「すこし遠い所なんだよすずめさん・・・」
「何処なんですか？」
｢離島――鹿児島とか沖縄の方の…」
「じらさずに言ってください」
「種子島、種子島なんだ。聞いたこともないだろう。ロケットの打ち上げ場があるくらいだからね――――」
　草太さんは種子島へ行く、そして多分。私も種子島へ往くのだろう。「未来はそうに決まっているの。あなたは光の中で大人になっていく」幼き自分を諭した台詞が心の中でリフレインする。種子島…種子島！？

―――青い空と白い砂浜、そして二人で棲む官舎は二人で棲むにはあまりにも大きすぎて困った、きっと子連れを想定して作られているんだろう。種子島はそういう所である
―――島の朝は早い、東京より西にあるのに4時にはもう明るい。カーテンから木漏れる朝日で目が覚める。布団をかけている事しか意味のないうすっぺらいタオルケットを脱ぎ捨て、夜中、ゴーゴーと働いていたエアコンのスイッチを切る。
　窓はすべて網戸を残し全開だ、そうじゃないと熱くて死んでしまうからだ。
幸い私達の済んでいる官舎はかなり最近に作られた物であり、よく南国旅行記にあるようなシャワーとトイレが別棟みたいな事にはならなくてよかった。ウォシュレット付きだしお風呂は広い。
　もそもそと草太さんが起きる前に朝食を見繕う、昨日島に数件しかないスーパーで買った「トビウオ」と「ブダイ」が数匹冷蔵庫に眠っているが、「ブダイ」は刺し身だし…朝食はトビウオの焼き魚でいいやとなった、いそいそとYシャツとスラックスに着替え、洗面台で歯を磨く草太さんに「手伝うかい？」と聞かれるが、草太さんは魚を捌けない。

当たり前だ東京で20何年も過ごしていれば魚なんて切り身しか見たことないだろう。
「いいですから早く準備しちゃてくださいもう少しでできますから」と一言釘を刺す。
そうこうしている間にグリルではトビウオが、そしてフライパンでは卵焼きそしてタコさんウィンナーが鎮座していた冷凍のお弁当惣菜もレンジで温まっている。これが私のお弁当になるのだ。草太さんのお弁当はいらない。学校で生徒と一緒に給食を食べるからだ。
昨日の残りのすみれ入りのけんちん汁を温めて、朝餉が整うというものである。
献立　ご飯　トビウオの塩焼き 二匹 おまけの卵焼きとタコさんウィンナー けんちん汁　きゅうりとキャベツの浅漬け也
「「いただきます」」と手を揃えた後、お互いモクモクと食べる。理由は朝は忙しいからである。出勤時間まで30分くらいしかない。連ドラなんて見ている暇はないのだ。
それでも草太さんは「おいしいね」とトビウオを齧りながら言ってくれる。その言葉が嬉しい。
パパっと食べて「ごちそうさま」を済ませたら下膳して流しの荒い場に投げ込んで自分の仕事着に着替える、顔を洗い、薄く化粧をしてかばんの中身を確認したらそそくさと玄関を明ける。

玄関にはバイクが二台鎮座していた。ホンダスーパーカブ90、レッグガードが白いのが草太さん、赤いのが私。
「じゃあ行ってくるね草太さん！」そういって玄関を飛び出そうとしたが、そう何かを忘れていた。
　玄関まで迎えにきてくれた草太さんを抱き寄せる、いや草太さんに抱きつく。これがこの島に来てからの優しい習慣。これがあるから多分お互い生きていけるのだろう。
　ﾍﾟﾍﾟﾍﾟﾍﾟﾍﾟ-とちょと情けない音を出しながら私のスーパーカブちゃんが島唯一の病院へと走っていく、バックミラー越しに遠目に見ると草太さんのカブも反対外の島唯一の小中学校へと向かうのが見えてくる。
　そう、種子島でもお互いの望む仕事に就く事ができた。私はまだ新米だけど病院の看護師だ、島の病院は人手不足で院長先生は新人の私をとても悦んでくれた。
　島の病院の暮らしは、のんびりしていると言えば聞こえが悪いが、独特のリズムで動いていた。重症患者が少ない。重くても片麻痺の患者さんのリハビリや生活援助だった。東京にいた時みたいなバタつきはない。お局さんらしき大先輩は丸っこくて物辺りがやさし人だった。居心地がいいといえば嘘にならならい。そんな南国の医療事情。

けど知っていた。重症患者がイないのはすぐ本州の病院に移送されてしまうという事、僻地医療の限界というのもうすうす感じていた
そんな事を考えながら屋上でリネン類を干す。
―――東京と違って湿り気のない暑さが襲ってくる。屋上で乾かしていた衣服は1時間もすれば乾いてしまう。
　すごい暑さだ、最近は身体がなれてきたが最初は暑さで倒れそうになった。東京よりも遥かに涼しいのではあるが、暑さの違いがあるんである。今ではお陰様で肌は少し茶色に焼けている。
　あっと言う間に昼食の時間になる、連ドラを見ながら島言葉の訛りが強い看護師さん達と談笑してたらあっというまにお昼の時間が終わってしまう！午後から入浴介助だ！気合入れなきゃ！
…といっても100人もたらい回しに入浴させる訳ではない、10人程度ゆっくりゆっくりお風呂に入れてあげる。こんな患者さんに余裕がある入浴は初めてだ…背中を流していてこちらの気持ちも晴れやかになる。
　塗り薬を塗布したり適切な処置をしてみんなベッドに移したら昼の3時、退勤の時間だ

出勤してきた夜勤さんに申し送りをする「さすが東京の子だしっかりしてるねえ」と笑われながら。早番(７時〜３時）を退勤する。
またﾌﾞﾍﾟﾍﾟﾍﾟﾍﾟｰとカブ鳴らして家路に就く。
　家に帰ってからはまぁ大変だ、朝ごはんの洗い物をして掃除機かけて洗濯機回してとテンテコまいだ！草太さんに手伝ってーっていいたいが草太さんの帰りは早くて５時遅くて７時だ、頼めない。
　クタクタで汗もビショビショになったので仕事着を脱いで裸一貫シャワーを浴びる。お湯じゃない水シャワーがここまで心地よいとはおもわなかった。洗いタオルの感触も心地良い！
タオル一枚でこのまま寝てしまえ！…そう考えながらうつらうつら眠ろうとして３０分、忘れてた！買い物！店しまっちゃう！
魚屋さん兼スーパーは閉まるのが早い、パパパっとワンピースに袖を通しカブのコンビニフックにエコバックをひっかけてﾍﾟﾍﾟﾍﾟﾍﾟﾍﾟｰっとスーパーへ向かう。

　今日は「ブダイ」のお刺身と…何にしよう…「ブダイ」面倒くさいんだよなぁ…おいしいけど下処理が、と考えながらキャベツなどの野菜類を籠に放り込むお豆腐や揚げ、納豆も入れた所でスーパーの女将さんが「ぎょうはお肉がやすいよ」と耳打ちしてくる。冷凍コーナーを見てみると「にんにくの芽と豚肉の」炒めものセットが2パック760円…これだと思い籠に入れた、あと端値で打ってる新鮮なまぐろのさしみを4パック購入400円なり、牛乳2パック詰めて計3500円也
カブにくくりつけたダンボールにぎゅうぎゅうに押し込んで紐で縛る。豆腐なんかはコンビニフックのエコバックになげこんで。非常に不安定ながら家路に戻る。

――それでもまだ5時半だった、さっさと夕餉の支度をする。豚肉は炒めるだけでいいし、御御御付けは豆腐とわかめでいいし、キャベツとヤングコーンでコールスローはできるし…問題は「ブダイ」だ…捌くのも大変なのに炙って氷水締めるのが一苦労だ。緊張しながらまな板に向かう…結果は…炙って締めるまでは上出来だったが刺し身がグズグズになってしまった。あとで草太さんに謝まろう。

――それでもまだ6時半である、少し心配になったので草太さんの職場まで送りに行くことにした、押しかけ女房じゃないが。あまりに帰りが遅いと心配になるのが人情というものである。
ワンピース姿じゃあれなので、ちゃんとした格好でカブのキックスターターを蹴る。ﾍﾟﾍﾟﾍﾟﾍﾟﾍﾟｰと音を鳴らして未舗装の道路をライトを頼りに学校への道へと急ぐ。昼と夜が混じり合う黄昏時なる時間が種子島の空を覆う、薄暮の時間は事故に気をつけるようにって教官にいわれてた事を思い出す。
特に事故もなく草太さんの小学校についた、職員室だけポインと光る。「ごめんなさーい」とこっそりドアを開けると守衛さんが「ああ宗像くんの奥さんかい、もうじき降りてくるよ、宗像くん呼んでこようか？」と親切に聞いてきてくれた。
「あっいや…その…私が呼んできます」と言うと
「そうかい、お熱いみたいだねぇ」と守衛さんが笑う。
顔を真っ赤にしながら、借りたスリッパをペタペタさせながら2階の職員室へと向かう。
「すずめさん？」と職員室から大きな影がにゅっと現れた。
「草太さん？！」気が動転してしまって素っ頓狂な声を出してしまった。

「どうしてわかったんですか？」
「カブの音でわかるよ、心配になって来てくれたんでしょ？すぐもう終わったから一緒に帰ろう」
　そう言って草太はいそいそと仕事道具をリュックサックに詰めて、PCの電源を切る。そして、職員室の電気をきって
「さぁ帰ろうとそそくさと階段を降りていく」
「お疲れ様です宗像さん」と守衛さん
「お疲れ様です」と草太さん、上履きを外履きに履き替えて校舎の扉を明ける
「…そんなにあっさり帰っていいんですか？」私は聞く
「帰らなかったらどうするつもりだったんだい？」と草太さん
「全校生徒15人だからそこまで悩む事はないんだけどね…まぁいろいろあるんだよ」
笑って草太さんはあっけらかんと話す。そうして、二人ともヘルメットを被ってカブにまたがると
「アイショップに寄ろう、まだ閉まってないだろう？」
そう言ってカブのスターターを思っきり蹴った
　草太さんに続くように私も原付きを飛ばした、両脇にはサトウキビ畑が茂っており独特の甘い匂いを醸し出していた。ああ私種子島にいるんだなって改めて実感した。
10分も走らせたら「アイショップ石堂」についた。

此処は地元に根付いたコンビニエンスストアだコンビニといっても朝10時から夜9時までの営業だ
「おばちゃん、まだやってる」とキュルキュルと軋む引き戸を明けると
「あいよ、そろそろ閉めようかと思ってたけどね」とおばちゃんが顔を出す
今日は若いバイトのおにいちゃんは休みらしい。
草太さんはチルドインの飲料コーナーで迷ってる
「ヨーグルッペでいいじゃないですか草太さん！」と私はヨーグルッペに手を出す
ヨーグルッペは南酪農農協協同が提供しているヨーグルト飲料だ、ローカル飲料じゃない北は北海道南は九州まで全国展開されている。
散々迷った末に草太さんはﾃﾞｰﾘｨコーヒーを手にとった要はコーヒー牛乳だ、あと菓子パン
「草太さんご飯あるんですよ…！」「スマンスマンお腹すいちゃって」
と小声で話ながらお勘定を済ませる。草太さんが払ってくれた。
「いつもの野っぱらで飲もうすずめさん」
　そう言ってアイショップの街頭から離れ、未舗装の道をひた走る、草太さんの原付きから飛んでくる石が痛い。

「いつもの野っぱら」そうそれは草太さんと私だけの特等席
県道76号線、原っぱの中にそっと街灯が見える、その薄明るい中、二人。手をつないで過ごす。何もない所だけど私達のデートスポットだ
星界はおろか、天の川がくっきりと見える。もう何回眺めても飽きない。星が今にも降ってきそうだ。星座に疎い二人でもくっきりとわかる程、星々は煌めいていた
「すずめさん…後悔していない？」
「なにをですか？」
私はヨーグルッペをズゾゾゾを飲み干しながら彼に聞く
「種子島に来たことさ、ここは何もない…なにもないことが美しいのだが、すずめさんには物足りないんじゃないかと思って」
「私は草太さんさえいればどこでも天国ですよ…住んで思ったんです…ここはきっと天国に一番近いんじゃないかなって」
「どんなところが？」
「ファミリーマートは三軒あるし、スーパーは野菜も肉も高いけどお魚はびっくりする位優しいし、病院の人は優しいし齷齪（あくせく）しないし・・・ここにいれば嫌な思い出も忘れてしまう…そんな気がして」

「そうだね・・・」草太さんの口数は少なかったがすべてを受け入れるようなそんな言葉だった。此処には地震はない。あっても稀だし人が死ぬことはないから
　突然国道沿いに巨大なトレーラーが現れる。
「草太さん！？何…あれ！？」
「あれはロケットを運ぶトレーラーだよ、日中は動かせないから深夜に運ぶんだ」
「ロケット、飛ぶんですか？」
「まぁその内飛ぶよすずめさん、休みが重なったら一緒に打ち上げ見に行こう」
「いいですね…ロケット失敗しなければいいんですけど」
「すずめさん、どうでもいい話してもいいかい？」
「ええ」
「このロケット発射場の地下を掘り出したら大量の貝殻が出土されたんだ…この打上場は貝塚、石器人達のゴミ捨て場の中に立ってたんだ」
「へぇ…なんだか不思議ですね」
「もしこれから1万年後、このロケット打ち上げ場も廃墟になったら地下から何が出土するんだろうね」
「貝殻の中に電線やらコンクリートが埋まってて、さぞかし壮絶でしょうね」

「そうだね…さぁどうでもいい話はおしまい。そろそろおうちに帰ろうかもう10時だよ」
草太さんがスマホを手にする
「ほんとだ！早くごはん食べないと！」
「そうだねすずめさん今日の晩ごはんはなんだい？」
「お刺身…あまり上手にできなかったけど」
「そうか、それはちょっと楽しみだな…早速食べないと」
そう言って二人、カブにまたがり家路に就く。今にも落ちてきそうな星空の下を二人走る。
たとえお刺身が不格好でも草太さんは美味しいって食べてくれると星に願うばかりだ

こいつらコスモナウトしたんだ！

よかった…ノンまさよしだった…

>コスモナウト
こいつら別れますよ！

>よかった…ノンまさよしだった…
わざわざ怪文書書いてまさよしエンドにするやつ頭新海にも程があるだろ…

>こいつらコスモナウトしたんだ！
コスモナウト
1.少女が影のある少年に初恋するもいいだせず終わる
2.初恋を諦めきれなかった少女が成長したのち初恋の青年を捕まえて故郷に凱旋する

やめなよ目の前にすずめさんいるのにパカパカスマホ開いて送信する気もないメールを見続ける草太さんとか

>>コスモナウト
>こいつら別れますよ！
🤜💥🤛

…コスモナウトじゃないですか…

そうだね南の島なら地震に怯える心配はないね
そうだね台湾だね

ヨーグルッペ飲んでる！
貴様！相当な好きものだな…秒速5センチメートルの…

>そうだね南の島なら地震に怯える心配はないね
>そうだね台湾だね
「」を要石にして刺しとくか…

>「このロケット発射場の地下を掘り出したら大量の貝殻が出土されたんだ…この打上場は貝塚、石器人達のゴミ捨て場の中に立ってたんだ」
この下り見たことある
なんだっけ？

>こいつらコスモナウトしたんだ！
こいつ種子島で会った女振りますよ
別れますよ

でも原付きでアイショップ寄ってヨーグルッペとコーヒー牛乳飲む草鈴いいよね…

コンビニのBGM
https://www.youtube.com/watch?v=oTDebf_AWI8&ab_channel=LINDBERG-Topic

fu3324607.txt
まとめました
コスモナウトいいよね…花苗ちゃんが幸せになる事をただただ祈るばかりです

>県道76号線、原っぱの中にそっと街灯が見える、その薄明るい中、二人。手をつないで過ごす。何もない所だけど私達のデートスポットだ
嫌だよ昔の女に未練がましく送る予定のないメールをパカパカ開いてる草太さんとか

いつでも捜しているよ どっかに君の姿を
交差点でも 夢の中でもこんなとこにいるはずもないのに

草太さんは貴樹くんほど性根が腐ってないから大丈夫

種子島ァ！？

ポエムが足りないよ草太さん

カタログでいきなり草。と煽られてるように見えた

ちょいちょい誤字あるけどピックアップしたら意味のある文章になったりする奴？

健全過ぎる……もっとやれ

>「このロケット発射場の地下を掘り出したら大量の貝殻が出土されたんだ…この打上場は貝塚、石器人達のゴミ捨て場の中に立ってたんだ」
この下り見たことある
なんだっけ？
王立宇宙軍...

すずとじ桜花抄もすじとじ秒速5センチメートルもやれ

>ちょいちょい誤字あるけどピックアップしたら意味のある文章になったりする奴？
（デーリィ南日本酪農協同株式会社の事だな…）

ハラハラしながら読んでたけどハッピーエンドでよかった