彼女達にとって、オルカは、人類抵抗軍は必要だろうか。俺達の戦いに加わってほしいというのは、人間の身勝手ではないのだろうか?  ――だがそんな風に思ったのは一瞬だけで、俺はすぐにその考えを振り払った。俺達が目指す未来は、誰にとっても望ましい未来だ。そうでなくてはいけないし、それを目指さなくてはいけないのだ。 【人類抵抗軍、オルカの司令官だ。鉄虫のいない地球を取り戻し、人とバイオロイドがともに幸福に暮らせる世界を作るために戦っている。みんな、俺に力を貸してほしい】 全員「「「「「「お心のままに」」」」」」  ――全員がいっせいに、タタミに額が触れるまで深く頭を下げた。  ――いつだったかバニラから、威厳が薄れるからむやみに低姿勢に出るな、と注意されたことがある。もっともだと思う。でもそれでも、俺はタタミに両手をつき、彼女達に負けないくらい深く深く頭を下げた。そうせずにいられなかった。 アダルトモモ「……ところでぇ。オルカのモモから聞いたんですけど」 【うん?】 アダルトモモ「オルカに所属すると、人間様とエッチ♡できるって本当ですかあ?」 シマ「!?」 キヌエ「エッチ!?」 【え!? いや、うん、希望者にはね!?】 アダルトモモ「本当なんだ。じゃあ希望しまーす」 隼町うさぎ「モモさん!? あなた何を!?」 アダルトモモ「何って、男の人とエッチできる機会なんてこの先いつあるかわからないでしょ? 司令官様なら優しくしてくれそうだし」 マリコ「ふむ、それは確かに。私も希望で」 JJ「マリコ!?」 隼町うさぎ「……私も、もしお嫌でなければ希望させてください」 キヌエ「ほんなら、アタシもお願いしたいわ」 ミンクのモモ「私は結構よ。動物としたい性癖があるなら別だけれど」 【いや、さすがにそれはないかな……】  ――……動物っぽい特徴を持った魅力的な隊員はオルカにも大勢いるが、今それを言っても話がややこしくなるだけなので黙っていよう。 シマ「司令官様にお求めいただくことで、少しでも贖罪になるならば……ふつつか者ではございますが……」 JJ「……っ! じゃあオレも! オレもお願いします!」  ――えらいことになってきた。しかもなんだか、今すぐここで始める流れになってるような…… ブラックリリス(ご主人様) 【(あっ、リリス? ちょっと助け)】 ブラックリリス(いま、奥の間に布団を敷かせましたので) 【(リリスゥゥゥゥ!?)】 隼町うさぎ「人間様? どうかなさいましたか」 【……いや。それじゃ、みんな奥の部屋に来てくれ】  ――こうなったら腹をくくろう。なあに、こんな状況は初めてってわけじゃない。なんとかしてみせる。  ――奥の間に入ると確かに、七人一緒に寝ても大丈夫なくらいの大きな大きな布団が敷いてあった。俺は皆を部屋に招き入れ、最後に入ってきたシマが、静かにフスマを閉じた。 Ev3-2「ドリームシティ・ネオ・トーキョー」新しい朝がきます。希望の朝です。 アリッサ「いっちに、さんし、にーにっ、さんし、あーたーらしーい……」 ミンクのモモ「おはよう。こんな朝早くから体操? 元気ね」 アリッサ「あっ、おはよう、ミンクのモモちゃん。ガールスカウトは日の出と一緒に起きるんだよ」 ミンクのモモ「ふうん」 アリッサ「朝焼け、きれいだね」 ミンクのモモ「そうね。人間が生きていた頃は、トーキョーでこんなに綺麗な朝焼けが見られることはなかったわ」 アリッサ「そうなんだ」 ミンクのモモ「…………」 アリッサ「トーキョーは、これからどうなるんだろう」 ミンクのモモ「さあ? あの人間がやってる人類抵抗軍に入ることに決めたらしいけど。それで何がどう変わるかは、まだわからないわ。何かが今より良くなるかもしれないし、かえって悪くなるかも」 アリッサ「……ミンクのモモちゃん達は、これからどうするの?」 ミンクのモモ「これまでと変わらないわ……と言いたいけど、ここから東の方に、大きな動物園のある公園があるの。そこを動物バイオロイド専用のエリアにしてくれるんだって」 アリッサ「よかったじゃない」 ミンクのモモ「……まあ、そうね。悪くはないわ。これについては」 アリッサ「モモちゃんは、人間がきらい?」 ミンクのモモ「あなたたちのこと? それとも、大昔に生きていた、本物の人類のこと?」 アリッサ「…………えっと」 ミンクのモモ「……ごめんなさい。意地悪なことを言ったわ。正直、どちらにもあまりいい思い出はないの、私はね。でも、私の仲間がみなそうだというわけではないわ。人型バイオロイドとペアを組んでいた子もいるし、人間のことが大好きな子もいる」 ミンクのモモ「落ち着いたら一度、遊びに来てちょうだい。そんなに遠くないから」 アリッサ「うん。ありがとう。  あっ、黒い方のモモお姉ちゃん達だ」 アダルトモモ「あたた……腰痛あ……」 JJ「まだ何か入ってるみたいな気がする……」 シマ「大丈夫でしょうか……私たち、匂いません?」 キヌエ「よう洗ったし、口もゆすいだし、平気やろ……いや、でもわからんな。鼻がバカになってもた」 隼町うさぎ「…………げほ……」 JJ「うさぎ、大丈夫かお前」 マリコ「ずーっと叫びっぱなしでしたからね。喉が枯れて声が出ないんじゃないですか」 隼町うさぎ「…………」 JJ「…………」 マリコ「凄かった……」 キヌエ「凄かったな……」 アダルトモモ「なんかもう、凄かった……」 シマ「次に人間様がトーキョーに立ち寄られるのはいつなのでしょうか……」 JJ「待ち遠しくなるよな……」 マリコ「さっき聞いたんですけど、オルカの宣伝放送には秘密のチャンネルがあって……」 シマ「えっ、何ですかそれ」 アダルトモモ「見せて……あっ、ちょっと待った、しまってしまって。アリッサちゃん、お早う。ミンクのモモも」 アリッサ「おはようございます。みんなで一緒に寝てたんですか?」 アダルトモモ「え? あ、うん、まあそう。一緒に、一緒にね、寝てたのよ。今起きたところ」 ミンクのモモ「…………」 アダルトモモ「なによ」 ミンクのモモ「……いいえ。意外とこの先、悪くはならないかもしれないって、そう思ったのよ」 アダルトモモ「?」 〈トーキョー黙示録〉END。