─ 地球に向けて落下する愛媛達はいくつかの「群れ」となって地表に迫っていた。 迎撃側はこれを右翼愛媛群、中央愛媛群、左翼愛媛群とそれぞれ呼称し、迎撃に当っていた。 ─ ─右翼愛媛群 大型愛媛─ (何処だ…ここ…?) 目が覚めた、いや、気がついた、だろうか。 さっきまでの景色と目の前の光景、状況が一致していない。 (…意識はなんとなくある、けど。) 右手、左手、それから脚を順に動かそうと力を込める、込めているつもりだ…が、 先程から全く体の自由が効かない、何者かに体を乗っ取られている、まさにそんな状態だ。 (何が…どうなってる…何処だよここ…) かろうじて、視線だけは動かせる。 なんとか視線を左右に動かしながら、周辺の景色を見渡す、 山、山、山、コンクリートの道路、その遠くには街が見える。 (少なくとも) デジタルワールド、には見えない、デジタルワールドの街はなんというか、「街だけ」があるのだ。 街の周辺に必要な電線、道路、そして線路など、街として必要なインフラの要素が抜け、「街」だけがそこに存在している。 そんな印象だ。 しかし、周囲に広がる景色は。 見慣れた道路標識、電柱、それに本能的に感じる「テクスチャ」ではない「リアル」の光景。 (リアルワールド、みたいだ) 俺はいろいろな事情から本来は「こっち」のリアルワールドへは行けないはずだ。 それに (なんでコイツが居るんだ?) 自分の横に並んで立っている『竜人の骸骨』に目をやる。 ─スカルウォーグレイモン 究極体 ─ 呼び出した覚えはない、にも関わらず「ニセアグモン博士」の順当進化先にあたる「スカルウォーグレイモン」が俺の隣に実体化していた。 (一体どうなってるんだ…?) 自分がリアルワールドにいるかも知れないこと、そのリアルワールドでデジモンを実体化させていること、そもそも俺の体の自由が効かないこと。 ぐるぐると考えが浮かんでは消えていく、頭の中で「アグモン」が「ふむ、興味深い」とか言い出す、ちょっと黙ってろ… 「ターゲット確認、排除開始…」 (は?) 口が勝手に動いて言葉を紡ぐ、ついでに首も動いて「上」を見る。 (……………は?) なんだあれは。 今まで左右にしか視界を動かせなかったから気が付かなった、しかし、「勝手に」首が上に向くことで嫌でも視界に入る そこには「地表」が迫ってきていた。 (なんで…地面が落ちてきてる!?) 慌てて逃げ出そうとしても先ほどと同じく、体は一切動かない。 (いや…違う!) 「地面が」落ちてきているのではない。 (俺の立っている地面と落ちてきている地面!そして空と雲の位置!) (落ちているのは「ここ」だ!) 俺は今、地表へ向けて落下する「地面」に逆さまに立っているのだ。 「スカルウォーグレイモン、『オブリビオンソウル』」 「…」 俺の口が勝手に動き、「スカルウォーグレイモン」へ指示を飛ばす 普段なら「アグモン」が決め台詞の一つでも吐きながら地面へ剣を突き立てるが… 「オォォォォォォォォォォォ!!!!!」 お前そんな汎用音声1みたいな声だっけ? 突き立てた剣を中心に、次々と地面が盛り上がっていく、イメージとして近いのは、墓場から這い出るゾンビだ。 『オブリビオンソウル』の効果で地中、いやダークエリアより恐竜型デジモンの魂が蘇… ─ディアボロモン 究極体 属性不明 種族不明─ (は?) ─レグルスモン 完全体 ウイルス種 邪竜型─ (は?) ─デ・リーパー 世代不明 属性不明 種族不明─ その後も次々と知らない顔が地面から這い出てくる。 (いや待てや!スカルウォーグレイモンの効果は「アグモン」「グレイモン」限定だろ!?)。 これではまるで終盤ステージのボスラッシュや特撮ヒーローの再生怪人だ。 本来はこんな効果では決して無い。 そんな事を考えているうちにあっという間に「軍団」が形成されていく。 「行け」 『俺』の命令でいかにも意識とか自我とかなさそうな軍団が空へと飛び立つ…いや、「降りて」行く。 「ターゲット」と『俺』が言った連中がこちらに「昇って」来ているのだ。 (あいつらは…) 俺はあまり交流が広い方とは言えない、それでもアリーナでよく見かける連中の顔くらいは覚えている。 飛行能力を持つデジモンとパートナーの軍団だ、飛行能力を持たないペアも、飛んでいるデジモンに捕まったり運搬されたりして飛んで来ている。 「右翼愛媛群を確認した!これより接近して破壊する!」 (うよくえひめぐん?) 聞き慣れない単語と破壊という言葉、そしていかにも「正義の軍団」という顔ぶれでだんだんと察しがついていく (あぁ、今回もそういう胡乱な話なのか…) あの燃える森での出来事を思い出す、あのときは自分は殆ど見ているだけだったはずだ。 まさか自分がおおよそ中心地に居ることになろうとは。 (なんというかこう…いっそ諦めがついてきた) どうせ体は動かないのだ、のんびり『俺』の体を操っているやつのお手並みでも拝見しよう。 ─右翼愛媛群 交戦開始─