◇そして彼らは此処にいる 数字には意味がある。 縁起、象徴、単位…善いも悪いも混ぜこぜに、時と場合で都合よく解釈したりして…人は古来よりそこに意味を想像した。 その中でも『6』という数字は、ある宇宙に於いて── 宝崎市では現在、詐欺や強盗事件が相次いで発生していた。通常なら魔法少女が関わるような案件ではないのだが、その発生件数の増加量と速度が異常だった。事態に犯罪組織だけでなく邪悪な精霊…或いは偽の千年宝物が関与している可能性を考慮したKCは、ユニオン所属且つ現地に詳しい魔法少女に調査を依頼。 実家が宝崎でユニオンでも有数の実力を持ついろはが別の案件で動けないという事で、同じく宝崎在住の実力者・黒江に白羽の矢が立ったのだが…そこに何故か自ら立候補したなぎさも加わっていた。 「珍しいね…なぎさちゃんってこういうのに興味ないタイプと思ってた」 「そりゃ普段ならこんな面倒な事に名乗り出たりしないのです!ですが…今回はまあ、トクベツなのです」 夜の宝崎市。事件そのものと精霊の気配を追って足で地道な探索をしてはいるが、そう簡単に見つかるわけもなく。二人は駅から駅へと徒歩で移動しながら、調査もそこそこに無駄話に興じていた。 「なぎさちゃんっていつも巴さんと一緒だから、なぎさちゃんが来るなら巴さんも来るものかと…」 「あー…マミは留守番なのです。最近大会荒らしでハリキリ過ぎでしたし。…もうこの際だから言ってしまうのですが、今回なぎさの目的は事件そのものではないのです」 「?」 「なぎさは、黒江と二人でお話ししたかったのです」 それはなぎさが「仲間」として、どうしても黒江に確かめねばならない事だった。 「黒江」 「うん?」 「…いろはみたいになりたいと、今もまだ思ってるのですか?」 “百江なぎさ”は知っていた。ココではない何処か遠くの多くのレコードに於いて、『黒江』という少女は、環いろはの背を追いかけて…まあ、ロクでもない末路を辿る事を。 「…確かに、環さんみたいになれたらいいなって、思う事はあるよ」 人は簡単には変われない。自分が自分である根底は、容易く覆ったりはしない。 そうでなければ、今なぎさの横を歩くこの少女が、あれだけ苦しむ事は無かっただろうから。 そうでなければ、夜鷹と呼ばれる魔女やヨダカとだけウワサされる者が、そうならなければならない理由が分からないから。 だから、そんな事はとっくの昔から分かっていた。 ──だけども。 「でも、ほら…私は私で、やらなきゃいけない事とか…やりたい事とかもあるから」 それでも。 「環さんみたいになりたいっていうのは、ちょっと先の話っていうか…何時になるか分からないかも…ううん、考え過ぎも良くないし、とりあえず今は目の前の事で精一杯だよ」 なぎさは知っている。 黒江が今、神浜大付属高等部の受験に向けて勉学に励んでいる事。 ユニオンを通してできた友達からバイクの教えを乞うている事。 …別れた元カレに、復縁は無理でも、友達にはなれないかと、勇気を出して再告白した事。 黒江の色んな事を、仲間として、友達として、知っている。 「うん…うん!黒江はそれでいいのです!それでこそなぎさたちの仲間の黒江なのです!」 元から、心配はしていなかった。 けどもやっぱり、心の隅でちょっとだけ気になってしまっていて。だから改めて黒江自身の口から聴けたその事が、なぎさにとってはどうしようもなく嬉しかった。思わず飛びついてしまう。 「うわっ危ない…よく分かんないけど褒められてる、のかなあ…」 なぎさは知っている。黒江が一歩一歩変わろうとしている事を。 いろはだけではなく…みんなと一緒に変われたらいいなと願っている事を。 そうして二人が終電も近い駅のホームに踏み込んだ、その時。 「──!精霊の結界!」 「大物の気配なのです!これが当たりだといいのですが…」 先攻を取られる前に、二人は魔法少女の姿に変身。同時に決闘盤とデッキを展開。そして、右腕に刻まれた赤き龍と究極神の「心臓」を表す痣を輝かせた。 「ふふん…この精霊は運が悪かったのです!今ココにいるのはなぎさと黒江!二人合わせて“ナンバーシックス”!即ち無敵で最強も同然…!覚悟するのです三下精霊!」 “百江なぎさ”は知っていた。 そのナンバーこそ、遠く離れた宇宙で栄光と共に讃えられる勇者の証であると。 「さっきと言ってること違うよ…でも確かにこれぐらいなら私たちだけでやれる…!ブラックフェザー・アサルト・ドラゴン!玄翼竜ブラックフェザー!」 「クイーンマドルチェ・ティアラフレーズ!ライフ・ストリーム・ドラゴン!」 ナンバーシックス。 それはある宇宙で語り継がれる、勇気と太陽を意味する誇り高き数字。若人の夢を護る光のNo.(ナンバー)。 5つで一つになるハズだった特別な証の…その、あり得ざる6人目。竜の心臓(たましい)、ドラゴンハート。 この世界に生きる自分たちが、自分たちの力で、みんなと一緒に掴み取った、友情と結束の誇り。 それが、なぎさにとってのナンバーシックス。光の絆だった。 「黒江!」 「何ッ!?」 「──楽しいですね!」 「──まあっそれなり、かな…!」 なぎさと黒江は、ココにいる。 確かに、今を生きている。