ビルが立ち並ぶD.U.外郭。 シャーレの高層オフィスから外を望めば、その都会化された地平線がよく見える。 今日の担当をするはずだった生徒にモモトークで連絡を取り、インスタントコーヒーの準備を始めた。 窓の向こうには、青白い大きなビルがいくつも立ち並ぶ。そのどれもがシャーレと連合生徒会にとっての何かであったような気もするし、何も関係がないかのような気もする。 今日もキヴォトスの光景は説明しがたい不思議が聳え立ち、輪郭のぼやけたリアリティで満ちていた。 ――その地平線の彼方が、光を放って瞬いた。 如何なる物理法則の産物かも不明なその光は、地平線の向こうから、蒼い空に少女達のヘイローの如く美しい弧を緩やかに描いて迫り――着弾した。 衝撃。暴風。そして轟音がシャーレのビルを揺らし、砕けたアスファルトの欠片がこのオフィスのガラスを2つ3つと叩いた。 ビルの麓は砂煙で完全に隠れてしまった。様々な警報がけたたましく鳴り響いている。はたしてどうしたものかと冷めたコーヒーをすすり終えると、突き破らんばかりに執務室のドアが開かれた。 先生! お変わりありませんか!? ……さっきまでは。 この光の名は蒼森ミネ。猛き救護の体現者。 問答は無用です。先生、ご安静に。 身体が軽々と持ち上げられると、執務室のソファに優しく座らされる。 そのまま一分の無駄もない動きで腕に血圧計が巻かれ、脇に体温計が挿し込まれ、指先に酸素濃度計が挟まれる。 測定値が出るまでの少しの間、少女の細い手が胸元にそっと添えられていた。手際の早さと裏腹に、呼吸を測るその手と表情は少しだけ優しかった。 熱がありますね。 だからそう言ったじゃん。つい大きい声を出してしまったが、少女は眉一つ揺らさない。 いえ、今日の私はシャーレ担当の生徒ではありません。救護が必要な場に馳せ参じた看護師です。 こう言い出したときのこの少女は象が踏んでも動かない。 先生が日常的に激務に追われておられるのは知っています。しかし一分一秒を惜しむ身であれば尚更、このような時に身体を休ませることが必要では? 盾で殴りつけるような正論にぐうの音も出ない。それに、移ったら悪いと心配するのも釈迦に説法だろう。 ……ささやかな抵抗むなしく、仮眠室に横にさせられている。 先生、頭をこちらに。促され、マットレスの端に腰掛けた少女の膝に頭を預ける。 沈み込んだ少女の腰の高さと、厚手の看護服の柔らかさが心地よい。 医療品ではありませんが。少し気まずそうに前置きが入る。 休息に適したものを見繕ってきました。お使いになりますか? 胸元からするりと取り出したのは、少し大ぶりのアイマスク。 もう好きにしてくれと、目を閉じて顎で同意を示す。耳の裏に少女の細い指が入り込み、ゴムがするりとかけられた。 瞼の裏が、より一層暗くなる。ポリエステル特有の素材の匂いに混ざって、かすかな消毒薬と、石鹸にも似た少女の匂いがする。 目の疲労が不定形の光を成して点滅したが、それもじきに見えなくなっていった。 視界が塞がれると、他の感覚がより強く感じる。 頬を撫でる少女の手が首、肩、脇腹と流れていき、とん、とん、と叩かれていく。 眠りに落ちていく意識と、近くに誰かがいるという意識が綱を引く。 身体が徐々に動かなくなっていく中で、少女の清潔な匂いと微かな心音がやけに感じられた。 幸せな微睡みが過ぎて、意識が落ち、ぐるりと一周した感覚があった。ゆっくりと目を開いても、周りはまだ暗いままだった。 目を覆ったものを額へ上げると、窓から入る夕日が少女のシルエットを照らし、彼女はそのままの姿でそこにいた。 おはようございます。お休みできましたか? 分厚い医術書をぱたんと閉じて微笑みかける。起き上がろうと身体を持ち上げる前に、上半身が抱きかかえられた。 起きますか?大丈夫ですよ。 最小の力で持ち上がるように計算された動きで、ゆっくり身体が起こされていく。 少女の髪の匂いと同時に、胸元に大きな柔らかさが広がった。 身体が起ききる前に、その細い体を抱き返す。 一瞬の驚きで筋反射が返り、その後、ふ、という溜息と共により強く抱き返された。 介助から、抱擁へと繋がりが変わっていく。小さな顎が肩に乗り、お互いの吐息がよく聞こえた。 腰から上がくまなく密着し、しばらく、心音が混ざるのを楽しんだ。 寝起きで起き上がった陰茎が、むず痒く動くのを感じる。 もう少し、されますか? それを知ってか知らずか、誘惑のような言葉が耳をくすぐる。 沈黙のまま肯定すると、再びマットに寝かされ、ベッドの脇で衣擦れの音がいくつか聞こえた。 せめてもの恥じらいか、僅かに隠した腕の間に看護服の上着とスカートを外しただけの少女が寄り添っている。 これは救護?と問うと、違います。とアイマスクが下ろされた。 再び視界が闇に落ちる。そのまま横になっていて下さい。声がかかると同時に、頭全体が柔らかさに包まれた。 機能的なインナーの、化学繊維と樹脂の匂いに混ざって、母乳を嗅ぎ分ける赤子のようにその先端を口に含む。 ふふ、だめですよ。汚れてしまいます。 口先で指が僅かに動き、隠れていない先端が露わになる。暗闇の中で、その母親の証だけが頼りだった。 先端を強く吸う度に、少女の口から吐息が漏れる。母子とはとても言い難いスキンシップ。 片腕は面前の母親を抱き寄せ、空いた方はもう片方の乳房を求めた。 何も出る気配のない口中がもどかしい。出ないのなら出るようにしてしまえと陰茎が強く訴え、張りだけでなく腰も母親を求めていく。 はい、今参ります。 パチン、とポーチが開く音がして、僅かな水音が続いた。少し冷たいですよ、と耳元で囁かれると、陰茎に五本の指が絡みついた。 ぐぴゅ。びゅぽ。 石鹸にも似た母親の香りに包まれて、粘度を持った水音が汚らしく聞こえてくる。 視界が塞がれ、自分がどのような姿でいるのかも認識しなかった。 足を開き、乳房を吸い、母親の手淫に身を任せていることをぼんやりと自覚したが、口と性器に与えられる幸福感が押し流していった。 あるべき所にいられずにぐずる陰茎を、指先が丁寧にあやしていく。 迫り上がってくるものに押し出されるように、母親の名を呼んだ。 はい、私はここにいますよ。 温かい水音の向こうから、優しい声がする。膝を折り、みっともなく足を開いた姿勢で、胎内のように安らかで、陰茎と手が自分たちを繋ぐ絆だった。 暗闇の中でイメージが生まれていく。目前の乳房から母乳を垂らす母の姿が目に浮かび、爆発的な多幸感が脳を満たした。 視界が白黒で光っていく。母の力強い腕が身体を抱え、陰茎から叶わぬ精液が溢れ出ていった。 ――少女は、手に垂れた分の精液をすすると、手際よく後始末をしていった。 てきぱきとお互いの服を着せると、自分が寝たままにも関わらずマットレスのシーツも張り替えてしまった。 救護と清潔は不可分です。今度は、お部屋のお片付けにも参りますので。 最後に、清拭シートで半勃ちの陰茎をきゅ、と絞られる。最後の一滴は、無情にもシートの露と消えた。 何か飲まれますか? 準備いたします。まぁ、体調が悪い時に、紅茶はあまりよくありませんね。 いつもの電気ポットを片手に少女が問う。おっぱい、と言おうものならそのポットが頭に振り下ろされる未来を覗き見た。 白湯にしましょうか。それとも――。 少女のポーチから、寸詰まりのスチール缶飲料が取り出される。 エンシュアの新しい味が出たのです。お試しになられますか? いつぞやに味わった甘じょっぱい味が口内に蘇り、丁重に断った