三上竜馬。仲間たちの中では同年代の少年。とはいえ、別に同じ学校だったわけでもないし、特別仲が良いわけではない。今もただ同じ当番だから共に歩いているだけだ。
だいたい、仲間といってもただ一緒にデジタルワールドに迷い込んだというだけの繋がりだ。それは彼だけに言えることではないが。
竜馬自身はとても良い人だというのは佑芽にもわかる。彼は仲間たちの中では特に先陣を切って相棒(トリケラモンというらしい。大食いの憎めない子だ。)と共に、危険に対し勇敢に立ち向かう。彼や他の前衛の子たちのおかげで、これまで生きて来れていると言っても言い過ぎではない。とはいえ、竜馬という人物が佑芽はどうにも苦手だった。

竜馬自身は悪い人間ではないが、いかんせん口数が少なすぎる。ほとんど無口で、喋っても一言二言が関の山だ。仲間内の会話に入ってくることも稀。話したことがないわけではないが、それこそ少しやり取りをするというだけなので、とにかく会話が続かない相手で、「やりにくい相手」というのが、竜馬へ下した佑芽の評価だった。
トリケラモンはどうやって竜馬と信頼関係を構築し、ここまで来たのかと不思議に思う。少なくとも、彼らに自分とクロぽんほどのやりとりがあるとは信じられなかった。それでも完全体(というらしい)まで成長しているのだからそれ相応の絆はあるのだろうが。

とりとめのない考えに耽っていると周りが見えなくなるらしい。いつのまにか前を歩いていた竜馬が立ち止まっていることに気づいた。佑芽も急遽止まったので、ついて回っていたクロぽんは可哀想なことに佑芽の足にぶつかってしまった。
竜馬は歩くスピードが妙に速いので、特技の早歩きでもついていくのがやっとだった。
立ち止まった竜馬は、辺りを見回しているようだった。
尻餅をついた可愛い相棒を助け起こしながら、その後ろ姿を眺める。
「どうしたの？」
口火を切ったのは佑芽からだった。
返事はあまり期待せず、簡単な言葉を投げる。竜馬の場合YES/NOで応えられる問いかけの方がいいが、今回は森の中で状況が状況だ。
「…水の音がした。」
「みず」
意外にも返事が返ってきたので、面食らってそのまま復唱してしまった。水音がするとすれば────。
「川？」「うん。」
これまた素早く返事。川が近くにあるのなら好都合だ。魚とかも獲れるし、飲み水だって。ねむちゃんの離乳食もなんとかなる。森の中を歩いた甲斐があった。
すこし色めき立った佑芽に対して、竜馬はちっとも嬉しそうではなかった。むしろ、キョロキョロするのをやめない。流石に変だ。

「…どうしたの？」
「…水場を使うのは『俺たちだけじゃない』」
返事が抽象的で理解に苦しんでいた時に、金切り声が轟いた。
「ゆめちん！！デジモンだ！！こっちに向かってきてる！！」
クロぽんが血相を変えて叫んだ。この子がこれだけ焦るのだから、少なくとも友好的な相手ではないのは確かだ。小さな身体で勇ましく槍を構え、戦闘態勢を整えている。
「数は？」
今度は竜馬から。珍しいことが今日は起こるものだ。問いかけが自分へのものとは最初気づかなかったようで、クロぽんは面食らっていたが、そこをのっそりと顔を出したトリケラモンがフォローした。
「オイラの見立てだとデカいのが3だな。小さいのはわからん。多分大丈夫だが森の中だとよく動けんぞ。」
「木を薙ぎ倒すことは？」
「できなくはないが大きな音がな。」
「何か呼び寄せるだろうな。ここで迎え撃つしかないか。」
テキパキと作戦会議を進める竜馬とトリケラモンのやり取りは、それだけで信頼関係を感じられた。これが前線を潜り抜けた者たちか、と佑芽は素直に感心した。前言撤回。やはり彼らは相棒だ。

「汐崎さん」
「はいっ！？」
不意に話しかけられたので声が裏返ってしまった。竜馬はそんな佑芽の態度を気にも留めず続ける。
「デカいのは俺たちで相手する。小さいのは」
「任せてくれ！！ゆめちんはボクが守る！」
今度は勇ましくクロぽんが応えた。槍を掲げ、気合十分と言ったところだ。可愛い相棒が頑張ってくれるのだ。佑芽だって黙ってはいられない。子供の頃より得意になった笑顔で返す。
「…うん。私たちでなんとかしてみるよ。」
「うん。その意気だ。…トリケラモン。」
「おう。」
歴戦のコンビは即座に前を向いて構えた。その姿に迷いはない。佑芽たちも警戒する。
聞けばガサガサと、森の中を這いずるような音が押し寄せていた。

姿を現した異形の怪物たちは、牙を剥き出しにしながらこちらを威嚇してきた。

ドクグモン！
コンピュータウィルスに寄生された、蜘蛛の姿の猛毒デジモン！八本の足を使い、獲物をどこまでも追い詰める！必殺技は『スティンガー・ポレーション』！

巨大な蜘蛛の怪物。それも3体だ。周りには彼らの眷属であろうコドクグモンもいくらかいる。佑芽の相手はこのコドクグモンたちだ。
「人間だ。人間がいる。何しに来た。ここは俺様たちの縄張りだぞ。」
「人間とつるむデジモンがいると聞いたが、お前たちだな。」
「無事では返さねえ。」
恨めしい声がかけられる。憎しみと闘争心に塗れた視線が針のように突き刺さり、佑芽は緊張感を高めた。
「ヤツらは糸と毒が厄介だぞ！来るぞ！」
クロぽんの声が響く。前足を振り上げたドクグモンが、突進の態勢をとった。戦いが始まる────。

「ぶべっ！」
先に仕掛けたのは竜馬───トリケラモンだった。ドクグモンもかなりの巨体だが、トリケラモンはそれよりもはるかに上の体格だ。太く鋭い3本のツノが、ドクグモンの真正面から凄まじい勢いで殺到し、吹き飛ばしたのだ。
「てめぇ！」
「オイラたち急いでるんだ。用は済んだか？」
飛びかかってくるコドクグモンの群れをクロぽんと共に追い払っている中、トリケラモンの意気揚々とした挑発の声が聞こえた。
デジモンは闘争心を持っている。それはトリケラモンやクロぽんも例外ではない。
今のトリケラモンはその闘争心を剥き出しにしているのだ。竜馬の相棒として、彼らを守るために。
「クロぽん！右！」「了解！やぁーっ！」
佑芽たちはお互いに声をかけ合いながら連携して戦っている。それが彼女らのスタイルだからだ。対して竜馬たちの言葉のやり取りは最小限だった。寡黙な彼らしい静かな戦いぶりだ。

轟音が響いたと思うと、2体目のドクグモンがトリケラモンに投げ飛ばされたところだった。一体目のドクグモンを下敷きに倒れ込み、動かなくなった。死んだかは不明だが、少なくとも戦闘不能になったのは確かだ。
最後のドクグモンに、トリケラモンがジリジリと迫る。後退りするドクグモンに倣い、いつしかコドクグモンの群れも後退していた。
「お、覚えてやがれぇーーーっ！！！」
どこかで聞いたような捨て台詞と共に、敵は文字通り蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
戦いの終わりはひどく呆気なく、佑芽はひとりキョトンとしていた。

森を抜け辿り着いた川は、川と呼ぶにはあまりにもささやかで、水深も浅く、残念ながら魚などは期待できなかった。飲み水には使えるかな、と水筒に水を溜める傍ら、佑芽は素足を水につけて疲れを癒していた。クロぽんも水遊びをし、とてもはしゃいでいる。来て損はなかったな、と考えていた時に、視界の外から足音が聞こえた。竜馬だ。
「お姉さんとは、仲はいい？」
「…はい？」
投げかけられた言葉があまりにも脈絡がなく、佑芽は竜馬から話しかけられたことにすら一瞬気づかなかった。今日は珍しいことばかり起こる。今までで一番竜馬と話してるのではないか。
「…いや、世間話。」
取り繕うように付け加えた竜馬は、所在なさげに後頭部をポリポリと掻いている。さっきまであんなに勇ましく戦っていたのに、こんなところで緊張するのか。なんだかおかしくなって、吹き出しそうになりながらも、笑って答えた。
「仲良いよ？どうして？」
これは本当。血が繋がってないとわかっても、(それを知らない)佐茅が変わらず接してくれることで、佑芽はここまで持ち直せたのだ。そこに嘘偽りはない。私たち姉妹は仲良しだ。大丈夫。

「いや。…仲良いのはいいと思う。大事にした方がいい。」
「なにそれ。大事にしてるよー？」
「うん。ただの兄貴の受け売りだから。」
竜馬に兄がいることは、このとき初めて知った。思えば彼のことを佑芽はほとんど知らない。彼が自分のことを話すのは珍しかった。
「いいお兄さんなんだね。」
微笑ましく思い、そんな言葉を投げかけた。
「うん。…俺は好きじゃなかったけど。」
そんな彼の冷えた声で、和やかな会話は終わってしまった。

森の中をまた歩く。行きと違って収穫はあった。水筒に入った川の水の重さがそれを物語る。ドクグモンたちと戦って勝ち取った水だ。大事に使いたい。
ふと、目の前を歩く竜馬の背中を見る。
今日の一件まで、佑芽はどこか竜馬を自分とは違う存在のように思っていた節があった。それがどうだろう、彼にはお兄さんがいて、そんなお兄さんとなにか確執があって、とどのつまり、悩みもあるのだ。
自分と同じ。
あまり会話の続かない苦手な相手だが、少なくとも自分と同じような存在だ。前とは彼に対する印象も違う。同じ仲間で、人間だ。
そんなことがわかったのも、佑芽にとってはほのかな収穫だった。

ただ、佑芽得意の早歩きでもなかなか追いつけないマイペースさからして、竜馬はあまりモテないだろうなぁ…とも佑芽は思ったのだった。

(了)

終わりです
出番が多い割に人物像が割と謎(だと僕が思ってる)竜馬を掘り下げたくて書きました
イモゲンチャーはいつも楽しく見てます
最後に
「」ミ！「」ミ！勝手にキャラお借りしてごめんなさぁい！！
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うおっ…すげえ大作…

おいなんてものを
ありがとう…

いいの！いいの「」ルモン！！
まさかここまでの大作が読めるとは思わなんだ…

竜馬どんなかっこいいキャラなのかと思ったら絵がなんか可愛くてダメだった
あとアナログ手描きでもっとダメだった

スレ開いたら大作でビックリした
あと怪文書のスレはスレ画そのままだとわかりにくいかもしれないからメモ帳のアイコンでも入れとくといいぜ！

汐崎姉妹も初期キャラながら中々掘り下げられてなかったから嬉しい組み合わせだ

いいぞ…怪文書増えろ…！
>あと怪文書のスレはスレ画そのままだとわかりにくいかもしれないからメモ帳のアイコンでも入れとくといいぜ！
これいいね
メインキャラの画像も貼ったりすると分かりやすいかも…？

>汐崎姉妹も初期キャラながら中々掘り下げられてなかったから嬉しい組み合わせだ
来たねアタル君…

>あと怪文書のスレはスレ画そのままだとわかりにくいかもしれないからメモ帳のアイコンでも入れとくといいぜ！
わかりにくくてごめんなさぁい！！！
今後は気をつけます…
あとみんなのイモゲンチャー怪文書も読みたいです！！

竜馬が喋るところ始めてみた気がする

平田声も聞こえる！

目黒くん来てる！
https://img.2chan.net/b/res/1175684672.htm

怪文書全部平田さん入っててダメだった

このタイミングで双子の関係者のスレ立ってて駄目だった

思えば毎回前線に立ってフツーに生還してくる強者ってこと以外竜馬の掘り下げあんまりなかったな…
クールで良いじゃん竜馬くん…
でも多分モテないなこれ…

>「オイラの見立てだとデカいのが3だな。小さいのはわからん。多分大丈夫だが森の中だとよく動けんぞ。」
>「木を薙ぎ倒すことは？」
>「できなくはないが大きな音がな。」
>「何か呼び寄せるだろうな。ここで迎え撃つしかないか。」
ここの竜馬とトリケラモンのやり取りクレバーでかっこいい…

最近のイモゲンチャーの盛り上がり見ながらペンデュラムカラーやるの楽しい…

どうして怪文書には平田さんが湧くんだ

しょうがねえよ敵デジモン出したらナレーション入りで解説入れたいモン

文章だけは味気ないからどうしても絵を描きたいってやってみてるけどすげえ難しい…
いつも見てるお題枠の遊びはこんなに技術者の遊びだったのか…俺は…弱い…

setteiが良ければ間違いなく受け入れてもらえるから胸を張っていこう
自分も明日初めてお題枠で投稿するからドキドキしてる

思いつきで3時間かかって微妙な絵が出来上がるから尊いんだ

みんな最初はペイントとかお絵かき掲示板から始めたんだ

イモゲンチャーは設定交流会だと思ってるからうまいとかヘタとかそういうので分けたくはないんだ
情熱さえあればみんな乗ってくれるんだ

口調や一人称設定し忘れたなって後悔してる

>ドクグモン！
>コンピュータウィルスに寄生された、蜘蛛の姿の猛毒デジモン！八本の足を使い、獲物をどこまでも追い詰める！必殺技は『スティンガー・ポレーション』！
ここ好き

竜馬かっこいいけどコミュ障すぎる…
これはモテんわ…