「………ワワちん？」
「ワンッ！」

私の視界を埋めていたのは茶色い毛とつぶらな瞳。
見慣れた私の家族、チワワのワワちん。
首を動かし周りを見渡すとそこはお店ではなく、同じく見慣れた我が家の光景。
そして今私がいるのはベッドの中で、鳴り響く目覚まし時計が指す時刻は7時。
ここまで情報が揃えばいくらぼんやりした意識でも結論を出すのに時間はかからない。

「…夢？」

その事実に気づいた私は反射的にうつ伏せになり顔を枕に深々と擦りつけた。

「〜〜〜〜〜〜〜！！！！」

恥ずかしくてたまらなくて、顔から火が出そうとはまさにこの事。
個室でこちらから抱き合ったりすることはあったがそれでもあんな直接的なことはしたことがない。
そんな事を想像したことがなかったとは言わないが…。

無意識のうちに手が唇をなぞる。
夢の中の出来事のはずなのに、彼の唇の感触は刻み込まれているように感じた。
それほどまでに、私の心は彼を求めてしまっている。

「杯人くん…」

その名を呼ぶだけで胸から幸福感が湧き上がり心臓が高鳴る。
今はまだお客とキャストの関係を保てているが、きっと長くは持たない。
近い将来この思いが溢れてしまう時が来るだろう。
その時彼は私の思いを受け止めてくれるだろうか？
もしも拒絶されてしまったら私はどうしたらいいんだろう？
そもそも杯人くんにとって私はなんなんだろう？
その答えを知るには、このもどかしくも幸せな時間を終わらせなければならない。

「…怖い、な」

そう、私は恐れている。
幸せな時間が終わってしまう事が、彼に拒絶される未来が。
しかしタイムリミットは確実に迫っていた。
時計の針が進む音が、薄明るい部屋にひどく木霊する。

神様、もしおられるのならどうかこの憶病なウサギの願いを聞いてください。
時を止めてとは言いません。
どうか、少しだけ針の進みを遅らせてください。

この温かい幸せな時間が、少しでも長く続くように。

以上になります
当初は花奈ちゃんが杯ちんの夢をみて悶えるだけの内容のはずだったのに恋の終わりに怯えるウサギの話になっていた…
全てのお客様に等しく癒しを与えるキャストとしての花奈と杯ちんへの思いを抑えきれない花奈の間で揺れる花奈はいいぞ

まさかバニーガーデンの怪文書まで出るとはな

こういう話を待っていたところがある…