二次元裏@ふたば

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133747 B24/04/20(土)22:55:31No.1180539990そうだねx1 00:11頃消えます
最近は便利になったもので、予め入力を済ませておけば、予定の管理は殆ど携帯がやってくれる。だから社会人の嗜みとしてトレーナーになったときに買った手帖も、お守り程度の意味しか為さずに放置されていたのだった。
見た目や質感がよいだけに憐れに思うが、そんな手帳にも最近漸く仕事を与えてやれるようになった。
「なに書いてるのかな?」
寝る前にベッドの上でそれを書いているのを目敏く見つけたシービーの指が、後ろから背中をつんつんとつついてくる。背を向けているのにくすくすと笑う顔さえ見えてきそうで、ひどくこそばゆくて微笑ましい。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
124/04/20(土)22:55:50No.1180540110+
彼女がじゃれてくるのが楽しくて、あえて背中を寄せて答えないままでいた。だが、背中をつついていた指がなぞるような動きに変わると、こそばゆさで思わず声が出てしまう。
「くすぐったいって、はは」
「だって気になるんだもん。最近よく見かけるからさ。教えてよ。
じゃないともっとくすぐっちゃうから」
ただなぞるだけでは収まってくれなくて、背中に立てた五本指をゆっくりと広げられる。くすぐったくてうっかり笑ってしまうと、それをいいことに何度も同じ攻撃を仕掛けられるからたまらない。
そうしていつの間にか気を良くした彼女が指で背中に文字を書けば、それを当てるゲームに興じてしまっている。
気まぐれで始めた寄り道が楽しくなってしまうのは、彼女との時間の常だった。
224/04/20(土)22:56:09No.1180540271+
彼女にされるがまま、ゆったりとじゃれ合う穏やかな時間が過ぎてゆく。だが、彼女がその隙に手帖の中身を肩越しに覗こうとしたときには、咄嗟にページを閉じて彼女と反対の方向に持ち上げた。
予想外の抵抗にむすりと頬を膨らませて、彼女はもう一度手帖に顔を近づけた。それから逃れるように反対の手に持ち替えた手帖と追いかけっこをする彼女がおもちゃにじゃれつく猫に見えて、ついつい笑みがこぼれてしまう。
「今日のきみはいじわるだね。そんなに見せたくないのかな」
「そういうわけじゃないんだけど」
彼女は意外そうに笑っていたが、いつもらしからぬ振る舞いに自分でも驚く。こんなに意固地になるようなことでもないはずなのに。
「じゃあ、なんで?」
「なんだろうな。
…楽しくなっちゃったから?」
きっと、惜しくなったのだ。あっさり見せてしまって、楽しい時間が終わってしまうのが嫌だから。

「…ふふっ。
じゃあ、しょうがないね」
彼女も同じ気持ちなら、こんなに嬉しいことはないのだけれど。
324/04/20(土)22:56:26No.1180540393+
掌に乗るほどの小さな手帖を、俺と彼女の指がなぞっている。決して大きい表紙ではないから何度も指が触れ合ってしまうけれど、そんな偶然がむしろ心地いい。
何も言わずに指が触れ合うたびに、次に何をするのかが気になって仕方ない。それは彼女だって同じで、お見合いになってお互いに動かないときの、その滑稽ささえ愛おしかった。
「じゃあ、何が書いてあると思う?」
「珍しいね。きみからクイズなんて」
そんな心地いい静寂にあえて切り込んでみると、彼女は穏やかに笑いながら首を傾げて応じた。目を細めた涼やかな微笑みはいつも彼女が俺を振り回すときに見せる表情だったけれど、今日くらいはこっちが振り回す側に回ってもいいだろう。
「いっつもシービーに聞かれる側だからさ。偶には俺にも出させてくれ」
424/04/20(土)22:56:39No.1180540493+
隣で同じように寝転がった彼女は、目を瞑って考えを巡らせている。その横顔を存分に楽しませてもらいながら待っていると、もう一度開いた碧色の瞳と目が合った。
「詩とか短歌がいっぱい載ってる。ぜんぶ、きみが考えたやつ」
そうに決まっていると言わんばかりに自信たっぷりに微笑む彼女の言葉が、てんで的外れなのに嬉しくて笑ってしまう。
「なんでそう思ったの?」
「そうだったら素敵でしょ?」
本当にそうだったら楽しいのにとこちらが思ってしまうくらい、彼女の夢みる世界はいつだって眩しい。だから正解を告げるのが少しだけ後ろめたくて、照れ隠しのように黙ってページをめくってみせた。

動物園。雰囲気のいいカフェ。朝から開いているラーメン屋。
書き込まれた場所は一見すると法則性などないように見えるが、彼女は何かを思い出そうとするように目をぱちぱちと見開いた。
「なんか見覚えあるね」
彼女に思い当たる節があるなら、それは当然のことだ。彼女が言ったことを、俺はここに書き込んでいるのだから。
「うん。そうだと思う。
シービーが行こうとしたけど、行かなかったり行けなかったりした場所だから」
524/04/20(土)22:57:05No.1180540699+
彼女の旅はいつだって気まぐれで、辿り着くことよりもその道のりが楽しいことが大切だった。だからはじめの目的地に辿り着かないことはしばしばだし、寄り道が楽しいからそうなったのだから、彼女も俺もそれを気に病むことはなかった。
だが、彼女が思い浮かべて、辿り着かないまま忘れられた目的地だって、捨ててしまうには惜しいくらいに眩しかったのだ。
「前に言ってただろ?選ばなかった道の先に何があるか、探してみるのも楽しいってさ」
前に一緒に遊園地に行ったときのことを思い出す。弾む足取りで迷路の先をくまなく探していた彼女と、今の自分の気持ちはきっと同じだ。
「だから、これは俺の楽しみなんだ。
いつかシービーと一緒に、忘れ物を取りに行く日が来るといいなって」
やり残しがあることが嬉しい。
まだ、楽しい時間が続くということだから。
624/04/20(土)22:57:27No.1180540891+
「ふふっ」
「…笑うなよ。これでも結構楽しいんだぞ」
話を聞き終わった彼女は可笑しそうに笑っているけれど、これでもこっちは真剣なのだ。彼女にとっては捨て置いたものでも、俺にとっては宝物なのだから。
「ううん、ちがうよ。
うれしいんだ。予想は外れちゃったけど、アタシが思ってたのに負けないくらい、きみが楽しいことを考えてたから」
そのくらい、彼女との時間が愛おしい。満足そうに浮かべる涼やかな微笑みだけで、欲しかったものが全部満たされたと思えるほどに。
「いつか、じゃなくてさ。今行こうよ。
きみの好きなところでいいからさ。明日はその中から選んでみてよ」

この手帖を買ってよかったと思う。
彼女とのもしもを収めておくのに、携帯電話は味気なさすぎるから。
724/04/20(土)22:57:46No.1180541011+
早く行き先が聞きたくて、照れくさそうに微笑む彼の頬をつついて急かしてみる。そうやって待っている時間も楽しいから、このまましばらく決めかねているままでもいいかなと思うけれど。
彼は時々、アタシの予想を裏切ってくれる。予想は裏切るのに、期待を裏切ったことは一度もない。
だから、彼といる時間が好きだ。思いも寄らない楽しさを運んでくれる時間が好きだ。
「いいね、もしもって。今以外のぜんぶが、そこに詰まってる」

それでも、いや、だからこそ、ひとつの「もしも」が思い浮かぶ。
「もしもアタシたちが出逢わなかったら、どうなってたと思う?」
あたりまえの時間がなくなったときの重みは、もしもの世界でしか感じられない。今更離れるなんて、アタシも彼もできないんだから。
824/04/20(土)22:58:11No.1180541166+
「想像できないな。シービーがいるのが当たり前になっちゃったから」
「ふふっ。きみはほんとにアタシが好きなんだね」
頬を染めるきみが可愛くて、甘えたがりの猫みたいに頭を寄せてみる。照れ隠しのように少し乱暴にその頭を撫でてくれるのが嬉しくて、そのまま話を続けた。
「アタシはね、きっときみがいなくても楽しく生きてたと思う。
アタシの生き方は変わらないから」

彼の手が止まった。笑顔が消えたその表情を見ると心が痛むけれど、話し続けることは止めなかった。
残酷な結論かもしれないけれど、自分に嘘はつけないから。
「そうだよなぁ」
「あはは!ショックだった?」
「ううん。なんとなくわかってたよ。出会ったときから、シービーはシービーらしく生きてたから」
そんなアタシのありのままを、ただ受け止めてくれるのが嬉しい。
だから、きみにはちゃんと伝えたいんだ。
924/04/20(土)22:58:27No.1180541286+
「でも、きみがいるからもっと楽しいよ」
アタシの、本当の気持ちを。
1024/04/20(土)22:58:52No.1180541463+
その言葉は、さっきよりもよほど衝撃的だったらしい。彼は心から驚いたように、すっかり目を見開いてしまっていた。
「いつもそうしてくれてるじゃん。行かなかったリストだって、同じだよ。
アタシひとりだったら、きっと忘れたままだった」
きみにとってはなんでもないことでも、アタシにとっては特別な、大切な思い出なんだ。きみにとってのアタシが、きっとそうであるように。
「アタシが落としたものを、きみが拾っていてくれる。それがずっと綺麗な思い出になって、アタシのところに帰ってくる。
それって素敵だなって思った」

アタシが手放したものが、きみの手の中で宝石になって戻ってくる。
思い出は渡り鳥だ。時間の海を越えながら、その翼は美しく色づいてゆく。
「だから、これからもきみに預けてみたいんだ。アタシの『もしも』を」
窓をいっぱいに開けて、その鳥の声を待っていよう。
春風の匂いを感じながら。
1124/04/20(土)22:59:39No.1180541762+
きみがいなくてもアタシはアタシ。
でも、きみがいたから、アタシはそんなアタシを好きになれた。
「アタシもきみのこと、大好き。
だからね。きみとの『もしも』が、楽しくて仕方ないんだ」
だから、アタシはきみと一緒にいたい。
きみといる今も、これから来る未来も、ぜんぶアタシのものにしたいから。

ゆっくりと優しく、アタシの唇を彼のそれと触れ合わせる。きみと出逢わなかったら、キスの味も知らないままだった唇を。
「…これも?」
「うん。
きみがいなかったら、こんなことしなかったもん」
1224/04/20(土)23:00:06No.1180541965+
ああ。やっぱり、きみに逢えてよかった。
こんなに幸せな味を知らないままだなんて、さみしすぎるもの。
1324/04/20(土)23:00:47No.1180542287そうだねx2
おわり
シービーと思い出を辿りたいだけの人生だった
1424/04/20(土)23:04:03No.1180543740+
シービーにしかできない甘え方いいよね
1524/04/20(土)23:05:20No.1180544312+
カラッとしてるけど愛情を感じる
1624/04/20(土)23:05:58No.1180544585+
スレッドを立てた人によって削除されました
赤字に荒らしを召喚するスレ
1724/04/20(土)23:07:17No.1180545203+
気安くちょっかいかけられるような仲なんだ…
1824/04/20(土)23:08:45No.1180545837+
書き尽くしていっぱいになった手帳はCBが大事に持ってるとかだといい
1924/04/20(土)23:11:46No.1180547117+
お互いにお互いのこともう完全にわかってる距離感だ
2024/04/20(土)23:17:17No.1180549545+
>書き尽くしていっぱいになった手帳はCBが大事に持ってるとかだといい
もっといっぱい思い出作りたいからって新しい手帳をプレゼントしてほしい
2124/04/20(土)23:19:41No.1180550575+
寝る前に同じベッドに寝転がって明日はどこ行こうか?って手帳を一緒に開くのが習慣になっててほしい
2224/04/20(土)23:22:01No.1180551597+
好きって遠慮なく言い合える仲なのいいよね
2324/04/20(土)23:25:18No.1180552954+
自由人のくせにキミのいるところがアタシの行きたいところとかいう回答を持ってくる女だ
面構えが違う
2424/04/20(土)23:29:03No.1180554449+
随分人懐っこい野良猫だな…
2524/04/20(土)23:31:18No.1180555296+
来ていたか…
2624/04/20(土)23:32:34No.1180555778+
順当にシービーに染められていってるトレーナー
2724/04/20(土)23:34:31No.1180556510+
いなきゃだめってわけじゃないけど手放す気はぜんぜんないんだ…
2824/04/20(土)23:38:10No.1180557913+
もう散歩じゃなくてデートじゃないですか
2924/04/20(土)23:42:11No.1180559422+
二重の意味で寄り道が楽しくなっちゃうシービー
3024/04/20(土)23:44:29No.1180560245+
シービーとシビトレはお互いがお互いにとっての予想外なのいいよね
3124/04/20(土)23:49:17No.1180562140+
話してるうちに楽しくなっちゃって結局一緒に寝ちゃうことが何度かあるとよい
3224/04/20(土)23:58:01No.1180565313+
自分の好きな相手が自分のことを好きだと確信している女の子の自信たっぷりの振る舞いからしか摂れない栄養素がある


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